2014 OiLibya Rally Morocco 北サハラにホンダラリーチームを追いかける。後編

ホンダ

ダカールラリー制覇に向け、ワークスチーム活動を始めたホンダ。2012年からその軌跡を机上で追っていた筆者は、矢も楯もたまらずラリーの現場に赴いた。今のラリーはどうなっているのか。そしてラリー界の鉄人、KTMはどうして強いのか。その応えは砂漠がもたらすドラマの中にあった。モロッコラリー2014、後半戦をご紹介。
同時に、アルゼンチン、ブエノスアイレスを来月4日にスタートするダカールラリー2015を目前に控え、クロスカントリーラリーの見方、楽しみ方を含めて読み取ってください。筆者は勢い余って、ダカールラリーまで追いかける事にしました!


Day3 ──今大会、最長のステージにプレスの移動も早朝スタート!?

 
 車検の前日から今朝まで3日間をエルフードで過ごしたラリーは、この日ザゴラへと移動する。この日のスペシャルステージは今大会でも最長となる314 キロ。プレスバスで移動する僕達も400キロ近くを走る事になる。主催者から「5時にホテル前出発だ」と告げられた。しかし5時を過ぎても一向にバスは出ない。どうやら誰かが寝坊しているようだ。主だった面々は来ているが……。犯人は主催者側のメディア担当のメリアンだった。「おいおい、頼むよ」的会話が成されたあと5時40分ぐらいにバス出発。

 遅れを取り戻さんと、ドライバーは張り切って飛ばす→揺れる→寝れない→だが最初から寝ているメリアン……。

 ザゴラ郊外、小さな砂丘群の中に設けられたフィニッシュラインに到着したのは9時40分ほど。この日はステージが長いのでトップライダーでも11時にならないと戻ってこないようだ。

 一緒に乗っていたフランス人ジャーナリストは「だったら7時出発でよかったのにな」とフィニッシュラインから10分ほど歩いた距離にある背の高い砂丘の上でチクリという。彼は何度かモロッコラリーを取材しているそうで、何処の方向から来るかボクに教えてくれた。砂丘の上でいろいろな話をしている中で「モロッコからフランスに戻って、すぐにメキシコさ。ラ・カレラ・パナメリカーナを取材に行くんだ」と言っていた。
 日本でも10月に行われているミッレミリア日本版やラリー・ニッポンなどクラシックカーを使ったロードレース、その復刻スタイルのイベントが数多い。ラ・カレラ・パナメリカーナもその一つ。「56年のビューイックに700馬力を超すエンジンさ。時速280キロは出るからとてもビンテージレースじゃないよ」と彼。
 モロッコラリーもそうだが、やっぱりモータースポーツは壮大な“大人”の遊びだ。20数年前、ダカールに出たときに最も感じたのはそこで、冒険性やサハラの自然の厳しさもさることながら、そんな環境を余裕で遊んでいる人達がこの上なく“粋”に見えたのを思い出す。


崖のように続くテーブルマウンテン、その手前の小さい砂丘群の中にフィニッシュは設けられた。1キロ四方ほどの砂丘に向かってライダー達は全力で進んでくる

崖のように続くテーブルマウンテン、その手前の小さい砂丘群の中にフィニッシュは設けられた。1キロ四方ほどの砂丘に向かってライダー達は全力で進んでくる
崖のように続くテーブルマウンテン、その手前の小さい砂丘群の中にフィニッシュは設けられた。1キロ四方ほどの砂丘に向かってライダー達は全力で進んでくる。

ゴンサルベス、首位に立つ

 
 この日のステージは轍が多くナビゲーションの難しいステージだった。この長いステージを3時間15分ほどで最初に戻ってきたのはジョアン・バレーダ。そして2位にパウロ・ゴンサルベスが2分30秒差で続く。ハイペースな闘いだった。ステージ優勝をもぎ取ったバレーダは現在総合トップ、KTMのコマにこのステージだけで7分18秒差をつけ、自身とホンダCRF450 RALLYの速さをアピールした。

 ステージ3の成績の結果、これまでの3日間の時間を合わせた総合順位では41秒差だがゴンサルベスが首位に立つことに。エルダー・ロドリゲスは3位。4位KTMのサム・サンダーランドとは僅差の8秒後方。バレーダはこの日の走りでトップと20分21 秒差として総合では8位となる。
「思ったより順調だった」とコメントしたライア・サンツはステージ16位、総合では14位につけている。ヘレミアス・イスラエルも10分1秒差の8位でステージをまとめ、総合では20位となっている。

