Z1に「似てるだけ」じゃない
初めてZ900RSを目にしたのは、2017年秋の東京モーターショー。展示スペースにディスプレイされたカワサキのニューモデルを見て「こりゃ人気出るぞぉ」って思わなかった人、いないんじゃないだろうか。
実は、Z900をベースとしたスタイリングチューン。けれど、幸か不幸か、そのZ900が国内発売されていなかったから、誰もZ900RSのことを「ベースモデルのあるスタイリングチューン」とは気づいていなかった。Z900の先代モデル、Z800は2013年から国内発売されていたけれど、そんなに人気モデルではなかったかな。そしてZ900は、Z900RSより遅く国内発売が開始されたから、下手すればZ900=Z900RSのバリエーション、なんて捉えた人も多かったのかもしれない。
けれど、Z800を900cc化した時に気づくべきだった(笑)。900ccって、Z1やGPZ900R、ZX-9Rにも使用されたカワサキの「マジックナンバー」な排気量で、ネイキッドモデルの900ccが、海外モデルとしてシレッとデビューした時に、ん?なんかあるぞ? って感じないと、ジャーナリストとしては。そうやってZ900RSは生まれたのだ。
Z900RSはZ900をベースに、単にスタイリングパーツを着せ替えしただけではない、細かい専用仕様を積み重ねて完成したモデルだ。ネイキッドスポーツZ900から少しパワー特性を穏やかに、出力を落として、最高出力の発生回転数を抑えた。
ミッションも、1速をより低く、トップ6速をオーバードライブ化。さらに2次減速比も、ドリブンスプロケットを44丁から42丁として、同じスピードで走った時の回転数を下げている。
ホイールベースもやや伸ばし、キャスターを少しだけ寝かし、トレールもショートとした。車重はおそらく外装パーツの変更が原因で+2kg、けれどこれはそう大きな変化には感じられない。
つまり、Z900よりも穏やかなスポーツバイクに仕上げた。この予備知識なしでZ900に乗ると、馬力が大きいのと2次減速比がショートなおかげでピックアップが鋭く、おぉZ900の方が元気! ってすぐにわかるほどだ。
そして、あらためて乗るZ900RSは、なんの気負いもなく乗れるスポーツバイクだ。Z900から出力を削られているとはいえ、111psのインラインフォアは充分にパワフルだし、ライダー込み300kgにもなるハンドリングだって、神経質なところがなく、決してシャープすぎない好ましいものだ。
パワー特性は、発進の回転域から充分に厚いトルクがあって、1500rpmからスーッと加速する力がある。街中で走るには2000rpmも回っていたら充分で、トップ6速で50km/hくらいで走っていると、タコメーターの針は2000rpmに届かないくらい。そんな回転域でも、ガクガクしたり息つきするそぶりもない乗りやすさだ。
ハンドリングは、やはり重量級のキャラクターだ。決して俊敏には仕上げず、どっしりとした接地感があって、ヒラヒラというタイプではないし、それはキャリアの浅いライダーにも安心感が持てるタイプだ。
このZ900RSをワインディングに持ち込んでも、キャラクターはいくらか軽快になるとはいえ、決して俊敏に変身したりはしない。この点では、Z900の方がキレのあるハンドリングに感じられるから、ホイールベースで15mm、キャスターが0.1度というのは、けっこうな差になるものだ。
やはりZ900RSは、兄弟モデルのZ900と比較してみても、オールラウンドに使えるキャラクターに仕上げられているのだ。決してスポーツ色を濃くするわけでなく、ツーリングバイク的な特徴を際立たせるわけでもない、オールラウンダー。この「なんにでも使えるスポーツバイク」というキャラクターが評価されて、ベストセラーになってるんだと思う。
思えばZ1/Z2もそういうバイクだった。というか、カワサキが作った、初めての4気筒ビッグバイクだったんだから、なにかのキャラクターに特化した色を持たせるより、オールラウンダーであることが、世界中に向けてのカワサキ的アピールだったはず。
普遍の魅力があるからこそ、70年代から世界中で愛され、それは現在でも「絶版車」としてたくさんのファンがいるのだ。だから50年。50年も愛されるバイクは、その時々の流行りを含めて、なにかの色に染まっていてはならないのだろう、きっと。
Z900RSなんてZじゃないよ──。発売されてから今まで、ずっとそう言う人はいる。Z1の再来なんて言うなよ、なんてZ1ファンもいるだろうし、Z2はもっと××だったぜ、なんてZ2乗りもいるだろう。
けれど、Zのバイクらしい、堂々としたスタイリングが好きになって、オレもZに乗りたい、って思うファンはいつまでもい続ける。
けれど、もう50年も前のモデルなんだから、現行モデルのような気軽さで乗るわけにはいかない。まずは購入価格が、普通に乗れるZ1で300~400万円から、なんて価格帯は当たり前だし、壊れたら補修パーツだってないケースが少なくない。
だから新しいZファンに向けて、Z900RSの存在は貴重なのだ。オレもZに乗りたい、ならば400万円もする50年も前のバイクを買わなくていい、Z900RSを手に入れればいいのだ。
Z900RSなんてZじゃないよ、なんて声はもうすぐ聞こえなくなるはずだ。それほど、Z900RSはよくできた「この先50年を背負う」に相応しいZなのだ。
(試乗・文:中村浩史)
■型式:カワサキ・2BL-ZR900C ■エンジン種類:水冷4ストローク並列4気筒/DOHC 4バルブ ■総排気量:948cm3 ■ボア×ストローク:73.4mm×56.0mm ■圧縮比:10.8■最高出力:82kW(111PS)/8,500rpm ■最大トルク:98N・m(10.0kgf・m)/6,500rpm ■全長×全幅×全高:2,100mm×865mm×1,150mm ■ホイールベース:1,470mm ■最低地上高:130mm ■シート高:800mm ■車両重量:215kg ■燃料タンク容量:17L ■変速機形式:常時噛合式6段リターン ■タイヤ(前・後):120/70ZR17M/C (58W)・180/55ZR17M/C (73W) ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク/油圧式ディスク ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:キャンディダイヤモンドブラウン ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):1,496,000円
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