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V4エンジンは、猫が喉を鳴らしているような音とともに
グリグリと車体を推し進めた
”鞍上人なく、鞍下馬なし“ |
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781ccのV型4気筒DOHC4バルブエンジンは、控えめながらハッキリ聞こえるホンダV4独特の、猫が喉を鳴らしているような音と共に、車体を滑るように進ませる。180°クランクの不等間隔爆発エンジンは、スロットルを開けると、リアサスペンションがグッと入って、グリグリと力強く走る。コーナーの立ち上がり、まだ車体が起きてない状態で、大きめに開けても、リアタイヤは簡単にグリップを失わず、前に押しだす。V型2気筒の扱いやすさがありながら、4気筒らしい力強くスムーズな特性。80年代中頃にナナハンから始まった大型VFRの歴史の中で、いろいろと変化し、それぞれ個性はあるが、おおまかに存在してきたこの感じは変わらない。確実に言えるのは、この新しいVFR800Fのエンジンが中で最も上質だということ。
ブンブン回して乗るより
中回転域の力強さこそ楽しみたい
2002年に登場した前モデルのVFRにあった、発進の時に極低回転でギクシャクする気むずかしい挙動がなくなり、あくまでもフラットに、そこから右手を絞ると厚みを増す。低回転では2バルブ、高回転で4バルブと気筒あたりの作動するバルブ数を切り替えるHYPER VTECは継承されたけれど、切り替わりがハッキリして、高回転ではじけるように回転上昇する設定ではない。注意していなければ気がつかないほど切り替わりは穏やかで、普通にトップエンドまで足止めなしに一気に回る。
このVFR800Fに積まれたエンジンのキモとなるのは低中回転域。3千回転から6千回転くらいの力強さだ。低めのギアで引っ張らず、普通に田舎道を流していると、ちょうどこの領域にタコメーターの針がきていて、そこからスロットル操作だけでグイグイ前に進み速度計の数字を一気に増やせる。高回転まで回して乗るより、ここが気持ち良くて仕方がない。大排気量スポーツの体が遅れるような強いトルクではなく、かといってシャカリキに頑張って走らなくていい余裕。
欧州仕様とほぼ同じ100psを越える最高出力を維持しているから、ツーリングやワインディングなど日常的な使い方で不足はない。少なくとも私は1日乗り回して、スポーツツアラーというカテゴリー的にもこれだけパワーがあれば充分だと思った。それほど走行距離を伸ばしていないこの車輌でも、何の抵抗もなく、はっきりしたクリック感と節度でギアチェンジが決まるのがホンダらしいと頷いた。こういう精密さはアイデンティティーと言ってもいい。
一般的なマフラーになったことで足着き性が向上
跨ったときに感じる重さも軽減された
目的地が高原だったこともあり少し気温が低く、冷たい風を覚悟していたけれど、普通の乗車姿勢で、向かってくる風は肩をかすめ、ヘルメットに柔らかく当たるくらい。ちょっと伏せれば、そのヘルメットの上をかすめて、冷たさから逃れられる。いざとなったらグリップヒーターを標準装備しているので、寒さが苦手な私には大いに心強い。
ライダーの気持ちに逆らわない
ずっと乗っていられると思わせてくれる
ハンドリングはスポーツ性を高めた。ワインディングでのフットワークがより軽快に。でも軽快すぎず。旋回中も安定しながら、あくまでも従順。申し分のない効きのブレーキで減速しながら進入していくコーナーの入口で、狙ったところでバンキング、深く寝て旋回体勢に入り、トラクションコントロールを効かせなくてもトラクション性能の良いサスペンションとエンジンを使って素早く立ち上がる。スーパースポーツのようなソリッドさは当然ないけれど、タイトな峠道でも狙った通りのコーナーリングが無理なく可能。低中速トルクがしっかりしたエンジンとの組み合わせで、これが実に楽しい。そして、なかなか速い。
正直に話すと、以前、クローズドコースでこのモデルに初めて乗った時に、違いは体感できたけれど、なぜ、今となって新しいVFRを出してきたのだろうか? 欧州でこういうオートバイの市場があるのは分かるが日本市場ではどうかなぁ? と悩む気持ちもあった。今回、一般道で距離を伸ばし、いろいろな場所を走った後に、判った。なかなか、どうして日本の道、使い方でもなかなかいいじゃないか。どの場面でもそつなく使える仕上がりの良さ。スポーツ性と快適性が高いところで共存している。誰もが振り返るような派手なデザインや、目を見張る新しい機構はない。話題になりにくいカテゴリーで、ある意味で地味な存在かもしれない。でも、一度乗れば私と共感出来るだろう。もっと軽く、もっとスポーティーに、もっとパワーを、いろいろな意見もあるだろうが、どれを取っても良くできたバランスを崩すだけではないか。この一体感は、疲れにくさにも繋がっている。ライダーの気持ちに逆らわない、意のままに操れる優れた駿馬。一緒にもっと遠くの景色を見に行きたくなった。
(試乗:濱矢文夫)
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