その一方。発売されたばかりのホンダのハイブリッド・コンパクトスポーツカー、CR-Zに乗っているのは明るく元気な若奥様。
専業主婦ではないのですが、家計はすべて旦那さんの収入で賄えるため、仕事は週に何回か友人の洋服屋さんを手伝ってお小遣いにするという、ちょっと優雅な生活を送っています。
結婚前にはちょっといじったマツダ・ロードスターを駆ってワインディングで遊んでいたという、おてんばさんでもあります。
旦那さんはクルマやバイクに全く興味が無かったので、結婚を機に手放して、何の変哲もない普通のセダンで数年は我慢していました。
あの手この手で旦那を口説き落とし、結局、運転は全て奥さんがするということで買い換えが決定。
「私しか運転しないし、そうしたらドライブ先で好きなお酒も飲めるでしょ」とAT限定の旦那さんのことは考えず、CVTではなく6速マニュアルをチョイス。スポーツカー乗りとして復活を果たしたのです。
バイク乗りの皆さんにも似たような経験、ありませんか?
仕事がある日以外は、ショッピングに行ったり、友達の家に出かけたり、そしてたまには昼間のワインディングに出かけてみたり、すっかりクルマライフを楽しんでいます。
周囲には明るさがパワーアップしたと言われ、夫婦関係もより良くなりました。燃費もいいし、キビキビ走るし、手に入れて良かったと心から思っています。
仕事が休みのこの日は、体型を維持するために最近通い出したスポーツジムに向かっていました。
そこには爽やかなインストラクターがいて、優しく丁寧に指導してくれるのです。旦那さん一筋の彼女なので、浮気とかそういう気持ちは全くないのですが、どうせ教えて貰うならならいい男がいいに決まってます。
「今日もあのインストラクターに会えるかな~」
慣れた道を、ちょっとワクワクしながら、「早く行ったら独り占めに出来るかも」と、飛ばしたり違反をしたりというほどではありませんが、若干ソワソワと走っていました。
赤点滅信号がある、いつもの突き当たりでも、一時停止線でしっかり停止。左右を見て安全を確認してクルマを進めて左折……したはずなのに!
交差点内に進入した瞬間、突然衝撃を感じて、転倒するバイクとライダーが目の前に現れたのです!
一瞬訳が分かりませんでしたが、自分がバイクを転倒させてしまった現実はすぐに受け入れました。
慌ててクルマを飛び降り、痛がる大学生に駆け寄って謝り、救急車と警察を呼んだのです。
救急車が大学生を乗せて去った後、警察と話をしながら落ち着いて事故の結果を見てみると、ピカピカのCR-Zもバイクもひどい状態です。
ライダーは骨折したみたいだったし、先ほどまでの浮かれ気分もどこへやら、申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。
ケーススタディ
この事故、若奥様も認めているように、悪いのはソワソワしてチラッとしか安全を確認しなかったクルマ側です。
大学生の方も、自分の方の信号は青だったし、まったく過失が無いと思っていました。
ところが、実は判例ではクルマが9、バイクが1となっているのです。
大学生の方もクルマの存在には気付いていて、一時停止をしたことまで確認しています。
一時停止もせずに突然飛び出してきたのなら話は別ですが、クルマが交差点内に入ってくることは予測できたとして、バイク側の前方不注意を取られてしまうのです。
大学生も、自分側の保険担当者にも同じことを言われ、釈然としないまでも受け入れるしかありませんでした。
結果、治療費に関してはクルマ側の自賠責保険から全額補償されましたが、バイクの損害50万円のうち、過失に当る1割の5万円は自腹を切らなくてはいけなくなったのです。
事故を防ぐために
今回の事故を防ぐには、自分側の信号が青でも油断しないということしかありません。
相手も普通の信号で、自分が青の場合は相手が赤、としっかりと決まっていれば油断も仕方ないでしょう。
しかし、交差する信号が赤点滅だったり、信号すらなく一時停止だったりした場合、そこには白黒きっちりしないグレーゾーンがあるのです。
そこでは、自分は相手を確認していても、相手が自分を確認してくれているとは限りませんし、相手が自分を確認していても「大丈夫だろう」と飛び出してくる場合だってあります。
グレーゾーンでは、たとえ自分の信号が青でも油断大敵です。
「飛び出してくるかも、こっちが見えていないかもしれない」と注意して、安全にクリアするようにしましょう。
※交通事故は、それぞれの事故状況によって過失割合が変わります。ここで紹介した例はケーススタディであり、すべての事故に当てはまるものではありません。
小田切 毅(おだぎり たけし)
■おだぎり たけし:損保・生保合わせて15社を超える保険会社の保険を取り扱う、大手総合保険代理店に勤務。保険マンとして、ファイナンシャルプランナーとして毎日忙しく飛び回っている。かつてバイクで筑波のレースに参戦し、4輪でもF3やGT選手権に参戦していた。実は2輪も4輪も元国際B級の腕前を誇る。イタルジェットのドラッグスターをカスタムして楽しんでいるが、スーパースポーツなどを見ると昔の血がムラムラと……。