下町の愛知。
(2011年9月30日更新)
名古屋という地名は誰でも知っていますが、愛知というと「どこ?」という人、意外と多いんです。隣接する「岐阜」「三重」その隣の「滋賀」はもっと知らない人だらけです。
岐阜といえば、ホトトギスも逃げ出す織田信長に、アンノン族で賑わう小京都の高山。三重といえばコチラちゃんの鈴鹿サーキットに、華麗なる一族のオープニングでも登場した英虞湾。滋賀には日本一の琵琶湖。そして滋賀と岐阜の間には天下分け目の関ヶ原など名所旧跡があるのに……東海地方は名古屋ブランドが強烈すぎるからでしょうか。
話を愛知に戻します。
愛知と言えば、世界のトヨタ、東海道新幹線命のJR東海、メガバンク三菱東京UFJの基のひとつとなった東海銀行など有名優良企業がたくさんあるあるな商人の地でもあります。でも、「もうかりまっか」「ぼちぼちでんな」の大阪とは違い、商人文化よりも一風変わった食文化の方が有名です。
きしめん、ういろう、味噌カツ、味噌煮込みうどんなどの伝統食はもちろん、天むす、台湾ラーメン、あんかけスパ、小倉サンド、エビフライ、喫茶店のとんでもないモーニングサービスなどなど新興勢力も続々誕生しています。が、愛知というよりも「名古屋めし」のイメージです。
そんな愛知のどまんなか、名駅(←「めいえき」JR名古屋駅の名古屋流呼び方です)の立喰・キ(←もちろん「きしめん」です)は圧巻です。
ギネスに申請すれば、間違いなく認定してもらえるでしょう。
名駅には在来線6本と新幹線2本の計8本のホームがあります。ホームの数なら東京や新宿の方がもっとありますから、ホーム数ではありません。
なんとそのホームのほぼ全部の両端に立喰・キが存在するのです(残念ながらと言いますか、なぜか12-13番線ホームの両側と10-11番線ホームの大阪方にないのは名古屋駅七不思議のひとつ)。つまりホームだけで13店もの立喰・キがあるのです。一駅で13店の立喰・キ。私の知る限りホーム上にこれほど多くの立喰がある駅は
I have never seen~。
しかも東京方と大阪方の店では形態が微妙に違っていて、東京方はスタンドタイプ(ボックス型もあり)の一般的な立喰・キですが、大阪方は昼間から常連さんが赤い顔して、おでんやちくわをつまみにいい調子でメートル上げている立ち飲み屋状態です。店名も「かきつばた」「いこい」「どえりゃあ亭」と小料理屋みたいな粋な名前(「どえりゃあ亭」は違うか)が付いています。
もちろん麺亭を名乗っているのできしめんだけではなくそば、うどんもあります。呑んだ後のシメの一杯のために……名駅初心者やちいさなお子様連れの方は、びっくりぎょうてんする可能性が高いため、東京方にある立喰・キ(こっちも酒類はありますが、暗黙の了解? で長居する人は少ない)の利用をオススメします。
かつては24時間営業で、入場券を買ってわざわざ食べに来る人もたくさんいた名駅の立喰・キ。大垣夜行(ムーンライトながらなんてオシャレな列車になる前の143Mとか357Mのころ)で名古屋駅に着くと、静岡で駅弁(当時は東海軒が夜中でも弁当を売ってました。当時は珍しかった缶入りの麦茶も売ってました)を食べたのに、ホームのはじっこからぷんぷんと漂うきしめん臭に釣られる人が後を絶ちませんでした。特に冬場はあつーいどんぶりとゆらゆらと動く花かつおで思わずほほがゆるんだものです。今ならば間違いなく「かん酒」にも手が出るでしょう。
名古屋のきしめん濃度がかなり高密度なのは解りましたが、うどん王国の高松駅は? そばの長野は? 甲府のほうとうは? 旭川、札幌、喜多方、和歌山、徳島、尾道、博多などのご当地ラーメンは?
