■なんばしょっと。
さらば貝塚、やりうどん。
偉大なるたらこくちびるがトレードマークの作家、松本清張氏の小説、「点と線」をご存知でしょうか? 読んだことはなくても、ちょっと前にビートたけしさんが主演してテレビドラマにもなりましたから、題名くらい聞いたことがあると思います。
東京駅空白の4分に始まる緻密な殺人計画と巧妙なアリバイ作りに「うむむむむ、さすがだ」とうなるのですが、現代っ子からすれば最後のアリバイが「えーっ、なんで、なんでそこに気がつかないの???」と、まったく理解できないことでしょう。
「なんで気がつかないの?」と言われても、この小説の背景である昭和30年代と現代では時代背景がまったく違うんですから、そこを考えてもらわないと……話になりません。
「母を訪ねて三千里」を見て
「ってゆーかさぁ、マルコってケータイもってねえの?」(語尾上げる)
「ちゅーっか、海外ケータイはこの頃まだ無かったんじゃね?」(語尾下げる)
「おめー頭いーじゃん!」
「じょーしきしょっ!」
と無邪気に語るティーンエージャーは、ある意味想像力豊かですから、点と線のラストも現代的視点の解釈をしてくれることでしょう。
なんて、余裕ぶっこいてっている場合じゃないんです。私も似たようなもんですから。
だって、長崎の龍馬から高知の実家に、京の龍馬から江戸の後藤様へ、それほどタイムロスがなく手紙が届く。文明開化の明治も近い江戸末期とはいえ、まだ鉄道も自動車もない江戸時代ですよ。
どんな郵便システムだったんでしょう? 飛脚便でしょうから、郵便ではなく宅配システムに近いんでしょうね。
イメージとしてはCI(=Corporation Identity。初芝電産が社長島耕作の恋人大町久美子のアイデアで変なマークのTECOTに変わったような)する前の佐川急便のトラックに描かれた赤いフンドシのあれです。赤いフンドシの飛脚。
そう言えばあのマーク
「赤いフンドシに触るといいことがある」
と言われ、ルーズソックスの女子高生がトラックを追いかけ回していたのも平成の玉手箱に入った懐かしの風景です。
でもどうせ触るのならば赤フンより、名鉄運輸のこぐまマークの方がよりレアで、かわいいと思うんですが……女子高生の考えていることは、わからん。もし解っていたら、女子高生牧場が経営できます。
マークついでに引っ越し屋さんのアリさんマークは妙にリアルで、噛まれるんじゃないかという恐怖と、働けど働けど我が暮らし楽にならず的哀愁で、安易に手を触れられないようなオーラが出ています。
えーっと、なんの話でしたっけ?(白々しい展開)
小説「点と線」(ちなみに私のバカ変換ソフトは「天都線」と変換します。そんな線ないのに……急行天都ってのはありましたけど)でした。
ここからがやっとこさ本題です。幻立喰ソのお約束(誰との?もちろんステキな貴方とです)ですから。
「点と線」の第一の舞台となるのが北九州の香椎です。
国鉄(知っているとは思いますが、現在のJR)香椎駅から西鉄(ほとんどの人が知らないと思いますが、西日本鉄道の略。でも「神様仏様稲生様の西鉄ライオンズ=西武ライオンズの素といえばうなずく人も多いかと)の香椎駅を通り、人気のない海岸へ歩いていく二人連れが無理心中を装って殺されるのです。
そうそう、香椎といえばその昔、旅の途中メガネのネジが取れてしまい、たまたま立ち寄った西鉄香椎駅の先の眼鏡屋さんで、かくかくしかじかとメガネを見せると「それは困ろうが」とあっという間に修理してくれて、「よかよか」と修理代も取らず笑顔で送り出してもらったことありました。さすが九州男児の男気心意気、その節はどうもありがとうございました。
あー話が全然進まない。
全然というのは肯定に使うのではなく、否定に使うのが実は正解。つまり「全然賛成」は間違いで「全然反対」と使うのが正しいそうな。ってことは、バカボンパパの「反対の賛成」の場合はどうなるのでしょうか?
すいません、いいかげんにしないと怒髪天をつく状態になりますので。本題。
その西鉄香椎駅には立喰ソが残念ながらありませんので、西鉄貝塚線の黄色い小さな電車に乗って博多方面に向かうと終点が貝塚です。ここで地下鉄空港線に乗り換え、博多や福岡空港へと向かうのです。
- バ☆ソ
貝塚駅は西鉄と地下鉄が向かいあっているのですが直通運転はしておらず、博多っ子にしてみれば「せからしか〜!」と言いたくなる面倒くさい乗り換えが必要です。
その、乗り換えの改札の間という絶妙な環境に「やりうどん」はありました。
かつて浅田飴のCMで有名となった「かろのうどん」に代表されるように九州はうどん文化圏であり、「やりそば」ではなく「やりうどん」。あくまで主役はうどんです。
そばも扱っていましたが、関西風のおつゆにそばは合いません。
郷にいれば郷に従う、謙虚な気持ちで「幻立喰・ウ」です。「なんばしょっとたい」とお怒りの博多っ子のみなさんは、タイトル部分の「ソ」も「ウ」に脳内変換していただければ幸いです。
貝塚駅にあった「やりうどん」は、写真のように大きなのれんの内側にカウンターのみという昭和テイスト丸出しのステキな正当派立喰・ウでした。
かんじんのうどんですが、関西以西の標準仕様である透明なおつゆ+腰はないけどつるつるのちょい細めのうどん、そしてたっぷり博多ねぎ、具材は博多のうどんの大定番、ごぼ天にオプションのまる天を追加し、W浅野ならぬダブル天で豪華に演出してみました。
九州なのに意外と寒い福岡の冬。吹きさらしのカウンターで贅沢なうどんをはふはふずるずるすすれば、それだけで天国一歩手前。合間にごりっとごぼ天をかじり、もちっと丸天を食いちぎり、さっぱりとしたおつゆを最後の一滴まで飲み干して、おいしくいただきました。ああ、思い出すとヨダレが……。
2007年3月、新宮から津屋崎までが廃止され、宮地岳線は貝塚線に改められました。宮地岳線のあとを追うようにやりうどん貝塚店も姿を消したのです。
昭和の立ち喰いがまたひとつ幻になりました。
と、いつものような意味のあるようでまったくないな終わりではありません。
このやりうどん、実はチェーン店なのです。味のある貝塚店は幻立喰・ウになってしまいましたが、貝塚から地下鉄に乗って反対側の終点、姪浜や西鉄本線の沿線に店舗がありますので、おいちいおいちいやりうどんは、今も堪能できます。
大学生以下の学生にはユニークな学生うどんもあります。詳細はこちらでどうぞ。
よかったよかった、よかと、よかばい、よかっちゃん。九州人のルリカ先生もお喜びでしょう?
ところで「やりうどん」の「やり」って、どういう意味なんでしょうか?
「ヤリたいですたい。ヤリまくりたいとですばい!」とニキビ顔の九州男児(左門豊作をイメージしてください)がうどん片手にもんもんとしている姿を思い浮かべるのはあまりにも不謹慎でしょうか。
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