世界グランプリが2ストロークマシンから4ストロークマシンとなった2002年、ホンダはV型5気筒エンジン搭載のRC211Vで圧勝し、MotoGPの初代ワールドタイトルを獲得! ’03年も連覇し、全世界のレースが2ストロークから4ストロークに変化していく節目の時期でキッチリと結果を残した。「やっぱホンダは4ストだよなぁ」と世界中に強くアピールした頃、発表されたのがCBR1000RR。ホンダにとっては、CB1100R以来、実に約20年ぶりのサーキットイメージに直結した「直4エンジン搭載」スーパースポーツだった。
2004年に発売されたCBR1000RRは、MotoGPマシンRC211Vのイメージを強く打ち出した、新しい時代のスーパースポーツだった。ユニットプロリンク、センターアップマフラー、電子制御式ステアリンクダンパーを採用し、ツリ目のデュアルヘッドライト、カチ上がったテールデザインなど、スタイリングもRC211Vを強く意識したもの。これ、僕はすごく意外だったことを覚えている。
というのも、ホンダの、それもサーキットへと直結するイメージを持たせたスーパースポーツは、’80年代に入ったころに、直4エンジンにかわり、V型エンジンをメインに据えたはずだったからだ。その最初がVFシリーズ、のちにRC30をはじめとしたVFRシリーズ、それからRC45/RVFに、Vツイン1000ccのVTR。そのホンダが、久しぶりに直4エンジン搭載車をMotoGPマシンそのままのイメージのニューモデルとしてリリースしてきたから、ちょっと意外に感じたのだ。
ライダーの身長は178cm。(※写真上でクリックすると両足時の足着き性が見られます) |
CBR900RRからCBR954RRに至る直4シリーズは、スーパースポーツというよりも、その排気量からもわかるように、レースレギュレーションの枠にとらわれない、スポーツバイクとしての本質を求めたモデルだったから、まだサーキットとは距離をとっていた、というのが正確なところ。だからこのCBR1000RRがサーキットを十分に意識していたから、ホンダの直4がサーキットに帰ってきた――大げさに言えばこんな気分だったのだ。
そのCBR1000RRは、さすがに「4ストロークのホンダ」の威信をかけたニューモデルらしい仕上がりだった。珍しく――とは少しホメ言葉なんだけれど、十分にレースを意識したモデルだったのだ。前傾したポジション、ギュッとフロントに荷重がかかったようなクラウチングスタイル、それにサーキットランで効果を感じやすい、まったく新しいリアサスペンションなど、新しさとパフォーマンスを兼ね備えたニューモデルだった。
あれから10年。CBR1000RRはもはや、後発のライバルに押され、最新鋭のモデルではなくなってしまった。’06年、’08年、’11年にマイナーチェンジを行なったものの、それからもすでに4年! もはや最新ではなくなったものの、しかしCBRは、依然としてスーパースポーツの王道を行き続けている。
ライディングポジションは、スーパースポーツらしく前傾姿勢。ハンドルは低く近く、シート高も身長178cmの僕で、両足着地でカカトが浮くくらい。しかしこれも、積極的にフロント荷重をかけてバイクを曲げていくためのハンドル位置で、シートもライダーの体重を高いところに置いて倒しこみのスピードを早めるための高さを確保している。いわば、きちんと「理」があるのだ。
1000ccもの大排気量らしく、アイドリングすぐ上の回転域から十分なトルクが出ていて、低回転から中回転に至る特性もスムーズ。高回転の伸びきりもシャープで、7000回転あたりから回転の上がるスピードが一段速くなるような印象。力がありすぎて扱いにくい印象はなく、力が足りないフィーリングもない。やっぱ1000ccって速い! CBRってこんなにパワフルだっけ、と乗るたびに、そう感じさせるのがスゴい。
しかし、CBRでいちばん推したいのは、そのハンドリングだ。まずは直進安定性がしっかりしていて、ライダーの入力に対して、入力しただけ曲がる、そういう特性なのだ。
コーナリングは荷重の前後移動だ、と言われるけれど、加速で後ろがかりになった荷重を、コーナー進入で減速しフロント荷重を高め、脱出でまたリアに力を移す――その作業がすごくわかりやすくて、あぁバイクってこうやって曲がっていくんだ、というメカニズムを確認しながら走ることができる。立ち上がりで効果を発揮するのがユニットプロリンクで、路面にタイヤを押し付ける感覚がイージーで、思い切ってスロットルを開けることできる。ライダーによっては、ユニットプロリンク=ライダーにリアタイヤの押しつけ具合が伝わりにくい、という印象を抱くこともあるのだが、そう作っているんだから当たり前。それが速く走ることにつながるかどうかが問題なのだ。
だから、僕はCBRに乗るたびにスーパースポーツの王道なんだな、と感じることになる。このハンドリング、このエンジンは、ツーリングに出かけてもイージーなライディングにつながることになって、特にポジションのせいもあって、決して快適ではないけれど、ワインディングを楽しむツーリングにぴったりマッチする。快適に距離を移動するツーリングなら、CBRよりVFRだもんね。
CBR誕生から10余年、最先端のスーパースポーツの方向性は様変わりした。BMW S1000RR、ドゥカティ パニガーレ、アプリリア RSV4やヤマハ YZF-R1など、パワーは絞り出せるだけ絞り出して、過分なところだけ制御で抑え込み、走るステージに合わせてパワー特性をセレクトする、そんな方向にシフトしている。
正直、CBRはそのトレンドに当てはまってはいない。どんなにモデルイヤーが古くなっても、スポーツバイクとはこういうものだ、コーナリングとは荷重の前後方向の出し入れだ、という「理」をきちんと守ることで、色あせないパフォーマンスをキープしているのだ。
それでも、CBRのもひとつのステージであるレースの世界では、WSBKでは07年を最後にタイトルから遠ざかっているし、鈴鹿8耐では、ついにヤマハに、しかもニューモデルYZF-R1にタイトルを明け渡してしまった。
CBR1000RRのフルモデルチェンジは、そう遠くはないのだろう。
次のCBR1000RRは、どんなスーパースポーツの世界を見せてくれるのだろう。
<試乗:中村浩史>
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