幻立喰・ソ

第61回「黒部の対応」

 
 まずは前回の続き、といいますかあまりに内容が超うすくちだったことを心配してか、坂崎師匠(かのネモケンさんとこが出しているDiscover Japan9月号 麵特集に、立喰・ソの原点の歴史的考察を寄稿していらっしゃいます。勉強になります)から、魚沼やの追加情報をいただきました。

●飯田橋の某手打ち蕎麦店のアンテナショップで、江戸切りそばを標榜してた。
●ならばなぜ魚沼やなのか? と訪ねたら「新潟のお酒を置いていたから」。

 え〜! マジですか!? 知ったかぶりして「ご主人は新潟の人だから〜」なんて安易安直なことを書かなくてよかった、と冷や汗がダムの満水放水状態です。師匠、いつもいつも何気ないバックアップありがとうございます。後生の立喰・ソ研究者のみなさま、そういうことなので、魚沼やの起源、お間違いなきように。

 さて、8月は暑かったですね。と言うご挨拶も、もう聞き飽きたことでしょう。ごめんなさいね。定番中の大定番ながら北海道ツーリングは無理にしても、夏休みのご旅行、どちらか行かれましたか? 私は行ってまいりました、富山の秘境へ。

 
「男子ならみんな好きだよね!」の黒四。なにがいいって、「く・ろ・よ・ん」という言葉の響きからしてしびれます。これが「くろさん」や「くろご」だといちじるしい剛性感の減退を感じてしまうのは私だけ?(だいたひかる調で)。もっとも、くろよんと聞いて、税務署やら、臨時急行を思う方もいらっしゃるかもしれません。中には黒四→ダム→カラオケの三段論法にジャンプアップするJKどももいらっしゃるやもしれませんが、ほぼ間違いなく無条件で思い浮かべるのは、このダム→のはずです。今や全国区となったダムカレー↓も、このダムに向かう長野側拠点である扇沢駅の食堂が発祥の地といわれております。



黒部ダム
誰もが知っている日本最大の高さ186mのあのアーチ式ドーム越流型ダムです。構図がへたくそで迫力が伝わりませんが。(2012年6月撮影)

ダムカレー

急行くろよん
こちらも有名になったダムカレー。某テレビ番組でご飯を崩し「ダム決壊!」とはしゃいでいましたが「放水」が適切ではないかと。(2012年6月撮影) かつて大阪-信濃森上間を走っていた臨時急行くろよん(の気動車時代)。発電所の名前が付いた急行列車というのは、かなり珍しいのではないかと。(1977年8月撮影)
 

 さすが黒四ダム! です。ん? 黒四ダム? 
 ちょっと待って、ちょっと待って、おにいさん(すでに懐古グループ)。
 実は、みなさんが思い浮かべたあの超カッコイイダム↑は、黒四ダムではありません。黒部ダムです。昔は仮称としては黒四ダムと呼ばれていた時期もあったようなので、「な〜に! 黒四ダム? やっちまったなぁ!」(うすと杵を持った二人組、名前すぐ出てきますか?)となじってはいけません。では黒四ってなに? 

 黒部ダムの下流10km、地下200mに設置され、昭和36年1月15日から発電を開始した発電所です。認可最大出力335000kw、有効落差545.50m、使用水量72m3/S、国内電力施設では初のIEEE(アイ・トリプル・イー←何でしょう?)を平成22年4月9日に受賞した黒部川第四発電所の略称なのです(関電黒部カード↙からのフルパクリ)。 

 名前は誰でも知っているのに、見た人は少ない黒四。行きたくても簡単に行ける所じゃありません(見学会に申し込んで抽選に当たれば行けますが)から、わかりやすい黒部ダムが黒部川第四発電所の分まで脚光を浴びているのです。
 黒三(黒部川第三発電所)は駅前にあるので、外観なら誰でもたいした苦労もなく(欅平駅まで行くのはそこそこたいへんですが)見る事が出来ます。男汁どばーっと放水されまくりな黒四と比較すると、「な〜んだ、駅前か。N○VAといっしょか」とがっかりですが、そこいらの駅前に発電所があるわけではありません。発電所があるようなものすごい渓谷の奥に駅があるというのが正解なので誤解なきように。ちなみに黒五はありません。


黒四

黒3
有名なダムカードの類似品? 関電黒部カードです。宇奈月と欅平でぽんぽんぽんと3つスタンプラリーすると無料でもらえます。(2015年7月撮影) ホームから見える駅前発電所の黒三。駅前とはいえすごい山奥でなんです。写真をクリックしてご確認を。(2015年7月撮影)

 ちなみに一般人が行けるのは欅平駅まで。ここから先は関西電力専用線のトンネルです。吉村 昭先生の名著「高熱隧道」の舞台となったフォッサマグナ地帯を通り抜け、黒四まで線路はつながっています。トンネルはさらにその先の黒部ダムまであります。ここも見学会に申し込んで当選すれば通ることができます。見学会の倍率は2〜5倍。それほどの倍率ではないのに、当選者に送られるという必要書類一式を私は未だ一度たりとも見たことありません。

