KAWASAKI 2011 NewModel Kaihastu W800

※KAWASAKI 2011 Model W800
       《Kawasaki 2011年モデル・インフォメーションより》

■ヴィンテージ・ライディングフィール

トルクフルなパワーを生み出す、バーチカルツインエンジンの鼓動、大径ホイールとしっかりしたフレームから生まれる特徴的なハンドリング性能。そして2本のサイレンサーから聞こえるエキゾーストノート。古き良き時代を思い起こさせてくれるオートバイでありながら、フューエルインジェクションの採用、セルスターターの採用や不快な振動を抑えるバランサーシャフトを採用するなど、W800は現代のマシンとして開発されています。
※KAWASAKI 2011 Model W800
■エンジン

※シンプルで軽量でありながら、エンジンを眺める喜びを与えてくれるクラシカルな造形のエンジン。「美しいエンジンを造ること」がこのバーチカルツインエンジン設計の重要なテーマでした。
※そびえ立つベベルギヤタワーはエンジンのクラシカルな雰囲気を生み出すと同時に、シリンダーヘッドの美しい印象に貢献しています。
※バフ研磨にクリアコート、そしてクロームメッキを用いたエンジンはシルバーに輝き、存在感と高品質感を強調しています。
※エンジンの美しさを損なわないよう、フューエルインジェクションのカバーにはクロームメッキを施しています。

※ボア×ストロークは77.0mm×83.0mm。773cm3の空冷4ストロークバーチカルツインエンジン。
※低中回転域のトルクを強化したエンジンは、2,000回転で最大トルクを発生。
※独特なエンジン特性と極低速域のレスポンスが、走りをのんびりと楽しむというクラシックバイクならではの楽しみ方を教えてくれます。

※フューエルインジェクションの採用により、正確な燃料噴射と排出ガスの清浄化、始動性の向上に貢献。
※タンクの外に設置する、コンパクトタイプの燃料ポンプを初採用することで、上品な燃料タンクの設計を壊すことなく、フューエルインジェクション化することに成功。
※φ34mmのスロットルボディは、エアクリーナーボックスからシリンダーまでを真っ直ぐにつなぐ位置に設置。サブスロットルを採用することで、理想的なエンジンレスポンスと騒音の低減に貢献しています。

※ロングストロークの360°クランクがW800ならではの独特のパルス感を生み出しています。
※フライホイールを重くすることで、低中速域の大トルクを確保しています。
※ベベルギアドライブ、SOHC4バルブを採用することで全域でのパワー感とレスポンスに貢献。
※W650と比較してボアを5mm拡大しながらも、ピストンを軽量化することでW650と同等の重量を実現。

※カムタイミング、バルブリフトはW650から変更していませんが、早く空いて遅く閉じる独特のカムプロフィールにより、エンジンの優れた総合性能を確保しています。
※インテークファンネルを長く、スリムにすることで低中速域の性能を向上。
※振動低減のため、エンジンにはバランサーシャフトを搭載。

※あらゆる場面で扱いやすくスムーズな5速トランスミッションを搭載。
※1速のギヤレシオは静止状態からの力強い出足を確保するように設定されています。
※ドライブスプロケットカバーに空けられた穴はメカノイズの減少と同時に、美しいエンジンの外観にも貢献しています。

※マフラーは滑らかな曲線とまっすぐな直線で構成されたシンプルで上品なデザイン。スリムなチャンバーと長いテールパイプから構成されるキャプトンタイプのマフラーがヴィンテージ感を強調します。
※トラディショナルなスタイルのマフラーがパラレルツインエンジンらしい独特のエキゾーストノートを演出。
※チャンバー室の形状、エキゾーストパイプの直径や長さ、大型の触媒等、マフラー内部の構造は厳しい騒音規制、排出ガス規制に適合しながらも低中速のパフォーマンスを損なわないよう、設計されています。また、サイレンサーの大型化に伴い、W650で採用していたテーパー形状のサイレンサーではなく、ストレート形状とすることで性能の向上に貢献しています。
※サイレンサーとエキゾーストパイプジョイントには信号待ち時やスタンドを掛ける際にライダーの足が直接あたらないよう、保護カバーが付いています。
※KAWASAKI 2011 Model W800
■ハンドリング

※50mm角断面パイプをメインフレームとした軽量なダブルクレードルフレーム。安定感のある乗り心地とコンパクトな車体デザインを実現しています。
※高剛性のスイングアームが重量を最小限に抑えながら高いハンドリング性能を確保。
※インナーチューブ径39mm、テレスコピック式のフロントフォークは走行する頻度の高い市街地でのショック吸収性を高めています。
※スムーズなライディングフィールとルックスを両立するデュアルリヤショックはプリロード調整が可能。
※クラシカルなフロント19インチ、リヤ18インチの大径ホイールはリラックスしたライディングポジション、軽快な旋回性、直進安定性をバランス。特に大径フロントホイールがW800ならではの急かされないステアリングフィーリングに貢献。
※KAWASAKI 2011 Model W800
■人間工学

