タイトル

Part1 創生期から、パッソル、JOGの時代

数々の名車を送り出してきたヤマハの歴史の中でも、バイク史の流れを変えるようなターニングポイントにヤマハスクーターがあった。創生期の1960年代から20年近い空白期間を経て、原付スクーター黄金時代の1980年代、ビッグスクーターが主流となった1990年代、電動スクーターが一般的に認知された2000年代。スポーツバイクやオフロードモデル、アメリカンなどの趣味性の高いバイクと異なる、スクーター独自の世界を振り返ってみれば、未来につながるヒントが見えてくるかも知れない。

ヤマハスクーターの第一号SC1は、時代を先取りしすぎていた

SC1(1960)

SC1
SC1
●エンジン型式:空冷2ストローク単気筒●総排気量(内径×行程):175cc(62×58mm)●最高出力:10.3ps/5500rpm●最大トルク:1.45kg-m/4000rpm●全長×全幅×全高:1770×660×980mm●軸距離:1260mm●車両重量:123kg●タイヤ前・後:3.50-10・3.50-10●発売当時価格:150,000円。

日本経済が復興から高度成長期へとシフトする1950年代後半に入ると、運搬手段としてのバイクから、大型スクーターがブームとなった。

四輪はまだまだ高嶺の花であり、その代役としてラビットやシルバーピジョンなどが、役所、銀行などの業務用や、町医者、僧侶など比較的富裕層の足として広く使われ、二輪部門はを専業としていた富士重工(ラビット)や新三菱重工(シルバーピジョン)は、各種スクーターをラインナップし覇権を争った。

1955年に第一号車YA-1を送り出し、YD1、YDS1と順調にヒット作を産み続け順調に発展したヤマハも、需要が旺盛なスクーター市場を黙って見ている手はなく、1960年にヤマハ初となるスクーターSC1を発表した。

日本離れしたモダンなスタイルのモノコックボディに、当時はまだ珍しかったセルスターター付きの強制空冷2ストローク単気筒175ccエンジンを搭載。トルクコンバーターを使用したオートマチックで、駆動はシャフトドライブ、前後サスペンションは片持ち縣架という先鋭的なデザインに負けない斬新なメカニズムで登場した。

だがしかし、市場に登場したSC1の評判は芳しくはなかった。

ヤマハのさらなる発展を担ったSC1の設計思想は素晴らしく、走行性能も優れていたのだが、当時の加工技術を越えていた斬新すぎる機構が、初期故障を多発してしまった。そして修理しようにもデザインを優先したための整備性の悪さが市場で嫌われてしまった。

初期故障は時間と共に解決し、整備性も改良しさえすれば問題は解決するはずであったが、1960年代に入り、さらなる経済成長が進むと、大型スクーターの需要は、いとも簡単に軽自動車へと移り、大型スクーター市場は一気に冬の時代を迎えてしまった。

時を同じく登場したモノコック構造の斬新なモペッドMF-1(ヤマハメイトの遠いご先祖様)も、斬新すぎる機構ゆえ短命に終わった。

この2台への莫大な投資が一時ヤマハの経営を脅かす結果を招いてしまったのだが、逆にそれをバネにして、ヤマハは大きく開花する。負けじ魂、ここにあり!


第二次スクーターブームの幕はパッソルが開けた

第一次スクーターブームが終焉した後、日本では「スクーターは流行らないもの」という認識により、ラビットやシルバーピジョンが消滅した1960年代後半以降、国産メーカーはほぼノータッチというスクーター空白の時代が続いた。

そんな時代にピリオドを打ったのがヤマハだった。

SC1から17年後の1977年、ヤマハ初の原付スクーターとなるパッソルを発売し、第二次スクーターブームの幕を上げた。

と言うと「おいおい、ホンダのロードパルを忘れてるんじゃないか?」とお叱りを受けるだろうか。

確かに前年発売されたホンダのロードパルは6万円を切る低価格と軽快な自転車スタイル、そして世界的大女優ソフィア・ローレンを起用したCMと「ラッタッタ〜」の語呂のよい広告コピーで、国民的大ヒットモデルとなった。新規女性層の開拓に絶大な貢献をしたことは間違いない。

軽快感や取り付き易さはバツグンであったが、裏を返せば、フレーム丸出しで自転車の延長上にある乗り物というイメージも合わせ持っていた。

パッソル
都内のホテルで開催されたパッソルの発表会に展示されたパッソル。初代モデルはコンペティションライムグリーン、アーバンブルー、コンペティションイエロー、ニューホワイトの4色をラインナップ。
パッソル発表会
メインキャラクターである女優の八千草薫さんとフォトセッション。メインターゲットは女性層ということで、多彩なファッションの女性モデルが用意された。