 この日、フィニッシュ直前の砂丘の中でライダー達の走りを見たが、上位のライダーほど大胆かつ緩急を付けた走りをしていた。もっと砂丘のエッジから飛び出すような走りをするのでは、と想定していたが、ライダー達は速度を見事にマネージメントして“飛び出す”のではなく着点を見極めてから“意図して飛ぶ”という印象だった。

 着地場所にどのような姿勢で降りるのか。それによって着地で前転や転倒をする危険が増える。飛び出す前に速度をぴったり合わせ、大丈夫そうだと踏むや、軽く着地できるようにアクセルを開ける。そして最近、モトクロス出身のライダーが多くなったダカールらしい、と思ったのは、ウイップをかけるライダーがトップグループに多かった事だ。
 とにかくこれで3ステージを3つともホンダが取る速さを見せている。新しいファクトリーマシン、CRF450 RALLYの完成度は高いようだ。
「新たな電子制御とライダーの乗り方などでのマッチングに煮詰めは必要だが、ライダーからのフィードバックはポジティブでダカールまでにはアップデイトできるでしょう」とモロッコラリーのサポートに来ている開発チームの一人は語っている。


低いうねりを飛び越えるバレーダ。しかし高さを見るや走りかたをガラリと変えてみせる
低いうねりを飛び越えるバレーダ。しかし高さを見るや走りかたをガラリと変えてみせる。

3KTMのチャレコ・ロペスはとてもクレバーな走りを見せていたのが印象的。彼も砂丘の飛び出しでリアブレーキを使って車速を調整したあと、軽くウイップをかけるように低く飛び出すのが印象的だった
KTMのチャレコ・ロペスはとてもクレバーな走りを見せていたのが印象的。彼も砂丘の飛び出しでリアブレーキを使って車速を調整したあと、軽くウイップをかけるように低く飛び出すのが印象的だった。

トラクションを無理なく掛ける、というより路面に合わせた噛ませかたをさせるのがライア・サンツ。とにかく上手い走りだった
トラクションを無理なく掛ける、というより路面に合わせた噛ませかたをさせるのがライア・サンツ。とにかく上手い走りだった。

Day4 ──半分近くを砂丘が占めたステージ4

 ザゴラのホテルをスタートして再びザゴラのホテルに戻ってくる合計379キロとなるステージ4。うち、スペシャルステージは226キロ。距離は長くないが、短い中には何かが潜んでいるものだ。実際、この日、ライダー達は距離からは測れない苦難に直面したようだ。

 ステージのゴールでライダー達を待っていると、トップライダーですらステージフィニッシュ寸前では疲れた様子がうかがえたが、このステージがどんなステージだったのか、ライダーのコメントを知るまで解るはずも無かったが、相当なものだったようだ。

「これまでで一番しんどいステージだった。100キロは砂丘が続いた。スタートからだれにも抜かれずにゴールまで走り抜いたんだ。一度だけルートが見つけにくくて自分のナビゲーションを疑ったけど……」とバレーダ。

 対するコマは「決して難しかったり危険では無かったけど、明らかに面倒なステージだった」とコメントを残している。

 この日、砂丘が多かった事はコマには幸いしたのかもしれない。朝のスタート順が5位だったコマは、トップスタートとなるバレーダを含め前に4台の前走車がいた。トップ10のライダーは2分間隔でスタートするから、追いつくのは容易ではない。しかし、この日、砂丘が100キロ続いたとなると後方スタートのライダーは先行車の轍を捕らえて走ることができる。それは方角を示し、砂に着いた轍の強弱は加速と減速など様々な情報が含まれる。

 
 砂丘を走りながらルートブックに記載された距離や方位を確認しつつ攻めの走りをするのは容易ではない。先行が残した砂の轍を追いかけ、ルートブックで確認しておけばよく、より走りに集中しやすくなるからだ。

 この日「だれにも抜かれずに走り切った」というバレーダ。ロードレースで言えばポールtoフィニッシュなのだが、走行タイム順ではステージ4でトップタイムを取ったコマに対し、3分47秒遅れている。これがラリーなのだ。


リエゾンスタートはやっぱり闇の中。気温にあわせてウインドブレーカーを着てスタートを待つマルク・コマ
リエゾンスタートはやっぱり闇の中。気温にあわせてウインドブレーカーを着てスタートを待つマルク・コマ。

被視認性とデザイン的にも面白いCRF450 RALLYのテールランプ。市販モデルにも採用されるのだろうか。イスラエルがスタートを切る
被視認性とデザイン的にも面白いCRF450 RALLYのテールランプ。市販モデルにも採用されるのだろうか。イスラエルがスタートを切る。

