ドゥカティといえば、バルブスプリングを持たない独特のバルブ開閉メカニズム、デスモドロミックを採用した挟み角90度のLツイン(Vツインとは呼ばず彼らはかたくなにLツインと呼ぶ)エンジンをトラスフレームに搭載した美しいバイクが代名詞だ。古くは750イモラ、900SSマイク・ヘイルウッドレプリカなどで日本車勢と対峙し、 ’80年代半ばには一気にモダンになった750F1で独自の世界を築き上げる。その後もロードゴーイングレーサーとも言える851、888でスーパーバイクを支配し、ご存じ’90年代にリリースした916~998シリーズではその人気を不動のものとした。
その後も999シリーズ、1098シリーズを経て、伝統のトラスフレームから革新的なモノコックフレームへとスイッチした1199パニガーレへとドゥカティワールドを継承している。スーパーバイクにMOTO GP技術をクロスオーバーさせたことが話題になった。またパニガーレとはイタリア、ボローニャにあるドゥカティの本社がある町の名前である。
レギュレーション縛りからの解放へ。 |
これまでも現在もドゥカティのスーパーバイクはレースと密接な関係にある。新型1299パニガーレではネーミングから想像出来るとおり排気量をアップ。1285㏄へと拡大しての登場となった。現行のスーパーバイクのレギュレーションでは4ストローク2気筒エンジンは1200㏄以下だから、スーパーバイクのレースホモロゲーションモデルからは1299パニガーレは外れる。もちろん現在でもドゥカティはSBK(スーパーバイク世界選手権)用に先代と同じ1199㏄エンジンを搭載するパニガーレRを用意している。
このパニガーレR、排気量こそ先代と同じだが、その内部は2014年にドゥカティが世界500台の限定販売をした1199パニガーレ・スーパーレッジェーラに搭載され、チタンコンロッド、スーパーバイク用ピストンなどが盛り込まれた本気仕様なのだ。その他も軽量パーツを採用するだけに押し歩いただけでパニガーレRの違いが分かるほど軽いという。
パニガーレRに関しては、レースベースという意味合いも持たせるため、保安基準に合わせたマフラー出口の角度を付けるに留め、あえて日本仕様の延長マフラーを非装備としている。これはサーキット走行やレースを前提としているので理解できる。その分、エンジン音などを拾うため、騒音での基準適合が厳しく、最高出力は70ps/5100rpm仕様となる。ホモロゲーションモデルと理解して、パフォーマンスパーツの装着とナンバー返納(もしくは未登録のサーキット専用として)フルパワー仕様に解き放つのが付きあい方なのだろう。
DUCATI 1299 PANIGALE S。ライダーの身長は183cm。(※写真上でクリックすると両足時の足着き性が見られます) |
1299パニガーレはここが新しい! |
では1299パニガーレの進化を紹介したい。まずエンジン。1199とストロークは同じだが、ボアを4mm拡大、ボア×ストローク116mm×60.8mmとさらに先代以上にオーバースクエア型に。ボア×ストロークレシオは1.91:1(歴代モデルでは916が1.42:1、1098が1.56:1、1199が1.82:1)。ボア径がストロークの2倍近いことがわかる。
内部パーツはこれによりピストン、シリンダーライナー、コンロッド、クランクシャフトも専用品となった他、バランス取りのためにスチールインサートがクランクに入れられた。
吸気系は真円換算でφ67.5mmの楕円スロットルボディーと、低中速、高速側で別れたツインインジェクターを継続採用。エクゾーストパイプはφ60mmパイプのステンレス製をつかっている。ポートからコレクターまでの継ぎ目部分の位置を変えるなど細かいアップデイトが施されている。
騒音規制の厳しい日本仕様では、カム駆動にサイレントチェーンを採用した他、ケースカバー類の肉厚をつけ、樹脂カバー類での透過音低減効果も上げている。また、排気系では1本出しだった延長マフラーを2本出しとし、内部構造を変更、スペックでは1199の135ps/8000rpmから175ps/8500rpmへ。最大トルクは109N・m/8000rpmから140N・m/8500rpmへと大きく伸張。本国仕様の205psには届かないものの、期待を膨らませる数値となった。
