“4台のバイクを1台に”──ムルティストラーダ1200Sを作り上げる時に掲げた開発テーマがこれだ。スポーツ、ツーリング、アーバン、そしてエンデューロ。ある意味、それは難しい、というか、そもそも呉越同舟だろ、とするのが普通だが、最高のクロスオーバー造りを目指した彼らは本気で造り込んだ。そしてムルティはやってのけた。サスペンション特性とエンジンのレスポンス、それにトラクションコントロールのレベルまでを細かくセットアップすることで、「通れる」「走れる」ではなくどの場面でも楽しめる、攻めるにまで昇華させたのだ。
搭載されるエンジンはドゥカティのスーパーバイク、1198と同系の水冷1200㏄。しかし、インテークとエクゾーストのカムのオーバーラップを僅か11度に設定することで高い環境性能とドライバビリティー、そして燃費性能にも貢献するという。またフライバイワイヤー式のスロットルバルブの採用で乗り味の特性も理想的なものへと磨き込まれている。ハンズフリーというスマートキー方式や、1200Sとツーリングエディションに装備された電子制御のサスペンションは、ボタン一つでスポーツ、ツーリング、アーバン、エンデューロの4段階にシャーシとエンジンの特性を一括制御してくれる。しかもトラクションコントロール、ABSなど先進技術も搭載されるから、ドゥカティという枠を超えて新時代の香ばしい香りがする。電子制御サスに関してはBMWもESAというシステムを搭載しているが、エンジン特性と合わせてボタン一つで走りながら変更が可能な点でムルティストラーダ1200Sは一歩先んじたカタチだ。
気になるパワーは、本国仕様が150馬力なのに対し、日本仕様は102馬力となる。また、本国仕様ではスポーツ、ツーリングで150馬力、アーバン、エンデューロでは100馬力とアクセルレスポンスと合わせて最高出力も制御されるのに対し、日本仕様はどのモードを選んでも最高出力は102馬力。従来、馬力を回転で制御してきたが、この新型ムルティの場合、エンジンはきっちり高回転まで回る設定となっていることも新しい。イメージとしては6500回転を過ぎても伸びて行く本国仕様にたいし、日本仕様はその先が台形的ラインを描きピーク回転域に到達する。馬力制御はスロットルバルブで行っているため、特性そのものは自然。頭打ち感はない。
- 実はデザイナーが赤と黒のコントラストを付けたのには理由があって、黒は主張させない部分、赤い部分は主張したい部分だという。夜、黒が闇に溶けたムルティはスリムでより軽快さとスタイリッシュさを増す。パニアケースの色分けも重量感を出さないためのデザインだという。
そして、気になる各モードでの制御だが、スポーツモード時はスポーツタイプデリバリーと呼ばれるECUマップでの制御となり、ツーリングモードがプログレッシブデリバリー1、アーバン・エンデューロモードではプログレッシブデリバリー2というマップとなる。
トラクションコントロール、電子制御サスペンションに関しての設定は本国も日本仕様も同じとなっているから、単純にエンジン特性の違いなのである。実際に乗ると電子制御サスペンションを備える1200Sの場合、アーバンとエンデューロが同じマップから繰り出されるエンジン特性とは思えないほどフィーリングが異なる。つまりサス設定が変わると人の感覚ってこうも変わるのね、と感心することしきりだ。ボクはこれだけでもムルティの1200Sとツーリングエディションは買いだと思う。
ちなみにDESと呼ばれる電子制御サスは前後オーリンズ製。φ48mmのインナーチューブ径を持つ倒立フォークと直押しダンパーである。対するスタンダードの1200には前後ともマニュアルフルアジャスタブルで、フロントにマルゾッキ製φ50mm倒立フォーク、リアダンパーはザックス製となる。
- ウインカーを兼ねたナックルガード、カウルフロント周りの形状、そして高さを60mmの範囲で調整可能なウインドスクリーン。快適性も高い。僕が乗ったドゥカティで史上最高の後方視界に優れたミラーは大きなメリット。
- 1198系エンジンをベースに最高のマルチパーパスモデルの心臓へと変身したムルティ用ユニット。スイングアームピボット部分はアルミダイキャスト製プレートを採用するが、これはフレームも強度とデザイン処理のため使われている。5年後も見劣りしないデザイン力が細部にまで宿っている。
- LCDのパネルには数々のインフォメーションが表示される。そのどれもが直感的に解りやすい。インジケーター下の丸いウインドウ(ドットマトリックス液晶ディスプレイ)には、ライディングモードやオンボードコンピューターが割り出した燃料残量から計算した航続距離、平均燃費なども切り替えで表示する。
- 走行中でもセットアップ可能なライディングモード。ウインカーキャンセルスイッチがウインカー作動時以外にモード選択スイッチに。4つのモードでサスペンションセット+エンジン特性が変化する装備はS以上に標準。標準モデルはエンジン特性のみ4つのモードに変化。ABSは全モデルに標準。
- パッセンジャーシート下には、車載工具などを収める充分なスペースがある。金色のタンクは、DESがリアサスペンションのイニシャルアジャスターを可変させるための油圧アクチュエーター。ABSユニットもシート下に収められている。重心位置に重量物をまとめている。
- ムルティストラーダが履くタイヤはピレリスコーピオン・トレール。開発初期からピレリとドゥカティが共同で作り上げた専用設計タイヤ。耐久性、ワインディングでのハンドリングやグリップ、快適性、ダートでの性能と高い基準でクリア。ギネス級欲張りタイヤだ。
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