幻立喰・ソ

第47回 「ラルズと共に去りぬ」

 札幌。津や大津は知らなくても、誰でも知っている県庁所在地にして、テレビ塔、大通公園、白い恋人パーク、ラーメン横丁など有名観光地も抱える北海道最大の都市です。北海道に行ったことのある人ならば、必ず行っているかと思えば、意外と行っていない人が多いようです。「せっかく北海道に行くのに、なんでわざわざ都会に行くの?」なるほど。
 札幌もいい街ですよ。前記のように多くの観光地もありますし、冬は雪祭り、春夏秋もなにかの祭、夜は警察24時でおなじみ北海道最大の歓楽地すすきのや、札幌の夜景を一望できる藻岩山、そして誰でも知っているのに3大ガッカリ名所のひとつに数えられる時計台などなど、路面電車と徒歩で十分回れます。さらに札幌には北海道中の海の幸、山の幸が集まります。
 そして、大都市ゆえのメリットが数多くの立喰・ソがあることです。札幌駅徒歩圏内だけでも11軒はあります(確認分のみ。もっとあるやもしれません)。地下鉄圏内の近郊まで含めると30軒以上にもなる、北の立喰・ソパラダイスなのです。なんといっても、北海道は日本一のそば生産高を誇る大産地。札幌の立喰・ソが北海道産のそば粉を使っているのかどうかは定かではありませんが、そこは気分です。


札幌の現役立喰・ソ

札幌の現役立喰・ソ

札幌の現役立喰・ソ

札幌の現役立喰・ソ

札幌の現役立喰・ソ

札幌の現役立喰・ソ

札幌の現役立喰・ソ

札幌の現役立喰・ソ

札幌の現役立喰・ソ

札幌の現役立喰・ソ

札幌の現役立喰・ソ

札幌の現役立喰・ソ
札幌周辺、現役立喰・ソのみなさん。いつまでも、ああいつまでも。わたしにソをすすらせなさい(一応現役なのでモザイクを添えて)。

 ただ、ここ数年、ばたばたっと幻立喰・ソ入りが続く「札幌よ、おまえもか」状態です。しかも未食のまま幻立喰・ソになってしまったお店が半数近く。「せっかく札幌きたんだから、立喰・ソじゃなくて、札幌ラーメン、スープカレー、ジンギスカンに生ビール」と誘惑だらけなのが未食の手淫、いや主因です。また今度でいいやと油断していると、あっという間に幻立喰・ソ……という、いつものパターンを北の大地まで来て繰り返しているわけです。救いがたいです。

 なくなるといえば、列車の廃止や鉄道の廃線の最終日に「ありがと〜ぅ!」と何に感謝しているのか、奇声を発する大きなお友達を葬式鉄といいます。
 お葬式はお亡くなりになった後ですから、正確には「今際の際鉄」または「ご臨終鉄」ではないかと思うのですが。それはともかく、立喰・ソが幻立喰・ソになるのはほとんどが抜き打ち。「最近シャッター降りたままだなあ」と思っていたら幻立喰・ソ化、「都合によりしばらく休業します」の貼り紙のまま幻立喰・ソ化という、死に際を見せない犬? ネコ? ゾウでしたっけ? のようなパターンがほとんどです。もしも最終日に「ありがと〜ぅ。ずるずる」とソをすすりながら絶叫する葬式立喰・ソがいたら、かなりの情報通上級者と敬ってください。


札幌の幻立喰・ソ

札幌の幻立喰・ソ

札幌の幻立喰・ソ

札幌の幻立喰・ソ

札幌の幻立喰・ソ

札幌の幻立喰・ソ
札幌周辺の幻立喰・ソとその跡地のみなさん。いつまでも、ああいつまでも。わたしにソをすすらせないとは。

 話を北の大地に戻します。
 狸小路という名前くらいは聞いたことあると思います。すすきのから札幌駅側に戻った所にあるアーケード街で、かつて札幌観光の外せない買い物ゾーンでした。今では日本全国津々浦々のアーケード街の例に漏れず、シャッターが降りたままのお店が見受けられる「おお狸小路よ、おまえもか」状態です。
 その中程に、昭和を今に伝えるようなラルズプラザ札幌店というデパートがありました。デパートというよりも百貨店という言葉がしっくりくるような、なつかしい雰囲気のお店でした。過去形からお解りのように2014年6月8日閉店しました。最終日には約200人の葬式百貨店? のお見送りを受け、80年! に及ぶ長い歴史を閉じました。

