パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム2014 参戦した日本人ライダー全チームが完走!

●文・撮影:青山義明(Office BlueMountain ) 

 アメリカ・コロラド州にあるパイクスピークという山で、毎年独立記念日前後に開催されるパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム。これは、標高2862mのスタートラインから4301mのゴールまで、山に登って誰が一番速いかを競う単純明快なレースで、すでに92回目を数える歴史あるレースである。


最速・電動バイクのライトニング社、3連覇を果たしたカーリン・ダンは欠場……

 アスファルト化されたために、アベレージスピードが上昇しているパイクスピーク。今年は大幅な安全対策が取られ観客の入山制限がなされた。これまではそれぞれが好きなところに場所を取って観戦していたものが、所定の場所以外での観戦ができなくなったのだ。また、コース中の危険なコーナー2カ所へは、エアバッグ付ストローバリアも設置された。

 しかし今回、残念なことに死亡事故が発生してしまった。レース経験も豊富で、このパイクスピークへの参戦経験もあるボビー・グーディン選手がチェッカーを受けた直後に転倒。ドクターヘリでふもとの病院へ搬送されたものの、残念な結果となってしまった。



ジェレミー・トイェ選手


ミッキー・ダイモンド選手
2輪の総合優勝はジェレミー・トイェ選手が9分58秒687(カワサキZX-10R)とモーターサイクル部門史上3人目の9ミニッツクラブ入り(9分台に入ったメンバーがそう呼ばれる)を果たしたことになる。 AMAスーパークロスやモタードでチャンピオンのミッキー・ダイモンド選手がドゥカティ・ムルティストラーダで参戦。これまでの記録には及ばず、10分11秒319でクラス4位と平凡なタイムに収まった。

 パイクスピークは、2輪と4輪で大別され、さらにその中で様々なカテゴリー分けがなされ、総合タイムだけでなく各クラスでのタイムを競うことになる。今年のモーターサイクル部門のカテゴリーは10部門に分けられている。

 昨年は、ライトニング社のライトニング・エレクトリック・スーパーバイク(電動バイク)がついに2輪車部門のトップタイム(10分00秒694)を出したということで大きなニュースになった。しかし、今年はライトニング社のエントリーはなく、そのライダー、カーリン・ダン選手(ちなみに2012年まではドゥカティを操りパイクスピーク3連覇を達成している)も欠場という寂しい状況ではあった。



ガイ・マーティン選手
マン島流れでいえば、この人。ガイ・マーティン選手は自ら作り上げたマシンを持ち込んだのだが、練習走行からどうにもセッティングが出なかったようで、決勝では11分32秒558(総合54位)でレースを終えている。マーティン選手のマシンは、マーテック社製のフレームに、GSX-R1100のエンジンを1325㏄までボアアップして、ターボを追加することで平地では500馬力を発揮するという。しかし、空気の薄い頂上付近ではその出力の3割~4割出力ダウンとなるという。

インディ500に次ぐ歴史をもつレース、最来年は100周年!…

 全長約20㎞、156のコーナーを持つパイクスピークのコースは、レースの時だけ閉鎖されるものの、平時は有料道路として営業しており、2012年に全面舗装化となっている。これは年に一度のこのレースにも大きな影響を与えることとなった。これに伴い、よりオンロード寄りのマシンとタイヤチョイスがなされるようになり、日本からのバイク参戦も活発になり、今年は5台6名のライダーが参戦することとなった。

 昨年からの継続参戦のライダーは2名。パイクスピークオープンクラスへ挑戦した伊丹孝裕選手とサイドカー部門にエントリーの渡辺正人選手。伊丹選手はトライアンフ(参戦クラスはPikes Peak 1205)からMVアグスタへ車両変更して出場。昨年はリタイヤだったが、今年はその雪辱を晴らし、10分58秒580(総合34位、クラス9位)という日本人最速タイムで初完走した。



伊丹選手


渡辺・大関ペア
昨年、トライアンフ・スピードトリプルRで参戦したものの、転倒を喫しリタイヤとなってしまった伊丹選手。今年はMVアグスタF3 800に乗り換え再挑戦。見事チェッカーを受けることができた。 GSX-R1000のエンジンを載せたサイドカーKumano Motorsport LCR GSX-R1000で参戦の渡辺・大関ペア。パッセンジャーは、この空気の薄い高地で走行サポート。さらに再始動のためにマシンを押したりして疲労困憊? 