こちらはPANIGALE Sのレーシングカスタムといえる、パフォーマンスパーツ類を装備したPANIGALE S PARFORMANCE。レーシングコンプリートエキゾーストユニットキット(公道走行不可)560,952円をはじめ、カーボン製のリアマッドガード、スイングアームプロテクション、ジェネレーターカバープロテクション、クラッチカバープロテクション、リアショックアブソーバーカバー、レーシングフレキシブルレバーキットなどを取り付けている。 |
デザインは美しく。 シャーシもより機敏な方向に。 |
ぱっと見、1199パニガーレとよく似ているが、細部に異なる部分が多い。まずカウル。空力の改善を目的に改良されている。今や高速サーキットでは300km/hオーバーが当たり前だ。一昔前のMOTO GPマシンのような速度で走るSBKレースだけにエンジンパワーアップと同様に空力のリファインは大命題なのだそうだ。実際、1299パニガーレのフェアリングはサーキットで走るSBKマシンの型をベースに作られたという。排気量アップによるエアインテークの大型化、サイドフェアリングにも手が加わっている。シートカウルも一新。サイドの導風トンネルは従来よりも大きくなり、丸めたパネルで覆った、というイメージで、繊細な美しさが印象的。まるでフォーミュラーカーの空力パーツのようですらある。タンデムシートの取りつけも可能だが、当然、このテールエンドは一人乗り時で楽しむものだ。
シャーシもバランスよく進化。 |
これら外皮が包むシャーシは見た目にはちょっと判りにくい変更が施されている。まずキャスター角を0.5°起こし、24°へ。また、トラクション特性の向上とエンジン特性とのマッチングのためにスイングアームピボット位置を4mm下方に移動させているのも1299パニガーレの特徴だ。
今回メインで試乗した1299パニガーレSには前後オーリンズ製スマートECサスペンションが装備されている。フロントはφ43mmインナーチューブを持つNIX30ユニット、リアにはTTX36ユニットを装備。ステアリングダンパーを含め電子制御で、ライディングモードによりセットアップが変化するセミアクティブサスである。スタンダードの1299パニガーレはマルゾッキ製φ50mmインナーチューブを持つ倒立フォーク(フルアジャスタブル)と、リアにはザックス製フルアジャスタブルサスを装備する。
足回り以外での1299パニガーレSの特徴は、フルLEDヘッドライト、鍛造ホイールの採用などがある。
柔軟性アップが印象的なエンジン! |
ドゥカティのスーパーバイクの系譜らしい美しいボディーフォルムは相変わらず。とあるデザイナーの言葉を借りれば、単色のみで美しさを出すのは至難の業だとか。ドゥカティは基本単色で勝負してきたので、その実力はスゴイのだそうだ。ブランド力に目がハートになっているわけではないのです、念のため。
跨がると、車体のスリムさが印象的だ。Lツインをクランク横置きに搭載し、エアクリーナーボックスを兼ねるモノコックフレームがその幅と同程度しかないため、トレリスフレーム時代よりスリムだ。ライディングに好都合なシェイプとされた燃料タンクのエッジが必要最低限の幅を持っているだけで、痩躯な車体は独特だ。
厚みのあるシートフォームが安らぎある座り心地をもたらすおかげで、このバイクと対峙しても緊張感はさほどない。830mmというシート高ながら、車体の狭さが跨がりやすさを決定づけ、足つき性に不満はない。
低すぎずワイド目なスタンスを持つハンドルバーは上半身に窮屈さは無く、それに合わせた位置にあるステップも後退、高さともフィット感がよい。唯一、日本仕様のマフラーに着くヒートガードとブーツの踵が干渉するのが気になるのと、ペグの幅がもう少しあるとうれしいのだが……。
今回は富士スピードウエイが試乗の舞台だ。全開時間が長いストレート、複合の1コーナー、コカコーラコーナー、ヘアピン、300Rなど入り口で向きを決めたら全開脱出加速を楽しめるコーナーが点在し、100Rではラインを睨みながらの長い時間バイクを寝かせて曲がる醍醐味を味わえる。ダンロップコーナーから始まる後半セクションはクリップが見にくく、路面カントがコロコロ変わるテクニカルさ。オマケに天気がよければ巨大な富士山も楽しめる。