そしてライディングスタイルは「跨ってステップに足を置く」というバイクスタイル=厳密に言えばスクーターではなかった。

スクーターか否かはともかく、現在ほど超アクティブとまではいかなかい当時の女性陣は、跨るという行為に抵抗を感じた人も多かったようで、(スカートで)ステップボードに足を揃えて乗ることが出来る=とてつもない安心感を与えた。

パッソル(S50 1977.3)

パッソル
●エンジン型式:空冷2ストローク単気筒●総排気量(内径×行程):49cc(40×39.7mm)●最高出力:2.3ps/5500rpm●最大トルク:0.37kg-m/3500rpm●全長×全幅×全高:1515×605×925mm●軸距離:1075mm●車両重量:45kg●タイヤ前・後:2.50-10・2.50-10●発売当時価格:69,800円 

また、例え安っぽい(失礼)カバーであっても、鮮やかな原色系カラーで包まれたボディは機械感が隠されてこれも安心感に大きく貢献していた。

ロードパルのような自転車タイプから、パッソルのようなスクーターが主流になるのにそれほど時間はかからなかった。

そしてキャラクターはバイクとは全く無縁の大女優、八千草薫さんを起用、実際に原付免許を取ってもらい自らパッソルを運転したCMの効果も絶大だった。

ロードパルのネガな部分を消したパッソルに、バイクはおろか自転車すら乗ったことの無かった主婦層も大いに食いついた。

さらにヤンキーや不良と呼ばれた高校生にも大ヒット。もっともこちらは足を揃えるのではなく、大きく広げて乗るスタイルが大流行した。  

パッソルD、パッソーラ、パセッタという派生モデルも誕生、1980年2月には、パッソル、パッソルDにエンジン始動時の飛び出しを防止するため、イグニッションキーに始動ポジションが追加された1・2スタートを新採用。ブレーキシュー摩耗インジケーター、ハンドルロック、ヘルメットホルダーも新たに装備するも価格は変わらずバージョンアップし、1980年代半ばまで末永く販売された。

大ヒットとなったパッソルは原付スクーターの大市場を掘り起こし、これが1980年代の空前のバイクブーム、HY戦争、レプリカブームへの発端ともなった。

パッソルD(S50D 1978.12)

パッソルD
パッソルの上級モデルとして燃料計(とはいえ、安い石油ストーブに付いているようなおおざっぱなものだが、あれば便利だった)、フロントバスケットを標準装備とした追加バージョン。Dはデラックスの略。77,000円 ※写真は1980年モデル

パッソーラ(SA50 1978.2)

パッソーラー
パッソルに比べて全長55mm、全幅10mm、全高15mm、軸距離40mmアップした一回り大きなボディに、オートチョーク付きエンジン+2速オートマチックミッションを搭載。最高出力も2.8psにパワーアップ。89,800円。1981年2月にはセル付き(SA50E 115,000円)を追加。※写真は1981年モデル

パセッタ(SB50 1981.5)

パセッタ
パッソルをベースにリアショックをセンタークッションという真ん中に装着したスポーツバージョン。カタログコピーは「パッソルのキュートな妹」で、キャラクターはフィギアスケートの渡部絵美さんが務めた。83,000(SE50E セル付92,000)円

パッソルミリオン(S50 1982.7)

パッソルミリオン
パッソル誕生6年目に登場した記念モデル。限定車ではなく初代モデルの最終タイプとなる。チャピィレッドとニューホワイトの2色で、レッドはボディ同色のレッグシールドが、ホワイトはブルーシートに専用のワンポイントデザインが入る。69,800円。

パッソル系概略史(1977-1981)

1977.3 初代パッソル(S50)登場。
1978.2 パッソーラ(SA50)登場。パッソルの上級モデル。
1978.11 パッソーラ(SA50)カラー変更。
1978.12 パッソル(S50)カラー変更。
1978.12 パッソルD(S50D)追加。燃料計、オイル警告灯、フロントバスケット付き。
1980.2 パッソル(S50)1・2スタート追加等小改良。
1980.2 パッソルD(S50D)1・2スタート追加等小改良。
1980.2 パッソーラ(SA50)1・2スタート追加等小改良。
1981.2 パッソーラ(SA50E)キャブ、レッグシールド等小改良のセル付き追加。
1981.3 パッソーラ(SA50)キャブ、レッグシールド等小改良。
1981.4 パセッタ(SB50)登場。
1981.4 パセッタ(SB50E)登場。セル付き。
1981.10 パッソル(S50)カラー変更。
1981.10 パッソルD(S50D)カラー変更。
1982.7 パッソルミリオン(S50)発売。カラー変更。

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