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日本ミシュランタイヤ

かつての「パワースーパースポーツ」の正常進化

 ミシュランのカタログを開くと、巻頭からサーキットのみで使用が可能なスリックタイヤなどが掲載され、いかにミシュランがサーキットからの技術のフィードバックを重視しているのかが伺える。来年からはモトGPの公式タイヤになることもあり、今回このタイミングで発表された「パワーカップEvo」「パワースーパースポーツEvo」にもそれらの最新技術が投入されていることだろう。
 
 カタログによると最もスポーティな順で言うと3番目のタイヤの印象を受けるパワースーパースポーツEvoだが、1番上はスリックのため、実質上公道で使うことができる2番目のタイヤとなる。各社ともにこのカテゴリー(公道での使用も十分に想定されたハイグリップタイヤ)に力を入れているが、ミシュランもさらなる進化を求めたというわけだ。
 
 前作からの大きな変更はリアの内部構造だ。ACT(アダプティブ・ケーシング・テクノロジー)と呼ばれる技術を投入し、カーカスをこれまでの30°での組み合わせではなく20°での組み合わせに変更。これによりトレッド剛性は下げられ、反対にショルダー剛性は向上させている。その結果ツーリングなどの公道使用時にはしなやかさと快適さを確保し、いざサーキット走行を楽しむ場面ではしっかりとしたグリップとハンドリング性能を求めている。なお3つのコンパウンドを使っているのだが、リアでは2CT+と呼ばれる新技術も導入。異なるコンパウンドがこれまで以上に強固に結合しており、摩耗が進んでも違和感がないという。

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最初はメーカー指定空気圧にて、公道を想定したスピードレンジにて試乗を開始。ヒラヒラとした操作性がビッグバイクを自信を持って扱わせてくれる印象を得た後、ミシュランがサーキットユースを想定した指定空気圧に落として再度走行。先ほどのヒラヒラした印象は減り、広いコンタクトパッチで路面を掴む感覚がよりわかりやすくなる。 公道でも乗ったが、コースでシミュレーションした印象そのままに軽快で付き合いやすい特性を確認できた。またUターンなど細かな動きでもクルリとこなす印象で、「ストリートユーザーへのラブレター」と語っていた説明会を思い出した。

 
サーキット走行から試乗をスタート

 試乗コースとして用意されたのは、筑波サーキットのコース1000。車両はFZ1フェーザーに装着し臨んだ。
 
 まずは車両メーカー指定の空気圧にて走り出す。筆者にとってはミシュランは優秀なツーリングタイヤのイメージも強かったため、軽やかなハンドリングに最初は驚いたほど。リッターバイクにもかかわらずとても軽快でニュートラルな特性に好感が持てる。ハイグリップタイヤに時としてあるベタッとした路面への張り付き感も感じられずとても公道向けに感じ、技術説明の席で関係者が発した「ストリートユーザーへのラブレターです」という言葉を思い出した。なおメーカー指定空気圧時はストリートでの走行を想定しあまり深いバンク角や激しいボディアクションは控えたが、公道ワインディングは安心感を持って楽しめるであろうことが容易に想像できる体験となった。
 
 次にミシュランで指定するサーキット走行時用空気圧、フロント2.1、リア1.7で走り出す。すると印象が大きく変わり、路面に張り付く感覚がとても強くなる。荒れた路面や落ち葉、コケなど予期せぬことが多く起きる公道ではメーカー指定空気圧の方がいいだろうが、安定したグリップのある路面が見込めるサーキットならこちらの特性の方がアグレッシブに、そして楽しくスポーツができるだろう。空気圧に関しては好みの部分もあるが、空気圧でかなり印象が変わるため、その変化も楽しめるように思う。
 
 走りはスポーティなペースを十分に楽しめるといった印象。サーキット走行会などでは楽しい追いかけっこができることだろう。フロントにはかなりの安心感があり、スポーティな走りにチャレンジしようという気にさせてくれる。ペースが上がってくると試乗当日はとても気温が高かったためもあってかリアからニュルニュルと滑り出す感覚があったが、それも唐突なものではなく限界点がわかりやすいものだった。本格的な草レースに出ようとまでは思わないが、レクリエーションとしてのサーキット走行は十分以上に楽しめることだろう。

