最北端の立喰・ソは何処へ
(2011年4月27日更新)
立喰・ソは駅や駅周辺に存在していることが多いので、地方に行くと用事が無くても駅に行きます。
一昔前、駅といえば街のシンボル、街の中心、活気と人に溢れていました。
それが今では郊外に大駐車場を備えた大型ショッピングセンターがどんどんできて、駅と駅周辺の空洞化が激しく進行しています。
JRの特急が停まるような大きな駅でも、駅と駅前はがらーんとしていて、コンビニすら撤退してしまった街もひとつやふたつではありません。
テナントがほとんど入っていないビルと、信号機の「と〜りゃんせ、と〜りゃんせ」が商店街のシャッターにむなしく響く光景が地方都市の姿です。
立喰・ソの場合、後継者やお店の老朽化なども深刻で環境はかなり厳しいと言わざるを得ません。
立喰・ソが世界遺産に認定されることも、立喰・ソ戸別補償政策や立喰・ソ手当が支給されることはないでしょうから、今後減少の一途をたどることになるでしょう。
そんな中、北の大地からまたひとつ立喰・ソの灯りが消えてしまいました。
日本の最北に位置する駅は、どこだか知っていますか? 鉄じゃなくても、北海道大好き旅ライダーなら知ってますよね。
行けば間違いなくバイクと共に記念写真を撮り、年賀状にしてしまうあの宗谷岬の近く(というほど近くはないけど)の宗谷本線の終点稚内駅です。
いかにも昭和40年代風の鉄筋コンクリート2階建てのそれなりに味のある稚内駅の待合室の片隅にぽつんとたたずむ「そば処宗谷」は、北の果てに似つかわしい絵になる立喰・ソでした。
寒い時期はおつゆのにおいと湯気に誘われ、たいしてお腹が空いていなくても、ふらふらとカウンターに立ってしまうこともしばしば。
5回ほど稚内に行きました。特急スーパー宗谷のアテンダントさんから駅弁を買うことを楽しみにしていようとも、音威子府の立喰・ソを食べに行く前にしろ、5回とも問答無用で宗谷のそばがストマックに流れ込んで行きました。
細めの麺とかつおダシの効いたおつゆ。たっぷりのねぎにかわいいなるとが3枚入ったかけそばは270円。天ぷらそばは、つゆに溶ける淡いころものかたまりに小さな乾燥エビが1匹入った北海道標準仕様で370円。月見そば330円、カレーそば360円、大盛50円増し、ゆでたまご50円もありました。
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- バ☆ソ
メニューのラストを飾っていたのがセルフコーヒー。
ここのもうひとつの名物でした。
まあ名物というほどでもでないのですが、そばをすすった後、おばちゃんに「コーヒーちょうだい」と200円渡し、黄土色と白と茶色の模様の紙コップをもらいカウンターに置いてあるコーヒーポットから注ぐシステム(というほど複雑なものではない)で飲む食後のコーヒーは、厳選されたコーヒー豆を時間をかけて焙煎し、こだわりのマスターがゆっくりじっくり入れためんどくさそうな逸品とはほど遠い、ごくごく普通の会社でお客さんに出すようなコーヒーでした。
でもいいんです。北の果ての立喰・ソで自販機ではないコーヒーを飲む。それだけで、ああ稚内にいるんだなあという感慨深いコーヒーでした。
稚内駅前の大規模の再開発が決まり、その計画の中心となる稚内駅の建て替え工事が始まり2011年4月2日をもって旧駅は閉鎖されました。
同時に「そば処宗谷」も幻立喰・ソになってしまったようです。待合室に同居していた最北のKIOSKも同時に幻となりました。
ちなみにこの最北のKIOSKでは宝くじも販売していたので、最北の駅の宝くじ売り場も幻になりました。
映画館やグルメショップが開店する来春のグランドオープン時に立喰・ソは戻ってくるのでしょうか? 例え戻ることはあっても、あの味のある店も、味はないけど味のあるコーヒーが戻ることはないでしょう。
稚内が幻立喰・ソになってしまった現在、最北の駅の立喰・ソはどこになるんでしょう? 稚内の次に特急が停まる幌延や天塩中川にはなさそうなので約130km後退した黒いそばで有名な音威子府(おといねっぷ)になるんじゃないかと思います。
一日9本しか列車が来ない音威子府ですが、そばの作付けができる北限の町でもあり、名物のそばを食べるため車で訪れる人が多いそうです。駅の立喰・ソ以外にもちゃんとしたそば屋さんもあります。
ただ、心配なのは駅の立喰・ソのご主人が「自分の代で店をたたむ」とおっしゃているそうで……。