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勝とうと思ってレースに勝てるのなら、誰も苦労などしない。しかし、
「今日の目標はトップに返り咲くこと(勝つこと)で、それをしっかりと実践できた。とにかくレースに集中してバカな失敗をしでかさないように心がけ、勝負に臨んだんだ」
と第17戦マレーシアGPで5戦ぶりの優勝を達成した弱冠21歳のマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)は、あっさり言ってのけるわけである。
5戦ぶりの勝利といいながらシーズン12勝目。すでに各所で既報のとおり、ミック・ドゥーハンが1997年に達成したシーズン最多勝記録と並んだ。これで次の最終戦バレンシアGPでも優勝すれば記録を更新することになるわけだが、「プレッシャーもないので、ファンの前でいい走りをしてまずはレースを愉しみたい」といいながら、「もちろん勝ちにいくよ」とのことなので、やるんじゃないでしょうかね、この調子なら。プレッシャーがないなら、余計に、ねえ。
だいたい今回の勝ち方にしたって、尋常ではない水準の高さである。金曜午前の走り出しから土曜のフリープラクティス3回目あたりまでは、それでもチームメイトのダニ・ペドロサのほうがむしろ強さを見せていて、さすが去年と一昨年、晴れでも雨でも勝っているだけあって、このセパンサーキットでは一日の長があるのかな、と思っていたら、土曜午後にきっちり合わせこんできたマルケスが、ペドロサを軽く凌ぐ強さと速さを発揮。予選では、昨年に自身が記録したサーキットレーコードを塗り替えてポールポジションを獲得した。この予選で1分59秒台に入れたのは、マルケスとペドロサの2名のみで、決勝でもこのふたりが1−2を飾るのかと思っていたら、ペドロサは序盤で早々に転倒。その後はバレンティーノ・ロッシ(モビスター・ヤマハ MotoGP)、ホルヘ・ロレンソ(同)との三つ巴を経て、終盤数周で「狙いどおり」のスパートを掛けてロッシをも引き離してしまった。
ラップタイムの推移を見ると、全20周のレースのうち、マルケスはほとんどの周回で2分01秒台を維持している。一方、最後までしぶとく食い下がったロッシもマルケスとほぼ同様のタイムで走っているのだが、ラスト5周に注目してみると、マルケスの場合は
2’01.920(lap16)、2’01.891(lap17)、2’01.701(lap18)、2’01.990(lap19)、2’03.207(lap20)
と徹底的に01秒台をキープしているのに対して、ロッシは
2’01.932(lap16)、2’02.205(lap17)、2’02.501(lap18)、2’03.566(lap19)、2’02.685(lap20)
と途中から02秒台へ落ち、19周目には03秒台半ばへとさらに大きく落としている。ちなみにこれらの各周回でのふたりのタイム差は、
0.277(lap16)、0.591(lap17)、1.391(lap18)、2.967(lap19)、2.455(lap20)
となっている。
やはり、ロッシが01秒台を維持できなかったことで両者間の距離が着実に広がってゆき、ラスト2周にはロッシが03秒台まで大きく下げたことで勝負はもはや決定的となった、ということがこれらの数字からも明確に読み取れる。
では、マルケスが最後まで機械のように01秒台を正確に維持できていたのに対して、ロッシはなぜ02秒台から03秒台へと落としていったのか。ロッシ自身の説明によると、それは以下のようになる。
「タイヤが消耗してくると、ホンダはリアのグリップだけが落ちるようだけれども、自分たちヤマハの場合はタイヤが本当に終わる終盤には、フロントにも問題があらわれてしまう。チャタリングが出たり(アンダーステアで)ワイドにはらんだりして、タイムの損をする場所が(コーナー立ち上がりの)加速だけじゃなくなってくるんだ。前を走っていたマルクを見ていると、タイヤがスピニングしてバイクの挙動は大きくなっていたけれども、それでもどうやってか旋回はできている。だから、僕の場合は終盤に2秒台に落ちていったけど、マルクは1秒9で走れていた。それが勝負を分けることになった」
さすがドクターの異名を取るだけあって、観察が鋭く分析も的確で、しかもその説明も非常に明快だ。だからロッシの話はいつも面白いのだな、と今さらながらヘンなところで感心をしてしまう。
ともあれ、このふたりはタイプも異なるし年齢差もあるけれども、ともに天才と呼ぶしかないものを備えた「ちょっと別格の人たち」であることは間違いない。
第18戦バレンシアでは、果たしてどのような攻防が繰り広げられるのか。マルケスは上記のとおり新記録樹立がかかっており、ロッシの場合はチームメイトのロレンソを相手に年間ランキング2位の座を巡るマジな戦いが待っているだけに、消化レースからはほど遠い見どころ満載の最終戦になりそうだ。一年を締めくくるに相応しい充実した戦いになることを期待しましょう。
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今回のマレーシアGPでは、Moto2クラスでティト・ラバトが年間総合優勝を確定させた。彼を取り巻く先輩ライダーや仲間たちの言葉に共通しているのは「彼は必ずしもずば抜けた能力を備えているわけではないけれども、努力の質と量が違う。今以上にもっと速く走ること、誰よりも強いライダーになること、という一点だけを見据えて、生活と人生のすべてをそこに注ぎ込み、努力を続けてきた。そのひたむきさがあるからこそ、着実に実力を向上させて、チャンピオンを獲得した」という指摘だ。
巷間よく言われることではあるが、才能とは要するに、惜しまずに努力できる多寡の差である、という。おそらく、その典型のような選手がティト・ラバトなのだろう。たとえば他人が何かの取り組みを一時間行うのなら自分はその三倍やる、というタイプだ。しかも、それを辛いことや厭わしい作業だなどと思わずに、当然のこととして実行する。
何によらず、どの世界でも頭角をあらわす人は、かならずこのような資質を備えている。努力と結果に因果関係はなく、努力の量は評価の対象ではない、ということを一番よく理解している人こそ、もっとも努力をしている。そういうものだ。
今回の彼のチャンピオン獲得は、当然すぎる結果といってもいいのかもしれない。
というわけで、次回は最終戦バレンシアGPです。では、また。
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「今回レースで一番の大敵は、暑さだった」とレース後に。
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マルクの言葉に対して「え、オレじゃなくって!?」と突っこみを入れた人。
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「今回のリザルトはあまりハッピーじゃないなあ……」と正直な心境吐露。
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終盤の熾烈なバトルで今季ベストリザルトタイ。
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ブルース・リーのものまねではありません。
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左足の負傷を抱えながら決勝では大健闘。
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ドゥカティ最上位。いいんだか悪いんだか。
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決勝はマシントラブルで失速。
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来季もこのチームだそうです。
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決勝ではタイヤ選択を他のホンダオープン勢と変えてみました。
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今季ベストリザルトも期待されただけに、給水トラブルが残念無念。
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この人も来季このチームに残留。
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来季のライダーはデ・アンジェリスさんと交渉中とか。
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FP3までは圧倒的に速かったんだけれども……。
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これで4戦連続ノーポイント。
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今回はどうもいまひとつ、何かが噛み合わなかった様子。
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「どないなっとんねん……」という声が聞こえてきそうな。
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転倒リタイアを喫するもののオープンカテゴリー最上位が確定。
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名物の1コーナー撃沈。やっちゃいました。 |
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今回は転倒じゃなくて、トラブルでリタイア。
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腕を負傷して決勝レースは欠場
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3戦の代役参戦で豊富なデータを獲得。
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悩みは尽きない……。うーむ……。
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