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レース・イベント

障がいを持ってもバイクを楽しみたい 箱根での公道イベント開催に向けてカウントダウン! SSPイベントレポート
障がい者を対象に、2020年6月から毎月のように開催されている『パラモトライダー体験走行会』は、青木三兄弟の、三男・治親と長男・宣篤が立ち上げた一般社団法人サイドスタンドプロジェクト(SSP)が展開しているイベント。今年も春先から順調に活動しており、7月は茨城県にある筑波サーキット内にあるオートレース選手養成所を借りての開催となった。
■レポート・撮影:青山義明 ■協力:一般社団法人サイドスタンドプロジェクト https://ssp.ne.jp/






 ロードレース界のレジェンドでもある、あの青木三兄弟の三男・治親と長男・宣篤が立ち上げた一般社団法人SSPは、1998年にGPマシンのテスト中の事故によって脊髄を損傷し、車いす生活を余儀なくされた元WGPライダーで次男の青木拓磨を再びバイクに乗せたいという思いから活動がスタートしたもの。現在では拓磨だけでなく、バイク事故などによってバイクを降りざるを得なくなってしまった方々を対象に、パラモトライダー体験走行会を積極的に開催している。

 その体験走行会の究極の目標が、「実際の公道を使用して、パラモトライダーたちと一緒にバイクでツーリングをする」というモノ。ただし、多くのパラモトライダーが事故を機に2輪免許を返納してしまっているため、簡単には出来ないのが現実問題として存在する。そこで一般公道でありながらも、占有が可能な神奈川県にある「アネスト岩田 箱根ターンパイク」を貸し切りにして、閉鎖した空間でツーリングする、という走行会を2030年までには実施したいというのが、スタッフのSSP設立当初からの夢であった。
 

青木三兄弟の長男・宣篤と三男・治親が立ち上げた一般社団法人SSP(サイドスタンドプロジェクト)は毎月のようにパラモトライダー体験走行会を開催。二人とも積極的に参加をしている。

 
 ところが、パラモトライダー体験走行会を開催して3年目となる今年、急遽この目標が現実となるチャンスが訪れた。SSPとしては、この機会を逃すわけにはいかない。ということで、計画を8年前倒しし2022年9月11日(日)に、アネスト岩田 箱根ターンパイクでのパラモトライダー走行会『やるぜ!! 箱根ターンパイク2022』の実施に向けてクラウドファンディングを立ち上げ、参加者を集め、さらに、会場の下見を重ね、準備を着々と進めてきた。

 もちろん、それにかかりきりになるわけではなく、普段から活動を展開している通常のパラモトライダー体験走行会も継続して開催している。この体験走行会は、「事故や生まれ持った障がいでバイクに乗れない方にバイクの楽しさを体験できる機会を」ということで、多くの協賛スポンサーのサポートと、多くのボランティアスタッフの手によって、国内のサーキットや休校日の自動車教習所を会場として2020年から開催されている。今回は、筑波サーキット内にあるオートレース選手養成所を使用しての開催となった。
 

多くのボランティアスタッフによって支えられている。ボランティア初参加でも大丈夫なように、毎回ボランティアスタッフへのレクチャーもしっかりと行われる。

 
 バイクは速度が低い発進と停止のタイミングで不安定になり、下半身不随などの障がいを持っていると運転は出来ないことになる。しかし、そのタイミングで誰かが支えてくれればバイクに乗ることができるわけである。SSPでは障がい者がバランスを確認するためのペダル無し自転車や、転倒を防止できるアウトリガーを装着したKTMデューク250と、ペダル操作ができなくてもバイクをコントロールできるハンドシフト装置を装着した大型車両MVアグスタ・ストラダーレ800とBMW F750 GSを、毎回持ち込んでいる。今回もアウトリガー付のデュークをメインに使用した。接地タイプ、補助輪が10cmほど浮いた仕様、補助輪が20cmほど浮いた仕様の3種類のアウトリガーを状況に応じて付け替えしながら、施設内の競争路を使用しての走行を行なった。

 今回参加するのは、脊椎損傷や大腿切断、そして視覚障がいなどの障がいを持つ5名。オーバルの競争路の中央にあるフラットな路面を使用して、デュークで、バランスやブレーキの練習を行いつつ走行を重ねていく。エンジン停止もできるリモコンを装着しているデュークは必要に応じてスタッフが車両を止める準備をしながら。さらに、サインハウスのバイク用インカム「B+com」でスタッフと会話を重ねつつ、走行を繰り返していく。
 

SSPには専属の理学療法士も帯同しており、毎回参加者の健康チェックを行う。また参加を希望している見学者への問診なども行っていく。参加者とのやり取りにはインカムを使用するが、毎回サインハウスのスタッフがセットアップを行っている。