※様々なシチュエーションで快適さを約束する自然なライディングポジションを実現。
※ハンドリングポジションはW650のローハンドル仕様と同様の位置としています。
※W650で採用していたインチバーではなく、直径22.2mmのハンドルバーを採用。アフターパーツを使用したカスタマイズにも対応します。
※前後長が長く、適度な厚みがあるリブ付のシートがライダーとパッセンジャーの快適性を向上。足つき性を向上するため、シート前部の幅を狭めています。シートの端のパイピングは、停止時にライダーの太ももにあたらないよう、ライダーとパッセンジャーの足に沿った形状となっています。
※ニーグリップしやすいよう、ニーパッドを装備したスリムでクラシカルな燃料タンク。

Q:エンジン関係の概要をお話ください。

黒下:基本方針としましてはW650をベースにボアアップし、低速性能、発進性能のさらなる向上を織り込みました。もちろん排出ガス規制、騒音規制への適合もありますが。排出ガス規制適合に関しては触媒にハニカム触媒を採用しています。

排出ガスに関しては、キャブからF.I.へということで最適セッティングを行いました。O2センサー、触媒もいろいろ見直しました。騒音規制に関しては、マフラーの容積をアップ。W650は後ろにいくに従い絞っていたのですが、W800は後ろまでストレートな構造にしました。パイプ触媒からハニカム触媒に変えて、構造も3室リターン構造となっています。

エアクリーナー関係は、後方から吸い込むように変更しまして、ダクトも延長、ファンネルも長くして低速性能のアップにも繋げた仕様です。

あとは温度が上がりますと、ギアとギアのバックラッシュが大きくなり、音が出ますのでギアの歯面の精度を向上させ、バックラッシュを詰める方向に持って行きました。また、クラッチのプッシュロッドをアルミに変えました。クランクケースと同材質にして膨張率を同じものにして遊びが増えないようにしました。オイル消費対策もしました。ピストンリングの仕様を変更。トップリングの張力アップと、オイルリングを薄くして追従性を良くしています。

Q:出力、トルクの仕様は?

黒下:W650よりも圧倒的に低速トルクを上げたいという目標がありました。そこを正面切って改良しようかというのが狙いでした。手法としては1速のギア比の変更と、エキパイの内径を細くしました。φ29.4mmだったのがφ26.2mmに、断面積で約20%細くなっています。

Q:バルブタイミングは?

黒下:タイミングは同じですが、開き始めからトップへ行く間、このあたりのカムの山を高くしています。閉じ側も同じです。リフト量も数値だけで見ると同じなのですが、カムプロフィルは違います。

Q:2,500回転で最大トルクになってますけど、上の5,000回転とかの時のトルクはW650と比べて落ちてるんですか?

黒下:落ちていません。上がっています。ピストンを5mmボアアップしたのですが、強度解析を駆使して、ほぼW650のピストンと同じ重さに抑えました。その結果、エンジン周りではクランクシャフトとバランサーはW650のものを流用しています。

Q:ボアだけで大きくしたのは? どういうテイストを持ったエンジンを狙った?

井上:コンセプトに沿って評価で作っていくんですけど、将来的にはボアアップ行けますよ、というのがW650の時にあった。性格としてはそれまでのW650の性格を受け継いだものです。

開発の最初の段階では、F.I.はあまりに滑らかすぎて、性能が上がっているんですけどそれが体感できなかったんですね。担当のテストライダーからも「排気量が上がった分、もっとそれが明確に分かるようにしたい」という話で、どんどん最大トルクの発生域が下がっていったという経緯があります。

また、唐突にトルクが出過ぎてしまうとギクシャクして乗りにくいということがあるんですけど、W800の場合は逆にそのガツガツする感じがあまりにもなさ過ぎて、スムーズすぎたので排気量が上がったイメージが伝わってこなかった。そこで、下の方からトルクを出す方向にしました。

Q:その流れでギヤ比やファイナルを変えた?

井上:ファイナル変えると全体に動いてしまうので変えていません。特にキャブの場合はセッティング上、全体に広がってボケてくれるのであんまり気遣いせずに済むんですが、F.I.の場合は開けると前に進み過ぎてしまう、開けないと落ち込んでしまうみたいな繊細なセッティングになって、ボカしてごまかすようなことがし難いんで、それならいっそローギアを低めにして、ルーズに出て行けるようにした方がいいね、ということでギア比を変えることになりました。

Q:高回転域は?

井上:ほぼ(W650の性格に)近いですが、乗ると排気量が上がっている感じが体感できると思います。

Q:ハンドリングの印象は変わった?