ステージ4のゴール地点はこんな状況の土地だった
ステージ4のゴール地点はこんな状況の土地だった。


ライダーのタイムでその走りを推測してみると……。

 
 ちょっと分析してみた。前日ステージ3、最長の313キロのステージで1位を取ったバレーダのアベレージ速度が96.680km/hだった。対するステージ4、距離は短いが、サンドの多かったこの日、ステージ優勝を飾ったコマのアベレージ速度が81.425km/h。3分47秒差でステージ5位だったバレーダは79.616km/h。ちょっとの差に思えるが、この日、3分47 秒差は、227秒差であり、226キロのステージで考えると、コマより1キロあたり1秒遅い計算になる。
 コマの速さはもちろんだが、この日は漁夫の利を活かした走りで必ず物にする。それもコマの実力なのだ。

 それでも先頭でフィニッシュに向かうバレーダの走りは最後までパワフルだった。ゴール直前、一面が拳大からグレープフルーツ大の岩を大地に敷き詰めたような中に轍が続いている。その轍の中は岩が少なく、走りやすい。その終盤セクションにあったS字カーブでのこと。バレーダは迷わず一つ先の丘に続く轍を目指し、200メートルほど直線的に突っ切った。トップグループでこのライン(はないのだが)を使ったのはバレーダだけ。後追いされている故、タイムを縮めたい、という気持ちと速く走りたい、という現れなのだろう。
 HRCのチーム代表、山崎さんの言葉通り、彼の速さとナビゲーション能力はスゴイ。そんな彼でも今日のステージでは5位がやっとだったのだろう。

 こうした展開を意識しつつラリーの日々を見ていくと面白い。

 リザルトでコマと闘っているゴンサルベスは2分16秒差で4位だった。総合では1分35秒差で2位に。3位だったエルダー・ロドリゲスは4位へと順位を後退させている。

 ヘレミアス・イスラエルはステージ8位、総合17位。ライア・サンツはステージ15位、総合では13位だった。

 この日、38歳の誕生日だったマルク・コマは、ステージウイン、総合でも1位奪還で祝う幸先の良い記念日となった。2012年のモロッコラリーではステージ中の転倒で鎖骨を骨折。1月のダカールラリーへの参戦を取りやめるという苦い経験もしたが、そんな想い出をすっかり払拭したに違いない。


月面のような大地に描かれたS字を攻めるサム・サンダーランド。前傾姿勢が彼のトレードマークだ

同じコーナーでのコマ。オーバーペース気味につっこんできたが、速度を上手くマネージメントし、脱出方向にバイクを向ける。この後、立ち上がりラインに乗ってからはシッティングで加速をしていった
月面のような大地に描かれたS字を攻めるサム・サンダーランド。前傾姿勢が彼のトレードマークだ。 同じコーナーでのコマ。オーバーペース気味につっこんできたが、速度を上手くマネージメントし、脱出方向にバイクを向ける。この後、立ち上がりラインに乗ってからはシッティングで加速をしていった。

アウト側のバンクを使ってスムーズにバイクを走らせるチャレコ・ロペス

そして轍などお構いなしに直進するジョアン・バレーダ。かといって乱暴な走りではなくしっかりとコントロールしている姿が印象的だった
アウト側のバンクを使ってスムーズにバイクを走らせるチャレコ・ロペス。 そして轍などお構いなしに直進するジョアン・バレーダ。かといって乱暴な走りではなくしっかりとコントロールしている姿が印象的だった。

エルダー・ロドリゲスもクレバーな走りを見せる

この場所でラインを外すとどうなるか、想像しやすい。場所によって岩の大きさ、数などの濃淡はあるが、積極的に外したくない場所だった
エルダー・ロドリゲスもクレバーな走りを見せる。 この場所でラインを外すとどうなるか、想像しやすい。場所によって岩の大きさ、数などの濃淡はあるが、積極的に外したくない場所だった。

ランチパック

ランチパック

ランチパック
紙袋入りのランチパックはスタート前に全日分を渡される。中身はポテトチップ、おかずの入った缶詰、チョコバー、プリン、クラッカーなど。この日の缶詰はツナサラダ。プレスバスも連日午後1時にはフィニッシュからホテルに戻るので、いつもホテルの部屋でランチだった。意外に美味しい

Day5 ──明暗を分けたステージ5。「しんどいルートだった」との声も

 
 前日の結果、総合順位では1分35秒差でKTMのコマがトップ、追うホンダのゴンサルベスが2位。ここにきて選手権ポイントで1位、2位が並んだ。モロッコラリーの日程も進み、6日間で合計1442キロある競技区間のうち、これまでに65%にあたる1027キロが終わり、ステージ5の302キロ、最終ステージ6の113キロを残すのみ。見て解るように最終日は距離が短く、どうやら勝負の行方は今日のステージを注意深く見る必要がある。

