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住友ゴム工業

「疲れない」技術

 大型バイクの使用用途は、サーキットに特化でもしない限りほぼツーリングといって良いだろう。中には通勤などに使う人もいるだろうがそれは少数派のハズであり、ダンロップでの調査でも751cc以上の排気量を持つバイクでは80%の人がツーリングに使っているという結果が出ている。バイクは大型化するほどに趣味性が高まる傾向にあり、ひいては日々の実用性よりも濃密なツーリングの時間の相棒として使われることが増えるわけだ。よって各タイヤメーカーがこのツーリングラジアルタイヤカテゴリーに力を入れるのは当然のことであり、これにより競争が生まれどのメーカーでもレベルの高い商品を展開している。
 
 そんな中ダンロップでは前作「ロードスマートⅡ」の後継としてさらに総合性能を高めたこの「ロードスマートⅢ」を発売。一般的に求められるロングライフやウェットグリップ性能を「Ⅱ」比でさらに高めながらも、新たなアピールとして「疲れにくい」ということに着目している。
 
 大型バイクライダーの高齢化が進み今や約半数が50歳以上という状況の中、シートの座り心地を向上させる「ゲル内蔵クッション」やスロットルを保持しやすくする「スロットルアシスト」といった商品が人気となり、ではタイヤメーカーとしてこういったニーズにどう応えるか、の答えがこのタイヤというわけだ。
 
 疲れなさの追求のためには(株)疲労科学研究所の協力も得て徹底した疲労度検証を実施。各年代のライダーにそれぞれセンサーを取り付け、心拍変動をリアルタイムに解析し、疲労・ストレス度を数値化して評価した。これによると年代によっては「Ⅱ」比で実に半分の疲労・ストレス度しか受けていないという結果も出ており、疲労・ストレス度の低下が数値で実証されている。
 
 これを実現するためにはフロント・リアそれぞれのタイヤプロファイルを見直す共に、側面のビードの構造変更、パターンの変更などを施してきた。
 
 タイヤプロファイルは、「Ⅱ」に対してフロントのラジアスを小さく、リアのセンター部のラジアスを大きく変更させることで前後のロール速度を最適化。より自然なハンドリングを実現することでハンドルへの入力を減らすことにも成功している。
 
 内部構造としてはジョイントレスベルトの巻き付け量を最適化し、側面のスリムハイビードAPEXの根元部分を太く、先端部分をより細く長く進化させることで、ギャップ通過時などにはタイヤ全体がたわんで衝撃を吸収させている。
 
 ウェット路面での性能も向上させた新パターンは、フロントでは直立に近いバンク角では剛性を下げて軽快な操舵を、そして深いバンク角では剛性を上げしっかりと踏ん張る特性を追求。リアも同様な剛性均一化を施したおかげで寝かし込みから深いバンク角まで変化なくスムーズに寝かせることが可能となった。
 
 このような進化により、ダンロップは「ロードスマートⅢ」においてツーリングタイヤの「疲れなさ」というファクターにフォーカスし、ツーリングタイヤの大切な要素として高いレベルでそれを追求しているのである。

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「Ⅱ」に対して各グルーブを繋ぐような新しいグルーブが追加されたような「Ⅲ」のトレッドパターン。これによりパターン剛性の均一化を追求し、排水性だけでなくハンドリングへの変化が少ないバンキングの実現や偏摩耗対策にもなっている。また直立時のパターン剛性を下げることでギャップの吸収性も高めるなど、グルーブ配置も「Ⅲ」の求める性能の実現に大切な役割を担っている。 用意された試乗車はCB400SFやニンジャ400、グラディウス400などミドルクラスから、ビッグネイキッド系やZX-14Rのような旗艦モデルまで様々。多くのモデルに乗ったが、この限られた状況ではあるものの「このモデルにはこのタイヤは合わないな」などと感じることはなかった。どんなバイクでもツーリングという使用用途ならばしっかりと応えてくれるだろう。

 
日本専用仕様の強み

 前作「ロードスマートⅡ」も広く愛された優秀なツーリングタイヤであったし、一部サイズについては「Ⅲ」の登場後も併売される見通しだ。あらゆる路面状況や使用環境・車種に適応した懐の深い「Ⅱ」はツーリングライダーにファンも多かったことだろう。しかし、実は「ロードスマートⅡ」は世界共通タイヤだった。よって世界中からの要望に高次元で応えようとしたタイヤであり、それが日本の使用状況にベストマッチだったかといえば、必ずしもそうではなかったという。
 
