W800は、前モデルであるW650と全体的に同じ部分がとても多く、車名的には排気量が150cm3増えているけれど、W650=675cm3からストロークをそのままでボアを5mm大きくした773cm3であるから、実際には98cm3の拡大である。排出ガス規制もありキャブレターからフューエルインジェクションに変更になっている。
「W650と大して変わんないんじゃない。モデルチェンジってよりマイナーチェンジじゃないの」と思っている人もいるかも知れない。ところがぎっちょんちょん。乗ってみたらスペックからは判断できない違いに驚いた。
何よりも、メーカーも強調している低中速の厚みを増した360度クランクのバーチカルツインエンジンだ。排気量を大きくしただけでなく低中速のためにそれまでより重いフライホイールを採用した。発進したその瞬間から豊かになったトルクを感じられる。スロットルをまったく開けずアイドリングでクラッチを繋いでもこれっぽっちもエンストする気配をみせずに前に進む。
W650ではそこの部分が著しく弱かった訳ではないが、この低中速のトルクUPを知ってしまうと650には戻れないと思う。トップ5速で40km/h、タコメーターの針は1千500回転よりちょっと下。この状況で普通にスルスルっと走る。「もうツライっす」というお知らせであるガクガクとくることもなく。そのまま試乗した西伊豆の海岸線に伸びる峠道も普通に登り、走れた。
じゃあ、あまり回さずにトコトコ走ることだけに長けたエンジンかと問われれば、そうではなく、開ければスムーズに回転をストップさせられる領域まで回る。回転の上昇に、真冬の朝出たくない布団から出ないといけない嫌々感のような重々しい印象はない。確かにスロットルオフの回転落ち込みはやや緩やか。速さを競うスポーツモデルではないのだし、そこはまったく気にならなかった。
そうは言うけれど、W800でのスポーツ走りはなかなかなのである。ここがエンジン以外で「変わった」と感じたところ。以前の柔らかくてコンフォートなんだけど飛ばすと心許なかったサスペンションの印象と違う。動きが良くなった。適度に腰がありダンピングが効いていてワインディングをスポーティーに走っても面白い。
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説明しなくても判るだろうが数値的な『速さ』はないのだけど、持ちうる性能の中でコーナーを倒し込んで走る征服感、爽快感、高揚感、カンタンに言えば「楽しい」がある。
650の時はこうまでは思わなかった。サスペンションのセッティング、タイヤの性能(旧車に似合いながら高いグリップ力のあるTT100GPを履く)、ブレーキ性能、エンジン特性、このバランスがとても良い。アップダウンのある中低速ワインディングを、少しだけ前傾姿勢になるハンドルバーを掴んで、キックレバーが無くなったことで左右の位置ずれが解消されたステップをふんばりスロットルを積極的に開け走るのが愉快。良い意味で感覚的には'70年代の空冷スポーツバイクで走っているのに近い。
エンジンは低回転から高回転まで使い勝手に幅が広がった。車体もスポーティーさを感じさせる走りを手に入れた。バーチカルツインの鼓動音を味わいながらゆったりトコトコ走るところから、コーナーを攻めるところまで。シートの足つき性も良くなった。楽しみ方、楽しめる人の幅が広がった。野球のバットならばスイートスポットが広くなった。
W1、W3(650RS)を世に出したカワサキという正当性のようなものがあるクラシカルなルックスと成り立ち。W650が持っていた独自の世界観を保ちながら、バイクとしての機能をレベルアップして、よりホンモノになったと思った。たった「98cm3増えただけ」ではないのである。
- こちらは2月1日に同時発売される“W800 Special Edition”。ブラックの燃料タンクを始め、ブラックアウトされたエンジン(シンダーヘッドの一部のみアルミ地)、エキゾーストパイプにマフラー、フロントフォークのアウターチューブ、前後フェンダー、前後ホイールハブ、ハンドルパイプなどをブラックアウト。そしてホイールはゴールドに変更されている。詳細は新車プロファイルのW800 Special Editionのページで。
- こちらはSTD仕様に防風効果の高いウインドスクリーン(35,000円)と小型エンジンガード(13,440円)、リヤキャリア(11,550円)の純正アクセサリーを取り付けたモデル。詳細はカワサキW800のスペシャルサイトで。
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