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西村 章

第80回 第4戦スペインGP 5月4日 「Spanish Catsle Magic」

 3戦ぶりのご無沙汰です。現場に来るとやはりいろんな話を拾えるもので、皆を驚かせた衝撃のニュースから首を傾げてしまう眉唾ものの情報まで、第4戦スペインGPのパドックで飛び交った玉石混淆のトピックのあれやこれやを以下で一気に紹介してみましょうかGO!

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 今回のレースウィークで最も大きな話題になったのは、MotoGPクラスにワンメークでタイヤを供給するブリヂストンが、2015年限りでその活動を終了する、というニュースだ。レースウィークに先だつ木曜午前に発表され、午後2時30分からブリヂストンのホスピタリティブースで記者会見が行われた。集まったのはこの時刻に現場入りしていた取材陣で、言ってみれば、同社のMotoGP活動を間近に見てきた面々ばかりだ。英語で行われた質疑応答で、モータースポーツ推進部長二見恭太氏は、今回の決定について「参戦当初に掲げた目標を達成し、経営陣の間で慎重な議論を重ねた結果、この結論に至った」と説明した。
 その議論を開始した時期についてはコメントを避けたが、ワンメークでタイヤを供給する経済的な負担の大きさやDORNAとの契約条件、あるいはときに選手たちから厳しい声があがるタイヤパフォーマンスへの批判等々が活動終了の理由ではない、と明言した。
「モータースポーツ活動には四種類の目的がある。技術開発、ブランドイメージの拡大、ビジネス、そして参戦することによる従業員の満足感や誇り。MotoGPに参入したときに、この四つの点についてそれぞれの目標を設定し、それらをすべて達成できたと判断したために、今回の結論に至った」と二見氏。
 モータースポーツ活動は膨大な費用を必要とするわりに、直接的な投資効果が数字に反映されにくいため、投資家や株主への説明に困る、という話はたびたび耳にする。しかし、好影響が業績にあらわれにくいのと対照的に、活動を停止した際のブランドイメージや業績へ及ぼす悪影響は、じわじわとボディブローのように効いてくるともいう。そのあたりの、今後のタイヤ製品の小売り販売に対する影響をどう見積もっているのか、訊ねてみた。二見氏は一瞬、考える様子を見せたあと、
「直接的に大きな影響があるとは思わない。たしかに多少の影響はあるだろうが、さほどに大きくはないと考えている。ビジネスは従来どおりに継続をしていけると思う」
 と回答し、モーターサイクルレーシングマネージャー山田宏氏も
「モータースポーツとビジネスにリンクがないとはいわないし、リンクがあると信じているからこそこうやって参戦しているわけだけれども、かつてF1の活動を辞めたときにも、小売りにはそれほど大きな影響はなかったと記憶している」と説明した。
 競合他社とのコンペティション時代を経て、2009年以降はワンメークになったが、近年はブリヂストンの性能に対して選手たちからときおり不満の声が上がることもあった。
「サーキットで選手たちからそういう声が上がるのは、モータースポーツの世界では当然のこと。もちろん、そういう批判は、さらなる開発のために非常に貴重な意見だと受け止めている」と二見氏。
 今回の発表に対するカル・クラッチローのコメントは、選手側の事情をもっともよく説明しているように思う。
「自分はMotoGPではブリヂストンしか知らないし、タイヤが素晴らしいとコメントしたことは一度もない。しかし、ライダーはいつだって、さらに良いものを求めるものなんだ。これで完璧だと言うことなんて、ありえないよ」

#ブリヂストン #ブリヂストン

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 2015年末でブリヂストンのワンメークが終了した後、どのブランドが参入することになるのかについては、まだ決定しておらず、現在はその入札の真っ最中だ。噂レベルの話としては、2008年を最後にMotoGPから撤退していたミシュランが復活するのではないか、とも言われている。入札が終了する5月下旬から6月頃には、概要が明らかになっているだろう。
 そして、これが噂の面白いところなのだが、このBS撤退とミシュラン復活説に絡めあう恰好で、先ごろ今年限りでの引退を表明したコーリン・エドワーズが、第4戦スペインGP限り、あるいはあと数戦を最後にレース活動を切り上げ、当初の発表よりも引退を早めるのではないか、という憶測が一部で流布した。
 その根拠はというと、エドワーズはかつてミシュランのテストライダーも務めていたことから、同社のMotoGP復帰プロジェクトに専念するのではないか、というまことしやかな推測なのだが、エドワーズ自身はこれらの噂を即座に否定。自身のツイッターで、「噂はあくまで噂だよ。早々に辞めてしまうとかいう話を聞いたけど、フォワードレーシングで今季の最後まで走りきってから引退するつもりだ」とつぶやいている。
 ちなみに、ブリヂストンは2015年から全日本ST600クラスにワンメークでタイヤを供給し、その翌年からは地方選手権にも同様の供給を開始するが、これはとくにMotoGPの活動停止と因果関係がなく、たまたま発表が同時期に重なってしまっただけ、ということのようだ。