「ロードスマートⅡ」を履いたことがあるライダーならば気づいているかもしれないが、ツーリングタイヤとしてはスポーティな味付けもあり場合によっては切れ込んでいくかのような感覚を得ることもあった。その切れ込む感覚を利用してコーナリングにつなげることができれば良いのだが、のんびりとツーリングしている時にはむしろ切れ込んでいくフロントタイヤをハンドルで押さえていたツーリングライダーもいたのではないか。
 
 しかしこれはこのタイヤの特徴であった。ヨーロッパのライダーはそういったアグレッシブなハンドリングを好む傾向にあるため、大きなマーケットであるそちらの趣向を優先させたのだった。またヨーロッパではタンデム・荷物満載で長距離の高速走行といった使用状況も珍しくなく、ツーリングタイヤにはそんな過酷な状況でもへこたれない性能が求められているという。よってタイヤの剛性も必然的に高められていたそうだ。
 
 ところが新作「ロードスマートⅢ」は、商品名とパターンは共通としながらも内部構造は各地域に合わせて専用チューニングをしており、よって日本で販売される「ロードスマートⅢ」は日本の使用状況に合わせたスペシャルなのである。細かな峠道や荒れた舗装林道、もしくはストップ&ゴーの多い市街地といった状況が多く、反対に超高速での巡航はまずない日本のツーリング環境。これに合わせたチューニングを施すことで、商品名としては世界共通ブランドながら日本市場バージョンは日本の使用状況、ライダーの好みに寄り添った専用品というわけで、「Ⅱ」よりもさらに多くの日本のライダーに快適でストレスフリーなツーリングを提供することだろう。

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ゲストには上田昇さん、北川圭一さん、八代俊二さん。お三方とも異口同音にニュートラルで優れた総合性能がツーリングをサポートしてくれるとコメントしてくれた。 自分のバイクに「ロードスマートⅡ」を履いているだけに、「ロードスマート」ブランドについては聞きたいこと(や言いたいこと)が多くあった筆者。プレゼンが終わった後も根気よく答えて下さったのはタイヤ技術本部第二技術部の松並俊行課長。どんな高級車や高性能車でも地面に接しているのはタイヤだけ。ライダーとしては最も興味を持っておきたい部分なのだ。

 
残念ながら雨だったが……

 実は筆者は前作「ロードスマートⅡ」を装着したFZ-1フェーザーを所有しており、「Ⅱ」については自分なりのインプレッションをもっていた。そしてそれが「Ⅲ」の発表会で説明されていたことと一致していて驚かされた。
 
 確かにツーリングにおいて「Ⅱ」は何も問題なく良く機能するタイヤで、特に高速道路の巡航やタンデムでの使用では全く不満がなかったのだが、説明された通り、日本の細かな峠道ではちょっと剛性過多に感じるような、もっとしなやかに路面を掴んでほしいといった要望を持っていた。またこれはFZ-1の車両としての特性もあるかもしれないが、深めのバンク中にフロントからのインフォメーションが少なく感じ、路面状況が刻々と変わる公道においてはヒュッと巻き込んで転倒しそうに感じたこともあった。
 
 剛性面及び、「切れ込み」に感じるライダーもいるかもしれないアグレッシブなハンドリングはヨーロッパの趣向に応えたもので、確かにその通りの特性が与えられていたと聞かされ、日本市場専用チューニングが与えられた「Ⅲ」への期待がますます高まる。
 
 試乗日はあいにくの雨だったが、多彩な試乗車が用意されたサイクルスポーツセンターでさっそく走り出す。このコースはサーキットのようにハイグリップ路面ではなくあくまで公道と同じような舗装であり、アップダウンもあれば所によっては滑りやすい路面やデコボコもありツーリングタイヤのテストにはうってつけといえる。
 