 と、延々黒四について述べまくったのは、いつもの枕ヨタだとお思いでしょうが、ちょっと違います。黒四に立喰・ソがあるかどうかは未確認ですが、あるわけないです。しかし黒四と深い関連性のある観光ルート、立山黒部アルペンルートと黒部渓谷鉄道には立喰・ソがあるのです。 

 唐突ですが、海の家でソやウに舌鼓を打つ人は見かけません。焼きそばかラーメンです。これが、山になるとソやウです。ラーメンはともかく汁気のない焼きそばは人気ありません(高尾山のビアガーデンを除く)。さらにソは山菜やキノコ類とも相性抜群ですし、日本人のDNAにすり込まれた、山にベストマッチな麺類なのです。ゆえに前人未踏の山奥まで分け入る立山黒部アルペンルートや黒部渓谷鉄道に立喰・ソがあっても、不思議なことではありません。むしろない方がおかしいのです。
 ただ、実際に食べに行こうとなると、気軽に「ちょっとそばでも」と坂崎師匠の名著のように食べに行くには敷居が高いのです。そうそびえ立つ黒部ダムのように(うまいことまとまりました。が、まだ話は続きます)。

 
 富山県側の立山と長野県側の扇沢を結ぶ立山黒部アルペンルートは、立山(ケーブルカー)美女平(高原バス)室堂(トロリーバス。日本で唯一)大観峰(ロープウエイ)黒部平(ケーブルカー)黒部湖(徒歩)黒部ダム(トロリーバス あれ? もひとつ日本唯一が……)扇沢と乗り継ぐ、所要時間約6〜8時間の大観光ルートです。あまりの雪深さのため冬期は閉鎖されます。というわけで、最近では外国人も多く訪れる人気の観光地ですが、日本人なら一生に一度くらい行っておきたいダイナミックな場所なのです。これからの紅葉シーズンはかなりの賑わいとなるでしょう。紅葉を眺めて、冷えた身体に温かい山菜ソ、たまりませんね。

 だいぶ前に私が確認した立喰・ソポイントは、日本最高地点にある室堂、黒部平、扇沢の3カ所。一方、宇奈月温泉から黒部渓谷の奥深くに入り込む黒部渓谷鉄道は全10駅中一般人が乗降可能な宇奈月、黒薙、鐘釣、欅平の4駅のうち、黒薙駅以外には立喰・ソがありました。



黒部立山アルペンルート
おおざっぱな位置関係図です。道路とか鉄道とかいろいろ省略しています。欅平から黒部ダムまで登山道がありますが、歩くと2〜4日かかるそうです。登山道とは言っても上級者向けですから、初心者、不完全装備だとたぶんに死にます。

 たった6カ所くらいたいしたことないとお思いでしょうが、なかなかな手強いのです。大観光地ですから、かけが500〜600円もするし(場所が場所だけに運ぶのも大変でしょうからしかたがないんですけど)、東京から遠いし(北陸新幹線開通でかなり近くなりましたが)、アルペンルートだけで運賃が片道約1万円とべらぼうに高いんです(いろいろな乗りものに乗れるし、場所が場所だけにべらぼうというほどでもありませんが。ところでべらぼう=箆棒って何でしょう?)。だから「見学会に当選した時に行けばいいや」と思っていましたが、当たらないし……(←いわゆるすべてただの言い訳です)。


黒部峡谷鉄道

鐘釣
黒部渓谷鉄道です。遊園地の汽車をひとまわり大きくしたようなサイズで、トロッコ列車とも呼ばれています。今や日本で唯一ED級の電気機関車が重連で14両の客車を牽引しますので、そちらに興奮してください。(2015年7月撮影) 途中の鐘釣駅にも渓谷そばがあります。そそるネーミングです。なぜだかここだけ食べたことがあります。渦巻き型蒲鉾が富山を主張します。今も健在かどうかは未確認です。(2012年6月撮影)

 そんなときに目に飛び込んできたのが、とはいえ勝手に飛び込んでくるはずもなく、ネットサーフィン(死語)していたら見つけたのが「黒部渓谷パノラマ展望ツアー」です。なんと上部軌道に乗れるのです。しかも宇奈月-欅平の往復運賃(1710円×2)も含んで5000円ですから、実質1580円と超リーズナブル。やれ、うれしやと詳細も確かめず、ネット上の衝動買い、いわゆるポチッとなをしてしまいました。高熱隧道を通って黒四へ行けると勝手に思い込んでいたのです。

 当日、欅平からツアー専用列車に乗りこみます。わくわくどきどき。スイッチバックしてわずか500mで終点。ここから竪坑エレベーターに乗り換えです。エレベーターを出ると目の前には黒四に続く上部軌道が! と、ここでキツネにつままれました。ほんとにキツネにつままれたわけではなく(しつこい)、上部軌道とは反対方向のトンネルへ歩き出すではないですか。え? 上部軌道は? その後は登山道をえっちらおっちら登ってパノラマ展望台へ。ああああ、そうでしたか。私勝手に勘違いしていました。このツアーでは黒四方面の上部軌道には乗れないんですね。まあでも、ほんのさわりだけとはいえ、関西電力専用線にも乗れましたし、機関士さんにあれこれ質問しまくって苦笑されましたし、パノラマ展望台の眺めも素晴らしかったし、楽しかったのです。普段は入れないエリアに実質1580円で入れるんですし。それはわかっているんですが……。


