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チャンピオンTシャツに大書されていたのは、”Mas Marquez”(More Marquez)という文字と<3+1>の数字。第15戦日本GPで2年連続の年間総合優勝を確定させたことにより、21歳のマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)はキャリア通算4回目のチャンピオンを獲得した。今回のレースでは、優勝をしなくても、ダニ・ペドロサ(レプソル・ホンダ・チーム)とバレンティーノ・ロッシ(モビスター・ヤマハ MotoGP)の前でフィニッシュすれば王座獲得の条件をクリアするために、日本でチャンピオンを決める可能性は比較的高そうにも見えた。
とはいえ、過去2戦で転倒を喫していることからもわかるように、レースでは何が起こるかわからない。日本語では「二度あることは三度ある」などという不穏な言葉もあるけれども、マルケス自身も、今回は転倒をしたくない、可能ならばここでチャンピオンを決めてしまいたい、という思いは強かったようだ。
今回のレースはホンダのホームGPであることから、青山の本田技研本社で記者会見を行ったり、あるいは埼玉のHRCを表敬訪問したり、とサーキット入りの前から事前スケジュールがなにかと慌ただしく、これらのイベントが結果的にマルケスのプレッシャーを少し強める方向にも作用をしたようだ。
日本GPの舞台ツインリンクもてぎは、文字どおりホンダにとってのホームコースだが、ホンダの選手はこのサーキットでチャンピオンを確定させたことが一度もない。ライバル陣営のドゥカティは2007年にケーシー・ストーナーが、メーカー初の年間タイトルをここで確定させており、ヤマハも翌2008年にバレンティーノ・ロッシがここで総合優勝を決めている。自分たちの庭ともいえる場所で、ライバル企業にそんなふうにやりたい放題のことをされていては、ホンダにとっては面白かろうはずがない。その意味では、今回のチャンスは企業的には必ずモノにしたい一戦であったことはまちがいないだろう。そんな彼らの悲願を、自分の力で実現したことについて、レース終了後のマルケスに率直な印象を訊ねてみた。
「うん。ここでチャンピオンを決めるのは、もちろんとても大事なことだったんだ」
と、マルケスは上機嫌の笑顔で話した。
「アラゴンは僕のホームコースだから、できればそこで決めたかったのだけど、それが不可能になって、次のチャンスがここになった。水曜に(本社を訪問した際)社長に会って、『日曜にはキミが勝つところを見に行くからね』と言われたので、プレッシャーがものすごかったけど(笑)、レース後はパルクフェルメに来てくれていた。メカニックたちにするようにハグしたから、社長さんもきっと喜んでくれたとおもうよ」
今回で4回目のタイトル獲得とはいえ、まだわずか21歳。日本でいえば平成5年生まれ、である。はたして今後、いったいあと何回タイトルを獲得するのやらと考えると、そら恐ろしくもなる。ただし、本人はあっけらかんとしたもので、
「ラッキーなのは、自分の達成したことを自分ではまだ理解していない、ということ。ライダーにとってこれで満足、なんていうことはないのだから、もちろん今後もどんどん勝っていきたい。来年、自分がどれだけ成長できるのか楽しみだけど、将来のことはわからないので、今はまずこのチャンピオン獲得の瞬間を愉しみたい」
と、いつものニコニコした表情であっさりと言ってのける。そもそも今シーズンの開幕前を思い起こせば、2月にダートトラックでのトレーニング中に右脚腓骨を骨折し、2回目のセパンテストをキャンセルするという出来事もあったのだが、開幕戦以降、破竹のポールトゥフィニッシュが何戦も続くうちに、そんなことは誰の頭からもおそらくはすっかり消えうせていた。
「ダートで走るなんてバカだともいわれたけど、レベルを上げようと思うとリスクを取らなきゃいけないこともあるし、しっかりトレーニングしなきゃいけない。カタールの開幕戦には間に合ってレースに勝つこともでき、それが自信にもなった。次のオースティンでも勝てて、その自信をさらに自分の有利な材料にしていくことができた」
というわけで、今後ますます自信を深めて実力を高めていくと、今まで以上にさらに手のつけられない事態になってしまいそうな気配が満々である。思い返せば昨年のオースティンで、ロッシは半ば冗談交じりに
「今のうちに叩いておかないと、そのうちエラいことになると思うよ」
と笑いながら話していたのだが、いや本当にエラいことになってしまったものであります。
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残り3戦は「もちろん勝ちを狙いに行く」そうです。
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さて、そのロッシだが、今回のレースでは3位表彰台を獲得し、年間ランキングでもペドロサと同ポイントの2位につけている。その要因は、今年のヤマハYZR-M1がかなりの程度、思いどおりに操れる状態に仕上がっていることが大きいようで、昨年ずっと課題として指摘していたコーナー進入や出口の弱点は大幅に改善され、かなり扱いやすい特性に仕上がっているようだ。金曜の初日を終えて、
「去年と比べると、ブレーキングは圧倒的に良くなった。バイクはとてもよく走っている」
と話していたので、では、立ち上がり加速はどうなのか、と訊ねてみた。本人は、うん、と納得したようにひとつ頷いて、
「良くなっているよ」
と即答した。
「ヤマハは、その部分の改善にとてもよくがんばってくれたと思う。去年は燃費に問題があって、シルバーストーンやミザノ、そしてここではとてもリーンな燃料セッティングだった。そうしないと最後まで完走できない状態で、だからバイクはもっと遅かったんだ。でも、今はヤマハがエンジンの電子制御や機械的なコントロールをがんばってくれていて、だいぶ燃費を稼げるようになった。その結果、今はフルリッチで走れるので、加速もとても良くなったんだ」
ということである。なるほど。
じっさいに、今回の日本GPにワイルドカード参戦したテストライダーの中須賀克行(ヤマルーブ・レーシング・チーム with YSP)も、この部分の改善を認める発言をしている。中須賀が使用していたマシンは、一台がロッシの使用しているものと同じアップデート版車体と、さらにもうひとつ先行開発の車体であったようだ。中須賀によると、ファクトリーライダーたちからのリクエストはブレーキングから進入、そしてトラクションがもっとほしいようで
