「『なぜR1を買ったのか?』という問いに、『デザインが好きだから』『クロスプレーンエンジンが好きだから』などと、R1を愛してくれる方にもう説明をさせる必要がない、『なぜ買った?』と聞かれないものを作りたかった。じゃあ、サーキットだけで一般路は乗れないのか。開発陣皆が最新のYZR-M1に試乗した時、この方向でも一般路で乗った時のFUNは損うことは絶対ない、という確信を得たんですね。そこで思い切った物づくりを進めることが出来た。
開発のやり方もこれまでとは違い、ヤマハのテストコースだけでなく、要所要所で国内外のサーキットに持ち込みました。日本ではスポーツランドSUGOで出来栄えを確認。詳しく言いますと、SUGOの第一コーナーと馬の背の突っ込み、ここで他車よりも奥まで行けて、さらにそこから自由なライン取りで他車をパスしていけるクルマにする。そしてレーシングライダーによる開発の参加です。藤原儀彦さん、吉川和多留さんに、このクルマの方向性を決めるコンセプトメイクから加わっていただき、ジョシュ・ヘイズ選手、バレンティーノ・ロッシ選手にも試乗してもらい、コメントをいただきました。勝つために、テクノロジーでも、MotoGPマシンからのフィードバックをこれまで以上のレベルで持ってきてます。とにかく出力UPとロス馬力の低減、これを徹底的にMotoGPの技術で作ってきました。それと、サーキットで戦うなら軽いというのは大前提になりますから、徹底的な軽量化をしました。今回は他社がやっていることは全部やる、他社がやってないこともやる、という意気込みでやりました。
我々の持つテクノロジーの全てを投入して出来上がったマシンです。日本製スーパースポーツの復権。メイド・イン・ジャパンの性能とクォリティを感じていただきたい!」
新しいYZF-R1/R1Mのプロジェクトリーダー、藤原秀樹氏が、試乗前の説明で、とても熱く語った。
試乗場所に富士スピードウェイのレーシングコースを選んだところにも、レースを主眼に作り上げ、その完成度に自信を持っていることが伺える。この日の天候は曇りながら、たまに陽の光が届く時間もあった。路面はドライ。試乗時間はR1とR1M、各30分とそれほど長くはない。私は仕事柄サーキットを走ることはあれど、レース出身のライダーではない。だから、『サーキットで勝てる』部分を100%正確には伝えられないだろう。それを前置きしておきたい。それでも、短い時間ながら私が乗って感じた、このコースでの速さ、操縦性など正直に記したいと思う。
YAMAHA YZF-R1M 試乗 200馬力のエンジンが嘘のように扱いやすい。 |
YAMAHA YZF-R1M。ライダーの身長は170cm。(※写真上でクリックすると両足時の足着き性が見られます) |
最初はR1Mの試乗からだった。フロントサスペンションにはベーシックなR1が採用しているKYB製フォークとは違う、オーリンズ製の電子制御フォークが装着されて、リアもKYBではなくオーリンズ電子制御ダンパー。走行状況を判断してSCU(サスペンションコントロールユニット)が、前後サスペンションの伸・圧減衰力を調整する。カウルはより軽量なドライカーボン製のアッパー&サイドカウル、フロントフェンダー。アルミタンクはカラーリングされておらず、バフがけしてクリア塗装で仕上げた仕様。輸入をするプレストコーポレーションの小売価格で、R1より81万円高い設定だ。リアタイヤは通常版の190/55ZR17より太い200/55/ZR17サイズのブリヂストン製ハイグリップタイヤを履くが、今回の試乗車は同じサイズの、スリックタイヤ(ブリヂストンGP2)を装着していた。
跨ると、そのタイヤサイズの違いもあってか、R1MはR1より足つきが若干キビシイ。身長170cmで短足だと、関節を意識しながら一生懸命伸ばしても両のつま先が同時には気持ち届かない。R1はギリギリつま先が届く。ハンドルは近めでやや開いた感じだった旧型R1より、手前に絞られた印象で、サーキットユースを考慮したところが伺える。それでも、写真で見た印象より、実際はとてもコンパクトに感じた。同じ4気筒BMW S1000RRより小さく、まさに600の車体に1000のエンジンといったもの。
エンジン特性だけでなく各制御の特性も統合して4段階変えることが可能で、それはA(ドライコンディションのサーキット)、B(サーキット向けながらややソフト)、C(市街地も範囲に入れる)、D(ツーリングや雨天)とある。その特性は細かく違う。もちろん自分好みに各制御を変更することも出来る。スリックタイヤを履いてドライコンディションだから走り出しはAでスタートした。
