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Alpinestars
EICMAの会場から少し離れた衝突試験場で行われたアルパインスターズ/TECH-AIRのプレゼンテーション。その様子を撮影した動画。こちらで動画が見られない、もっと大きな画面で見たいという方は、http://youtu.be/X3tREs_ycckで直接どうぞ。

 アルパインスターズは、2009年からTECH-AIRを搭載したレーシングスーツをMotoGPに実戦投入している(2011年のMotoGPシーンでのTECH-AIRの動画2013年のMotoGPシーンでのTECH-AIRの動画)。しかしシステムの開発がスタートしたのは2001年であり、システムを構築したのが2004年と、じつに10年以上もの年月を費やし、バイクにおけるエアバッグを開発し続けてきたことになる。

 この間アルパインスターズはもちろん、ライバルメーカーを含め安全に対する様々な“常識”を構築してきた。しかし現状は、多様な条件下によって起こるアクシデントに対して、それを統括して“これで間違いなし”という正解は存在しない。事実アルパインスターズも、レースシーンにエアバッグシステムを持ち込む以前は、オフロードで常識となっているネックブレイスのロード版も開発し、実戦投入している。しかしデータを蓄積し、シミュレーションを含む多くの経験を積んでいくことで、現在のTECH-AIRに行き着いたのである。

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カメラはもちろん、カメラ付き携帯電話の持ち込みも厳禁だった衝突試験場。普段はメディアが立ち入ることがほとんど無い場所での公開テストは、アルパインスターズの自信の表れか!?

 アルパインスターズのTECH-AIRがユニークなのは、ライダーとマシンをリーシュコードで連結しないのはもちろんのこと、車体側にジャケットと通信するセンサー類を装着せず、ジャケット内にセットしたエアバック・コントロール・ユニット(ACU)のみで作動する点だ。しかもそのユニットは非常にコンパクトで、PC用マウス程度のパッケージのなかでアクシデントを感知している。

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これがアルパインスターズ製ストリート用エアバッグジャケットに収められるTECH-AIR。Tシャツのようなアイテムの中にエアバッグが収められ、バックプロテクター中央に六角形のACUが収められる。

 これはMotoGPライダーをはじめとするアルパインスターズ・サポートライダーたちが使っている最新のTECH-AIRレーシングスーツと同じだ。アルパインスターズはエアバッグを実戦投入した初期の段階から、車体との連結に頼らない、システム単体での稼働にこだわった。その根幹となるのがインパクトセンサーとバンクセンサーだ。開発初期にはGPSを使ったり、レーシングスーツの至るところにセンサー類を装着したりしていたが、最新のレーシングスーツや今回発表になったストリート用エアバッグジャケットでは、そのなかにセットしたACUの中で完結し、そこに収められたインパクトセンサーとバンクセンサーを柱に、アルゴリズムによってアクシデントを感知する。

 なぜアルパインスターズはACU単体でのエアバッグ作動にこだわるのか。それは、エアバッグを作動させるポイントは、ライダーとバイクの関係でなく、ライダーの状態にあるからだという。

 たとえばレース映像で頻繁に見かける、コーナーの起ち上がりなどでマシンが大きく振られ、ライダーがバイクから振り落とされそうになるシーン。しかしあくまでも“落とされそう”であり、落ちてはいない。その後体制を立て直し、レースを続行するというパターンも非常に多い。このとき、バイクとライダーの関係を中心にシステムを組むと、まだライダーがマシンをコントロールしようとしているのにエアバッグが開く可能性がある。アルパインスターズはそのような、システムがライディングを邪魔することがないように徹底的に造り込まれている。

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衝突テストに先立ち、ジャケット単体でエアバッグを作動させるデモンストレーションも行われた。音が反響する衝突試験場内だったこともあるが、まさに爆発音とともにエアバッグが膨らむ。MotoGPライダーなどが使用するレーシングスーツ用TECH-AIRは鎖骨と肩周りにエアバッグを配置(別途チェストプロテクターとバックプロテクターの装着が義務づけられている)しているため肩周りが持ち上がるようなイメージだが、ストリート用TECH-AIRは上半身全域をエアバッグでカバーしているため、ジャケット全体が瞬時に膨らむイメージ。

 そこで、いかにアクシデントとそれ以外を判断するか。その精度を高めるためには、机上計算やシミュレーション、また衝突テストやレースの現場から得た莫大なデータが活用されている。様々なケースで起こるアクシデントや、そのリカバリー。それらのデータを丹念に拾い集め、経験として積み上げていく。したがって、今現在もTECH-AIRは開発が進められ、進化しているのである。

 これは技術説明の時に聞いた例だが、アルパインスターズの開発スタッフがオフロードでの走行テストをしていたとき、路面のギャップによってバランスを崩したスタッフは、そのまま約7秒間マシンが振られ続けのちに転倒したという。しかしバランスを崩した状態にあるとは言え、まだ車体の上でマシンを立て直そうとしていた7秒間にはACUは作動せず、その後完全にコントロールを失って転倒したときにエアバッグを作動させたという。これこそアルパインスターズが目指しているところである。また同時にTECH-AIRはロードレースシーンで開発を受けながらも、街乗りやツーリングはもちろん、オフロード走行時にも着用を推奨しているし、それにより自信も深めたという。そして通勤などで別のバイクに乗り換えたときも面倒なシステムの入れ替えを必要とせず、いつものジャケットを着たままでエアバッグの恩恵にあずかることができる。またタンデムライダーへの着用も推奨し、追突などのアクシデント時にもシステムは効果的に作動するという。