だいぶ前の訪問データなので今はどうなっているのか未調査ではありますが、私のつたない記憶をたぐりますと、長野はホームに4ヶ所、待合室に1ヶ所、東口の階段を下りた所に1ヶ所の計6店。実はそばの生産量日本一の北海道の中心、札幌駅は各ホームに1ヶ所とコンコースに1ヶ所で6ヶ所と長野と拮抗。対するうどんの高松駅は改札横に1ヶ所と、あっけなく惨敗。
- バ☆ソ
ご当地ラーメンの立喰・ラは? といいますと札幌はなし。尾道、博多にはあり。徳島は前回お知らせしたようにかけはしが閉店したのでなし(でも、かけはしに徳島ラーメンがあったのかどうかは不明)。旭川は待合室に立喰・ソがあったのですがラーメンはなし。喜多方と和歌山は記憶にございませんが、たぶんなかったかと。ラーメンと駅の立ち食いは相性がよくないんでしょうか。
甲府の立喰・ホに至っては、そんな立ち食い見たことありません。
ちなみに初代B-1グランプリに輝いた今や地方活性化の救命主的存在の富士宮やきそばですが、富士宮駅の改札出てすぐに焼きたてを食べられるのはさすがです。
このように日本広しといえど名駅は異常です。きしめんまみれなのがよく解ってもらえて、「あれ愛知の話は?」と気がついたところでやっとこさ今月のお題に移ります。
名古屋とは縁もゆかりもないのかどうかは知りませんが、映画「どですかでん」の舞台にもなった東京は墨東地区、総武線の亀戸駅と国道14号線の間に挟まれた細い路地に黄色い看板、イエローハッではなく「愛知」はありました。
戸をがらがらがらと開けると右側に長いカウンター左は壁。その間の細長い空間に椅子が並んでいます。入口近くの椅子にお客さんが座っていると、店に入るのが一苦労の狭い空間で、ウナギの寝床という表現が的を得ていました。
立ち席なし全席椅子付きということは立喰・ソじゃなくて普通のそば屋さんじゃねえの? とのご指摘もございましょうが、「立喰そば」ののぼりも出ていますし、かけ330円という価格的にも立喰・ソの分類で間違いないです。それに立ち食いではない立喰・ソもたいして珍しくないといいますか、椅子付きの店舗がかなり増えていますから。
そばは注文を受けてから茹で始める細め生そば。細めの生そばは茹ですぎるとそばではない別の食べ物になる危険性が高いので、立喰・ソではメジャーではないのですが、そばの香りが漂ってくるようなベストの茹で具合でした。おつゆも関東立喰・ソの王道であるからーいしょうゆ湯ではなく、上品なダシの効いた細麺にぴったりの濃さでした。立喰・ソとしてはかなり高レベル、いや、普通のおそば屋さんとしても十二分にやっていける味でした。
しかし訪問したのは1回こっきり。だって、亀戸に用事がないんですもの。先日、久しぶりに亀戸方面に出かけたので、楽しみにしてやってきたら幻立喰・ソになりはてていたという次第です。
亀戸なのになんで愛知? という謎は永遠の謎になってしまいました。なんかの本に、おかみさんが愛知出身だったとか書いてあったような気もしますが、謎は謎のままでいいじゃないか。愛知の文字がきれいに消え去った黄色い看板を見上げると、抜けるような雲一つない秋空……ではなく、DE10がチキを引っ張って小名木川方面へと走っていけばいいのになあと思いました(←ほとんどのみなさんには意味不明)。
■立喰・ソNEWS
第11回「幻立喰・ソへの階段」でお伝えした新宿の一茶のとなりのとなりくらいに新店舗が出来ていました。で、その前そこにどんなお店があったのか? う〜ん思い出せない。調査に行きたいのですが、あそこまで行くとついつい想い出横町岐阜屋のにらいためと焼売でビール大瓶の誘惑に……。
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