 
 小型バイクのデュークで走行ができることが確認出来たら、次に大型車両への乗り換えでさらにバイクの楽しさを実感してもらえるというプログラムだが、実はこの体験走行会では、今年になってから大型車へのステップアップが少なくなっている。というのも、これまでよりもステップアップに慎重に、評価も厳しくなっているからだ。この9月の箱根での公道走行会開催に際し、パラモトライダーであっても、きちんとライダーとしての技量を持ってもらいたいという思いがあるからだ。この日も各参加者は、ステップアップなしでほぼデュークでの練習走行に終始した。

 また、今回のパラモトライダー体験会は、箱根ターンパイクでの走行会『やるぜ!! 箱根ターンパイク2022』前最後の開催ということもあって、会場には箱根への参加予定のパラモトライダーも集まり、箱根での内容の確認や要望などのやり取りも行った。

 参加予定の関口和正さんはすでに装備を買いに行ったという。

「いつもはSSPでツナギなどのギアを借りていましたが、自分のライディングギアが欲しくて買いに行ってきました。でもバイク用品店ってバリアフリーになっていないところが多くて」と困惑したという。
 今回の箱根のツーリングには、一人につき9名まで友人やバイク仲間と走れるような仕組みもあり、学生時代のバイク仲間に声を掛けたらみんなやってきてくれるという。当日は千葉工業大学2輪部の仲間と一緒に走ることになった。「心配するところはいっぱいありますが、まずは、気持ちよく走りたい」と関口さん。
 丸野飛路志さんは「事故して22年、絶対ないと思ってたことが間もなく実現する。ここに来た時だってコースを走れるなんて夢のよう、だったのに」という。丸野さんが事故をした同じ日に事故をして、同じ病院で出会ってから一緒にこのSSPにもやってきている古谷 卓さんと箱根は一緒に走る。「お互いが健全な時の走りを知らないわけですが、楽しみしかないです」という。
 

『やるぜ!! 箱根ターンパイク2022』のクラウドファンディングは7月末で終了した。目標金額200万円のところ、無事に124人から支援金237万円 が集まった。

 
 アネスト岩田 箱根ターンパイクで9月11日(日)に開催予定の『やるぜ!! 箱根ターンパイク2022』については、「できるだけ長い距離をパラモトライダーに走行してほしい」ということもあって、ターンパイクのほぼ全線を走行ルートに設定することとなりそうだ。そのため駐車スペースなどが確保できず、一般の見学をお断りすることとなった(クラウドファンディングに出資した方のみ入場可能/企業としての見学については受け付けるとしている)。パラモトライダー15名と、その付き添いおよびバイク仲間各9名まで参加する。また一般のボランティアの募集はしないこととなった。当日が好天に恵まれることを期待したい。
 

今回が3回目の参加となる玉代勢一己さん。頸椎(S5~7)の損傷と右手親指にも障がいがあるが、この日の走行も無事に終えることとなった。

 

この筑波養成所での開催2回ともに参加となる伊東 博さんは胸椎損傷で下半身不随となっている。先々月に引き続いて、3回目の参加。

 

骨髄損傷で下半身不随となってからもアクティブな活動を続けている牧原伸之さんは前々回に引き続いて、今回も三輪バイクで会場にやってきた。「事故前の感覚には近づいていると思っていて、今回こそは大型車に乗れると思っていたんですが…。一歩一歩技術を向上させて早く大型車に乗れるようにしたいと思います」

 

壊死性筋膜炎(人喰いバクテリア)で右大腿切断をしている囲 美和さんは、箱根での走行会参加希望者として、今回最終判断をしたいということで急遽参加。無事に参加合格となった。
「自分のバイクで、毎週駐車場で練習をしてきましたが、今回の体験会では自分のバイクではないのでちゃんと乗れるか心配でした。でも、無事に合格をいただけました。今回参加前に実際にクルマで箱根ターンパイクも下見してきたのでその意味がなくなってしまうって自分にプレッシャーも掛けてました。今日は安心して家に帰れます」

 

今回唯一の視覚障がい者である縫田政広さんは、糖尿病の合併症による網膜症失明であるが、SSPのスタッフの中では、「袖ケ浦フォレストレースウェイを世界で初めて周回をした全盲の視覚障がい者」という称号が与えられている。今回はこの競技場も周回をし新たな記録を樹立?
前方を見つめ、走行を重ねる縫田さん。その表情は常に笑っていて、カメラ目線で走行。「本当は見えてるでしょう?」は、この場で必ず囁かれるワード(笑)

 



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2022/08/08掲載