「いつから幻百貨店になった?」と訝かられると思いますが、ラルズの地下に幻立喰・ソになりたて、今回のお話の「やすだ」がありました。


ラルズプラザ札幌店

ラルズプラザ札幌店
ラルズプラザ札幌店。ゴールデンウィークにはもう閉店セールでした。(2014年5月撮影)

 やすだとの出会いは忘れられません。一歩間違えば大冤罪で前科者になっていたかもしれないのですから(誇大表現)。
 最初の訪問は2013年。地下の食品売り場に、いい雰囲気の立喰・ソがあるという情報を得て、いそいそと向かいました。わくわくラルズで地下へ向かうエスカレーターに乗りました。食品売り場の一角にフードコートがあってとイメージしてエスカレーターを降りたのですが、そんな雰囲気はありません。不安な気持ちで食品売り場をぐるぐる巡りましたがどこにもありません。見逃したかと何度も何度もぐーるぐる。何も買わずうろうろしているその姿は明らかに不審者です。もし食品売り場で食パンに針が混入事件が起きたら、バリバリの容疑者候補ナンバーワンです。
 ガセネタか、それともすでに幻立喰・ソになってしまったのか……ああ、なんのために札幌まで来たのか。まあ他にも未訪問立喰・ソはあるからいいんだけど。としょんぼりラルズで上りエスカレーターに向かうと……なんということでしょう。クリーニングカウンターの奧、上りエスカレーターの前という完全な死角にエンジ色も鮮やかな「やすだ」のれんがあるじゃないですか。かの松本清張先生が見たら、テント千(←私のバカソフトはこう変換します)ではなく、点と線を越える小説を1本書いてしまうかもしれません。この時は、あまりの感激で写真は撮り忘れ、立喰・ソ帖データー不記載でしたが(いつもの言い訳)、強く印象に残ったのは、立喰・ソにしては珍しくレンゲ付きだったことと、テーブルの箸立てからわざわざ一本出してを丼に添えて出してくれたことです。なまらの意味も解っていないのに「なまら北海道!」と、激しい感動を覚えたことを憶えています。


ラルズプラザ札幌店

ラルズプラザ札幌店
エスカレーターを降りたらこんな感じ。(2014年5月撮影) エンジ色ののれんが目に染みます。(2014年5月撮影)

 2回目の訪問時は、落ち着いてソを堪能しました。見た目はしょうゆ辛そうな関東正統派風なのですが、どちらかといえば薄めに感じるギャップに驚きました。そして北海道標準仕様のころもだけの天ぷらがおつゆに溶け出すと、薄いと感じたおつゆにコクが増して、いい塩梅に変化しました。なんたるツンデレ立喰・ソ。やられました。

 3回目になれば、すでに常連気取りです。「そういう奴はキャバクラで一番嫌がられる客なんだよ」と、かつて通い詰めたキャバ嬢がよく言ってました。思い起こせば「おまえのことだよ」という遠回しの通告だったんですね。
 キャバ嬢にはたくさんウソをつきましたが、三度目の正直でということで、おいなりさんも注文しました。下の写真を見て下さい。かわいい赤いぽっち。何だと思いますか? 紅しょうがに決まってます。
「こんなデコレーション、初めて! 女性ならみんな好きだよね!」みたいな。しかも2こで105円。純情な田舎娘のかわいさです。やられました。

 
 このように、行く度にやすだは新鮮な驚きと発見を見せてくれたのです。それまでは、やすだといえば、がんばれタブチくんに出てくるヤクルトの安田か、パ○ンコのやすだチェーンを思い浮かべたのに、気が付けばエンジ色のやすだに、めろめろになっていました。


ラルズプラザ札幌店

ラルズプラザ札幌店
天ぷらそばとおいなりさん。めろめろ。(2014年2月撮影) お別れは初めて食べた冷やしぶっかけ。れろれろ。(2014年5月撮影)

 今年の春、風の噂に閉店を知り、ゴールデンウィークの最終日、やすだに行ってきました。

 食べ終わって思い切って店番の兄さんに話しかけてみました。
「閉店後はどこかに移転されるんですか?」
「まだ、なにも決まっていないんです」

 前記のように大都市札幌さえ、幻立喰・ソ化の波が押し寄せている昨今、立喰・ソを新たに開くことは、簡単ではないと思いますが、地元密着、かゆいところに手が届く記事でお馴染み、どさんこに愛される北海道新聞によれば、いつかは再開したいと道具類は保管するとのこと。とりあえず、希望はつなげました。
 わずか1年あまりの邂逅ではありましたが、強烈に脳裡に焼き付いたやすだ。いつの日か再び、エンジ色の大きなのれんをかかげる日が来ることを願って、駄文の締めとさせていただきます(なんのオチはありません。いつもと同じように)。


ラルズプラザ札幌店
上りエスカレーターに乗り、振り返って見たこのシーンが、やすだとの今生の別れとなりました。また、あのソをすすれますように。(2014年5月撮影)

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●立喰・ソNEWS 2014 金沢よお前もか!

