ケーススタディ
今回のケースでは、悪いのはどちらになるでしょう?
ゆっくりとは言え車列の左側を走っていたバイクでしょうか? それとも、歩行者に道を譲るために左折途中で停止したミニバンでしょうか?
イメージ的にはすり抜けをしていたバイクの方が悪そうなのですが、実はこのケースの場合、左後方の安全を確認しなかったこともあり、ミニバンの左折巻き込みという形になり、過失割合はクルマが9、バイクが1ということになるのです。
つまり、クルマの修理代30万円のうち、バイク側の保険から補償されるのは3万円だけ。免責ゼロの車両保険に入っていたので、自腹を切る必要が無く、保険の有り難さが身にしみました。
ただ、人身事故になってしまったので、ミニバンのお父さんには罰金と免停まで舞い込んできます。自分が悪いことをしたとは全く思っていないのに、釈然としない結果になってしまいました。
また、バイクの方も、本当の修理代は10万円の見積もりなのですが、15年も古い車両だったことが問題となりました。
原則として、初めて登録されてから10年以上経過している車両は、減価償却しているとみなされ、全損時でも新車当時価格の10%しか補償されないのです。(※1)
新車当時の価格が約30万円ですから、その1割の3万円が損害額となり、自分の過失10%を引かれて、2万7千円しか補償されないのです。
治療費は相手の自賠責から全額、慰謝料も相手の任意保険から出ることになりましたが(※2)とんでもなく痛い思いをした挙げ句に、バイクの修理代はほとんど出ず、父親には大目玉を食らい、辛いことだらけの事故になってしまいました。
これからはどんな時でも、注意を怠らず、バイクに乗るときは油断した格好をしないと、心に誓ったことは言うまでもありません。
事故を防ぐために
今回の事故を防ぐには、どうすれば良かったのでしょう?
まず、バイクの立場としては、前方のクルマが左折しようとしているのが見えたのですから、その時点ですぐさま減速するべきでした。
スピードも出しておらず、余裕があったのですから、ぶつからずに済んだはずです。
「すぐに駐車場に入るだろうから、自分はそのままのスピードで大丈夫だろう」という、だろう運転が招いた事故なのです。
左折するクルマが止まるかもしれない、と考えて注意して運転すればよかったのです。
それではクルマはどうすれば良かったのでしょう?
このような左折巻き込み事故を起こさないためには、安全確認は、左折の動作を開始する前に行うべきだったのです。
つまり、左にウインカーを出しながら、クルマを直進状態に保ったまま、停止して安全確認を行うということです。
その際、歩道の歩行者はもちろん、左後方を走っている車両がいないかどうかも同時に確認すれば良かったのです。
最近、特に都市部ではバイクだけでなく車道を縦横無尽に走る自転車が増えています。
バイクよりも狭い隙間を、音もなく縫ってくるので、ドライバーもライダーも注意を心がけましょう。
※1 ビンテージバイクなど、プレミア価格で市場に流通している車両の場合、その事を証明できれば、その市場価格が補償される場合もあります。
※2 ファミリーバイク特約の保険なので、搭乗者傷害保険は適用されません。保険会社によっては人身傷害特約が付帯できる場合もあります。
この事故からの教訓
※交通事故は、それぞれの事故状況によって過失割合が変わります。ここで紹介した例はケーススタディであり、すべての事故に当てはまるものではありません。
小田切 毅(おだぎり たけし)
損害保険、生命保険合わせ15社を越える保険会社の保険を取り扱う大手総合保険代理店勤務の保険のプロ。保険マンとして、ファイナンシャルプランナーとして多忙な日々を送る。かつては筑波でバイクレースに、四輪はF3やGT選手権にも参戦していた元国際B級ライセンスの腕前。現在の愛車はイタルジェットのドラッグスター。ライトカスタムで愉しんでいるのだが、スーパースーツを見ると、ムラムラとかつての血が……