 進化を肌で感じるため、最初は「Ⅱ」を装着したCB400SFで走り出す。先に書いたように「Ⅱ」はツーリングタイヤとしてはクイックな特性も持っていたように感じていたが、400ccクラスに装着して雨の中の無理しない走りではそんな様子も感じられず、何も不満の無い性能を感じることができた。400ccのパワーであればコーナー立ち上がりでそれなりにパワーをかけてもしっかりと踏ん張ってくれ、印象としては「あれ?Ⅱで十分なのでは?」というものだった。
 
 すぐに「Ⅲ」を装着した同じCB400SFに乗り換えて走り出す。タイヤが温まるまでの完熟走行ではあまり違いを感じられなかったが、徐々にコーナリングを楽しみ始めるとなるほど、さらにハンドリングがニュートラルなのが感じられる。ウェット路面のためバンク角も浅くスピードも遅いが、それでもバイクの重心がより後ろに移動したような感覚があり、特に雨中では安心感が高いと感じた。また「Ⅲ」のセールスポイントである「疲れなさ」を実現しているタイヤの吸収性も感じられた。あるコーナーではアスファルトの下に竹やぶから竹の根っこが伸びてきてしまっているような細かなデコボコがあったのだが、ここを通過する時の突き上げ感は「Ⅲ」の方が明らかに少なくタイヤが路面のデコボコをいなしてくれているのがはっきりとわかる。
 
 なお、こういった連続してデコボコを通過するような状況ではハンドルにもプルプルとしたフレが伝わってくることがあるが、「Ⅲ」ではそれも感じられず、吸収性とハンドリングのニュートラルさの組み合わせにより安心感も高まっていると感じた。「Ⅱでも十分なのでは?」との思いは薄れ、やはり新作は進歩しているのだな、と感じた次第である。
 
 続いて大型車、CB1300SFにも試乗。路面はさらにウェット度合いが進み重量車を走らせるにはおっかなびっくりの状況になってきていたが、慣れていくとこちらでも吸収性については「Ⅱ」と「Ⅲ」の違いを感じることができた。しかしハンドリングについてはある程度バンクさせ、アクセルのオンオフをすることで違いが生まれてくるのだろう、雨の中では大きな違いは感じられなかった。また進化したウェット性能は心理的な安心感は与えてくれるものの、雨中走行で本当にタイヤが滑り出す領域までワインディングを積極的に走る人はいないだろう。試乗時も限界を試すようなことはとてもする気になれず、ただ「Ⅱ」よりもさらに高いウェット性能を持っているという安心感を楽しみながら走らせた。
 
 この他MT-09及びニンジャ1000も走らせたが、これら高荷重設定のモデルでも吸収性の部分では特にはっきりと「Ⅲ」の恩恵を感じることができた。ダンロップの謳う「疲れにくさ」はどんな車種に装着してもその恩恵にあやかれるのではないかと思う。
 
 日本の道にあったニュートラルなハンドリングや、前後輪が揃って曲がっていくスムーズなライン取りなどの体験を天候が許してくれなかったのが悔やまれる。ドライ路面で乗ればまた違った面からの進化も感じることができたことだろう。

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豊富なサイズラインナップでぜひあなたのバイクにも!

 雨の中での走行に限られているとはいえ確かな進化、及びより日本の市場に歩み寄った変更が施されていると感じることができた「ロードスマートⅢ」。メインのアピールである疲れにくさの追求以外にも「Ⅱ」比でリアタイヤの耐摩耗性44%アップや、高速安定性の向上などツーリングタイヤに求められている性能全体を向上させているタイヤといえる。さらにサイズラインナップもフロント7種、リア12種と豊富で、400ccクラスから大型車、14~15インチのスクーターサイズ、Vレンジの18インチというCB1100用サイズなどと、数多くのバイクに装着できるようになっている。
 
 さらにうれしいのは価格が「Ⅱ」と変わらないということ。末端価格は「Ⅱ」と違うだろうが、メーカー出荷時の価格は「Ⅱ」と同じだというから大幅な価格上昇はないはずで、ユーザーとしては手を出しやすいというのも利点だ。
 ツーリングは大人のライダーにとってご褒美みたいな、大切で濃密な時間。これをよりストレスなく、快適に、そして「疲れなさ」によりさらに行動範囲を広げてくれるというダンロップの新作。このカテゴリーを検討しているならば選択肢に加えて間違いないだろう。


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