
(2010.10.12更新)
終盤戦3週連続レースのふたつめ、第15戦はマレーシアのセパンサーキット。いうまでもなく、熱帯である。これがどれくらい暑いかというと……。
暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い。
というくらい暑い。
これだけ書いたら少しは涼しくなるかと思ったら、そうでもないな。
さて、シーズンもいよいよ押し詰まった今回の大会で、ふたりのチャンピオンが誕生した。
Moto2クラスのトニ・エリアス(グレシーニレーシング、スペイン)とMotoGPのホルヘ・ロレンソ(フィアット・ヤマハ、スペイン)だ。
両選手ともポイント面でランキング2位の選手を大きく引き離しており、チャンピオン獲得は時間の問題、という状況になっていたのだけれども、それでもやはり、王座を獲得する瞬間というものは、いつもながら独特の感慨がある。
そこに至るまでの一年間の長く苦しい戦いに思いを馳せるライダーや彼を取り巻くチーム関係者の表情は、やはりいいものだな、と傍らで見ているものに思わせずにはおかない、尊くも和やかで微笑ましい雰囲気がある。
トニは、2005年にMotoGPクラスへステップアップし、ヤマハ→ホンダ→ドゥカティ→ホンダ、と渡り歩いてきた苦労と経験が、今年のMoto2クラスで存分に活かされたのだろう。
ホルヘは、周囲の毀誉褒貶渦巻くなか、己の能力と信じてひたすらぐいぐいと突き進んでくる過程で、人間的にも少しずつ深みを増し、その成長が今回の王座獲得につながったのだろう。
今年の彼らふたりを見ていると、そんな印象を持った。
特にホルヘの場合は(べつに自分自身は彼のファンでもなんでもないけれども)、他の日本人取材陣よりも少しは近い場所でその成長を見てきたのかな、という気もする。
というか、彼は125ccでデビューした15歳の頃からとにかく鼻っ柱の強い性格で、そのために当時は一部のパドック関係者から疎ましがられた時期もあった。
人を食ったような態度や生意気な物腰がいちいち癇に障る、と言う彼らに対して「でも、それくらいじゃないと速くならないと思うよ」と話すと、思いきり白い目で見られたものだ。
だが、同じく日本人のベテランカメラマン竹内秀信氏は「あいつはいい目をしてる。絶対にいい選手になる」と喝破し、自分の見方は間違っていないな、と意を強くしたりもした。
やがて250ccからMotoGPクラスへステップアップし、活躍してゆくにつれ、(本人の人格的な成長という側面もあったにせよ)それまでのアンチロレンソ風はどこへやら、掌を返したように続々と「いいね~」「あの向こう意気の強さがいいんだよね」というふうに変わりだしたのだから、毎度のことながら人間なんてのは現金なもんだよなあ、とつくづく思う。
とはいえ、じゃあ自分が彼のチャンピオンを心の底から喜んでいるのか、というとじつはそうでもなかったりする。
もちろん今回の王座獲得は素晴らしい業績で、ホルヘとチームスタッフ、そして彼を取り巻くスペインの関係者やファンの人々、あるいはヤマハ発動機の関係諸氏には心の底から拍手喝采を送りたいと思う。
だがその一方で、前戦の鎖骨骨折のためにダニ・ペドロサがライバルのチャンピオン獲得を座して待たねばならなかった口惜しさは想像するに余りあるし、今回のレースで圧倒的な強さと速さを見せて開幕戦以来の優勝を飾ったバレンティーノ・ロッシの心中にもいろいろと去来するものがあったのだろうな、とも思う。
しかし何よりも思うのは、「でもやっぱりスペインの出来事だもんなあ」という醒めた感覚で、日本人選手がチャンピオンを獲得したときに心の奥底から滾々と湧き上がってくる情感と比べると、どうしても他人事のように感じてしまう距離感は、やはり払拭することができない。
なんというか、歓喜に沸くスペインの人々を眺めていると、「ああやっぱり自分は日本人なんだよなあ」と改めて痛感する、ということだ。
偏狭で排他的なナショナリズムを云々しているわけではない(誤解しないでね)。既存の枠組みや既成概念から距離を置いてきたつもりでも、それでもやはりこのような状況に直面するとナショナリティは否応なく自分の属性を刺激する。
だからこそ、
「ナショナリティって何なんだろうね。<スポーツとナショナリズム>っていったいどういう関係なんだろうね」
というところに思いがいたるのだ。
もちろん単純な回答が用意されているわけではない、鵺のような禅問答のような問いではある。
日々の原稿にそんなしち面倒くさいことをうだうだ書き連ねる必要もない。
だからといって「日の丸があがったぞ。ばんざーい」だの 「ニッポンがんばれ!!」 だのと毎度毎度無思慮かつ脳天気に書き散らしてりゃいいってもんでもないだろうよ、とも思う(いやべつにそうしたいならそれでも構やしないんだけどね)。
簡単にこたえが出るものではないにせよ、国家や国旗が象徴するものについて考え続けるのは、そういった事象に日々接しながら字を書いて飯を食わせてもらっている者の最低限の誠意ってもんじゃないだろうか、などとわかったようなわからんようなことを、この機会にちょこっとほざいてみました。
というわけだからこそ(と、ここで強引に日本人選手の話題につなげるわけだけれども)、青山博一が今季自己ベストの7位でフィニッシュしたことを強調して今回の締めくくりとしたい。
チェッカーを受けたときの順位は7位とはいえ、4位が見える状況でのバトルを繰り広げ、レース中のラップタイムはロッシ、ドヴィツィオーゾ、ロレンソのトップ3に劣らないタイム(2'02.683)、と上々のレース内容。
「自己ベストリザルトに関しては素直に嬉しいけど、4位を狙えそうな感じもあったので悔しいという気持ちもある。まだまだ、充分ではないですね。(マシンも)ここをよくしたらもっと速くなりそうなところが見えている。確実にステップを踏んで来ているので、次のオーストラリアGPも、この流れで行きたいですね!」
てなわけで、ヒロシのさらなる活躍に期待しながら、今週末は南半球最果てのフィリップアイランドで第16戦。寒いぞー、きっと。
■第15戦マレーシアGP
- 10月10日決勝 セパンサーキット 曇り
MotoGP(完走のみ) - ●優勝 バレンティーノ・ロッシ YAMAHA
- ●2位 アンドレア・ドヴィツィオーゾ HONDA
- ●3位 ホルヘ・ロレンソ YAMAHA
- ●4位 ベン・スピーズ YAMAHA
- ●5位 アルバロ・バウティスタ SUZUKI
- ●6位 ニッキー・ヘイデン DUCATI
- ●7位 青山博一 HONDA
- ●8位 マルコ・シモンチェリ HONDA
- ●9位 マルコ・メランドリ HONDA
- ●10位 ランディ・デ・ビュニエ HONDA
- ●11位 ヘクト・バルベラ DUCATI
- ●12位 ミカ・カリオ DUCATI
- 西村 章
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- スポーツ誌や一般誌、二輪誌はもちろん、マンガ誌や通信社等にも幅広くMotoGP 関連記事を寄稿。訳書に『バレンティーノ・ロッシ自叙伝』『MotoGPパフォーマ ンスライディングテクニック』等。twitterアカウントは@akyranishimura。 第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作『最後の王者』の最後の王者』の加筆作業終了。年内刊行は間に合うか!? 乞うご期待。