欅平
ツアーは欅平からスタートします。この先のトンネルが一般では通れない関西電力専用線です。しかも珍しいED凸形機関車が牽引する専用列車です。参加者少なめだったので、帰路トンネル内でじっくりと機関車見せてくれました。しびれます(もちろん感電するということではなく)。運転台をのぞき込んだら電車みたいな7ノッチ刻みのマスコンで、単弁は付いていませんでした。これだけで十分元が取れます(鉄なら)。黒薙支線体験乗車ツアーもお願いします(2015年7月撮影)

欅平

欅平
専用列車を降りたら竪坑エレベーターに乗り換えて、上部軌道のトンネル内を歩いて、そのあとは結構な登山道も歩いて。そこそこハードです。(2015年7月撮影) パノラマ展望台。関西電力の施設だけに鉄塔がどーん。素晴らしい景色はぜひご自分の目で! クリックすると出現するのが黒四へと続くトンネル。思わず走り出しそうになりました。(2015年7月撮影)

 そんなわけで、ちょこっとだけ意気消沈しながらも、立喰・ソがあるさと気持ちを入れ換え、改札口を抜けて行ってみれば……。

 雪解けが激しく流れる黒部川を、呆然とながめつつ一句。

「雪解けの
水と流れる
そ(ソ)の思い
渓谷そばの
味わいのごとく」

意味不明ながら、それっぽくできましたが、涙のダムは決壊してしまいそうです。


欅平

欅平
黒部渓谷鉄道終点の欅平駅の改札出て左側にあった渓谷そば。数年前に訪れたときは、ごらんのように押すな押すなの大盛況(実際は誰も押しても声を出してもいませんでしたが)。帰りの列車の時間の関係で食べ損ねました。(2007年11月撮影) で、やっとこさ食べれるぜ(興奮してら抜き)、と勇んでで行ってみれば。最高のネタありがとうござ……教訓、やっぱり食べられるときになにがなんでも食らっとけ! ちなみに駅舎2階の昭和テイストあふれる食堂ではソが食べられます。(2015年07月撮影)

宇奈月

宇奈月
黒部渓谷鉄道の始点である宇奈月駅にあった渓谷そば(左 2012年6月撮影)も……(右 2015年7月撮影)。鐘釣駅は未確認ですが、黒部渓谷鉄道の立喰・ソは全滅か? ひょっとして担当氏がソアレルギー?


欅平

欅平
富山地方鉄道の宇奈月温泉駅にあった越中そば(左 2009年6月撮影)。2012年3月幻立喰・ソになってしまい、現在はお弁当の売店に(右 2015年7月撮影)。しかし、なんで3枚共に昔と同じ構図で撮ってこないのでしょうねえ……われながらびっくりするやらあきれるやら。

●立喰・ソNEWS 2015

絶好調のヤマハさんご乱心か?

8耐で19年ぶりに見事優勝したからか、TOP10トライアルでスミスちゃんが鳥肌ものの6秒フラットをたたき出したからか(中須賀さんも6秒台! すごいわ)、MT-09/07がぶっちぎりで快調なセールスを記録しているからか、3度目(4度目?)の正直、ついにe-vinoが電動原チャリの新時代を切り開くであろうからか、とにかく万事快調でおめでとうございますのヤマハさん。こともあろうかYAMAHA Riding Worksのtwitterのお気に入りに、この駄コラムが登録されたようです。たぶん間違えて登録しちゃったんだと思いますが、ありがとうございます。

とはいえ、あれよあれよというまにSNSに乗り遅れ、ハッシュタグとかリツイートとかラインとかブロックとか既読とか、解らないことだらけ。いまさら聞くのも恥ずかしいのでtwitterもFacebookもLINEもまったくなかったことにしています。だから登録すると、なにがどうしてどうなるのかわかりません。ということで、日本全国約25万件あるお蕎麦屋さんのうち、出前をしているのが約6割。そのうちの約8割がバイクを使い、その9割がヤマハ車を使用しているという、たいへんすばらしいデータが見つかったら、誰かツイートしてあげてください。


黒3
他にも2人も奇特な方がいらっしゃるようです。ありがとうございます。あら、そういえば今回はソの写真が一枚もないですねえ。

バソ
バ☆ソ
日本全国立ち喰いそば全店制覇を目論む立ち喰いそば人。現在800店以上のデータを収集したものの、ただ行って食べるだけで、たいして役に立たない。立ち喰いそば屋経営を目論むも、先立つものも腕も知識も人望もなく断念。で、立ち喰いそば屋を経営ではなく、立ち喰いそば屋そのものになろうとしたが「妖怪・立ち喰いそば屋人間」になってしまうので泣く泣く断念。世間的には3本くらいネジがたりない人と評価されている。一番の心配事はそばアレルギーになったらどうしよう……。


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