HONDA NSF250R Midashi

NSFの開発ライダーを務めた仲城英幸選手や、尊敬する元ワールドチャンピオン坂田和人さんも乗った後に、不安げなHRCスタッフにエンジンをかけてもらう。MotoGPのエンジンスタートの時によく見る、あの補助エンジンスターターだ。こんなもの使ってもらうことすら恐縮する!

レーシングパターンのシフトペダルをローにかきあげて、エンジンストールしないように、回転を上げながらスパッとクラッチをつないでみる。乾式クラッチではないから 、そうしなくてもいいのだろうけど、NSFは、鈴鹿サーキットのピットロードをスルスルスル、と何事もなかったように滑りだす。ん? 意外と普通じゃんか……。いや、そんなはずないな。

ピットロードエンドからコースイン。シフトアップランプなんか点灯するはるか前でシフトアップしてスピードを乗せてみる。フリクションなく回るエンジンは、レーシングマシンでは評価基準にも満たないはずの6000rpmくらいでも十分にトルクがある。レスポンス、エンジンパワーのフィーリングは、市販車で言えば600ccくらいの水冷DOHC単気筒、といったら言い過ぎかな。

前のライダーが温めてくれたであろうスリックタイヤで1コーナーへ飛び込んでみる。スリムすぎる車体はパタンと寝かすと、本当によく曲がる、曲がりすぎる。2コーナーを立ち上がってS字、その切り返しで思ったよりマシンがインへ向かい過ぎてしまう。

え? 普通に乗れるじゃないか……おかしい、こんなはずじゃないぞ、レーシングマシンてのは……と思いつつ、少しだけスピードアップしてみる。13000rpmにセットされているシフトアップランプを確認してからシフトアップを繰り返して、充分スピードを乗せてから、コーナーへも少しフロントブレーキを残しながら、体も思い切ってオフセットして入ってみる。

それでも破綻はきたさない。さっきよりもフロントタイヤが路面をえぐるような感覚を感じさせながら、NSFはぐいぐいと向きを変えてくれる。車速が落ちないようにスロットルを早めに開けてもおかしな挙動はない。それより、2ストエンジンのように、一瞬で回転が落ちて失速、あわててスロットルを開け直しても「モー」って加速しない、あの気難しさがない。

充分にスピードを落としてコーナリングする安全運転マインドを少しだけ解除して、ほんのちょっとだけ無理してみる。きちんと荷重をフロントに乗せておかないと、ちょっと大回りというか、フロントが外に逃げていく感覚がある。おぉ、少しだけ攻められてるなオレ!

ほんの7-8分の試乗枠では、これが精いっぱい。けれど、曲がりなりにも「攻めてやった」感があるとは驚きだった。スロットルもきちんと開けられずに、またコテンパンにやっつけられると思っていたのに、そうではなかった。

まさか、また乗りたいなんて気持ちになるとは思わなかった。

エンジンは6000rpmから失速しないだけのトルクがあって、パワーバンドというような明確なエリアはない。2スト125ccマシンのような、一瞬でものすごいパワー域に突入するピーキーさなんて微塵もなく、ただただフラットトルク。スロットルへのツキだって自然、わざとカパッと乱暴に開けた時だって、キレイにパワーがついてきた。12000rpm以上の回転域だって、そんな恐怖感ナシに踏み込むことが出来る。これぞ4ストエンジン、4ストレーサーの美点だね。

車体は、さすがにレーシングマシンらしいダイレクト感があるけれど、決して神経質でも、カチカチなフィーリングでもない。マシンの姿勢は自然な弱前下がり。まったくのスタンダードだけに、なんのセットアップもされていない状態なんだけれど、サスペンションだってストロークするし、ブレーキを掛けると前下がりに、スロットルを開けるとトラクションがかかるのがわかりやすい。

なんて乗りやすい、楽しいレーシングマシン。確かに、ひと握りのライダーだけが乗りこなすマシンでなければ世界チャンピオンになんて届かないんだろうけれど、それはこれからどんどんセットアップして煮詰めて行って、モンスターマシンに変貌していけばいいのだ。NSF250Rは、生まれたばかりのレーシングマシンなのだから。

