前カゴやリアキャリアではなく、本格的な収納スペースがあればスクーターはもっと便利になるのではないか。単純かつ当たり前に思えるが、ボクスンが登場するまで、そんなスクーターはこの世に存在しなかった。
自転車のように軽く安く扱いやすくからスタートしたスクーターは、1980年代に入ると街乗りの足として定着し、あっというまに広がった。
需要が拡大すれば要求も拡大するという経済法則? に則り、スポーツスクーターや大柄で豪華な装備のスクーター、原付二種スクーター、小型軽量スクーター、女性向けスクーターなどスクーターのバリエーションは日進月歩の勢いで増えていった。
そんな時代のニーズを先読みし、パッソル、ジョグとスクーターレボリューションを巻き起こしたヤマハが着目したのは、本格的な収納機能であった。
当時のスクーターのリアキャリアは標準装備ではなくオプション扱い、もちろんコンビニフックなどというものもなく、高級車のみ小さなインナーポケットが着いている程度。
今日では当たり前のシート下収納スペースは、ガソリンタンクやバッテリーの居場所であり、せいぜい書類入れと車載工具が入るスペースしかなかった。
原付ヘルメットの着用義務化が決定的となったことも開発の大きな推進力となり、1985年4月1日、シート下に本格的な収納スペースを持つ初の原付スクーター「ボクスン」が登場した。
Mサイズのフルフェイスが収納できる大容量のスペースは、シート下というよりシート後部に増設された形となったためリアがふくらんだ独特のスタイリングとなった。
リアのアンバランスな印象を小さくするためと、センタースタンドを上げるため太く大きめのバーが装着された。プレスリリースには「テクノ感覚のハンドルスタンディング」と表記されているところに時代を感じる。
エンジンはパワフルで定評のあるチャンプ50系の7ポートトルクインダクションエンジンをベースに5.8psにパワーアップし、電気式オートチョークも装着。寒い日の始動性が向上した。
カタログコピーは「スクーターパッキングしましょう」で、イメージキャラクターにはビッグな体型ながら、意外とフットワークの軽いウガンダさんが起用された。
今日、スクーターと言えば収納スペースがあって当たり前になっており、ボクスンの先見性は正しかったのだが、リアヘビーなスタイリングがイマイチだったようで、ボクスン自体はモデルチェンジどころかカラー変更されることもなく、一代限りで消えてしまった。
キュート・ミント系概略史(1984-1996)
- 1984.6 キュート(CN50ED)登場。
- 1984.6 キュートカスタム(CN50EC)登場。フロントトランク付き。
- 1984.11 キュートカスタム(CN50EC)カラー追加。
- 1985.3 キュート(CN50ED)カラー変更。
- 1985.3 キュートカスタム(CN50EC)カラー変更。
- 1985.4 キュートカスタム(CN50EC)パステルカラー限定車。
- 1986.4 ミントデラックス(SH50E)登場。セル付き。
- 1986.4 ミントカスタム(SH50ED)登場。フロントトランク、セル付き。
- 1986.6 ミント(SH50)登場。スタンダードモデル。
- 1986.12 ミントスペシャルエディション(SH50ES)登場。カスタムベースのツートンカラー。
- 1988.3 ミント(SH50/ES)カラー変更。デラックスが廃止されミント、カスタム、スペシャルエディションに。
- 1988.3 ミントオリジナルセレクション(SH50ES)登場。フロントトランク付き。
- 1989.1 ミントスペシャルエディション(SH50ES)。カスタムベースのニューカラー。
- 1989.9 ミントスーパースペシャルエディション(SH50ES)。カスタムベースのニューカラー。
- 1991.7 ミント/スペシャル(SH50/ES)小変更。ミントとフロントトランク付きのスペシャルの2車種に。
- 1992.3 ミントスペシャルエディション(SH50ES)カラー追加。
- 1993.8 ミント/スペシャル(SH50/ES)メインスイッチ改良。
- 1994.9 ミント/スペシャル(SH50/ES)ヘッドライト等改良、昼間点灯。
- 1996.7 ブラックミント(SH50ES)2000台限定車。
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