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鉄フレーム2本ショックや正立フォークなどコンベンショナルな装備、そしてSSモデルやFZ1に比べると重量もあるZRXダエグでは、最初からミシュラン指定のサーキット空気圧でコースイン。フロントタイヤからはベタッとした重さが感じられ、自然なハンドリングを得られないような印象を受けた。またハードブレーキングもFZ1のような安心感は得られず、ダエグ及び車重のあるビッグネイキッド系ではもう少し空気圧を高めで乗った方がよさそうな印象となった。公道走行時はメーカー指定空気圧にて、サーキット走行時は徐々に落として様子を見た方がいいだろう。 自走でサーキットへアクセスし、走行会イベントを楽しむといった使い方がピッタリなこのニュータイヤ。SSモデルに装着すれば、公道では軽快に楽しくワインディングを走れ、そしてコースでも十分エキサイティングな走りができるだろう。ただ今回の試乗ではGSX-Rの性格上、もう一つ上の「パワーカップEvo」も履いてみたい衝動にかられた。

 
装着するバイクに合わせた空気圧を

 ハイグリップとはいえ公道走行可能なタイヤなのだから懐も深いだろう、と思うかもしれない。確かに公道でワインディングを楽しむ分には、メーカー指定空気圧で走って問題がおきることはまず考えにくい。しかしFZ1フェーザーでの試乗後にミシュランが用意していたZRX1200ダエグに試乗した際、サーキット走行時の空気圧は車両やライダーに合わせていく必要があるのではないかと感じた。
 
 ダエグはサーキット用のミシュラン指定空気圧に設定されていたのだが、フロントタイヤからのフィーリングにかなりの重さがあり、FZ1フェーザーほどのハードブレーキングを自信を持って行うことが難しかった。車体やフォークの剛性、もしくは車体重量によるものもあるのかと思うが、ダエグにおいてはもう少し高めの空気圧で乗った方がよさそうな印象を受けたと共に、タイヤの特性に合わせたサスペンションセッティングの必要性も感じた。もちろん、バイクから受けるフィーリングというのは天候や路面状況、ライダーの好みなども大きく影響するため一概には言えないが、やはり剛性の高いスーパースポーツモデルをターゲットとしたタイヤであることは認識しておいた方がいいかと思う。
 
 最後にはGSX-R600にも試乗。そもそもこのタイヤは600cc~のハイパースポーツモデルを対象に設定した商品であるだけに、600ccスーパースポーツモデルはストライクゾーン真ん中である。こちらもミシュラン指定サーキット空気圧でスタート。スポーツを極めた高い剛性の車体のおかげか、低い空気圧でも不安定さは一切なくライダーが路面に近くなるバンク角でもとても安定している。しかしペースを上げようとすると、さらに高い性能(グリップやハンドリングを含めて総合的に)を欲している自分もいた。車体のスポーツ性が非常に高いだけに、サーキットを走るならばもう一つ上の「パワーカップEvo」を履いた方がより楽しめそうだ。一方で公道ワインディングにおいては軽やかな操作性と十分なグリップに不満を覚えることはないだろう。

 
 
大切な情報の覚書

 まずは価格だが、このEvoになってもメーカー出荷時の価格は前作と同様とのこと。実際の販売価格には差が出るだろうが、大きな出費増なく新作に手を出せる環境に感謝したい。ライフでは、公道やツーリングにおいては前作と同様を確保しているというが、サイド部はよりハイグリップなコンパウンドの採用により、深いバンク角を多用するサーキット走行会などの場面では前作よりサイド部のライフが短いことが予想される。サイズでは、一部外国車などに対応すべく180/60ZR17といったハイトの高いサイズもラインナップする。車体や使用環境に合わせて、許容リム幅の範疇で別サイズを試してみるのも有意義な楽しみ方だろう。

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様々な新技術や、そしてライバル各社との関係なども含めて関係者に質問する筆者。試乗しきれなかったが当日は国内外の様々なスポーツバイクが用意されており、幅広い車種を想定したタイヤだと感じさせられる。 「パワースーパースポーツEvo」はリアタイヤに新たにACT構造を採用することにより、コーナリングの安定感とハンドリング性能の向上を実現。ドライ・ウェットグリップも向上させた上で、想定使用環境をサーキットとストリート50:50に設定。公道でストレスなく気持ちの良いペースを楽しめることはもちろん、サーキット指定空気圧を設定することで走行会などでは広い接地面から生み出されるグリップ感を楽もうという狙いだ。

 
幅広く楽しめる優秀なオールラウンダー

 各社ともにこのカテゴリーには大変力を入れているため、いずれのメーカーのものでもオールラウンダー的性格づけをなされているのは事実だ。ミシュランの新作ではサーキットでの楽しい走行もこなしつつ、しかし公道での付き合いやすさや馴染みやすさに主眼を置いた進化を遂げているのではないかと感じた試乗となった。公道での気持ちの良い走りを強力にサポートしてくれた上、サーキットでも一定の性能を確保する「パワースーパースポーツEvo」、状況に合わせ空気圧やサスセッティングを合わせる楽しみもあり、大型スポーツバイクをもっと楽しみたいといったユーザーにとって選択肢に加えたいニュータイヤだ。


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