Facebookページ
Twitter
Youtube

試乗・解説

ちょっとの変化? でも、走りは大幅進化。 圧倒的な変貌と ADV160の笑える高性能。
■試乗・文:松井 勉 ■撮影:増井貴光 ■協力:ホンダモーターサイクルジャパン ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、SPIDI・56design https://www.56-design.com/




2021年早春、原付二種クラスでは大ヒットを続けるPCXがフルモデルチェンジを受けた。125のスバラシイ性能はもちろんのこと、驚いたのはPCX160だった。それ以前の125に対する150の印象は、あくまで牛丼のアタマ大盛り的な感じ。排気量的にまあ、一応高速道路も走れますよ、という余裕のなさも否めなかった、というのが正直な印象。それがわずか7㏄アップの新型4バルブエンジンときたら、180を誰かが160って間違えて書いたらしい、というぐらい余裕が違う。ご飯が大盛り、アタマは特盛りな感じになった。だからADVもはやく160がでないかな、と期待していたら、ついに今年の春デビューした。乗ってみたら、期待通りの、はやい、うまい、安い、の三拍子だったのである。

 
 のっけから古いCMコピーを引っ張り出して恐縮だが、まさにそれだった。電動時代に進むモビリティ環境にあってICE(内燃機)だってまだまだ上質になる、と拍手したくなる出来映えのエンジンが、手軽に乗れるクラスに登場したのだ。もうホンダの手抜かりなしの入魂の仕上がりになっているのが解って嬉しくなったのだ。

 フレームも一新した新型ADV160。先代150からスタイルは各部をブラッシュアップしているが、基本的にADVの世界観そのまま。車体サイズは150と比べて、全長は10mm短い1950mm、幅は変わらずの760mm、高さは45mm増して1195mmとなっている。ホイールベースは1325mmで変わらず、最低地上高も165mmをキープ。また、フロントに110/80-14、130/70-13とトレッドパターンが印象的な前後のタイヤもサイズはそのまま。車重は2㎏増えて136㎏。シート高は地上高を確保しながら15mmマイナスの780mmにまとめている。
 

 

eSP+の威力、魅力、実力。

 ホンダのeSPエンジンはパフォーマンスの面、燃費の面でも普段使いで優れた性能を発揮してくれる。PCX人気を例に持ち出すでもないが、そのバックボーンを知るとなるほど、と思う部分が多い。それが新型ADV160ではPCXシリーズ同様、eSP+となった。その新型エンジンもそうした素養を受け継ぎながら良いところを伸ばし、足りなかった部分の性能を補填しているのが大きな特徴なのだ。

 そもそもフリクションロス低減を狙った様々な基本要素がある。例えばバルブを押し下げるロッカーアームのカムシャフトとの接触駆動部分にローラーを使ったことで摺動抵抗を低減するローラーロッカーの採用。コンパクトな燃焼室や吸気ポートの採用。爆発工程時、シリンダー内を下降するピストンが左右に振れにくいように動けるよう考慮したオフセットシリンダー、もちろん、ピストンの軽量化など基本的なロスを減らす設計をおこなっている。振動を低減するためのクランクシャフトの高剛性化もスムーズな回転を取り出す源泉になっている。
 そこにホンダではもはや伝統的になったエンジンにビルトインしたラジエターの採用で全体のコンパクト化もされているし、発電用のダイナモに電気を流しクランクを回すことで別体のセルモーターを持たない構造なども加わり、違和感なく再始動をするアイドリングストップ機構も継承されている。
 

 
 以前、このアイドリングストップを作動させる、させないで同じルートで燃費がどの程度違うのか測ったことがあるが、2時間ほどの市街地走行で3から4km/lほどアイドリングストップを活かして走行したほうが平均燃費は良かった。赤信号や渋滞時、走行しないときのガソリンをセーブでき、発進する際はアクセルを少し捻る発進のアクションをライダーがとれば「セルダイナモ」がエンジンを無音で始動することでシームレスに発進ができる。誕生した20年程前からホンダのアイドリングストップ機構は違和感がなく発進、リズムが崩れないのがスゴイ。