 ディフェンディング・チャンピオンであるゴンサルベスだが、シリーズ最終戦に来てコマとの10ポイント差という現状を考えれば、シリーズチャンピオンよりもモロッコでの優勝が欲しいはず。自身が優勝し、コマが5位以下に落ち無い限りシリーズチャンピオンはない。
 それに、ニューマシンの速さだけではなく、チームとしても2015年仕様のCRF450RALLYを持ち込んだホンダは、ダカールに向け幸先のよいスタートも切れる。

 今回、ホンダにとっては、初日からライダーのミスなどで受けたペナルティーというお手つきもあったが、マシンの速さは確認できた。また、実戦で使わないと解らないマイナートラブルも出て、改良点の見極めもついたはずだ。エンジニア達は適宜研究所と連絡を取り合いながらモロッコラリー中も開発を進めているようだった。日本からダカールラリーがスタートするアルゼンチンに機材を送る期限も10月末となっている。言わば待ったなしの現場テストでもあるのだ。

 この日、ラリーはザゴラの市街地より数キロ離れた砂漠の入り口からスペシャルステージが始まった。ライダー達は短いリエゾンを移動し、そのスタート地点へとやってきた。まだ日の出前。東の空には夜を溶かすように明るみが増してきた。
 整列したライダーたちは自らの出番を待つ。そして今日のトップスタートはKTMのマルク・コマだ。まだ暗がりが支配する中、コマはリラックスした中にも、決意に満ちた表情を見せる。風は無く、夜露を含んだ湿り気のある空気があたりをつつみ、しっとりとしている。

 コマがスタートを切った。平地を抜け、山に狭められたエリアへと向かう。ライダー達の息づかいのようにアクセルワークによる排気音の変化が耳に届き、その方向は立ち上る埃で知ることが出来た。

 2分後、サム・サンダーランド、4分後、トディ・プライスが走り出す。そのKTM勢に続き4番手からパウロ・ゴンサルベス、5番手ジョアン・バレーダが朝靄と埃がたなびく空気の中に走り出す。今日はホンダ勢がそのポジション的な有意さを活かし、前走のライダー達との時間を詰めるだろう。

 この日のステージのフィニッシュラインはワルザザット郊外。町外れに作られる新興住宅地なのだろうか。広大な造成地を街道から曲がり、さらに進んだ場所にそれはあった。フィニッシュに走りこむ参加者が見渡せる丘に陣取った。ルートは山間の谷筋を走り、乾いた岩山を縫うようにすすむ。月面のような場所の先にワルザザットの町がかすみ、不思議な風景を作っていた。

 ライダー達はこの日、ゴール地点からさらに208 キロのリエゾンを走り、マラケシュへと移動する。今日はリエゾンとスペシャルを含め502キロ。

 2輪でのダカール参加経験を持ち、現在は4輪の市販車クラスでチームTLCからトヨタ・ランドクルーザー200でダカールにも参戦している三橋淳も、モロッコラリーに参戦していた。
 彼によれば「アフリカ時代のダカールでもこんなステージがありましたね。当時モロッコでよく使われたようなルート設定でした。ガレ場は長く、道も狭い。延々速度が上がらないストレスの溜まる道を走らされる。飛ばしたらマシンを壊すような・・・・。ラリーバイクで走ったらあのガレ場はトライアルセクションでしょうね」と表現した。
 実際この日、三橋のランクルも、狭いガレ場のワインディングでパワーステアリング系にダメージを受け、ステージの半分以上、アシスト無しの重ステで走ることになった。

 2輪のレースも動いた。ステージ序盤、埃のひどいルートが終わり、ガレ場に入ったあたりでのこと。ゴンサルベスはガレ場に入り、視界が良くなったことを受け、リスクを覚悟で前走車をパスする決断をする。しかし、彼のバイクは岩にはじかれ、転倒。そこで肋骨を痛めてしまう。その状況からラリー続行を難しいと判断したパウロは追いついたエルダー・ロドリゲスに「大丈夫だ、先に行ってくれ」という言葉をかけ、エルダーはレースを続行する。
 その後、ヘレミアス・イスラエルも彼の元に停まり介抱をする。しかし、再び走りだそうとする彼を不運が襲う。原因不明の電気系トラブルでエンジンが始動しなくなってしまったのだ。押し掛けをはじめ、現場で出来る対応を取ったが、彼のバイクは息を吹き返さなかった。



