エンジンはパルス感とトルク感が実に心地よくブレンドされたもの。また、ルックスはビンテージ風だが中身は最新だから、クラッチの切れ、シフトのタッチやストローク、操作性も含め完成度は高い。
また、パワー感とトルク感がどの回転域でもリニア。しかもパーシャルから開け始めのドライバビリティがとても良く、高めのギアで緩やかにアクセルを開ける場合でも、低いギアで右手を大きく開けたときでもイメージ通りの駆動力を生み出してくれる。
このエンジンは、同じ270度クランクのヤマハTDMより全域でまろやか。特に2000回転+αから暴れることなく蹴り上げて行く加速は最高。トライアンフのスラクストンのエンジンよりも全体的にビート感、トルク感、パワー感とも厚目だ。そんな意味で過去乗った270度クランクの並列ツインでは一番スイートな仕上がりだった。もちろん、ドニントンの回りの道と一部高速道路を走った印象だが、気分屋のバイク乗りの精神構造を知り尽くした特性だ。推進力の原動力、というつまらない物ではなく、心が喜ぶ原動力という感じだ。
しかも回転上昇とともにトルクの波に押されるような加速感は本当に楽しい。ドニントン周辺の田舎道を流す、あるいは流すより少し飛ばすぐらいのペース(といっても80km/hから120km/h)がとても楽しい。ステップに軽く荷重しながら左右に切り返す場面など、このバイクが持つ楽しさの真骨頂。
シャーシのレスポンスは、細身のタイヤを履くSRやW650的にリーンウイズのままヒラリと走る、というものではない。ワイドラジアルのバイクらしく、ライダーがステップなり身体なりで明確なアクションを与える必要はある。でも、その僅かなアクションを見逃さないコマンド961は、乗れば乗るほど心が通うバイクだった。
流すようなワインディングでは前後にオーリンズを履く足が良い仕事をする。低速域ではコツコツとやや硬い、と思わせたリアサスも50km/hを越すと滑らかになり、並列ツインが生み出すパワーを見事に路面に伝えている。