昭和天ぷらエレジー
(2011年6月29日更新)
更新日の今日は私の誕生日。ディナーは一番お気に入りのあの店で、いつもの春菊天&ハムカツそばに、どーんとライスと玉子も付けて自分で自分に「Happy birthday BA★SO」。
私には祝ってくれるパートナーなどいるはずもありませんが、立ち喰いソバ最大のパートナーといえば「ネギだ」「玉子だ」「七味だ」「とろろだ」「いや、肉だ」と議論百出でしょうが、否定しづらいパートナーとなればやはり天ぷら。ただし一口に天ぷらといえど、これまた奥が深いです。
第一の関門が自家製か出来合いかという点。自家製=美味しいかと問われれば「自家製はびっくりするほどレベルが高いが、腰を抜かすスカタンも存在する。逆もまた真なり。出来合もまた同様」です。しかし自家製という言葉でスカタン天ぷらが2割増、出来合が2割減になる場合もままあります。人間なんて、ららら〜そんなものです。
さて、次の問題はタネ。一般的な天ぷらといえば大将格はえびですが、立喰ソで不動の四番バッターはかき揚げです。
ちなみに立喰・ソのかき揚げのルーツは、昭和20年代後半、野菜の切れ端の有効利用法としてどこかの八百屋さんが思いついたみたい話をどこかで読んだ気がします。見栄えを良くするためにみじん切りの紅ショウガも加えたそうで、これはえびのかけらと勘違いさせる効果もありました。今でもいにしえ系の自家製天ぷらを揚げている立喰ソのかき揚げにその名残を見ることができますし、紅ショウガ天という絶滅危惧天を扱う昭和臭満点の素晴らしい立喰ソも存在しています。
紅ショウガ天に比べれば、イリオモテヤマネコとひとなつっこいネコほど現存数の格差はありますがソーセージ天もまた立喰ソ以外では出会わない天ぷらです。もちろん具は魚肉ソーセージ。ドイツ人が聞いたらひっくりかえるソーセージです。ドイツ人じゃなくても、天ぷらとはえび天やらキス天やらアナゴ天を目の前で揚げてもらい、「かいまきは塩でお召し上がりください」とか「はしりでございます」とみょうがの天ぷらが出たりして、んで最後の〆がかき揚げで天丼か天茶であると体が覚えている方々には、天ぷらならぬ珍ぷらでしょう。
ソーセージ天もこれまた時々無性に体がほしがるのですが、食べると魚肉ソーセージです。当たり前ですが。同じ練り物系でもちくわ天はかなりメジャー。イリオモテヤマネコvsひとなつっこいネコvs普通のネコくらいの差があります。ただ、ちくわ天は野心家です。いつかはかき揚げを追い出してナンバーワンになろうとする虎視眈々な専務的存在。そんなちくわ天のライバルは、はっぱのクセに若者には見向きもされないのにおじさん層に根強く支持される不思議な春菊天と、若者層に圧倒的に支持されるコロッケ。天ぷら界もたいへんなんです。
ものすごくながーいフリはタイムマシン部のようですが、あそこまでの面白トークは凡人ができるもんじゃございません。だから話をソーセージ天に戻します。
前記のように突然やってくるソーセージ天が無性にたべたくなったある昼下がり、自家製天ぷらをウリにしている秋葉原のスエヒロへと向かいました。
立喰ソ不毛地帯の電気街側ではなく立喰ソ銀座の昭和通り側。アド街ックの○○ストリート風に紹介しましょう。てけてけてけ、“昭和通口を出てすぐ右に「箱根そば①」。そのとなりに小さな「京らく②」。横断歩道を渡るとチェーン店の「富士そば③」。その奥にはかって「としまや④」がありましたが今ではラーメン屋に。東京方面に向かい神田川を渡って左に曲がれば味自慢の黄色い看板が目印の「永田⑤」。その先を右折、さらに路地を右折した裏路地に「みのがさ(本店)⑥」。再び昭和通りに出て踵を返し上野方面へ。駅前のちょっと先に立喰ソとは思えない洒落たLaprieceと書いた日よけがある「福ふく⑦」、その先に木の看板がりっぱな「みのがさ(支店?)⑧」。右にまがってしばらく行くとファンの多い名店の「双葉⑨」。曲がらずに昭和通りをひたすら歩いていくと終点「スエヒロ⑩」に到着”のはずが、ないんです。
- バ☆ソ
人の記憶があやふやなことは、前回の「一茶階段事件」でこんこんと語りました。だから確かこのあたりと思っても確証はありません。もうちょっと先、もうちょっと先とずんずん歩いて行くと御徒町に着いてしまいました。ちょっとだけちょっとだけとつまみ食いして気がつけば糖尿病なおっさんやら、もうちょっともうちょっとと兵器を積んでいくうちに転覆事故を起こしてしまった友鶴事件と同じです。人間なんてそんなものです。
実は、スエヒロのあったと思われるあたりに新店舗が出来ていました。どうやらスエヒロも幻立喰・ソの仲間入りしてしまったようです。
そうかそうか、今月もネタが出来て良かった、いやよかったけどよくない。と心で笑って顔で泣いて先ほど発見したやじきたへ。店内はウナギの寝床的に奥深かったスエヒロの面影があるやなしや。でも店内というかお客スペースはもっと狭かったような……調理場、仕切りの壁と天ぷらケース、立ち喰いスペースが5・2・3くらいの割合と記憶しております(ここらも記憶があやふや。人間ですから)。
油が染み込んで茶色かったスエヒロらしさは当然きれいさっぱり払拭され、真っ白で清潔感溢れる綺麗な店舗でそばは生。天ぷらは自家製で種類も豊富で、今勢力を伸ばしつつある新進気鋭系(=値段は立喰・ソより高めだが一般店よりは安く、しかも味は本格的な店舗を新進気鋭立喰・ソを勝手に分類中)でおいしかったのですが、お目当てのソーセージ天はありませんでした。
やじきたのコンセプトは「立ち食いの値段で老舗の味」。新進気鋭系に昭和のチープなソーセージ天は似合わないですから………
スエヒロのソーセージ天は幻になってしまいましたが、某店でとんでもない天ぷらを発見しました。
その名は「ミックス天」。中身はなんと立喰・ソ天ぷら界のB級スター、魚肉ソーセージと紅しょうがが夢のコラボレーション。
誰が食べるんでしょう? 私は食べますが……こんなかき揚げ見たことない……幻立喰・ソではないのでくわしく紹介できないのが残念!
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