ザゴラの郊外、明けやらぬ空の下、スペシャルステージが始まるのを待つコマ。この日、先頭でスタートする
ザゴラの郊外、明けやらぬ空の下、スペシャルステージが始まるのを待つコマ。この日、先頭でスタートする。


パウロ・ゴンサルベスもこのステージ5に賭けている。この後ポルトガル人同士、他のライダーと会話を楽しんでいた
パウロ・ゴンサルベスもこのステージ5に賭けている。この後ポルトガル人同士、他のライダーと会話を楽しんでいた。


ヘルメットを被り集中力を高めるコマ。ルートの確認をしてスタートラインに向かう
ヘルメットを被り集中力を高めるコマ。ルートの確認をしてスタートラインに向かう。


そしてステージ5が始まる。澄んだ空気の中走り出したのは、コマ一人だった
そしてステージ5が始まる。澄んだ空気の中走り出したのは、コマ一人だった。


曇ったゴーグルに走行風を入れながら全開で加速するエルダー・ロドリゲス。彼も3位に向けたプランを色々と考えていたいはずだ
曇ったゴーグルに走行風を入れながら全開で加速するエルダー・ロドリゲス。彼も3位に向けたプランを色々と考えていたはずだ。


朝日が差し始めた。1分間隔でライダー達がスタートする11番手以降になると、とどまった埃で見渡す程の景色は霧に覆われたようになる
朝日が差し始めた。1分間隔でライダー達がスタートする11番手以降になると、とどまった埃で見渡す程の景色は霧に覆われたようになる。

 この日、ホンダはゴンサルベスと、イスラエルの2台をいっぺんに失うことに。同時に、世界クロスカントリーラリー選手権でKTMのマルク・コマのチャンピオン確定と、ゴンサルベスが2年連続FIMクロスカントリーラリー王者の夢は消え2位が確定した。

 このステージを「とても危ない路面だった。最初はプッシュしたけど、冷静に走る必要があることがすぐに解った。だからミスしないように走ったんだ」とバレーダ振り返る。


総合ではKTMが1位、2位。ホンダは3位にエルダー・ロドリゲス

 
 ゴンサルベスが去ったことでマルク・コマの首位はさらに確実なものとなった。2位はチームメイトのサム・サンダーランドが9分58秒差、3位にホンダのエルダー・ロドリゲスが12分5秒差、4位にはジョアン・バレーダが15分31秒差となっている。
 ワルザザットからマラケシュに至るまでに越えた二つの厳しい山岳地帯でみた自然の風景からすると、ラリーのサービスパークになったマラケシュのホテル群の中にある空き地は、周囲全体が浦安のテーマパーク周辺のようにそこだけがぽっかり作り物のように見えた。

 
 しかし、広大な空き地の中にあるサービスパークには発電機のエンジン音や埃っぽさはこれまでの場所と変わりなかった。ホンダのピットはゴンサルベスのリタイアの事よりも、イスラエルのバイクが不動になったことのほうの対処に追われているようだった。しかし、現場からバイクが戻ってくるのは深夜とも言われ、まだ原因を特定できない。他のバイクに出ないといいのだが……。

 いかにもラリーらしい出来事が続いたステージ5だった。



ライダー達の仕事場

ナビゲーションアイテムは右上がGPSによるコンパス、左上がトリップメーター、中央にマップホルダーがある。電動でまきとりながら進む。腕時計を巻いている部分に駆動用モーターが入る。下にあるトリップメーターはおそらく速度などを表示させているのだろう

遠くにワルザザットの町が霞む。フィニッシュはもうすぐそこだ

この日、イスラエルのバイクに出たトラブルを想定し、様々なチェックがなされていた
ナビゲーションアイテムは右上がGPSによるコンパス、左上がトリップメーター、中央にマップホルダーがある。電動で巻き取りながら進む。腕時計を巻いている部分に駆動用モーターが入る。下にあるトリップメーターはおそらく速度などを表示させているのだろう。 遠くにワルザザットの町が霞む。フィニッシュはもうすぐそこだ。 この日、イスラエルのバイクに出たトラブルを想定し、様々なチェックがなされていた。

ステージ5のフィニッシュ付近も昨日同様の月面的風景が広がる場所だった。岩だらけの大地に轍が続く。4輪のトップグループがプライベートライダーに近づく。サンチネルという装置を使い、前走車に後続車は追い越しの石があることを知らせる。ハンドル廻りにつけたアラーム(ホーンだ)がなり、この後ライダーは道を譲ることに。かつてラリーでは埃の中の追い越し時にクラッシュするエントラントは少なくなかった。サーキット出言えばブルーフラッグのような働きをする。また、一般道での速度アラームもサンチネルの仕事だ
ステージ5のフィニッシュ付近も昨日同様の月面的風景が広がる場所だった。岩だらけの大地に轍が続く。4輪のトップグループがプライベートライダーに近づく。サンチネルという装置を使い、前走車に後続車は追い越しの意志があることを知らせる。ハンドル廻りにつけたアラーム(ホーンだ)がなり、この後ライダーは道を譲ることに。かつてラリーでは埃の中の追い越し時にクラッシュするエントラントは少なくなかった。サーキットで言えばブルーフラッグのような働きをする。また、一般道での速度アラームもサンチネルの仕事だ。

