
(2010.10.19更新)
たしか前回の第15戦マレーシアGP終了時は「寒いぞー、きっと」ということばで〆たけれども、第16戦オーストラリアGPが始まってみると、その予測をはるかに超える寒さだった。
メルボルンから車で南下すること約1時間半、同国ほぼ最南端に位置するフィリップアイランドのなかでも南の端っこにあるこのサーキットは、バスストレイト(海峡)越しに南極側から吹きつける風が冷たく、雨が降るととてつもなく寒くなる。
それくらいはもともと折り込み済みだ。とはいえ、ここまで寒くなるのは近年でもちょっと例がない。
熱帯雨林気候のマレーシアから移動してきたということを抜きにしても、「こんなコンディションでレースをしてはいかんだろう」と思わせるくらいに寒かった。
だってあなた、朝方の気温なんて6.8℃ですよ。
路面温度も10℃ちょいですよ。
かつて某メーカーのテストライダーが
「路面温度が15℃を下回るようならテストはしない。だって危ないもん」
と言っていた気温よりもさらに5℃ほど低いんだから。
さらに、夜になるとバラバラと雹まで降ってくるんですよ。
ここでちょっと弁解。
いつもなら各メディアごとに内容が重複しないよう、様々に書きわけることを心がけているのだが、今回ばかりはこのコラムを含むいくつかの原稿で、寒さをテーマにさせてもらっている。
それくらい暴力的に寒かったということで、なにとぞひとつご容赦を願いたい。
閑話休題。
で、どれくらい寒かったかということだけれども、ピット回りへ取材に出たり、ライダーや関係者のコメントを取りに行くときでも、天候が悪化しないであろうことを確認してから重装備の防寒具に身を包み、いつでも撤退できる準備を整えたうえでようやく外に出るという、まるでギャチュンカン北壁の最終アタックのような状態である。
おそらくここ10年のフィリップアイランドのレースで、今回が最も寒かったのではないだろうか。
選手たちが毎レース自発的に行っているセーフティコミッションでも、今回はこの寒さが議題に上った。
選手にしてみれば肉体的に過酷だというだけではなく、上記テストライダーのコメントにもあるように路面が冷えていて外気も低いとタイヤが温まらず、転倒の危険性が増大する。
つまり、レースの安全な進行上でも重大な問題となり得るのだ。
セーフティ・コミッションのまとめ役であるバレンティーノ・ロッシは、数年前から開催時期を3月ごろに変更するよう主張し続けており、ホルヘ・ロレンソもその主旨に賛同している。
だが、地元オーストラリア出身のケーシー・ストーナーは
「もうちょっと天候の安定している時期に開催できれば、そのほうがいいかもしれない」
と認めながらも、その一方では
「そんなもん、いつの時期に来たってここは雨が降るときゃあ降るんだよ」
と身もフタもないことも言う。
というかそもそもこの人は何事につけてもすべからく加減というものを知らないようなところがあって、勝つときなんてまさに
<身もフタもない>
ということばを具象化したようなレース運びである。
一周目からシャレにならない速さであっけなく後続をひきちぎり、見る見るうちに数秒以上の差を開いて独走優勝。
「その強さがたまんないのよ」というファン以外には面白くも何ともない。
しかし、ここはオーストラリア。ケーシーの地元である。
圧倒的な勝ちっぷりに、欧州ではちょっと考えられないくらいの大声援が送られる。
でも、それでいいのだ。
ローカルヒーローが活躍した日にゃ大騒ぎになるのは当然なのだから。
今回も、ケーシーは圧倒的な速さを見せつけて今季3勝目を挙げた。フィリップアイランドでは4年連続の勝利。
「オレの庭でヨーロッパの連中に好き勝手に走らせてたまるか」
という意地のようなものすら窺える堂々の圧勝劇だった。見事です。
で、話を天候の件に戻すと、たしかにケーシーの言葉にも一理あって、地元の人たちによればこの一帯は
「一日で四季全部を経験できる」
ともいう。