ロードレーサーという高そうな敷居と、4スト単気筒というおなじみの心臓部。もちろんNSF250Rは純粋なロードレーサーなんだけれど、このバイクはなにもレースに出る人じゃなくても楽しさは十分に理解できるし、たとえば趣味としてサーキット走行をする人にだって勧められる、スーパースポーツバイクだと断言できる。

600ccなんかの4スト4気筒モデルをレーサー仕様にして、たまにサーキットランを楽しむ、っていうライダーは少なくない。HRCによれば、全日本にフル参戦するくらいのライダーでも、エンジンメンテナンスインターバルは2ストマシンの4倍ほどになっているのだという。もちろんこれはテスト中の現在、保証できる最低ラインで、実際はもっともっと伸びるのだろう。

市販レーシングマシンだけに、初期投資額は決して安くはない。けれど、CBR600RRをサーキット専用車にするのと、ほとんど変わらないレベルだ。

RS125が世界中のレーシングライダーを育てたように、今度はNSF250Rが世界中のレーシングライダーを、そして世界中のスポーツラン好きのライダーを育てていくのは間違いない。僕も、今日ちょっとだけ育てられた…気がするな。

NSF250Rは2011年12月から発売になる。メーカー希望小売価格は、1,749,510円。
NSF250Rは2011年12月から発売になる。メーカー希望小売価格は、1,749,510円。
タンク容量は11L。形状は50ccクラスのスリムさで、タンク前半部分とエンジンを後傾させたスペースには容量5Lのエアボックスが占める。ちなみにエンジンは前方吸気、後方排気だ。
タンク容量は11L。形状は50ccクラスのスリムさで、タンク前半部分とエンジンを後傾させたスペースには容量5Lのエアボックスが占める。ちなみにエンジンは前方吸気、後方排気だ。
サスペンションやホイール、ブレーキ周りは設定こそ専用だが、基本的にRS125と共通。RSユーザーはこれまで持っていたスペアパーツや自分専用のスペシャルを再び使用することが出来る。
サスペンションやホイール、ブレーキ周りは設定こそ専用だが、基本的にRS125と共通。RSユーザーはこれまで持っていたスペアパーツや自分専用のスペシャルを再び使用することが出来る。
マフラーエンドはこの位置。4ストローク250ccとは思えないほど剛性の高そうなスイングアームだが、その他のパーツは量産前提としているのがよくわかる。リア周りもRS125との共用部品が多い。
マフラーエンドはこの位置。4ストローク250ccとは思えないほど剛性の高そうなスイングアームだが、その他のパーツは量産前提としているのがよくわかる。リア周りもRS125との共用部品が多い。
メインフレームを含め、車体サイズはRS125とほぼ同じ。これはユーザーの乗り換え違和感を少しでも減らしたかったためと、RS125こそこのクラスの理想サイズだった、ということなのだろう。
メインフレームを含め、車体サイズはRS125とほぼ同じ。これはユーザーの乗り換え違和感を少しでも減らしたかったためと、RS125こそこのクラスの理想サイズだった、ということなのだろう。
ピークパワーは13000rpm、そこから多少のオーバーレブ域があって、この日のシフトアップランプは13000rpmに設定されていた。左ハンドル部にオートシフタースイッチが装備される。
ピークパワーは13000rpm、そこから多少のオーバーレブ域があって、この日のシフトアップランプは13000rpmに設定されていた。左ハンドル部にオートシフタースイッチが装備される。
リアショック周りで言うと、プロリンク構造はRS125と同一。スプリングも工場出荷時は同じパーツで、減衰力特性は専用に設定されている。RS用のパーツも使用可能。
リアショック周りで言うと、プロリンク構造はRS125と同一。スプリングも工場出荷時は同じパーツで、減衰力特性は専用に設定されている。RS用のパーツも使用可能。
ふっくらしたシルエットから鋭利でシャープなイメージとなったカウルデザイン。ボディパーツはもちろん専用設計でRS125との互換性はなし。まずはこのカウルにもぐりこめる体型にしなくては。
ふっくらしたシルエットから鋭利でシャープなイメージとなったカウルデザイン。ボディパーツはもちろん専用設計でRS125との互換性はなし。まずはこのカウルにもぐりこめる体型にしなくては。

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