そCRF450 RALLYのコクピット周りはスリムさを感じさせる物。今回、試作し持ち込んだマップホルダーはケース内にモーターを内蔵したものだった。2日目から従来から使用していたものに変更をしたが、時計を巻いてある部分に飛びだしたモーターが軽微な転倒などで衝撃を受け、最悪の場合マップケースが動かなくなる、というトラブルから内蔵式を製作したという。マルチファンクションモニター機能を持つビューアーなど、インフォメーション機能を高めているという。手元のスイッチでエンジンマップなどを切り替えるほか、様々な機能を持たせているという

CRF450 RALLYのコクピット周りはスリムさを感じさせる物。今回、試作し持ち込んだマップホルダーはケース内にモーターを内蔵したものだった。2日目から従来から使用していたものに変更をしたが、時計を巻いてある部分に飛びだしたモーターが軽微な転倒などで衝撃を受け、最悪の場合マップケースが動かなくなる、というトラブルから内蔵式を製作したという。マルチファンクションモニター機能を持つビューアーなど、インフォメーション機能を高めているという。手元のスイッチでエンジンマップなどを切り替えるほか、様々な機能を持たせているという

CRF450 RALLYのコクピット周りはスリムさを感じさせる物。今回、試作し持ち込んだマップホルダーはケース内にモーターを内蔵したものだった。2日目から従来から使用していたものに変更をしたが、時計を巻いてある部分に飛びだしたモーターが軽微な転倒などで衝撃を受け、最悪の場合マップケースが動かなくなる、というトラブルから内蔵式を製作したという。マルチファンクションモニター機能を持つビューアーなど、インフォメーション機能を高めているという。手元のスイッチでエンジンマップなどを切り替えるほか、様々な機能を持たせているという
CRF450 RALLYのコクピット周りもスリムに作られている。スクリーンの高さなど細かくアップデイトされている。今回、試作し持ち込んだマップホルダーはケース内にモーターを内蔵したものだった。前回までのラリーで、市販のマップホルダーが備える巻き取り用の電動モーターが、ケース外型に装着されていて、これが軽微な転倒などで衝撃を受け、最悪の場合マップケースが動かなくなる、というトラブルから内蔵式を製作したという。従来型に戻り、ライダー達はいつものようにモーターケースに腕時計を巻いた。新型はマルチファンクションモニター機能を持つビューアーなど、インフォメーション機能を高めているという。手元のスイッチでエンジンマップなどを切り替えるほか、様々な機能を持たせているという。


前回のダカールで灌木地帯を走り、その枝がエキゾースト周りに入り込みゴンサルベスのバイクが火災になったことがあった。2015年モデルではその対策も進化。実は前回のダカールでもその対策をしたのだが、手持ちで持ち込んだ対策部品がロストバゲッジする、という偶然にも左右されたという

エルダー・ロドリゲスのマシン。彼は細部にまでこだわるタイプだそうで、スクリーンを固定するクイックファスナーのタブもベルクロテープで固定している。振動で動かないようにするためとカタカタ音防止だろうか。セッティングにも細かいリクエストが来るという

この日、フルロックで回るタイトなガレ場のコーナーを旋回中、フロントホイールが岩にヒット。切り込んでいる方向に外力がかかり、押し込まれたことでパワステの油圧系に過剰な力がかかりパワステオイルが漏れる、という希なトラブルに見舞われた三橋淳のランクル200。トラブル後、タイトターンの続くガレ場の道を重ステ状態で走り、幾度となく強烈なキックバックを親指の付け根に食らったという。市販車クラスでは常勝チームだけにちょっとやそっとのことではへこたれない。最終日を控え整備に余念がない。
前回のダカールで灌木地帯を走り、その枝がエキゾースト周りに入り込みゴンサルベスのバイクが火災になったことがあった。2015年モデルではその対策も進化。実は前回のダカールでもその対策をしたのだが、手持ちで持ち込んだ対策部品がロストバゲッジする、という偶然にも左右されたという。 エルダー・ロドリゲスのマシン。彼は細部にまでこだわるタイプだそうで、スクリーンを固定するクイックファスナーのタブもベルクロテープで固定している。振動で動かないようにするためとカタカタ音防止だろうか。セッティングにも細かいリクエストが来るという。 この日、フルロックで回るタイトなガレ場のコーナーを旋回中、フロントホイールが岩にヒット。切り込んでいる方向に外力がかかり、押し込まれたことでパワステの油圧系に過剰な力がかかりパワステオイルが漏れる、という希なトラブルに見舞われた三橋淳のランクル200。トラブル後、タイトターンの続くガレ場の道を重ステ状態で走り、幾度となく強烈なキックバックを親指の付け根に食らったという。市販車クラスでは常勝チームだけにちょっとやそっとのことではへこたれない。最終日を控え整備に余念がない。