 新型のスペックを先代の150と比較すると次のようになる。ボア×ストロークが先代の57.3mm×57.9 mmから160では60.0mm×55.5mmとショートストローク化とシリンダー径の拡大が行われている。OHCヘッドは同様ながら2バルブから新型は4バルブとなった。
 また、10.6だった圧縮比は12.0まで上昇。最高出力は11kWから12kWへ。発生回転数はともに8500rpm。最大トルク値は14N・mから15N・mへ。その発生回転数は6500rpmで変わりがない。
 

 

走り出した瞬間、顔がほころぶ進化ぶり。

 少し下がったシート高、ステップボードが前後に広がった新型は跨がった瞬間から自由度の高さが印象的だ。LCDモニターも見やすく情報量も豊富で充実感がある。PCX的使い勝手にクロスオーバーモデルが持つ自由な感覚が乗るだけで味わえる。アクセルを捻ると、その動き出しから軽快に速度が乗る加速を楽しめる。150時代のトルキーなドロンとした回り方からシュッと車体を動かす新型の駆動系に思わず顔がほころぶ。

 市街地でも150時代よりさらに低いアクセル開度で充分な加速を引き出せる。ここでもイメージとしては180ぐらいになっているように思う。わずか7㏄の増量でここまで変われるのか、とちょっとした驚きだ。
 それに少しサスペンションの吸収力も上質になった印象で、市街地のギャップを揺り戻し少なく吸収している。ブレーキング時のフロントフォークのストロークするスムーズさも増している。
 持ち前のコンパクトさで機動性が高いことは先代同様。47万3000円というプライスでここまで完成度が高いと思わずクラっと来る。そしてADV160が拡げてくれる行動半径の広さに自動車専用道路を走行できる、という選択肢は実際にしっかりと使える、に変化している。

 正直に言えばADV150だってそうだったし、PCX150も125にはない世界を持っていた。ただ、150はADVもPCXも余力はミニマム。長い上り、向かい風などの時は走行車線から追い越し車線に加速してゆく余力はない。80km/hまでは意外とすんなり加速しただけに、その先もまだまだ、と思っていると、そこからの延びに時間がかかるし、パワーの頂点を過ぎた様子で加速に時間がかかる。
 しかし、160では先代の80km/hまでの感覚で100km/hまでスッと伸びる。120km/h規制の道でその速度で巡航できるか、と言えばそこまでのゆとりはないが、メーター読み100km/h維持は難しくない。その先はさすがにゆとりタップリとは言えないが、上り坂、向かい風でも押し戻される感がない。充実のパワー感なのだ。
 

 

ダートだって楽しめる。

 例えば林道のようなダート路を走る場合、ADV160は持ち前の機動力をここでも見せてくれた。パワーにゆとりがある点では平坦路よりもアップダウンがあるのが当たり前の林道を平然と駆け上り始めるのだ。前後のサスペンションはオフロードも意識したストローク量を持つが、さすがにオフ車のようなソフトで長いストロークというわけにはいかない。それでも前後のタイヤもあいまって、ギャップの多い道でもコントロールがしやすい。

 いわゆるスクーターの定番、エンジンとCVTユニットが一体となって後輪を支え、スイングアーム的な構造をとっているユニットスイング方式のADV160。バネ下が重たい構造だけに砂利道では安定感がどうなのか、と心配したが、その点は150時代同様、心配には及ばないようだ。
 

 
 新たにトラクションコントロール(HSTC)が装備されたADV160。林道、砂利道、上り導線、荒れた箇所を通過中、という場面では駆動力が欲しいからアクセルは緩めたくないところ。そんな場面では気持ちが先走って右手が大きく開いていることがある。後輪の空転を察知すると同時(ほとんどの場合、ライダーよりも素早いのは言うまでもない)にエンジントルクを絞る制御が介入する。それでもライダーがアクセルを開け続ければ継続的にトルクが絞られる。そのため加速感は減退する。そんな場面でライダー心理としてアクセルを開け増ししてしまうのだが、そうするとトラコンはさらに継続的に制御を掛けてくる。
 速度が落ちるほど、ワイドオープンで後輪が滑るとバランスを崩しやすいからで、本来なら、トラコンが入ったところでアクセルを戻しながらトラクション(後輪のグリップが)の回復するシンクロポイントを探すほうが賢い。ナゼかと言えばすでに後輪はグリップ限界を超えているからだ。

 実は電子制御付きのバイクでダート路を走る時、そんな対話も必要になる。もちろん、ダートだけではなく雨の降り始めのアスファルトや濡れたマンホールといった場面でも効果を発揮してくれるはずだ。
 結果的にアップダウンが多い林道をADV160は安定感のある動きで駆け抜けてくれた。前後のサスペンションも大きなギャップに速度を上げてツッコまない限りフルボトムするコトはなかった。
 

 

ひょっとして……贅沢!