雨が降って風が吹くと凶暴な寒さになるのは冒頭に述べたとおりだけれども、陽が射すとこれが意外に暖かく、この季節(日本で言えば晩冬もしくは初春)でもときには汗ばむような陽気になることもあるのだ。
ただ、この暖かさも注意しないと、オゾンホールの影響なのかどうか知らないけど、妙に痛く感じるくらいの刺すような陽射しで、あっという間に肌がカサカサになってしまう。
そういう意味では、3月に開催時期を変更したところで、雨が降って日が翳るとびっくりするくらいに肌寒くなることもあるかもしれない。なんたって、海の向こうは南極という土地なわけだから。
とはいえ、いくらなんでも路面温度が11℃ってことにはならないだろう、とも思う。
あるいは、今回のコンディションが特例的にひどかった、ともいえるかもしれない。
天候不順に悩まされるのは毎度のことながら、過去にはここまで寒かった例はない。
そういえば書きながら今ふと思い出したのだけれども、2006年には9月にオーストラリアGPを開催しているのだ。
この年はレース前から皆が、
「9月なんてオーストラリアじゃ真冬もいいところだぞ」
「なんでも雪が降ってるらしいぜ」
と悪評ふんぷんだったのだが、じっさいに現地へやって来てみると、たしかに肌寒かったけれども極悪な寒さではなくてやや拍子抜けしたような記憶がある。
……なんてふうに考えてみると、来年のオーストラリアGPはべつにいつだって構わないんじゃないか。と、上記のケーシーのことばに感化されたような心理状態にもなってくる。
それよりもむしろ、カタールのナイトレースのほうを何とかしてくれ、というのが正直な希望だったりする。
ライダーにとってはナイトレースは体内時計さえ調整できれば全然OKのようだけど、取材する側は寒いわ寝不足だわでホントにくたびれる。
寒いだけのオーストラリアGPのほうがまだいくらかマシ、というものである。
とはいえ、スポーツ競技である以上最優先すべきは選手の安全である。考慮すべき順序は、やはりまずオーストラリアGPからだろう。
ナイトレースが辛いだの何だのといったって、そんなものはしょせん勝手に取材にやってきた者の戯言なわけで、嫌なら来なきゃいいだけのことなんだから。
というわけで、来年の開催時期が変更になるのかどうか、今後しばらくはこの動向にちょいと注目をしてみましょう。
■第16戦オーストラリアGP
- 10月17日決勝 フィリップアイランドサーキット 雨/晴
MotoGP(完走のみ) - ●優勝 ケーシー・ストーナー DUCATI
- ●2位 ホルヘ・ロレンソ YAMAHA
- ●3位 バレンティーノ・ロッシ YAMAHA
- ●4位 ニッキー・ヘイデン DUCATI
- ●5位 ベン・スピーズ YAMAHA
- ●6位 マルコ・シモンチェリ HONDA
- ●7位 コーリン・エドワーズ YAMAHA
- ●8位 アレックス・エスパルガロ DUCATI
- ●9位 マルコ・メランドリ HONDA
- ●10位 ランディ・デ・ビュニエ HONDA
- ●11位 ミカ・カリオ DUCATI
- ●12位 アルバロ・バウティスタ SUZUKI
- ●13位 青山博一 HONDA
- ●14位 ヘクト・バルベラ DUCATI
- 西村 章
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- スポーツ誌や一般誌、二輪誌はもちろん、マンガ誌や通信社等にも幅広くMotoGPを関連記事を寄稿しているフリーライター。 訳書に『バレンティーノ・ロッシ自叙伝』『MotoGPパフォーマンスライディングテクニック』等。第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞した『最後の王者』の加筆の作業はすでに終了。年内刊行は間に合うか!? 乞うご期待。twitterアカウントは@akyranishimura。












