そんなバイクフリークたちが、2015年5月30日の日没、石川県の能登半島・千里浜に集まった。その数920台! SSTR(サンライズ・サンセット・ツーリング・ラリー)だ。
ルールはいたって簡単。太平洋岸のどこからでも日の出とともにスタート。コースは自由で、日没までに能登半島のゴール地点に到達すればいい。この面白くもバカげたバイクラリーの言い出しっぺは、あの風間深志さん。風間さんは、オートバイによる史上初の北極点・南極点到達、チョモランマ登山に挑戦し、世界最高高度記録(6,005m)という3つの世界記録を持ち、パリ・ダカールラリーに日本人として初参戦したバイク界の伝説のライダー、ミスター・レジェンドだ。
SSTRは今年で3回目、2回目の参加の私は、いつものツーリング仲間「R3」とともに参戦である。R3とは「六本木ローリングライダーズ 」の略で大した意味はないが、このところみんな年を取ってきたので、近々、「六本木老人ライダーズ」に変えようと思っている。15名あまりの仲間のうち「仕事の都合が……」とか「カミさんが……」とグズる連中を「この軟弱者めが」と罵倒しつつ昨年同様の5人の隊員の参加である。
さて、今年のラリーは昨年に比べてラクだった。ルール変更があったからだ。
昨年までは「ポイント制」で、ゴールまでに道の駅のスタンプを多く集めた数で順位が決まるため、ほとんどの参加者は必死こいてのツーリング。しかも同じ県の道の駅は最初が10ポイントで次からは4ポイントになるため 、早く隣の県に移動しないとポイントが稼げない。事前に隊員たちと入念に(ワイワイ酒を飲みながらだけどね)コース選定、「目指せ2ケタでゴール」の固い決意を確認したものだ。
昨年のラリーをふり返ってみる。東京・芝浦の埠頭で日の出を待ち、愛車と日の出を写メして事務局にメール。これでフェアなスタートとなる。首都高⇒中央高速を快調に飛ばして松本で下道に。安曇野の風景がグングン後ろに消える中、奥飛騨。順調にスタンプを稼ぎながら「おお、イケるじゃん」とニンマリ。ここからはU浅隊員のアドバイス通り、一気に飛騨高山に抜ける秘密の峠越え。何しろU浅隊員は、シルバーメタの「カワサキZZR」の逆輸入車にバイクナビを搭載、バイクの前後には小型カメラ「ゴープロ」を装着して道中を撮影。どこから見てもフル装備の立派なツアラーで、「このコースでポイント大量獲得だ!」と微笑む彼を信じなくて何を信じる。
ワインディングの坂道を快調に進み、いよいよ峠に差しかかって、ウン? ナント「冬期封鎖」のゲートが現われたではないか!
この地方、5月31日までが「冬期」だったのだ。強烈な脱力感――。これで2時間はロスして、100番以内のゴールは露と消え、草むらにヘタリ込む無口な5人。すっかりテンションが下がって「ま、時間内に到着すればいいか」のツーリングに切り替わった。
道の駅でソバなんぞをすすって、通過するSSTRのナンバーステッカーを付けたバイクを眺めるヤケクソ余裕。しかし、到着したタンデムの中年夫婦、後部シートの奥さんが、全速力でスタンプを押し、脱兎のごとく走り去るのを見て、「いかん、いかん、行くぞ」と再びペースを上げる。
糸魚川沿いに北上して富山に抜け、能登半島・千里浜には日没40分前にゴールゲートをくぐった。総走行距離は533kmで、順位は……聞いてくれるな。
そんな去年とはルールが変わり、今年は順位はナシのノーサイド。「5県を通過した証明のスタンプがあれば完走」となった。去年と同じ東京・芝浦を日の出スタートした5人。急ぐ旅ではない。首都高⇒東北⇒上信越を抜け、更埴から下道へ。トンネルを抜けると雪をかぶった白馬の絶景がドーンと広がる。この景色替わりを体感できるのがツーリングのだいご味。糸魚川から日本海を右手に観ながら海岸線を行く。ピーカンの天気で、これまで鈍色の日本海しか体験してなかったので、これまた感動だ。
サービスエリアや道の駅で、SSTRのナンバーステッカーを付けたバイクに会うと、自然に「どこからですか?」と声をかけ、そして「じゃ、気を付けて」と別れる。普段のツーリングではありえない光景だ。
そして余裕の日没前ゴール。千里浜は日本で唯一、波打ち際を二輪、四輪が走れる固く締まった砂浜。ゴールまでの5km余りを、1日のツーリングの興奮をクールダウンするようにゆっくりと走る。暗くなり始めたゴールでは、地元のオネーさんやオバさんたちが並んで「お疲れさまぁ~」と手を振ってくれる。子供たちの勇壮な太鼓も鳴り響く。
私が「SSTRは面白いぞ~」とそそのかしたため大阪から3人で参戦した友人のO津さんは「オバちゃんたちの出迎えに、涙で前が見えなかった」とウブなことを言っていた。そしてゴールの定番となった、「浅利汁とオニギリ」のサービス。疲れた身体においしさと親切がしみ渡る。そして920台のバイクは、お互いの完走をたたえながら、それぞれ近くの宿へともう一走りである。