 ADV160をいろいろな場面で走らせた結果、クロスオーバースタイル、アドベンチャー系アウトドアスクーターといったワードよりも、160のエンジンがもたらすミニマルなコミューターとしての美点が光っていた。もちろん150だって160だって250のスクーターに比べたら排気量という原資は少ないし、同じようには走れない。それでも150が持っていた高速道路での我慢の世界がそうとう和らいだ結果、遠距離ツアラーとしても贅沢な時間を過ごせそうだ。そんな意味で日常と休日を掛け持ちするパフォーマンスは間違いなく高まっているのだ。
(試乗・文:松井 勉、撮影:増井貴光)
 

 

ライダーの身長は183cm。写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます。

 

130mmのストロークを持つ正立タイプのフロントフォーク。ブレーキはφ240mmのウエーブディスクと2ピストンキャリパーを組み合わせる。

 

X-ADVはスポーツバイクをスクーター風パッケージにしたモデル、ADV160はスクーターの正攻法的な要素で構成されたモデルだ。搭載される駆動系は、ユニットスイング方式で後輪を懸架。CVT、エンジンなど駆動系そのものがスイングアームとしても機能する。右側、タンデムステップ下側にラジエター、左側の駆動系上にエアクリーナーボックスなどを配置。eSP+コンセプトのエンジンを搭載する。リアブレーキはφ220mmのウエーブディスクと片押しシングルピストンキャリパーを使う。リアサスペンションは110mmのストローク、リザーバータンク付きの2本ショックを備える。

 

マフラーは無骨なデザインと大きなヒートシールドも絶妙なコンビネーションを見せる外観が印象的だ。
タンデムステップはアルミ製のものを採用。ライダーのフットスペースも幅、前後長ともに広くなった印象だ。

 

左右2灯のヘッドライトがキラリと光るヘッドライト周り。ウインドスクリーンは2段階に高さを調整が可能。

 

導光チューブでかたどられたXのシェイプがテールランプ、ブレーキランプは左右両側の三角部分で輝度が高いアピールをする。灯具は全てLEDだ。

 

テーパードハンドルを採用したADV160。これは150時代同様の力強いスタイルだ。フロントには容量2リッターのインナーポケットがある。タイプAのUSB給電ポートも備える。
LCDモニターを採用するメーターパネル。表示には回転計も加わった。150時代よりも内容的に多彩になった。

 

シートはライダーの太ももエリアが細身になり足着き感を向上。シート高そのものも15mm下がった効果と合わせて取り回し感の良さが向上。シート下ラゲッジ空間は27リットルから29リットルへ容量アップしている。

 

ADX160 主要諸元
■型式:8BK-KF54 ■エンジン種類:水冷4ストローク単気筒SOHC ■総排気量:156cm3 ■ボア×ストローク:60.0×55.5mm ■圧縮比:12.0 ■最高出力:12kW(16PS)/8,500rpm ■最大トルク:15N・m(1.5kgf・m)/6,500rpm ■全長×全幅×全高:1,950×760×1,195mm ■ホイールベース:1,325mm ■最低地上高:165mm ■シート高:780mm ■車両重量:136kg ■燃料タンク容量:8.1L■変速機形式:無段変速式(Vマチック) ■タイヤ(前・後):110/80-14 M/C 53P・130/70-13M/C 57P ■ブレーキ(前・後):油圧式ディスク・油圧式ディスク■懸架方式(前・後):テレスコピック式・ユニットスイング式■車体色:マットダリアレッドメタリック、パールスモーキーグレー、マットガンパウダーブラックメタリック ■メーカー希望小売価格(消費税込み):473,000円


| 『2022年 ADV150試乗インプレッション記事』へ |


| 『2020年 ADV150試乗インプレッション記事』へ |


| 『PCX160試乗インプレッション記事』へ |


| 新車詳報へ |


| HondaのWebサイトへ |





2023/11/06掲載