ショートステージの先にあった栄光のゴール

 
 10月9日、マラケシュをスタートしたライダー達は、30キロほどのリエゾンを走り最終スペシャルステージのスタートラインへと向かった。この日のステージは113キロ。マラケシュ郊外の畑地帯の間を縫うように設定されたルートで、スペシャルステージのフィニッシュは路面に起伏はあるが、開けた平な場所を進み、椰子の木々が生い茂るオアシスに設けられていた。
 この日のトップはジョアン・バレーダ。1時間26分16 秒で113キロを走り抜いた。これでCRF450RALLYは6ステージ中、3名のライダーが5勝を稼ぎ出す速さをみせることになった。

 このステージ、昨日ステージ1位だったエルダー・ロドリゲスが最初にスタート。エルダーはこの日を9位でまとめた。ミスをしないよう、3位を固める走りに徹し、ポデュームへと戻ってきた。派手さはないが、結果につなげるライダーだ。

 常に攻めの走りをするジョアン・バレーダはエルダーと41秒差の4位。そこまでタイムを削ってきた。惜しまれるのは、あのペナルティーだけだ。

 そしてライア・サンツは2014年仕様のCRF450RALLYで10位に入った。ステージ2では転倒によるダメージを負いながらも後半になるほど順調に走っているように見えた。この人は強い。さすがトライアルの世界でチャンピオンの山を築いてきただけのことはある。

 
 結果的にホンダは勝てなかった。そしてKTMの強さが印象的だった。対する速いホンダ。それがこのラリーを見てきた感想だ。ワークスとしてラリーに復帰したのが2012年のここ、モロッコラリー。それが2013年ダカールへのテストだった。あれからまだ3シーズン。ダカール優勝、というミッションは完遂していないが、かなり間合いを詰めてきているのを感じとれた。


最終日、パドックに残ったゴンサルベスとイスラエルのバイク。肋骨は数週間で、イスラエルのトラブルの原因も特定できたとのことで、ダカールまでに貴重なデータとなった。マシンはこうして鍛えられるのだそうだ

この日、3番手スタートだったコマ。2番手スタートのゴンサルベスとの時間差を気にする。この時点でまだゴンサルベスは戻ってきてない

4輪で優勝を決めたナッサー・アルアティアのミニをフィルムクルーのヘリが追いかける
最終日、パドックに残ったゴンサルベスとイスラエルのバイク。肋骨は数週間で直りダカールには問題ないとのこと。イスラエルのバイクを襲ったトラブルの原因も特定できたとのことで、ダカールまでに貴重なデータとなった。マシンはこうして鍛えられるのだそうだ。

ブラーボ! 表彰台! ゴールにたどり着いたバイクのマップホルダーにはそんな感嘆符が。 4輪で優勝を決めたナッサー・アルアティアのミニをフィルムクルーのヘリが追いかける。

この日、2輪のトップ集団はすでにここを通過したあとだった。しばらくすると三橋淳がドライブするランクルがやってきた。改造範囲が広く、もっと凶暴なオフロード性能を持つ車達がこの場所を静かに越えていったのに対し、カメラを構える僕達を見た三橋はこんなジャンプを披露してくれた。マップにはコーションマークが二つ付いたギャップを使い、ランクルをこの通り。僕が見た中ではこの日この場所では最高のジャンプ。お見事!

この日、2輪のトップ集団はすでにここを通過したあとだった。しばらくすると三橋淳がドライブするランクルがやってきた。改造範囲が広く、もっと凶暴なオフロード性能を持つ車達がこの場所を静かに越えていったのに対し、カメラを構える僕達を見た三橋はこんなジャンプを披露してくれた。マップにはコーションマークが二つ付いたギャップを使い、ランクルをこの通り。僕が見た中ではこの日この場所では最高のジャンプ。お見事!

