serow250_title.jpg

ヤマハ

250になってはや10年。

 セローは、2005年に250㏄となってフルモデルチェンジした。二輪の高速道路の制限速度が100キロになってから確かに225で100キロクルーズは辛かった。遠出での快適性能を上げる。当時、そのモデルチェンジにそんな印象を持った。200じゃ足りないけど、250だと重い、という最初のコンセプトに照らすと、ボディーサイズなどはセローイズムを貫いたが、バイクとしては重くなったようにも思った。ただ、走りは俄然オトナになった印象で、これならもっと遠くの野山に行かれる、と思ったし、クリアするのに難儀するような場所でもひらりと抜ける性能は250になってもそのまま。むしろ、ヒルクライムなど25㏄程度でこんなにゆとりが出るんだ、と思った記憶がある。そうセローはセローだった。

 2008年にキャブレターだった燃料供給を電子制御燃料噴射へと変更し、それまで環境性能を上げるために絞る一方だった空気とガソリンの混合気を適材適所で使えることでエンジン特性は欲しい所でトルクが出て、息切れ感も少なくなった。

 そして今日走らせたセロー250だ。エンジンはさらに熟成が進み、回転にまろやかさが加わり、アクセルに対するトルクの出方に厚みが加わったように思えた。車体はコンパクトだが、ボリューム感のあるタンク周りが乗り手に存在感をしっかりと訴える。250のバイクというイメージから食い足りないようなこともない。いやむしろ満足感があるのだ。

 225時代と250時代で一番変わったのがポジションだ。225時代、トライアルバイクのように、スタンディングでバイクをコントロールしたときに良質なトラクションを得られるようセットされたポジションだった。だからといって教習所で習う波状路通過のような立ち方は全く功を奏さない。こと、オフロードでの話になるが、小回りが効くように短く設定されたホイールベースの車体は、どこに体重を掛けているかによってタイヤにかかる荷重も変化し、グリップ力が決まる。路面のカントや土質によっても荷重の載せ方、抜き方、後輪へのパワーのかけ方、それらがドラスティックに変化するから、足がついてコンパクトで親しみやすい反面、スイートスポットを外すと難しい面もあった。

 それが250になってステップ位置が変わり、225時代より外れないコントロール領域が広くなった。いずれにしてもマウンテントレールと呼ばれるような道に行けば“腕次第”ということになるのだが、より広い場面で乗りやすさを追求したのが今のセローと言える。

 ついついそんな解説に力が入るのも、造り手の思い入れの深さと、滑りやすい路面で乗った時に顔を出す生き生きとしたセローらしさを感じとる瞬間があるからだ。

SEROW250。ライダーの身長は183cm。
IMG_0835.jpg

 舗装路を走っているとき、セローはコンパクトなバイクに徹している。エンジンは実用的でWRのそれのように誘惑する何かをもっているわけではない。60キロ程度で里山に続く道を走るのがなによりも楽しい。なるほど、何処までも走りたくなる。ツーリングセローが売れているワケだ。峠道を急いでもハンドリングは解りやすい弱アンダーだし、前後のブレーキの制動力、操作感とブレーキングで生まれるピッチングを出すサスペンションの動き方、タイヤのグリップ力など、想像した通りの走りだし、自分への合わせ込みがしやすい。だから走っていて無用な神経を使わないですむ。それがセローの魅力だ。

 その分、ちょっとマウンテンルートに入った時にタイヤのグリップや前輪のライン、後輪のラインという細かな部分にまで気を配る。そして路面に合わせたブレーキのさわり方、活かすための荷重の載せ方など、瞬間、瞬間にセローライディングの醍醐味を細かく味わいたくなるゆとりができる。

 緩急を付けるわけでもなく味わい深さを楽しませるセロー。細分化すると他の角度からも魅力は有ると思うが、“極悪路での操作性、楽しさを追求したら何処でも楽しいバイクが出来ました”というのがセローの30年だったような気がする。アウトドア用品でいえば、防水透湿素材の丈夫だけど軽くて折り畳んで携帯もラクラク、そんなアウタージャケットのような存在なのだ。街でも郊外でも海でも山でも、な使い勝手に潜む面白さ。セロー250はまさにそんなバイクなのだ。

