森屋:「サイドケースにしても、一般的には樹脂そのままの表面のものが多いと思うんです。そこをあえてしぼのあるレザー風にして、やわらかな光の反射からくる見た目の差別化と優しい手触りで高級感を上げました」
濱松:「企画の方からは当初は一般的なソフトケースでいいよねって話が出ていたんですよ。
でも今回は便利なアイテムというだけでなく、オートバイそのもののカタチを変えてしまうものにするんだという思いがあって、ハードケースでトライしてみようと。開発のゴリ押しだったんですけどね」
そのトライには長年培ってきた信頼関係があった。
ヤマハ車のデザインをずっと手がけてきたGKダイナミックスがデザインを担当するという安心できる要因があった。
フェンダーとか外装のパーツの形状を変えると簡単に違うカタチを作れるのだが、あえてそれをしなかったのはデザイナーが自分たちのやったデザインに自信があるからなのかもしれない。
サイドケース後端の形状はリアフェンダーに合わせた見事なバランス。後付けなのに取って付けたように見えない。
濱松:「車体と同じところに用品のデザインをしてもらうというのは大きな強みです。こだわりを持ってGKさんの持っているアイデアをアクセサリーに具現化してもらった」
森屋:「車体デザインをやっていただいている会社なので、今回のアクセサリーでも、その車体デザインを邪魔しないように綺麗にまとめてくれたんです。
ロー&ロングコンセプトのスタイルを壊さずにボリューム感や上質感を出すデザインをしてもらいました。
デザインスケッチから白い外装に赤いシートだったんですが、最初は物議がありまして(笑)、『実際に売れるの?』という声も出ました。斬新ですからね。
でもこれを黒や茶色でまとめると、これまでと変わらないじゃないですか。後付け感が出てトータルでコーディネイトされたカスタム車両と見てもらえなくなりますから、このまま白と赤で通しました」
実はスタイルを優先したこともあって、各アクセサリーは必ずしも機能的とは言えない部分も残っている。
サイドケースには鍵が付いていない。
エンジン前方にあるドレスアップフレームは装飾的な意味合いが強い。
しかしそこには強い信念からくる決断があった。
濱松:「サイドケースは便利なアイテムというだけでなくオートバイそのもののカタチを変えてしまう役割も持ってます。鍵を付けなかったのはデザインを優先して外側に突起物を付けたくなかった。フタはマグネットでとまっているんです」
森屋:「やはり昔からのユーザーさんは『なんだ鍵がないのか』と思われるかもしれません。
これは言い訳ではなく、私たちがアピールしたい初めてバイクに乗るユーザーさんは『荷物も入って便利ね』という感覚ではないかと。懸念する声に対し『常に鍵を使いますか』と言いましたね。
実際僕も通勤などで使っていて思うんですが、鍵を差して開けて鍵で閉めるというのが、日常で使っていると面倒くさいんです。
鍵がない方がお手軽に中へアクセスできて実用的であったりする場合もあります。
ポケット感覚というか、女性で言えばハンドバッグ感覚で使えるものとしてのサイドケースですね」
森屋:「社内の人でさえ最初は開けられませんでしたから(笑)」
濱松:「ドレスアップフレームも同じくライダーや車体を守るという機能はほとんどなく、ボリュームを増した後方とのバランスを取るための役割があるんです。
これがあるとないとではスタイル的に大きく違う。ある方がとても均整がとれてスタイリッシュに見える。
リアクッション(リアショック)のカバーも機能的にはなんの役に立っていないんですね。
個人的に最初はコイルスプリングが見えていてもいいと考えていたんですが、でもやってみるとこれがあることでとてもスマートに見える。
今回は数値が幅をきかせない感性的な物作りだったと思います。
そうすることで今までの概念を壊した新しい物を作りたかった」