「そこはやはりホンダに対して負けている部分だし、自分たちががんばって開発をしなければいけないところ」
ということのようだ。その課題領域も確実に改善を果たしているのは上記のロッシのコメントにも反映されているとおりで、中須賀自身も、
「自分の感触としても、車体はいいフィーリングです」
と話している。
今回の参戦はデータ収集が大きな目的のひとつであることから、絶対に転倒をしてはいけない、と話しながらも、決勝レースの目標はポイント圏内のフィニッシュ、と言っていた中須賀は、12位でチェッカー。
「開発という意味でも良かったと思うし、ポイント圏内でフィニッシュするという目標も達成できた」
とレースを振り返った。
「ヤマハのライダーが1−3位を獲得できて良かった。バイクを作っている立場からすると、このリザルトは自分の評価にもつながることだと思うので、うれしい。決勝レースでは、課題のブレーキングも良くなっていることが確認できたし、彼らがああいうリザルトを得てくれることは、土俵は違うけれども一緒に戦っている気持ちを持てるので、やりがいを感じます」
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「できるだけチャンピオン争いを長引かせたかったんだけどね」とレース後に。
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「去年は、バレンシアで2位を獲ったあとだったので、ヘンに期待されてプレッシャーもあったけど、今年はリラックスして走れてますよ」とレース前に。
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中須賀から0.066秒の13位でチェッカーを受けたのが、青山博一(ドライブM7 アスパル)。レース前には、オープンカテゴリーのトップでフィニッシュしたい、と話していた青山だが、ウィークを通じてフロントまわりの不安定感を払拭しきることができず、それが原因でプラクティスでは二度の転倒を喫することにもなった。決勝でもその問題を完全に払拭しきることはできず、オープン勢トップとはいかなかったものの、ホンダRCV1000Rの最上位というリザルトは達成した。
「二度の転倒がなければもっと上位を狙えたはずなので、そこはぼくの反省点です。まだまだよくしていける部分はあると思うけど、限られた時間内ではうまくまとめることができた。今回は転倒でスタッフが夜遅くまで作業してから水戸のホテルへ帰るということを繰り返していたので、決勝レースは転ばずに走りきり、今週のベストの走りができたので良かったのではないかと思います」
とウィーク全体を振り返った。ホンダのオープン最上位で終わることができたリザルトは、現在模索を続けている来シーズンの去就に関しても、いい材料になるかもしれない。MotoGPでレーシングライダーとして走ることをあくまでプライオリティとして考えたい、と話す青山は、
「多くはないけれども可能性は多少あるので、周りの状況を見ながらよく考えて判断したい。この3連戦のうちに見通しをつけたいので、セパンの頃にはかなりハッキリとしてくるのではないかと思います」
ということだ。
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来季の生き残りに向けて、レースも交渉もこの2週が正念場。
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さて、来季の話題が出たところで、最後に少し、それがらみの小ネタをひとつ。
来シーズン、グレシーニレーシングとともにMotoGPでのファクトリー活動を開始するアプリリアだが、来シーズンのライダーはアルバロ・バウティスタのみが確定しており、もう一名については未定、というのが現状だ。そこに収まる選手の名前はいろいろと取り沙汰されているが、現実的にはまだかなり流動的なようだ。
というのも、アプリリアは現在SBK(スーパーバイク世界選手権)でもファクトリー活動を行ってるが、MotoGPに注力するためにSBKの活動を停止したい、というのが企業側の意向なのだとか。現在の契約選手のうち、シルヴァン・ギュントーリは来季の移籍が内定しているものの、もう一名のマルコ・メランドリは残留を希望しているという。契約では、アプリリアファクトリーが2015年もマシンを供給するという文言が銘記されており、それを盾に取るメランドリ側に対して、ファクトリーが提案している窮余の策が、メランドリが自前でチームを結成するなら、そこにマシンを供給する、という提案であるらしい。
チームを結成、とひとくちにいっても、秋も深まるこの時期からファクトリーマシンを扱えるスタッフを集め、チームの体力を維持できるスポンサーも新たに獲得するのは、このご時世では至難の業である。状況はまったく不透明だが、メランドリが新造チームを結成できない場合には、MotoGPでシートを与える以外に方法がないのではないか、というのが現在の状況のようだ。ただ、アプリリアとしては、MotoGPのグレシーニレーシング第2ライダーにミケーレ・ピッロを獲得するのが第1志望のようである。ピッロはドゥカティのテストライダーを務めており、経験と開発の知識もある。だが、そうであるからこそ、ドゥカティ側はピッロを手放したがっていないのだとか。
さらにこの話をややこしくする要因として、10月5日のSBK第11戦マニクールでは、アプリリア陣営のギュントーリにとってチャンピオン争いのかかった重要な戦いで、チームオーダーが指示されていたにもかかわらず、メランドリがその指令を無視してこの日の第2レースで優勝をしてしまった(抜かれたギュンちゃんが情けないといえばそれまでなのだが……)。これがアプリリアとメランドリの関係にさらに微妙な蔭を落とすことは必定で、来季のアプリリアMotoGPチームのシートは、かくも不透明で不安定な状況にある、というのが現在の状況のようだ。
いやあ、大人の世界はこわいですね。
というわけで、また。
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今年も圧倒的に速かった。年間ランキング2位争いがさらに熾烈に。
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