番外編「ブースカ的温泉ベスト20湯」の巻
この連載が始まったのは今から約10年前。あと少しで70回目を迎える。途中、1年半ほどお休みしたり、アームズマガジンの仕事が忙しくてネタが仕込めなかった時があったので、コンスタントに進んでいれば連載回数は100回を超えていたかもしれない。お陰様で現在までの入湯数は800湯を超え、連載開始から10年間で400湯近く制覇。今まで47都道府県中37都道府県を訪れ、各地域の温泉に入ってきた。ここまで入湯数が増えると簡単には思い出せない。よく「いい温泉教えてください!」と聞かれるが、残念ながら即答できない。記憶力の問題以外にも人によって温泉の好みがあるからだ。豪華なところ、共同浴場のような庶民的なところ、泉質がいいところ、有名なところ、関東から近いところ…人によって入りたい温泉の特徴はまちまちだ。そこで今回は番外編としてブースカ的視点から記憶に残る温泉、ユニークな温泉を20湯厳選。写真とともに振り返ってみたい。新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言による自宅待機要請が解除され、ツーリングに行けるようになったらぜひ参考にしてほしい。私も入湯数900湯を目指して走り出すぞ!
*写真および記載情報は掲載当時のものです。現在では廃湯や営業形態等が変更されている場合があります。あらかじめ調べてから訪れてください。
今までで最高の10星を獲得した「黒薙温泉」。黒部峡谷を縫うように走る黒部峡谷トロッコ電車に乗らないと行けない温泉で、黒薙駅から約600m歩いたところにある。営業期間は4月下旬から11月下旬までの期間限定。谷間を流れる黒薙川沿いに作られた混浴の大露天風呂だ。この時は朝イチで訪れたため一番風呂で、周囲を山に囲まれた雄大な露天風呂をしばし独り占めした。肌触りの優しいお湯はキレイな無色透明。適温で何時間でも入っていたくなるほどだった。トロッコ電車も最高だった。
宮城県に近い山形県最上郡最上町の赤倉温泉スキー第1リフト中継所に設置された混浴露天風呂。訪れた当時は8月のお盆までの土日にだけ設置される温泉で、開場は10時から15時、雨天は休場。お湯は温泉街からトラックで運ばれてきていた。訪れた日は今年最後の日とのことで超ラッキーだった。ラフロードに慣れない私は途中スタックしてしまって登れなくなり、ニッチもサッチもいかなくなって温泉を管理しているスタッフの方にヘルプしてもらった。今乗っている400Xだったら絶対に無理な場所だ。
小安峡温泉のキャンプ場「とことん山」内にある露天風呂。宿泊者は無料で午前8時から9時の間以外はいつでも入れるという、まさに温泉好きには天国のようなキャンプ場だった。露天風呂は斜面の湯船が3段あり、写真はいちばん上の段。気色もよく、いつでも入れる。お湯はやや緑かかっており、源泉の温度は約80℃だが全体的にぬるめで、場所によって温度が異なっていた。温泉好きキャンパーには堪らない開放感はバツグンでワイルド感漂う温泉だった。
岩手県の観光名所である八幡平にある藤七(とうしち)温泉「彩雲荘」。温泉は海抜1400mのところにあり、東北地方で最高地とのこと。複数ある混浴の露天風呂が山肌に広がっている。ひとまずいちばん広そうな湯船に入ってみる。硫黄臭のするお湯は白濁しており、想像以上に適温。実に気持ちよかった。湯量はかなり豊富。上から源泉がかけ流し状態で各湯船に注がれている。山裾に沿って吹く風は冷たかったが、開放感バツグンで何ともダイナミックな温泉だった。
切明(きりあけ)温泉は川底から温泉が湧き出る温泉。切明温泉・雄川閣に隣接する橋を渡り、川沿いの道を進むと、川と一体化した温泉があった。無料で混浴。先人たちにより石が積み上げられていて簡易湯船ができており、川とうまく混ぜ合わさっていて意外と気持ちよかった。
「埼の湯」は紀伊半島の名湯・南紀白浜温泉にある1350年以上の歴史を持つ白浜温泉最古の温泉。数m先に海があるワイルドな温泉。湯船は2つあり、奥に入ると波が高いと海水が入ってくる。隣で入っていたおじさんが、まるで子供のようにはしゃいでいた。適当に海水で調整されるが、たまに熱いお湯が尻のあたりを襲ってきた。