走るペースを徐々に上げていき、最初に驚いたのは、クロスプレーンクランクの200psエンジンが嘘のように扱いやすいことだ。どの回転数でもスロットルを開けた分だけ、それ以上も以下もない感じで、制御が楽だ。唐突さがほとんどない。でも、そのパワーに軽い車体(装備重量はR1=199kg、R1M=201kg)なのだから、開けると、面白いほど(コワイほどではないのがミソ)速い。速度メーターの数字はものすごく忙しく上がり続けた。バイクの3次元的な動きを6軸制御センサーで検知して、車速もあわせてコンピューターで高速演算して、最適なエンジン出力にしているというのが、効いているのだろう。リーン中はバイクが直立している時と変わる。スリックタイヤは、深いリーンアングルでのグリップが公道タイヤとは段違いで、積極的にコーナリングスピードを上げていって地面が近くなっても安定感と安心感はバツグンだ。
R1Mには通常の制御に+ERS(電子制御サスペンション)の制御もあり、減速時にはノーズダイブもコントロールされ、進入時に最適なタイヤグリップを得られるようになっている。最終コーナーを立ち上がる時には、リフトコントロールが働いて、トラクションを失うことなく、右手の絞りに合わせ矢のように加速。クイックシフトシステムのおかげで、クラッチ操作をしなくても、スロットルオフをしなくてもシフトアップ。加速に集中できる。最終コーナーでそれほど頑張ってなくても、スロットルを開けギアチェンジをしていけば、約1.5kmのメインストレートにあるメインスタンドの手前で、速度の数字は“299″で止まり、その数字はそこで打ち止めだけど、実際はそこからジワジワと伸びていくパフォーマンス。その速度から1コーナーに向けてフルブレーキングする時のブレーキの効き、安定した姿勢は、それまでの運動エネルギーがまやかしだったように感じさせた。
トラクションコントロールだけでなく、バンク中、リアタイヤが横にスライドするのを抑制するスライドコントロール、フロントブレーキレバーの入力に対して、車体が傾くほどリアブレーキの入力を小さくする(コーナリング時の速度コントロールに役立つ)UBS with ABSなど、電子制御のカタマリだ。それを難しく考えず、体の赴くままに乗っただけの印象として、とにかくブレーキ、コーナリング進入時の軽快感、そこからの旋回性が素晴らしい。早めにスロットルを、それもややラフな操作で開けて立ち上がろうとしても、横滑りせず、どんどん車体が前に進む。この容易に取り出せる速さとハンドリングは、国産直4エンジンのライバルだけでなく、海外のスーパースポーツのどれにも似たものがない。
YAMAHA YZF-R1 試乗 高性能でありながら、尖ったところがない。 |
YAMAHA YZF-R1。ライダーの身長は170cm。(※写真上でクリックすると両足時の足着き性が見られます) |
次に、電子制御サスペンションのない通常のR1だ。スリックタイヤの感覚で行くと大変なことになりそうなので、抑え気味に走り始めた。乗れる人なら、もしかしたらタイムの差が出るのかもしれないけれど、私はこちらでも充分だ。サスペンションの違いと、タイヤの差はあれど、基本はそれほど変わらない。もちろん、こちらも面白いように速くて乗りやすい。高性能でありながら、尖ったところがない。本当はいろいろな制御に助けられているのだろうが、自分の思うようにコントロールしている感じが、楽しくてたまらない。タイヤのグリップ力の違いがありコーナリング速度もスリックほど上げられないけれど、意識せず、わざと不用意な走りをしても、ヒヤっとすることなく、そして、特有のコントロール性とバツグンの旋回性を見せた。途中、ピットインして、AからCに変更。Cにするとスロットル操作によるエンジンフィールがマイルドで、サーキット走行がもっと容易になったよう。ビギナーなら、Cから始めてもいいかもしれない。
口さがない人がいたなら、私の走りは「そのレベルで何が判る」と言われるものかもしれない。この試乗時間とシチュエーションで各種制御に対しネガティブなところをほとんど見つけられなかった。しかしR1Mを30分、R1を30分乗った後、同じ時間もうワンセット乗りたくなった。今度はこう乗ろう、ああ乗ろうと考えながらもっと乗りたい。背筋だけでなく気持ちも前のめりにさせた。そう思わせることが速さへの近道である。玄人だけのスペシャルマシンではない。それを知ることが出来た。もしかして、いやもしかしなくても、この先にYZR-M1があるのだろうか。今度は公道でも乗ってみたい。
(試乗:濱矢文夫)
| ヤマハのWEBサイトへ |