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 さて、エドワーズの一件以上に他愛もないゴシップや与太話の類いもいくつか紹介しておこう。
 まずは移籍関連。今年はホンダとヤマハのファクトリー四名がすべて契約更改の時期を迎えるため、あと一ヶ月もすれば彼らとメーカーの水面下での駆け引きに関する情報はいっそう賑やかになってくるだろう。今回は、ロレンソに関する話題を少々。おそらくは彼もチームも残留が第一選択肢だと思われるが、ドゥカティと話をするだけはしているようだ。金額は1000万ユーロを要求しているとかいないとか。それだけの金額は、ドゥカティ側にとても払うことができないだろうとかどうだとか。
 バレンティーノ・ロッシは2年契約のヤマハ残留を希望していることは、以前から本人も明らかにしているとおりだが、ムジェロかカタルーニャあたりで、ヤマハ側と本格的な交渉のテーブルにつくとかいう話もあるので、早ければアッセンの前には何か動きがあるかもしれない。
 そしてもうひとつ、これはかなり確度が低いのかどうなんだかまったくよくわからない話なのだが、ブラジルGP復活、という説が微妙に囁かれている。ブルノサーキットの経済事情が芳しくない−という話だが、毎年20万人超を動員しているのにDORNAへの支払いに苦労しているというのは、いろんな意味で首を傾げてしまう話ではある−ために、来年からはここをカレンダーから外して、そのかわりにゴイアニアを組み込む、ということなのだが、はたして、どうなんでしょうかね。まあ、そういう話が一部でふわふわ漂っていた、ということでひとつ。

#99 #46

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 肝心の第4戦のリザルトだけれども、ご存知のとおり、M・マルケスが開幕から4戦連続のポールトゥフィニッシュという圧勝。このまま行くと18戦全勝してしまうのではないか、というくらいの無敵っぷり。ちなみにこのままマルケスが連勝街道を驀進した場合、現在ランキング2番手につけるダニ・ペドロサが毎戦2位を獲得し続けたとして、第15戦の日本GPで計算上はチャンピオンが確定することになる。ペドロサが取りこぼすようなことがあれば、その時期はもっと早まるというわけだ。まあ、これはあくまでマルケスが全勝を続けた場合の試算だけれども、この机上の空論があながち空論でもなさそうだと思わせてしまうところに、今のマルケスのとめどない勢いを感じる。
 というわけで、今回はひとまずこれにてお開き。次回は、6月頃におめもじする予定です。では、また。

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■第4戦 スペインGP

5月4日 ヘレス・サーキット 晴

順位 No. ライダー チーム名 車両
1 #93 Marc Marquez Repsol Honda Team Honda
2 #46 Valentino Rossi Yamaha Factory Racing Yamaha
3 #26 Dani Pedrosa Repsol Honda Team Honda
4 #99 Jorge Lorenzo Yamaha Factory Racing Yamaha
5 #04 Andrea Dovizioso Ducati Team Ducati
6 #19 Alvaro Bautista GO&FUN Honda Gresini Honda
7 #41 Aleix Espargaro NGM Mobile Forward Racing Forword Yamaha
8 #38 Bradley Smith Monster Yamaha Tech 3 Yamaha
9 #44 Pol Espargaro Monster Yamaha Tech 3 Yamaha
10 #06 Stefan Bradl LCR Honda MotoGP Honda
11 #69 Nicky Hayden Drive M7 Aspar Honda
12 #07 青山博一 Drive M7 Aspar Honda
13 #45 Scott Redding GO&FUN Honda Gresini Honda
14 #68 Yonny Hernandez Energy T.I. Pramac Racing Ducati
15 #08 Hector Barbera Avintia Racing Avintia
16 #70 Michael Laverty Paul Bird Motorsport PBM
17 #23 Broc Parkes Paul Bird Motorsport PBM
RT #05 Colin Edwards NGM Mobile Forward Racing Forward Yamaha
RT #29 Andrea Iannone Pramac Racing Ducati
RT #63 Mike Di Meglio Avintia Racing Avintia
RT #17 Karel Abraham Cardion AB Motoracin Honda
RT #35 Cal Crutchlow Ducati Team Ducati
RT #51 Michele Pirro Ducati Team Ducati
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