 そして渡辺選手は、今回トップカテゴリー「F1」の車体にスイッチして参戦。パッセンジャーには昨年メカニック兼サブパッセンジャーとして現地同行していた大関政広選手が担当となった。決勝レースでは、ゴールまであと少しというところで、燃料トラブルが発生し、マシンを止めることに。しかし、なんとかエンジンを再始動させ、だましだまし走りながらゴールラインを通過し、完走。23分50秒080と昨年の倍以上のタイムであったものの、総合115位、クラス1位となった。

 伊丹、渡辺両選手ともマン島TTに参戦したことのある「マン島流れ」のレーサーであるが、もうひとり、エレクトリッククラス・エレクトリックモディファイ部門へ参戦した岸本ヨシヒロ選手もある意味マン島流れのひとり。故・松下ヨシナリさんをライダーとして起用してこの電動バイクでマン島へ参戦していたわけだが、昨年彼の事故死によってその参戦を断念。代わりにTEAM MIRAIの代表である岸本さんがマシンを駆ってこのパイクスピークへ出場することとなった。これまで同様、グッドスマイルレーシングとコラボで、初音ミクのレーシングミクのカラーリングが施された派手な車体は、決勝レース前に行なわれたファンフェスタや当日パイクスピークに詰めかけた多くのファンにも好評だった。しかし、決勝レースではミドルセクションでスリップダウン。車体左側に大きなキズを負ったものの、走行には支障なく、クラス2位(総合104位/13分36秒654)でゴールした。

 さらに新規参戦したのがブルー・サンダースから出場の2台。新井泰緒選手選手(1980年式Kawasaki KZ1000MK-II)と高野昌浩選手 (1973年式 Kawasaki Z1)。ともにパイクスピークチャレンジ(UTV/エキシビジョン部門)へ参戦。この参戦の声がけを行なったブルー・サンダースの岩野慶之代表はこの高地でのレースに向けて、マシンをインジェクション化するのではなくキャブでどこまで行けるのかにチャレンジするとして、あえてFCRキャブで現地に乗り込んだのだ。事前の練習走行でセットを合わせつつ決勝を迎え、2名とも無事に山頂へたどり着き、新井選手はクラス2位(総合55位/11分33秒613)、高野選手がクラス3位(総合66位/11分48秒644)とブルーサンダースの2名はともに表彰台を獲得した。



岸本選手
岸本選手が参戦したのは、エレクトリックモディファイ(電動バイク改造)部門。2014年式Mirai TT ZERO 13(Pikes Peaks ver.)は転倒し、マシンの再起動に時間がかかり、1台にパスされてしまったが、無事に完走! 「来年もまた来たい」とコメント。



ブルー・サンダース


高野選手
ブルー・サンダースを中心としたスタッフがかかりきりで、短い練習走行の時間を使って2台のカワサキ旧車のデータをやり取りしながらマシンを仕上げた。新井選手は今年のパイクス日本人トップバッターでスタートし、見事チェッカーを受けた。「無事たどり着けてよかった。なんだかあっという間だね」と。 開口一番「気持ちよかった」とコメントしてくれたのは高野選手。マシンはレースウィークスタートから日々調子を上げていき、順調に仕上がった様子。「ついついアクセルを開けちゃって失敗したコーナーもあるけど」と。新井選手とともに来年も、という話が盛り上がっていた。

 1916年に初開催したこのレース。アメリカでは、インディ500(インディアナポリス500マイルレース)に次ぐ長い歴史を持つレースで、再来年は100周年イベントも予定されている。今年参戦した面々は口をそろえて「また来たい」と言っている。日本人ライダーのさらなる参戦に期待したい。