- ●文:松井 勉 ●写真:松川 忍
- ●取材協力:有限会社デルタ・エンタープライズ(74Daijiro事業部)
- TEL 048-424-0174 http://www.74daijiro.net/
あれは2009年9月のある日のこと。ある雑誌の仕事でGSR400ABSの取材を終え、そのまま二輪誌のカフェイベント現場に着いてしばらくしたときのこと。
パイ〜ン、パイーン、パラパラパラパラ。
誰だチェーンソウ持ってカフェに入ってきたヤツは?
そこに集まった業界人の視線をイッパツで集めたのが鎌田のガクちゃんだった。
で、彼が肩に担いでいたのが「74Daijiro」だったのである。
しばらくして店の片隅に置かれたそのポケバイをみて僕は目が釘付けになった。黒いカウルをなめるように見る僕に「そうなんです。ステッププレート、ドライカーボンなんです。ここもですよスイングアーム(コンコンコン・叩く音)。アハハハ」 そう言って豪快に笑うガクちゃん。
- ●74Daijiro・鎌田学仕様●
- ●74Daijiro・ワンオフパーツ満載の東京R&D仕様●
その74Daijiroはポケバイのくせにカスタムバイクの色気をプンプンさせていた。しかもシートカウルに大人用底上げシートが付いている。
「10月に“Daijiro大人クラス”っていうのが秋ヶ瀬でありますから。連絡しますよ。松井さん、乗ったら面白いですよ。アハハハハ」
豪快な笑いのウラにちょっとした悪戯心があったことをその時は知るよしもなかったが、僕が74Daijiroでレースをするのが決まった瞬間だった。
で、斜め後ろから「バイク、用意しますよ」とだめ押ししてくれたのが74Dajiroの販売元でありレースのプロモーションなどもしているデルタ・エンタープライズの村上さんだった。
「皆さん、最初はとまどいますが、すぐに走れるようになりますよ」と、ニコニコ顔で言うではないか。
そして僕は当日、サーキット秋ヶ瀬に出掛けた。
本番である。緊張するなぁ。でもパドックにはのんびりした空気が流れていた。
その日、74Daijiroのレースにやってきた子供達は、パドックの特等席に陣取ったデルタ・エンタープライズの4トントラックの回りに入れ替わり立ち替わりやってくる。
「セッティングどーすんのー」やら「この前ナニナニちゃんが乗りたいっていってた」とか「ガクちゃん、こっちきてー」などなど、二人のオトナは引っ張りだこ。
同い年ぐらいの子供がいる僕としてはあまりに日常的な空気にちょっと驚いた。
だって普通大きなサーキットでは、子供達に自由があまりない。イベントによっては”小学生以下出入り禁止“なんて所だってある。でもここでは間違いなく彼らが主役。
なにより、そんなおこちゃまな彼らが74Daijiroにひとたび跨り、ピットレーンを後にすると感動モノの走りを見せるのである。
オトナと子供、ちゃんと練習走行時間が分けてあるのはそのためだ。彼らの加速にオトナはなす術をもたない。
サーキットでは午前中が練習走行、午後がレースというスケジュールだった。
練習走行中、子供に「スピード落ちるからブレーキはなるべく使うなよ」なんて指南をするオトーさんも(そのオトーさん、ワイヤー式のディスクブレーキの遊びを目一杯出して、握ってもあまり効かないようにしていた。ある意味アブナイ裏技。でも、レース前車検で指摘されていたけど)。
子供が操る74Daijiroは美しい。彼らの走りは本物だ。同時に子供の走りを見ると肝が縮んでいく。乗れるのかオレ。
「カウルを足の裏ではさむように乗って、それをニーグリップ代わりにすれば簡単ですよ」ビィィィィ〜ン……!
ガクちゃんはマイ74Daijiroでスイスイ走って行く。
片足を予めステップに載せ、もう片方を走り出したら載せるのだが、それがなかなか難しい。
遠心クラッチ付きのエンジンが足をステップに載せられるまで加速するのにちょっと待ちがあるし、片足ケンケンするからフラフラする。
「乗れなかったらどうしよう」が、高速で頭の中を駆けめぐる。
でも、発進が上手くいくと、あとは74Daijiroの上から落ちないようさえすれば意外と素直に走れることが解った。
183センチ84キロの僕には、まだまだサーキットを風のように走れない。直線はまだしもカーブでは、ハンドルを持つ手が自由にならず目一杯大回りになる。
相撲のまたわり状態に股関節を開き、太股の内側に見えるハンドルに腕を伸ばす、というライポジだ。持つ手(とういか肘が)が内股に当たるからハンドルが切れない。バイクが寝ても曲がらない。こんな速度でどアンダーか! と笑っちゃうほど情けない。
それでも周回を重ねるごとに曲がりやすいように身体をあれこれアレンジしてみる。
サーキット秋ヶ瀬のストレートから1コーナーは高速左。その先が左に回り込み、軽いシケイン状になりその先に左ヘアピン、立ち上がって右ヘアピン。S字を全開で抜けて最終左だ。タイトターンに渋さは残るものの、高速コーナーは風を感じるようになってきた。
40㏄、もしくは50㏄の汎用エンジンを載せた74Daijiroは、高回転でそれなりの加速をしめす。
600メートルのコースを数周走るだけで身体が熱くなってくる。2本目の練習走行の時にはバンクセンサーも接地。気分も高まる。しかし、バンクセンサーが擦ると、成り行きバイクを寝かすつっかえ棒になり、またアンダー。74Daijiroは意外と難しい。
練習走行終わりでパドックに戻る。ホッとして足を出そうしたら、バンク角を稼ぐのに斜め上に跳ね上がったステップから足が出ない! 思わず立ちゴケするとこころでした。
そしてレース本番。
賞典外のガクチャンはグリッド後方からのスタート。ガクちゃんが声をかけたホンダのデザイナーさんたちがグリッドについた。つまり初めて組の人達がほとんどで、この後、抱腹絶倒なバトルをすることになる。
レースは8周。スタートはスタンディングスタート。レッドシグナルからグリーンに変わってスタートだ。緊張する。青だ。全開!
と、思ったらガクちゃんはじめ、74Daijiro経験者は足で猛ダッシュ。後ろからあっという間に初めて組を置き去りにして1コーナーへ消えていく。
オトナげないなぁー。
ビィーンという高まってこないエンジン音を聞きつつ始まった初レース。コーナーでつつきあい、インを差し合い、そして開いた足で相手をブロックをしたり、初心者も基本大人げない(笑)。
ウラを掻き、アウトからカウンターラインでインをとる。しかし加速で並んだまま抜けない、勢いあまって縁石の向こうまで出る人も。バラエティーに富んだ展開があちこちで勃発。
基本に忠実に、アウトインアウト、スローインファストアウト、これを実践するとストレートの延びで相手をパス、あるいは相手を引き離すことができる。が、熱くなった頭にその冷静さはない。
さすがホンダ。デザイナー氏とはいえ、バイク好きでしかもみんな上手い。「おー」とか「くっそぉー」とか立ち上がり加速の最中、僕はヘルメットの中で叫びまくっていた(笑い声で)。
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