ライダーの身長は183cm。(※写真上でクリックすると両足時の足着き性が見られます) |
ヨーロッパのスポーツツーリングマーケットに投入されたFJR1300は多くのライダーに受け入れられた。資料によれば当時1万台規模だった市場を3倍近くにまで押し上げたのはこのバイクが登場した2001年のことだった。その2年後、ABSを装備するFJR1300Aを投入。リアブレーキペダルの操作のみでもフロントに制動が適量掛かる“ユニファイドブレーキシステム”も搭載された。そして2006年、クラッチ操作を不要としたFJR1300ASを加え、その世界観をさらに広げた。
アクチュエーターモーターにクラッチ操作を任せ、スイッチでシフトする。ASは言わばセミ・オートマティック搭載モデルで、ヤマハが取り組んだ、マン・マシン電子制御インターフェイス技術、G.E.N.I.C.H(ジェニック:Genesis of Electrical engineering for New Innovative Control technology with Human oriented)を封入するフラッグシップでもあった。
このミッション、YCC-S(YAMAHA CHIP CONTORLLED SHIFT:電子制御シフト)という。また、YCC-T(TはTHROTTLE 、つまり電子制御スロットル)も搭載された。
そして現行モデルは、2013年12月にモデルチェンジし登場している。今回走らせたFJR1300ASは電子制御シフトを備えるのはもちろん、クルーズコントロール、トラクションコントロール(以下TCS)、LEDポジション、LEDウインカー、グリップウォーマー、可変ポジションのシート&ハンドルポジションなどスポーツツアラーとして、プレミアムツアラーとして“10日間、3000km”コンセプトを貫きつつ、上質さを引きあげているのだ。
あ! Uターン、上手くなった。 |
試乗したFJR1300ASはベリーダークオレンジメタリックというブラウン系を纏うシックな一台だ。シルエットは先代からのスタイルを上手く踏襲しつつ、各部に新しさをちりばめることで系譜を踏まえたもの。キーを差し、電装系が目覚めると、ライトを縁取るようにLEDポジションが光り、カウル細部の造型にも細かく手が入っている事が解る。
跨がってみると、従来のポジションと同等で、シートは肉厚で幅があり、正直足つき性には不利な要素もあるが、一発でロングランが得意なことも伝わってくる。今回、自分の体格に合わせ、ライダーシートをハイポジション、3つのポジションから選択できるハンドルポストは標準位置でテストをした。
ブレーキレバーを握りスターターを押す。エンジンはスムーズさを増し、直列4発らしい回転フィールにさらなる質感が加わったようだ。久しぶりだったので最初こそスイッチ類の取り扱いに戸惑ったが、左スイッチボックスにあるシフトアップスイッチで1速にエンゲージさせる。先代同様FJR1300ASにはシフトペダルからの操作(あくまで電気的なスイッチなのだが)もできる。ペダル操作の場合、シフトパタンがボトムニュートラルであることが特徴だ。1速から5速までニュートラルを基準にすると全て掻き上げてシフトするタイプだ。筆者の場合、左足シフトを使うと自動的に左手がASでは存在しないクラッチレバーを握りにいってしまうので、今回はハンドルスイッチでのシフトに専念することにした。
YCC-Sのトランスミッションに、いわゆるトルコンATで見られるようなクリープ現象はない。アクセルを開けなければ半クラ状態にもならないので、クラッチレバーが無いだけでリアブレーキペダルを踏んでおかないと坂道では後退してしまう。スクーター同様、明確にアクセルを開けないとエンジンの力は後輪に伝わらない。少しアクセルを開けただけでそろりと走り出す。右手の操作が、クランク、ミッション、アウトプットシャフト、ファイナルドライブと介して後輪を回すのだが、ドライブトレーン全体に緻密さがありとても上質。なんだか1700になった日本仕様のVMAXのような高級な感触があるのだ。
以前、ASが苦手としていたUターンの感触を思い出そうと小旋回してみる。以前は速度が20km/hを割り、17km/hぐらいだろうか深く寝かせて向きを変えている最中にYCC-Sはクラッチを切り、乗り手を慌てさせたものだ。その対応策としてリアブレーキを引きずりながらアクセルを開ける、というクラッチを切らせない操作が必要だった。しかし新型はその制御が変更され、もうMT車並にUターンができた。車体サイズが一気にコンパクトに感じる。