井上:ハンドリングも基本的にはW650を踏襲しましたが、W650は若干切れ込み感があったので、そこは少し減らし、より自然な感じにしました。

最初からW650を踏襲、というコンセプトが出来上がっていましたから、それほど大きな変更はしませんでした。リアショックの減衰を変えたのは欧州と国内の両方での販売を目指した開発だったので、W650よりも多少欧州のライダーの体格、使用状況などに配慮したということです。

Q:欧州向けに変えた部分は?

菊地:欧州のレギュレーションに合わせて灯火器類を変更したり、マフラ-内の触媒の貴金属量を変えたりしていますが、味付けなどといったコンセプトは変更していません。

Q:ブレーキペダル周りは?

菊地:ペダルの横幅をちょっと広く、より踏みやすくしています。

Q:走行性能関連の質問に移りたいと思いますが、デザイン優先でフロント19インチになった?

井上:W650のコンセプトをデザインも含めて踏襲するという開発方針でしたので、そのままフロント19インチを採用しました。

Q:コンセプト段階では18インチは出なかったということ?

井上:ミーティングでは出ませんでしたが、17インチもひとつの手法としてあるんじゃないか、タイヤの選択肢も広いし、より現代的なハンドリングになります、という話はありました。

Q:カフェ・スタイルの開発などは?

井上:車体の開発と同時にアクセサリー開発も手がけました。大型ウィンドスクリーンをつけた場合の視界はどうかとか、風の流れとか、背中からの押され具合は、取付角度は、など様々なテストをやりました。カフェスタイルカウルについてはどちらかというと外観重視なんですけれども、伏せこんで走るとやはりそれなりに高速域での風の流れが変わります。

Q:タイヤは専用タイヤ?

井上:専用設計ではありません。W650の時に欧州向けと国内向けの2種類あったタイヤを国内用に集約しました。W650で付いていた欧州仕様のタイヤももちろんテストはしました。W800ではひとつのポジションになったので一本化できた。

赤松:W650の時にきっちり造り込んでいるので…。

井上:TT100は長い間スポーツタイヤの代表みたいな感じでしたね。

Q:最後にW800開発での苦労談か、印象深い思い出を。

大杉:空冷の大排気量で熱対策には苦労しました。それから、燃料ポンプは新規に作っています。三菱(電機)さんと一緒にやらせて戴いたのですが、機能評価や品質造り込みの苦労もありましたが、いい物が出来たと思います。

菊地:W800は外観がとても重要なオートバイですが、今回F.I.化することでハーネスや電装品が増えるので、それをいかに隠すかという事で苦労しました。新規デザインなら、初めからそれを考慮したデザインにすればいいのですが、W800ではデザインは既に決まっていますので、その中で纏めあげないといけませんでした。また、こういうオートバイは何が必要かと言うことを皆が理解していますので、ちょっと変な処理をすると、色々な人から指摘を受けたりしました。でも、そこまで皆で作り込んだおかげでいいオートバイが出来たと私は思っています。

黒下:空冷なので熱的な問題で色々と苦労しました。特にベベルギアですが、熱間時は軸間が伸びてバックラッシュが増え、メカノイズが悪化しました。対策としては、今までは片側の歯面だけをラッピングしていたのですが、今回は両面ともやりました。歯当たりの精度を上げることにより、バックラッシュが詰めれて、メカノイズを下げることができました。 それから、F.I.のポンプの場所は燃料タンクの前左下に外付けしました。外付け自体は特別なものではないのですが、タンクに直接取付けているのはカワサキでは初めてですね。

赤松:これはW650開発当時の話なんですけど、カワサキモータースジャパン(国内販売会社)でお客様のニーズについてアンケートをしたんです。“W”を想定して、次にこういうのが欲しいと思いますかと聞いたら、定量的にはわずか3%位しかいなかったんですよ。アメリカンやスクーターが出てきた頃でしたから。なかなかバーチカルツインの期待値は上がらなかったんです。狙いとなるリターンライダーさんの実体もよく分からなかった。一旦降りられていますのでデータがなかった。そんな状況でも定性データから上司がハラをくくってくれて「大丈夫や」といってくれたので計画を進められた事が思い出です。

松村:Special Editionとスタンダードのデザインにトータルで苦労しました。色だけでなくエンジンの外観等まで変えてしまっていいのかとか。フィンの切削加工では無理を言いました。個人的にはシリンダーヘッドカバーは赤くしたかったんですけど…。特別なモデルにしたかった。カフェスタイルというのも始めは漠然としたものだったですけど、いかにナチュラルにするか、奇をてらったデザインのモデルじゃなかったので無駄な造形は避けたかった。スクリーンの高さのバランスですとか、ウインカー周りのクリアランス。シングルシートも上から見ると分かるんですけど、より絞られているんです。ニーグリップした時のフィット感など、スポーツライディングをしたくなるようにしています。

お忙しいところ貴重なお時間を頂き、大変ありがとうございました。

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