(松井 勉)

IMG_0971.jpg IMG_0976.jpg IMG_0979.jpg
IMG_0998.jpg IMG_0994.jpg IMG_0989.jpg
IMG_0985.jpg IMG_1010.jpg IMG_0981.jpg
IMG_0954.jpg IMG_0968.jpg
“マウンテントレールモデル”としてセローが生を受けたのは今を遡ること29年前、1985年8月に発売されたセロー225だった。当時のヤマハのオフモデル、XT200をベースに独自の味付けを施し「マシンを操る楽しさと自然の中に入り込める機能」を売りにデビューしている。それまでのオフ車といえば、しゃにむにオフロードを飛ばすモデルがほとんどの時代。また、かといって難所を乗り越える技を競うトライアル車とも違った、いわば林道程度のオフロードをゆったりと走って楽しむモデル、という独自のコンセプトだった。ただ発売されるやいなや大人気、となったわけではなく、それこそ一歩一歩、林道をゆっくり走るように、徐々にその楽しさに目覚めるユーザーを増やしていったのだ。そして自らが築き上げたユーザーに支えられて2014年で29年。フルモデルチェンジは2005年に一回だけ。225から250へと排気量を拡大したエンジンを搭載。XT250Xやtrickerの兄弟車として登場している。最近のトピックスとしては、2010年7月に25周年記念モデルを発売。セローのイメージ・モチーフである“カモシカ”をアレンジした新グラフィックを採用した。現行モデルは、2014年1月のマイナーチェンジにより、アウトドアイメージのアーガイル調グラフィックを採用した新色と、ホワイト/グリーンの継続色とにより2014年モデルとなっている。
IMG_1105.jpg
IMG_0772.jpg

■YAMAHA SEROW250(JBK-DG17J) 主要諸元

●全長×全高×全幅:2,100×805×1,160mm、ホイールベース:1,360mm、最低地上高:285mm、シート高:830mm、車両重量:130kg、燃料タンク容量:9.6リットル●エンジン種類:空冷4ストローク単気筒SOHC2バルブ、排気量:249cm3、内径×行程:74.0×58.0mm、圧縮比:9.5、最高出力:14kW(18PS)/7,500rpm、最大トルク:19N・m(1.9kgf-m)/6,500rpm、燃料供給方式:フューエルインジェクション、点火方式:T.C.I.(トランジスタ)式、始動方式:セルフ式、潤滑方式:強制圧送ウェットサンプ式●トランスミッション形式:常時噛合式5段リターン、クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング●フレーム形式:セミダブルクレードル、キャスター:26.40°、トレール:105mm●サスペンション:前・テレスコピック、後・スイングアーム(リンク式)●ブレーキ:前・油圧式シングルグディスク、後・油圧式シングルディスク、タイヤ:前・2.75-21 45P、後・120/80-18M/C 62P。


| 短期連載250の魅力を探るシリーズ「SUZUKI バンバン200」のページへ |
| 短期連載250の魅力を探るシリーズ「KAWASAKI D-TRACKER X/KLX250」のページへ |
| 短期連載250の魅力を探るシリーズ「YAMAHA WR250R/WR250X」のページへ |
| 短期連載250の魅力を探るシリーズ「SUZUKI グラストラッカー」のページへ |
| 短期連載250の魅力を探るシリーズ「YAMAHA YZF-R25」のページへ |
| 短期連載250の魅力を探るシリーズ「Kawasaki Ninja 250」のページへ |
| 短期連載250の魅力を探るシリーズ「SUZUKI GSR250」のページへ |
| 短期連載250の魅力を探るシリーズ「HONDA VTR Type LD」のページへ |


| 新車プロファイル「SEROW250」のページへ |