北陸の金沢駅、小松駅で立喰・ソを展開している、加賀白山そば。金沢名物のぐるぐるとうずまきが入ったかまぼこ(正式名称不明)が入っている加賀百万石っ子のソウル・ソです。このコーナーでおなじみAB君も金沢出身で、16で故郷を捨て(た訳ではないようですが)、単身長崎の高校へ向かった朝、故郷を石持て追われ(た訳ではないようですが)、東京は向かった夜、人生のターニングポイントでこの立喰・ソをすすってから出発したそうです。時代の移り変わりと共に、ホームやホーム下のお店は幻立喰・ソになり、本社工場に併設された直営店も3月31日をもって幻立喰・ソになったそうです。工場直送を食べてみたくて一度は訪れようと思っていたのですが、平日お昼時だけの営業とハードルが高く、ついに叶わぬ夢となってしまいました。


ホーム下

ホーム下
ホーム下のコンコースにあったお店も今年1月10日で幻立喰・ソに。跡地はどうなったかといいますと……(2013年3月撮影) 階段になったり校門になったりした幻立喰・ソもありましたが、トイレになったのも珍しいかと……(2014年6月撮影)

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●「ちょっとそばでも」の著者、坂崎さまからメールが!!!!!!!!!

「おい、バ★ソ、お前宛のメールきてるけど、なにかやらかしたのか?」編集さんからメールが転送されてきました。錦糸町の源さんから抗議のメールか!? と恐る恐る読んでみれば……


はじめまして
私、大衆そば研究家の坂崎と申します

御社のサイト、幻立喰・ソ、第38回で、
「ちょっとそばでも」をお取り上げいただき、
大変感銘しておりますとともに、
並々ならない立ち食いそばの知識を持った方だと
お見受けしており、
時々、拝見させていただいております

WEBのほとんどがバイク関係で、私はバイクも乗らず
ご挨拶のメールをするのが、失礼にあたらないかと
ずっと躊躇しておりましたが、

やはり、思い直し、メールをさせていただくことにいたしました

本当にありがとうございます

実は、本を作成するにあたり、幻ソとなった原稿も沢山あり、
その思いは共通するものだと考えております

どうか、これからも、巧妙な文章と、愉快な文脈を楽しみにしております
これからも、期待して拝読させていただきます

また、何か質問などがあれば、何なりとご一報ください

編集部皆様の益々のご発展をお祈りしております

追伸
錦糸町の幻の源は、正しいと思います。当時二店ありましたので
一店(本店)は業態変化
幻店は閉店
なのだと思います
なつかしいです


おおおおおおおおっ! びっくりしました。第38回で、クソ生意気にも、書評のようなことをしてしまったのに、顔から七味が吹き出す思いです。腰が抜けました。茹ですぎた冷凍麺を10日放置したように、ふにゃふにゃになってしまいました。いやはや、なんとも恐縮であります。しかも前回提起するだけでほっぽり出した源さん問題の解答までいただきました。坂崎さま、どうもありがとうございます。今後も精進いたします。ああ、驚いた。まだ「ちょっとそばでも」を読んでいないという不届者はいるとは思えませんが、もしいるようなら今すぐAmazonへ直行してください。貴方の立喰・ソライフが1億倍豊かになります。

7月7日発売「群像」(講談社)の私のベスト3という記事で、坂崎先生が「心に残る大衆そば屋を追いかけて」を執筆されたそうです。幻立喰・ソネタも入っているとか。必見です!


バソ
バ☆ソ
日本全国立ち喰いそば全店制覇を目論む立ち喰いそば人。現在600店以上のデータを収集したものの、ただ行って食べるだけで、たいして役に立たない。立ち喰いそば屋経営を目論むも、先立つものも腕も知識も人望もなく断念。で、立ち喰いそば屋を経営ではなく、立ち喰いそば屋そのものになろうとしたが「妖怪・立ち喰いそば屋人間」になってしまうので泣く泣く断念。世間的には3本くらいネジがたりない人と評価されている。一番の心配事はそばアレルギーになったらどうしよう……。


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