草津温泉と並ぶこの地域を代表する温泉である万座温泉。温泉に興味がない方でも、おそらくここの混浴露天風呂「こまくさの湯」の景色は見たことがあるのではないだろうか。白濁したお湯と、標高1800mの地点に広がる雄大な風景とのコントラストは最高の一言。硫黄臭が漂う広々とした湯船に浸かると、何とも言えない開放感が味わえる。
七味温泉ホテル「渓山亭」に併設された日帰り入浴できる露天風呂。いかにも温泉らしい白濁した単純硫黄泉のお湯は露天風呂ながらちょっと熱め。湯底に成分が溜まっていたためか、足の裏が灰色になってしまった(おそらくケツもそうなっていたはずだ)。成分の濃さを体感できる温泉だった。
「とちの湯」は黒薙温泉の帰りに立ち寄った宇奈月湖ほとりにある日帰り温泉施設。谷間にあるこの温泉も4月下旬から12月下旬の期間限定の営業となっている。眼前に広がる雪を抱いた黒部峡谷を目いっぱい堪能できる。露天風呂からは警笛を鳴らしながら対岸の山裾をトコトコと進むトロッコ電車が見えた。
片山津温泉は加賀温泉、山中温泉、山代温泉などと並ぶ石川県を代表する名湯。この地域独特の「総湯」と呼ばれる立派な共同浴場が各地にあり、片山津温泉の総湯は現代を代表する高名な建築家であり、ニューヨーク近代美術館新館などを手掛けた谷口吉生氏設計によるもの。直線基調の窓や湯船に囲まれたアーティスティックな浴室だった。
赤倉温泉街の奥にある「滝の湯」。4月中旬から11月上旬までの営業期間となっている。露天風呂がメインとなっており、やや白濁したお湯に満たされた広々とした湯船が特徴。この時は誰も入っておらず、思わず泳ぎたくなってしまった。
大分県でも有数の温泉街である筋湯温泉の名物である日本一のうたせ湯。湯量もすごいが、とにかく流れる音が凄まじい。まるで滝行しているかのようだ。滝の近くだと会話できないが、まさにそれに近い感覚だった。ちなみに筋湯温泉には内湯の「薬師湯」と露天風呂の「岩ん湯」の2種類の共同浴場がある。
志津川沿いにある満願寺温泉の混浴露天風呂「川湯」。内湯の共同浴場と、混浴露天風呂の川湯の2種類ある。川湯はまさに川沿いにあり、人が入浴するための湯船と、野菜などを洗う洗い場が併設されている。川沿いなので遮るものはなく、対岸からは丸見え。まさに衆人環視の中で入ることになる。
黒川温泉は熊本のみならず日本を代表する温泉街。黒川温泉の特徴は温泉宿の露天風呂巡り。入浴手形を購入すれば、組合に加盟している全24件ある温泉宿の露天風呂のうち3湯に入れた。この時入湯したのは黒川荘。やや白濁したお湯が注がれた広大な露天風呂は圧巻の一言だった。
南阿蘇鉄道の「阿蘇下田城ふれあい温泉」駅は駅構内に日帰り入浴施設が併設されたエキナカ温泉。駅舎はちょっとしたお城のような作りで、周囲に田んぼが広がるのどかな場所だ。浴室の窓からは行き交う列車が見える。もちろんホームから丸見えではない。私がここを訪れた半年後に起きた熊本地震の影響で現在も休業中とのこと。
栃尾又温泉は1250年以上前に開湯された日本でも有数の放射能泉(ラジウム泉)。私が泊まった神風館に加えて自在館、宝巌堂(ほうがんどう)の3つの温泉宿で構成されており霊泉「したの湯」、霊泉「うえの湯」、「奥の湯」を共同して使用している。日帰り入浴はやっていない。写真は自在館の下にある栃尾又温泉の1号源泉である「したの湯」。
栃木県を代表する温泉地である川治温泉から約40分ほどのところにある上栗山温泉。湯舟に満たされた源泉かけ流しの鉄の臭いがする緑褐色のお湯。ちょっと熱めだが、それが却って心地良かった。訪れた日は「番台なしで営業中」の看板が立っており、料金箱に入湯料を入れるかたちだった。
月刊アームズマガジン』の編集ライター。バイクに乗り始めてから温泉が好きになり、現在までの温泉踏破数は816湯。湯巡りツーリングの相棒はホンダ・400X。ちなみにマイカーはスズキのエスクードだ。