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車体側にセンサー類を必要としないため1着のTECH-AIRジャケットで、通勤用のスクーターからツーリング用の大型バイクまで、あらゆるシチュエーションでエアバッグジャケットの恩恵を受けることができる。ツーリング先で友人のバイクに乗り換えたときや試乗会でも同様。オフロードでの使用やタンデムライダーにも着用を推奨している。

 進化した部分は、エアバッグの保護領域にもある。ストリート用に発表された今回のジャケットは、胸から肩、背中から両脇とほぼ上半身全域をエアバッグでカバーする。これはレース用エアバッグよりも保護範囲が広い。オフロードライディングとは違い、ジャンプなどの縦の動きが少ないロードレースやストリートライディングにおいては、アクシデント時にもっとも保護すべきは胸から肩、背中から両脇となる。首周りにおいては若干のサポート機能を持っているが、ヘルメットを固定するなどして首の動きを制御することはしていない。アルパインスターズが得たデータやそれに基づく様々な検証によって、首の動きを規制するメリットは少なく、逆にデメリットがあると言うのだ。もちろんこれはアルパインスターズの見解。他メーカーには、別の見解があることも理解して頂きたい。

 アクシデントが起こったときには、インパクトセンサーとバンクセンサーを柱としたデータを元にACUが0.03~0.06秒でそれを判断。0.025秒でエアバッグにガスをフル充填する。カンファレンスではマネキンを使った衝突テストも行われ、ハイスピードカメラで撮影した映像を見ながら、いかにシステムが作動するかも解説された。そこでは時速48km/hで衝突したマネキンは、衝突から0.065秒でエアバッグが作動し、0.074秒でエアバッグにガスがフル充填。車体の上で衝撃を受けたマネキンが、シートから浮き上がるまで0.09秒という結果だった。今回の衝突テストでは、車の側面にほぼ垂直にバイクが衝突しているが、過去の衝突テストやシミュレーションではあらゆる角度やスピード、また異なる条件下でテストを行ったという。

実際の衝突テスト時の写真。時速48km/hで、停車した車の側面に垂直に衝突した。日本においても街中における平均的な走行速度だが衝突の衝撃は凄まじく、クルマは衝撃の影響を受け1mほどスライドするほど。マネキンを使ったテストとはいえ、ライダーとしてはなかなか凝視できない。

 また今回のテストでは、脱力したマネキンを使ったため、衝突後にマネキンの頭部がクルマの天井にヒットし、結果的に頭に強い衝撃を受けた結果となったが、実際のアクシデントでは、そのほとんどでライダーが衝突回避行動を採るためライダーはクルマを飛び越えて行くパターンがほとんどらしい。

 TECH-AIRは満充電状態で25時間稼働。電欠状態から満充電まで約6時間を要し、約1時間の充電で4時間稼働するという。充電はスマホやデジタル家電のようにマイクロUSBを使用。本体スイッチはフロントのファスナータブに内蔵され、ジャケットを着てフロントファスナーを最上部まで上げれば自動的にON(システム稼働)、ファスナーを降ろすとOFF(システム非稼働)となり、右袖口あるLEDライトインジケーターによってその状態を確認することができる。これは最新のレーシングスーツに搭載されているTECH-AIRと同システムであり、MotoGPライダーもファスナーの上げ下ろしでON/OFFを管理し、その状態が左腕のインジケーターランプに表示されている。もちろん雨天時も使用可能で、気温-10~50度での稼働も確認していると言う。

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衝突テストの30分後、この衝突を撮影したスーパースロー映像を見ながらTECH-AIRのシステム稼働状況を説明。衝突後、その反動でライダーの身体がバイクから離れる(身体が前方に移動し、シートからお尻が離れる)前にエアバッグ内にガスがフル充填されていた。

 もしアクシデントに見舞われ、エアバッグが作動してしまったら、約5秒間フル充填状態が続き、その後数分かけて徐々にガスが抜けていくとのこと。レース用TECH-AIRは2つのボンベを持ち、たとえ転倒して1度システムが作動しても再スタート可能な場合はレースに復帰可能で、その後もう一度転倒してもエアバッグを作動させることができるという。

 しかしストリート用ジャケットは1つのボンベしか搭載しておらず、システム稼働は1度のみだ。そのジャケットは販売店を通してアルパインスターズに送り返され、問題なければシステムのチェックのほか、エアバッグやボンベなどを再度セットアップして返却される予定だという。また無事故であったとしても2年に一度はアルパインスターズに送り返し、システムのチェックやアップデートを行う必要があるとのこと。これらアフターサービスの体制を整えながら販売地域を広げていく予定とのこと。したがって来春はヨーロッパを中心に販売をスタートさせ、日本は早くて2015年後半になるという。来春発売されるのは全天候型のツーリングジャケットと、春夏用のメッシュジャケット。より幅広いシーンでも使えるように、今後はさらにラインナップを増やしていくとのことだ。

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2015年春に欧州で発売を予定しているTECH-AIR搭載の、ウォータープルーフ素材を使った全天候型ジャケット。
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同じくメッシュ素材を使った春夏用ジャケット。

 頑丈なフレームに囲われ、なおかつシートベルトを装着しているクルマにおけるエアバッグと同様に語ることができないバイク用エアバッグ。エアバッグジャケットを着用しているから安全だと言い切ることはできないが、他のプロテクターとの併用によって、安全性が高まるのは間違いない。それらの製品を活かして、さらに楽しいバイクライフが送れるなら、積極的に導入を目指すべきだ。まずは財布を握る我が家の大蔵大臣にプレゼンが必要だが、その説得材料は十分と言えるだろう。

(取材&レポート:河野正士)


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