マラケシュの町に夜が迫る。旧市街にあるマーケットは人並みがますます多くなって行く。ホテルから車で10分ほどの距離にある場所だった。午後5時になるとモスクからコーランが聞こえてくる
この日、2輪のトップ集団はすでにここを通過したあとだった。しばらくすると三橋淳がドライブするランクルがやってきた。改造範囲が広く、もっと凶暴なオフロード性能を持つ車達がこの場所を静かに越えていったのに対し、カメラを構える僕達を見た三橋はこんなジャンプを披露してくれた。マップにはコーションマークが二つ付いたギャップを使い、ランクルをこの通り。僕が見た中ではこの日この場所では最高のジャンプ。お見事! マラケシュの町に夜が迫る。旧市街にあるマーケットは人並みがますます多くなって行く。ホテルから車で10分ほどの距離にある場所だった。午後5時になるとモスクからコーランが聞こえてくる。

プールサイドで感じたこと

 表彰式はホテルのプールサイドで行われた。19時スタート、と聞いていたが、1時間たってもまだ始まらない。会場となったプールサイドは、バイク、車、そしてトラックのエントラントやチームスタッフ、それに家族やスポンサー関係者も含め総動員して賑わっていた。

 ようやく始まった表彰式は、クラス毎、カテゴリー毎に続き、2時間を越えた。2輪からスタートした関係で2輪チーム関係者は後半になるほどにアルコールも手伝って盛り上がっている。勝利の美酒に酔うKTMのスタッフに「強さの秘密は?」と聞いてみた。
 彼はしばらく(といっても数秒だろうか)考えて一言「チーム、チームだよ」と答えた。

 栄光の前、長く茨の道を歩いた彼ららしい答えだと思った。90 年代から市販ラリーバイクを継続的に販売しラリーカルチャーに貢献した。ファクトリーチームは飛ばし屋揃いでいつもヤマハワークスを脅かしたが、ラリー中盤から後半になると肝心なところで壊れたり、ライダーがミスを犯すような事もあった。そんな長い下積みがあった。2001年から現在までダカールラリーの連覇記録を伸ばすが、常にマシン開発への手を緩めなかった。栄光の日々にはラリー中にワークスライダーを失う辛い体験もした。今では当たり前になったライダー達の装備、ネックブレースの開発にも貢献してきた。現在、プライベーターも含め多くのライダーはKTMのマシンを選ぶ。信頼できるマシンだからだ。彼が言ったチームという言葉の中にはそれら多くの事象が含まれているように感じた。ラリーカルチャーを牽引し、深くコミットしている。モータースポーツ界を震撼させた世界の経済危機も彼らをラリーから撤退させることは出来なかった。それが今のKTMだ。僕は「チーム」という意味合いをそうしたバックグラウンドを含めて受け取った。今、ホンダは相当に大きな相手と闘っているのだ。

 
 まずホンダはダカールの勝利にこだわって欲しい。そして遠くない将来、市販が始まるラリーバイクを通じて、ラリーファン、ラリー参加者にハードもソフトもしっかり提供するメーカーとしてKTMのライバルになって欲しい。そう思った。

 ホンダのライダー達は、このモロッコラリーが終わった後、ライア・サンツは同じモロッコで行われるメルズーガラリーに参加。また、ヘレミアス・イスラエルとジョアン・バレーダは10月27 日から11月1日に渡って行われたチリを舞台にしたアタカマラリーに参戦。ダカールへの準備をさらに進めた。

 ダカールラリーは2015年1月4日スタートだ。



プールサイドは想像以上の混雑。頼んだビールもなかなかこない。それでもラリーが終わった開放感で誰もが陽気だ


2014年モロッコラリーは1位KTM マルク・コマ、2位、KTMサム・サンダーランド、3位ホンダ、エルダー・ロドリゲスだった
プールサイドは想像以上の混雑。頼んだビールもなかなかこない。それでもラリーが終わった開放感で誰もが陽気だ。 2014年モロッコラリーは1位KTM マルク・コマ、2位、KTMサム・サンダーランド、3位ホンダ、エルダー・ロドリゲスだった。


そしてライア・サンツは女性部門で優勝。素晴らしい活躍をこれからも期待したい


モロッコラリーの優勝でクロスカントリーラリー選手権のワールドタイトルも獲得したコマ。来シーズンはゼッケン1をつけて戦うことになる
そしてライア・サンツは女性部門で優勝。素晴らしい活躍をこれからも期待したい。 モロッコラリーの優勝でクロスカントリーラリー選手権のワールドタイトルも獲得したコマ。来シーズンはゼッケン1をつけて戦うことになる。

※次回モロッコラリーは2015年10月3日〜9日の日程で開催予定。詳しくは主催者のオフィシャルサイトへ。

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