
(2010.11.03更新)
いや今回は、文字どおり波瀾万丈疾風怒濤の第17戦であった。
ポルトガルGPの舞台エストリルサーキットは、首都リスボンから車で15分強。避寒地やカジノで有名な街エストリルの郊外にある。
海から近くイベリア半島最西端という土地柄もあって、風が強いことでも有名な場所だ。
強風が吹き荒れる日には、誇張でもなんでもなく、足を踏ん張って前傾姿勢にならないと前に進めないこともある。
風が強いということはすなわち雲の動きも早いということで、西の方に黒い雲が見えたかと思うとあっという間に強い雨が襲ってきたりする。
今年も風と雨に翻弄された。
今回から、数年前と同じく金曜午前のフリープラクティスが復活したのだが、せっかくの機会にもかかわらず一向にまともに走れる状態ではなく、MotoGPクラスのフリープラクティス1回目はほとんどの選手が走行を見合わせた。
土曜はさらに大荒れの一日になり、午後の予選が3クラスともキャンセル。選手もチームスタッフも観客も、やたらと時間を持て余し、なんだかな〜、ってかんじの一日になった。
日曜日も、午前中こそ前日までの延長線のような天候だったのだが、朝のウォームアップ走行が終わる頃合いに光が射しはじめ、午後になると徐々にコースが乾いてきた。
とはいっても、完全にドライアウトしたわけではなく、ところどころウェットパッチが残る状態で決勝時刻を迎えた。
テレビ放送の関係で、第17戦の決勝レースは従来と異なりMoto2→MotoGP→125cc、というイレギュラーな順番になっているのだが、いずれにせよ、金曜と土曜はフルウェットのセッションで決勝レースが初めてのドライコンディション……ということは、セットアップもタイヤ選択も博奕のような状態になる。
さらに、このエストリルサーキットは、路面の乾いている部分と濡れている部分の判別が難しい、と多くの選手たちが口を揃えており、これらの要素をすべて考慮してひとことで簡単に形容すれば、「荒れるよ〜」ってことになる。
じっさい、過去を振り返ってもエストリルでは荒れたレースが、悲喜こもごもの結果を生んでいる。
たとえば、路面コンディション変化に伴いバイクの乗り換えがOKとなるMotoGPクラスの<フラッグ・トゥ・フラッグ>ルールが初めて適用されたのは、2005年のポルトガルGPだった(ちなみにこのときは、誰もバイクを乗り換えていない。優勝したのはA・バロス)。
`02年の250ccクラスでは、雨のなかブッチギリでトップを独走し、初優勝確実に見えた松戸直樹が残り5周で転倒。初勝利をふいにしてしまった。
あるいは`00年には、強風のなかトップを独走していた宇川徹が転倒し、そのマシンに乗り上げる格好で中野真矢もカタパルト発射してしまうという出来事もあった。
人々の記憶に強烈な印象を残し、後々まで語り草となる、そんな荒れたレースが今年もエストリルサーキットで繰り広げられた。
今回は、この日最後に行われた125ccクラスの決勝だ。
MotoGPとMoto2はすでにチャンピオンが決定しているが、125ccは依然激しい争いが続いている。
ランク首位のマルク・マルケスは272ポイント。2番手のニコラス・テロールが260、そして3番手のポル・エスパルガロが255という僅差。
MotoGPクラスの決勝が終わり、125ccのレースが始まったのは午後14時半。1周目1コーナーから転倒者が続出する波乱の展開となった。
これには理由があって、じつはこの1コーナー、この時間になってもコース上にウェットパッチが残っていたのだ。
MotoGPやMoto2では走行特性上大きな問題にならなかったのだが、125ccクラスではこのウェットパッチ部分が、ちょうどマシンがぺたりと寝るライン上の狙いすましたようなピンポイントになった、というわけ。
そんなこんなでコース上のあちこちで計10台が転倒。そこにときならぬ驟雨がやってきて、レースは赤旗中断。生き残った全16台で第2レースが再開されることになった。