市街地でのハンドリングは決して軽くは無いが、馴れてくるほどに一体感が増すタイプ。微速前進もクラッチ制御がより緻密になったようでアクセルオフ時にいきなりクラッチを切られてフラッとする場面もかなり減った。
翌日、高速移動、一般道移動をしながらテストを進める。巡航速度になったらスイッチ一つで速度をキープするクルーズコントロールはやはり便利だ。3速~5速、速度は50km/h~100km/hで、と作動するエリアは限定的だが、一度使ったらやめられない。また、電動スクリーンの形状、空力特性も上々で小雨程度ならかなりの効力を発揮する。また、カウル全体のプロテクション効果も上がった様子で快適性は高い。
FJR1300ASの乗り心地は基本的にスムーズだ。ただし、二人乗り、パニアケースへの荷物の積載などを勘案したサスペンションだけに、一人乗り、空荷で乗るとややハードに感じる場面もある。イニシャルプリロードを少し抜いた状態で走った方が道路の継ぎ目などで発生するピッチングをフラットにいなせるのではないだろうか。ASに備わる電子調整式サスペンションのダンパーはソフト、スタンダード、ハードから選べる。今回の使用ではソフトでは、バネに対してダンパーが弱めで、ピッチングが大きく、スタンダードでは路面のあたりがやや固い。ハードではびしっとした乗り味になるものの、乗り心地にコツコツ感がつきまとう、というもの。イニシャル、ダンパー(伸び、圧側とも)ユーザーの好みに合わせてイニシャルセッティングを変更できるのでその辺を探す事もFJR1300ASを楽しむツボになりそうだ。
クラッチ操作を必要としないオートシフトだが、シフトチェンジは基本的にライダーのマニュアル操作を求めてくる。自動変速はしてくれない。ただし、左側のスイッチでSTOP MODEを選択すると、交差点での停止時など1速まで自動的にシフトダウンしてくれる機能がついている。最初、アップもダウンも左手の人差し指、親指で操作していたが、そのモードを使えば、市街地では停止するまで減速と周囲への注意喚起にできるので快適だった。
高速道路でも巡航から追い越し加速まで5速ホールドで何ら不満がないパワーの持ち主であるだけに、シフトワークは市街地、ワインディングなどが中心となる。シフトそのものはショックの極めて少ない上質なもの。アクセルを閉じる必要もないのだが、シフトアップに合わせアクセルを閉じたり、シフトダウン時に回転を合わせるように煽ったりすると、よりMT感覚に近づくようだった。
ワインディングでも重厚な走りを見せるFJR。 |
ワインディングにも足を踏み入れた。FJR1300ASのブレーキのタッチ、制動力はスポーツバイクのそれとは違い、ガツンとは効かないように躾けられているようだ。二人乗りを考えれば理想的なブレーキだ。頼りがいのある制動を発揮するリアブレーキを活かし、速度と姿勢を積極的にコントロールするほうがFJRをよりそれらしく走らせることができるだろう。5速ミッションの2、3、4速を中心に山道を走る時、しっかりと減速を終えコーナーへとアプローチするとより軽く自然なハンドリングを見せてくれた。ブレーキを残すとやや頑固さがでるから、攻めても攻め過ぎるな、とFJRは語りかけてくれる。ASの操作、シフトもスポーティーな走りにも納得できるもので、山の涼しい風を浴びながら標高を上げたり下げたりするのは楽しい仕事だった。
T、Sの2モードが選択できるエンジン特性は、Sでよりダイレクトにアクセルにレスポンスする。そのモードを使って山道を駆けると、タイトターンの出口でアクセルを開けた瞬間、トラクションコントロールがあることを思いだし、リラックスできる。このクラスにはもはやあって欲しい装備である。
峠道でも一人乗りだとややハードな足の設定だな、と思う点は否めない。価格的な課題もあるだろうが、次期FJRにはセミアクティブサスの採用を期待したい。
結論としてFJR1300ASはなるほどコンセプト通りだと思った。クールな外皮の中には、タンデムで10日、3000kmを走破するようなタフな要素が詰まっている。また、ASの恩恵はタンデム時により開花するのではないか。クラッチ操作が無い分、慎重な発進、ブレーキングにライダーは集中出来る。ヤマハが造るヨーロッパ育ちの実力、休日、タンデムライドが待ち遠しい、という人は一度このバイクを試してみることをオススメしたい。
(試乗:松井 勉)
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