■試乗:中村浩史 ■撮影:依田 麗
『もう、全開でスッ飛んでいきたくてしょうがなくて、ライダーのスロットルオープンが待てずにギュルギュルと唸っている――これが僕のNinja 1000に対するイメージだった。Z1000との双生児で、ちょっとおとなしめのスポーツツアラーのスタイリングをしていたって、中身はスーパーネイキッドそのもの。確かに、初めて乗った時にそう感じたんだけれど、それが、ずいぶんと洗練されているのに、まず驚いたのだ――』。
このNinja 1000がカテゴライズされる「スポーツツアラー」っていうのは、実はニッポンのオートバイとして最適解なんじゃないか、と思うことがある。もちろん、ワインディングをばんばん走る、サーキットもよく走る、って用途にはZX-10Rの方がふさわしいに決まってるんだけれど、ツーリングによく出かける、街乗りもする、たまにワインディングも走る、荷物満載で走るし、タンデムもする、っていうような、オートバイのいろんな魅力を最大限に味わっているようなライダーに最適解なんじゃないか、という意味だ。
まずもって、ポジションがいい。僕の体格は178cm/75kgだけれど、足つきもゆうゆう。170cm/65kgくらいの、ごく平均的な体格のライダーにも無理はないと思う。ハンドルが近くてほどほどに高く、シートが低すぎずに、ステップも後退しすぎない。これが、短時間走るにも、長時間走るにもすごくイイ。このへんは、実は1980年代のGPz1100なんかから連綿と受け継がれてきた、カワサキスポーツツアラーの美点なんだよね。
ギアを1速に踏み込む。うーむ、カワサキのビッグバイクは、ちょっとミッションの入りがシブい。そう思うのは僕だけだろうか、ニュートラルから1速に踏み込むと、びっくりするほど「バン!」ってシフトショックがある。クラッチ、ちょっと長い時間しっかり握ってから踏み込むとスッと入るんだけどね。
エンジンのキャラクターは、まさにトルクの塊。それも、ドンと出るトルクじゃなくて、きれいにトルクが立ち上がってバイクが前に進む感じ。すごくイイ。このままトントンとシフトアップしていって、どのへんでガガガッとノッキングしてくるかと試したら、なんと6速2000pmでも十分にエンジンがスムーズに回ってくれる。その時のスピード、実に50km/h。なんたるフレキシブルさ!
スロットルを開けていくと、さすがにどんどんスピードが乗ってくる。低回転から中回転のつながりがよくて、スピードのノリが早い! 4500pmあたりからグンとスピードが伸びる感じで、そこから高回転域に突入していくのだ。いやぁ、速い。決して小さくはない車体をぐんぐん前に押し出してくれる、そんな感じの加速感だ。
ライダーの身長は178cm。(※写真上でクリックすると両足時の足着き性が見られます) |
クルージング域では、6速ホールドで、80km/hが3300rpm、100km/hが4200rpmくらい。パワフルなエンジンのわりには振動が少なく、100km/hクルージングなんて平和そのもの。いちどテストコースで試したことがあるんだけれど、150km/h巡航をしていたって、120km/hチョイくらいの体感スピードだった、ってことを覚えている。
車体は、しっかりした手ごたえのあるハンドリングで、スピードを出していない頃にはフロントヘビーに感じられてしまうだろう。ただし、30km/hも出てしまえば気にならなくなり、スピードが上がるにつれ、ヘビーな印象は消えていく。ただし、軽快なハンドリングというよりは、しっかりした安定感をベースとしたハンドリングだ。
このあたりは、兄弟車であるZ1000にクイックなハンドリングを与えているから、Ninja 1000にはスポーツバイクのツーリングバージョン、という性格付けがしっかりと生きているといっていい。もちろん、ワインディングでもダルな印象はなく、スーパースポーツやスーパーネイキッドのもうひとつ下の動きが安定している、ってこと。こういったハンドリングの方が安心できる、というオーナーは少なくないはずだ。
さらにNinja 1000に搭載されている「電脳」性能も注目のひとつ。2014年モデルから採用されたパワーモードは「Full」と「Lo」の2段階に切り替え可能で、「Lo」は「Full」の70%程度にパワーを抑えるが、もともとパワフルなNinja 1000だけに「Lo」の非力さはまったく感じられなかった。というか、最初に「Lo」で走り出した時、やっぱりNinja 1000ってパワフルだなぁ、と思ってしまったほどだった。
さらにトラクションコントロールも追加され、1/2/3の介入とOFFも選択可能で、いちばん介入が大きい「3」では、ドライ路面でスロットルをカパ開けした瞬間にも介入してくれる。雨での試乗はなかったが、ウェット路面での安心感も大きそうだ。
さらにスポーツツアラーとしての充実度としては、パニアケース装着を前提としたリアまわりのデザインや、多めの積載やタンデムの時に、すぐにリアサスにプリロードをかけられるリモートダイヤルの採用があげられる。タンデムライダーの座り心地の向上のため、タンデムシート下にダンパーまで仕込むという念の入れようだ。
いくら2気筒や3気筒のアドベンチャーモデルが増えてきたって、やっぱり日本では4気筒エンジンのファンは多い。スムーズなエンジンフィーリングとしっとりとしたハンドリング、それにカワサキらしいヤンチャなスタイリングは、ことツーリング性能に関しては全方位に最高のパフォーマンスを見せてくれる。
性能が高く、装備充実、それに「カワサキ」って個性をきちんと打ち出しているNinja 1000、スポーツツーリングをきわめ、長く乗り続けるにいい相棒です!
<試乗:中村浩史>