と、ここまででも充分大荒れなのに、さらに二転三転する予測不能の展開と大どんでん返しがこの先に待っていた。
第2レースのグリッドは第1レース中断時の順位で決定される。
テロールがPP、マルケス2番手、ポルが4番手、といずれもフロントローからのレース再開になったわけだが、この第2レースのグリッドにつくためにピットアウトしたサイティングラップで、なんと、マルケスが転倒してしまったのだ。
慌ててマシンを引き起こし、ピットに戻るマルケス。突然の事態に、スタッフ総出で傷んだカウルを大急ぎで交換するチーム。 8耐のピット作業もかくやという緊張感である。
必死の作業が功を奏してなんとかマシンを修復したものの、マルケスはサイティングラップ後のグリッドにつくことができなかったペナルティとして、最後尾からのスタートを科せられることに。
ほんの数分の間にチャンピオン争いを巡る状況が激変し、マルケスに有利な形で推移してきた今シーズンが、たった一度の失敗が仇となってテロール優位へぐっと傾くのか……、という流れになってきた。
いやレースというのはわからないもんだね〜、なんて思っているうちに第2レースがスタート。
と、マルケスが最後尾から一気のごぼう抜きで、気がついたらテロールの背後に迫る2番手に浮上してきた。
そして最終ラップではトップを奪還して優勝。
これだけ起伏の激しい展開で圧倒的不利を覆してライバルから優勝をもぎ取ってしまうマルケスの集中力たるや、とても尋常なレベルではない。
結局、マルケスはテロールに対して17点差という圧倒的に有利なポイント差を開き、最終戦を迎えることになった。
事実は小説よりも奇なり、とはまさにこのことだ。
小説どころかマンガやドラマだって、今回のレースのようなストーリーを大まじめに組み立てようものなら「やりすぎ」「嘘くさいにもほどがある」と即座に批判されてしまうことだろう。
しかし、事実というものはときに、生半可な虚構以上にケレン味タップリでドラマチックな展開を生むものなのだ。
いやホント、今回の125cc決勝レースは、本当にお腹いっぱいになりました。
ところで、そのマルケスとテロルの写真なんだけど、じつは一枚も撮影していませんでした、
はい。だって、台風みたいな雨が降ってたんだもん。
なので今回は「写真と本文は関係ありません」ということで、ひとつ勘弁してやってください。
そのかわり、今週の最終戦でふたりの写真はちゃんと撮りますから。ね。
■第17戦ポルトガルGP
- 10月31日決勝 エストリルサーキット 雨/晴
MotoGP(完走のみ) - ●優勝 ホルヘ・ロレンソ YAMAHA
- ●2位 バレンティーノ・ロッシ YAMAHA
- ●3位 アンドレア・ドヴィツィオーゾ HONDA
- ●4位 マルコ・シモンチェリ HONDA
- ●5位 ニッキー・ヘイデン DUCATI
- ●6位 ランディ・デ・ビュニエ HONDA
- ●7位 コーリン・エドワーズ YAMAHA
- ●8位 ダニ・ペドロサ HONDA
- ●9位 マルコ・メランドリ HONDA
- ●10位 ヘクト・バルベラ DUCATI
- ●11位 アルバロ・バウティスタ SUZUKIミカ・カリオ DUCATI
- ●12位 青山博一 HONDA
- ●13位 ロリス・カピロッシ SUZUKI
- 西村 章
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- スポーツ誌や一般誌、二輪誌はもちろん、マンガ誌や通信社等にも幅広くMotoGPを関連記事を寄稿しているフリーライター。 訳書に『バレンティーノ・ロッシ自叙伝』『MotoGPパフォーマンスライディングテクニック』等。第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞した『最後の王者』の加筆の作業はすでに終了。年内刊行は間に合うか!? 乞うご期待。twitterアカウントは@akyranishimura。













