次世代700cc中型二輪車用“グローバル・エンジン”
新型エンジン発表会の冒頭、ホンダの専務執行取締役大山龍寛さんの発言は衝撃的だった。「これまでのホンダが目指してきた高性能、高回転とは異なるチャレンジとなりました」。連綿と続いてきたホンダのアイデンティティともいえる「パワー・オブ・ドリーム」、パワー、性能追求路線からの決別、ととらえた人は多かったはずだ。
確かに環境の時代にハイパワー、高性能はそぐわない雰囲気となってきた部分はあるが、それを上手に両立させてきたのが今までのホンダではなかったのだろうか。
それはともかく、こちら700ccの中型二輪車用エンジンの中身は斬新だ。
開発の狙いは「市街地走行やツーリングなどの常用域で鼓動感にあふれる力強いトルクを発揮させるとともに、ミドルクラスにおいて圧倒的な低燃費性能を有するニューコンセプトのモーターサイクルを実現」するための新エンジンだ。
(1)常用域ではトルクフルで扱いやすく、スポーティな走行では心地よい鼓動感を体感できるエンジン特性、(2)次世代のミドルクラスエンジンにふさわしい低燃費で優れた環境性能、(3)車体レイアウトの自由度に貢献して利便性の高いスペースを作り出せる軽量でコンパクトな設計、以上の3点が開発のテーマだという。
- こちらの動画が見られない方はYOUTUBEのサイトhttp://www.youtube.com/watch?v=hIFgedFgqooで直接ご覧ください。
基本的なスペックは、「様々なエンジン型式を多角的に検証した結果」直列2気筒700ccが採用され、シリンダー前傾角62度(車両搭載角)、トランスミッションには第二世代に発展させたデュアル・クラッチ・トランスミッションと、6速マニュアルミッションの2タイプが設定された。
ボア×ストローク、73mm×80mmのロングストローク。ピストンには樹脂コーティング、摩擦を低減するローラー式のロッカーアームに二輪車初の軽量アルミ素材を採用するなど、燃費向上に寄与する低フリクション化技術を多岐にわたって採用している。クランクは270度位相クランクと不等間隔爆発を採用し“鼓動感”を残しならが、1軸1次バランサーを採用して不快な振動は抑えている。
シリンダーヘッド内で吸気を分割するユニークな吸気ポート、1本のカムシャフトで直列2気筒相互のバルブタイミングを変える2種類の吸入バルブタイミングなども採用。
デュアル・クラッチ・トランスミッションは油圧回路の見直しでシンプル化を図り、さらに軽量・コンパクト化も図った第二世代へ発展させている。選択した各モードごとに学習機能がプラスされているのも特長だ。
さてこの次世代700cc中型二輪車用“グローバル・エンジン”、モーターショーではスポーツ・スクーターINTEGRAだけでなく、異なる3タイプのモデルに搭載されてデビューするというから注目したい。
- ミラノショーで出展が予定されている新型スポーティ・スクーター、INTEGRA(写真は用品装着車)。この他に700ccの新型“グローバル・エンジン”を搭載するモデルはあと2機種を発表する予定というから乞うご期待。果たしてスポーツ・モデルは?
- ウォーターポンプはカムシャフトから直接回転駆動力を得るために、エンジン上方のシリンダーヘッド左側面に配置。水の配管を出来るだけ短くコンパクト化することにも貢献している。ちなみに水ホース総延長は従来比約1/3に短縮可能となった。
- 1本のカムシャフトで、それぞれの気筒ごとに異なる吸入バルブタイミングを与える、というユニークなカムシャフト機構が取り入れられてた。ちょうどV型2気筒エンジンのように、それぞれの気筒で異なるカムシャフトを用意するのと同じ効果が得られているというわけだ。
次世代125ccスクーター用“グローバル・エンジン”
もう一つの新型エンジンは、PCXをベースにさらに発展させた“グローバル・エンジン”だ。
開発の狙いとしてあげられたのは、「世界各国でコミューターとして多くの方々に利用されている125ccスクーターのエンジン性能と、低燃費性能をさらに高めることで、グローバル規模でCO2の排出量を低減しながら、お客様にとって利便性が高く、より上質で魅力的な商品を提供する」としている。
それを実現するために、(1)実用性を重視した力強い出力特性と耐久性の更なる向上、(2)次世代のグローバルスタンダード・エンジンにふさわしい燃費性能、(3)グローバルモデルに採用することにより、地球規模でのCO2の低減に寄与、(5)求めやすい価格の実現、の5項目が開発のテーマとなったという。
具体的なポイントとしては、ロッカーアームを支持するシャフト部分にシェル型ニードルローラーベアリングを採用、同時にカムに接するローラー部分のローラーサイズを小型、軽量化により慣性マスを低減し、バルブスプリング荷重の低減等で、ローフリクション化を実現している。コンパクトな燃焼室形状や吸気ポートの改良、そして従来からの環境対応技術の集大成と言えるオフセットシリンダー+スパイニースリーブといった、PCXでも採用された先進技術をさらに磨きをかけて搭載している。
冷却系では、ビルトイン水冷システムとしてエンジン右側に一体化したラジエターを装備。さらにその内側に取り付けた冷却ファンにより、積極的な導風を行い効果的な冷却を実現しているという。もともとは1999年のジョルノクレアで初採用されたシステムを踏襲するものだが、ラジエターコアをPCX比で約1.5倍もの冷却効率を持つものに変更することなどにより、エンジン単体でのコンパクト化、軽量化にも大きく寄与しているという。
- 実用域のトルク特性を重視したエンジンにするべく、燃焼速度や冷却性を考慮したコンパクトな燃焼室設計。吸気ポートと燃焼室のつながりを、混合気の流れを阻害しないようスムーズな形状とした新設計の吸気ポートを採用。
- 俊敏なレスポンスの実現と単気筒特有のエンジン振動を低減するため、ピストンなど往復運動部分は徹底的な重量軽減を図っている。特にピストンはCAE解析による形状の最適化とともに、応力を分散させるためにピストン穴の周縁部をテーパー形状とし、鉄部品であるピストンピンは小径、ショートタイプとして軽量化。
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