●インタビュー・文-西村 章 ●撮影─松川 忍 |
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2014年のヤマハ陣営は、バレンティーノ・ロッシがランキング2位、ホルヘ・ロレンソは3位という成績でシーズンを終えた。2013年からヤマハ陣営に復帰したロッシは年齢を感じさせないしたたかな強さで着実に復調し、また、ロレンソに対しては「万全の状態の彼ならマルケスを止めることができる」と期待する声も多い。その彼らが操るYZR-M1のマシン開発指揮という重要な任務を担っているのが、ヤマハ発動機MS開発部モトGPグループ主査・津谷晃司氏だ。YZR-M1の開発プロジェクトリーダーを務める津谷氏はYZR500時代から車体開発を担当し、2013年(ロッシがヤマハに復帰した年)から現在のプロジェクトリーダーの職務に就いている。ライバル陣営に追いつき追い越せとマシン面からライダーの走りを支える技術者たちの戦いについて、当初に想像していた以上に赤裸々な話を伺うことができた。
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―2014年シーズンのヤマハを振り返ると、ロッシ選手が比較的いいスタートを切ったのに対し、ロレンソ選手はかなり苦労をしていたように見えました。開幕戦ではオープニングラップで転倒、第2戦ではジャンプスタートと、彼には珍しい失敗が続きました。なぜ、あのような事態が発生したのでしょうか。 |
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「原因はいくつかあると思います。ひとつは、ホルヘ自身も公言しているように、開幕時に万全な体調ではなかった、ということが挙げられます。彼は2013年にアッセンで大けがをし、それと他の古傷も合わせて、シーズンオフに3箇所の手術をしました。そのため、充分なトレーニングを積むことができず、コンディション面で若干の準備不足のままプレシーズンテストから開幕を迎えてしまいました。 |
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マシン面について言えば、私たちのサポートが足りなかったのは間違いなくて、そのひとつが、タイヤへの適合が遅れた、ということです。2014年のタイヤは2013年よりも加速のトラクションエリアではすごく安定性があって良くなっていたのですが、エッジグリップがその部分とややトレードオフになっていたような印象があります。ご存知のとおり、ホルヘはもともと高いコーナリングスピードを維持して走る選手で、我々のオートバイもそうやって乗ってもらうことで速く走れる、と考えています。その点で、2014年のタイヤ性能を活かすマシンの適合が遅れてしまった、という側面は否めません。 |
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―たしかにロレンソ選手は、開幕当初からタイヤやマシンに関する課題をよく指摘していましたが、第6戦のムジェロでは最後まで激しいバトルを続け、ようやく本来の走りを取り戻したような印象があります。 |
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「開幕時に払拭しきれなかったいくつかの課題が、ようやくあのレースのあたりで落ち着いてきた感触がありました。駆動系しかりタイヤへの合わせ方しかり、また、ライダーのコンディションも戻ってきたのがムジェロのレースでしたね」 |
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―次のアッセンは、2013年の負傷の印象がよほど強烈だったのか、決勝レースで雨が降ってくるコンディションに対して「怖くて走れなかった」という発言がありました。自分の恐怖心を正直に告白したのは非常に勇気のある言葉だと思いますが、プロフェッショナルアスリートの発言という意味では驚きも感じました。津谷さんは、あのことばを聞いてどう感じましたか? |
―シームレスとコンベンショナルでラップタイムにさほど大きな影響は出ない、という意見もあるようですが、津谷さんはそこをどう考えていますか。 |
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「アップ側を入れてきたときの印象で言えば、たとえばラップタイムが劇的に上がるのかというと、そんなことはないです。ただし、レースディスタンスを考えると、暴れるオートバイと戦いながら走るライダーに対して貢献はできると考えています。たとえば、バイクが寝た状態で駆動力が変化してバイクが暴れたときに、それを収めるためにはライダーの努力が要求されます。百発百中で挙動を抑え込めれば問題はありませんが、人間のすることなので、ときには失敗もありえます。それを機械的に安定させることができるなら、レースディスタンス全体でのタイム改善はあるといえるでしょう」 |
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―冒頭に話のあった駆動系のフィーリングとシームレスシフトは関係しているのですか? |
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「関係ないですね。2014年から我々はダウンシフトでクラッチレバーを使わないタイプに変更したのですが、その作動を安定させるためにトレードオフになる部分があって、バランスを取って最終的に収めきるまでに7~8戦かかった、ということなんです。ダウン側がシームレス化するとシステムに要求されるものも変わってくるので、そこはまた改めて調整することになるでしょうね」 |
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―シームレスのパテントについては、ヤマハはオリジナルで開発しているのですか。 |
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「そうです。私たちはシームレスに関しては後発で、他社に対して遅れをとっていて、既存のパテントを回避しながら全然違う構造で同じような性能を得なければいけないので、そこは正直に言って少し苦労をした部分ではありました」 |
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―2015年のシーズン後半からECUソフトウェアの開発が凍結されますが、その影響は? |
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「今年に関して言えば、後半戦からバイクを良くする手段がひとつ減ることになるわけですから、残念だという印象はありますね」 |
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―エンジンについては、2014年からシーズン中の開発が凍結されましたが、これの影響はどうでしたか。 |
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「『ここをもう少しこうすれば速くなるのに……』ということが技術的にわかっていながら、それをシーズン中に盛り込めないのは、追いかける立場の技術者としては辛いですよ」 |
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―技術開発面では、クロスプレーンクランクシャフトというMotoGPで培った技術がYZFシリーズやMT-09などに転用されて、バイクユーザーへ大きくアピールしています。MotoGPの技術は今後も市販車へフィードバックされていくと思いますか? |
「駆動系の技術は、候補のひとつでしょうね。あるいは、シームレスミッションやクロスプレーンといった大きな技術ではなくても、地道な作り込みの方向や要素技術等、バイクを良くする方法は市販車のフィードバックに常に活かされていると思います。たとえば、YZF-R1の新モデルは私も開発初期から話に加えさせてもらったので、車輌の性能面やスペック等でYZR-M1の思想がかなり反映されていると思いますよ」 |
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―フォワードレーシングのピットボックスには、ヤマハの技術者の人がいつもいるようですが、チームに対してどこまで関与をしているのですか。 |
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「基本的にはエンジンのリースなので、エンジン性能を存分に発揮してもらうために、性能や機能の担保という点ではしっかりとサポートをしています。しかし、車体に関しては、こちらからは彼らに介入しません」 |
―今年のセパンテストは、一回目では四日目にテストライダーがミシュランテストを行い、二回目のテストでは四日目にレーシングライダーもミシュランテストを実施するというスケジュールです。ミシュランテストの準備は順調ですか? |
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「準備は進めていますが、まだ予測できないところはあります。こういうタイヤ特性なんだな、ということはかなりわかってきたのですが、ミシュランもこの一年で進化をしていくでしょうから、我々もそれに備えて現在はデータを蓄積している段階です」 |
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―セパンでテストをするライダーは中須賀選手ですか。 |
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「中須賀君とコーリンです。中須賀君には引き続きオートバイの開発をしっかりとやってもらい、コーリンにはミシュランタイヤの見極めと評価をしてもらう、という分担になっています」 |
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―では、最後に2015年シーズンに向けた抱負を聞かせてください。 |
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「2015年こそチャンピオンを獲れるように、今は開発陣一同が全力でがんばっています。2年連続チャンピオンのマルケス選手をはじめ、強力な他のライバルたちに負けないように一所懸命準備をしています。開幕戦では、最高の形でシーズンのスタートを切りたいと思っています。是非とも我々に注目をしていてください。応援してくださいね!!」 |
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