走行時、最後のセクションにウエットパッチが残るのが残念だったが、その分、パワーセクションではパニガーレ1299Sを全開で走らせられたのは収穫だった。
まずは5000rpmを目処にシフトアップし、ウォームアップ。この領域までのエンジンのトルク感、柔軟性は1199を確実に上回る。2500rpmぐらいからすでにアクセルとの一体感が出ているので、3000rpm目処でシフトアップしても充分なトラクション感を引き出せる。僅かな排気量アップでこれほどまでに変化したというよりセッティングをこうした方向にシフトしたのだろう。
比較で走らせた1199はエンジンの軽快さがタラララっと吹き上がるエンジンに誘われ、5000rpm以上をカジュアルに回転をひっぱりながら加速を得るという印象だったのに対し、1299は重厚な加速になったといえる。
ウエットパッチの上ではトラクションコントロールが介入するが、それでも最終コーナーはドライ。メインストレートに向けフル加速をする。この日、メインとなる1299Sと同時に1299Sにドゥカティパフォーマンス製パーツを取りつけた215ps仕様と1199も比較で乗れたので、1299Sをメインにそれらとの比較も紹介しよう。
1500メートル近いメインストレートはひたすらカウルに伏せ、ブレーキングポイントを待つ。その時点での到達速度は1299Sが280キロ程度、215psのモデルはメーター表示一杯の299キロをピット前で表示、135ps仕様の1199は260に届くかどうか、というところだった。馬力の大小にかかわらず、アクセルの開けやすさはどれも同じ。4気筒のようにパワーバンドに入ると何かに吸い込まれるようなワープ感や怖さがない。フラットなトルク感がドゥカティの持ち味でもある。開けやすい、だから気が付けば速い、という印象だ。
そこからのブレーキングで、オーリンズのセミアクティブはピッチング感をしっかり伝えながらも安定感の高いブレーキングを約束してくれた。250メートル看板を過ぎて少ししてからフルブレーキング開始。ツッコミ過ぎるとさすがに前のめり感がでるが、原因が掴みやすいので同じ過ちを繰り返すことがない。
1199に比べると向き変えの段階から旋回加速の時点まで1299のほうが手応えがある。重たいというのでなくコーナリングの手応え、という意味だ。1199とはディメンジョンが異なる部分なのか、エンジンの個性にして軽快。1299のほうもアクセル開度によってトルクが盛り上がるようにハンドリングもそうした動きに同調しているかのようだ。
この印象はセカンドでクリアするような低速ターンで感じられ、100Rのように速度が乗りかつ旋回時間が長いカーブではその手応えが安定感に変わり、思い描いたラインをトレースすることができる。また、300Rのように一度向きを代えたらあとは全開で速度を乗せて行くようなカーブでも同様だった。これが峠などでどういう印象になるか興味深い。
後半、ダンロップコーナーからの一部に残るウエットパッチ上を通過する時、瞬間的にトラクションコントロールが入り、不要なトルクをつまんでくれるので不安は無い。介入時はズバっとパワーが途切れるが、パワーが戻る時の制御は滑らかでガクガク感はない。
そしてどのコーナー、直線を含めて、ドゥカティ・クイックシフトの恩恵は大きかった。シフトダウンまでクラッチレバーの操作なしで行えることは悩み事を一つ解消できたような気分だった。また、エンジンブレーキ・コントロールに関しても、明快な作動を察知出来るわけではないが、シフトダウン時に一度も1300㏄近くあるハイパフォーマンスな2気筒エンジンにホッピングを経験しなかったことを思えば、相当な効果を生んでいるはずだ。
結論を言えばめちゃくちゃ楽しめた。その点でドゥカティが1299に込めた狙いは当たりだったと思う。楽しめる高性能。もちろんスキルは要するが、一部のプロフェッショナルに向けたモデルではないことは確かなようだ。
(試乗:松井 勉)