トライアル世界選手権  日本GP開幕目前藤波貴久選手インタビュー  来たるFUJIGAS!!! なるか!!!もてぎLEGEND

●インタビュー・文-阿部正人 ■撮影-依田 麗・楠堂亜希 ●取材協力-Honda http://www.honda.co.jp/


いつも勝つ気持ちでいる。でも勝てないという、たじろぎもある。そして勝った。まだイケるんだという確信。

 いきなりの優勝。今年の開幕初戦オーストラリアGPを飾った藤波さんはひとしおの喜びを感じていた。しかしまた、ないまぜの戸惑いを想ったという。

「勝てると思っていなかったのです。膝の調子もいまひとつだし、様子を見る気持ちでいました。それが、勝てた。あれっ? ベテランの自分でも優勝できるんだ。まだ勝てるじゃない(笑)。むしろ開き直って挑んだことが、プレッシャーをはねのける境地になったのでしょうかね」

 昨年末、練習中に右膝を負傷。その療養に2ヶ月間もバイクを離れた。ここは割り切って上半身の改造と体重を絞ることにしたという。170センチ、69キロ。両腕の逞しさを保ったまま、首筋から肩口にかけてどこかスリムになった印象を受ける。

「バイクに乗れませんでしたから、いい機会だと思いウエイトトレーニングを中心に肉体改造をやりました。食事の量もすこし減らしました。右膝をかばうことはありますが、身体が軽くなった実感はあります。同時にそこからリラックスもできたのですかね」

 藤波さんの和食好きはつとに知られる。納豆、根菜、カレーライス、味噌汁。海外のどこに居ても奥さんの作る手料理が原動力。1980年1月13日生まれ。34歳になったが、世界チャンピオンになった24歳からあまり変わっていないたたづまい。つまりこの10年、いつもオールクリーン(減点ゼロ)を追求してきた挑戦者の心技体だろうか。



藤波選手


オーストラリアGP


オーストラリアGP
開幕戦のオーストラリアGP1日目を優勝という幸先のよいスタートで幕を開けた2014年。19年目の今年は「より自分を俯瞰で見られるようになった」「余裕がある」という。“レジェンド”誕生の瞬間かもしれない。ちなみに2日目はトニー・ボウ選手が優勝し、常勝HRCワークスの力を見せつけた。

30歳で競技はやっていない。5歳なんて考えられなかった。ところがいま、かさねる年齢を感じない。

「若い頃、自分が30歳になったら、もうトライアルをやってないと思ってました。だから35歳なんてとてもとても冗談でしょうって(笑)。それが目前にきている。実感がないのですね。歳をとった感覚がない。むしろ齢を重ねたことで見えてきた風景もある。ちょっとですが、ゆとりのようなもの。第1戦は自分の姿が俯瞰で見えたのです。ああまだ自分には、のびしろがあったのかなと」



藤波選手

 
 つねに口づさむ言葉、向上心。
 2歳で自転車、3歳でバイクに乗った日から父とともに目標を掲げた。バイクが好きで好きでたまらない。ただ好きだけでなく、技量をあげてきた証明を記して次へ繋ぎたい。トライアルという独自の競技でとても大切な事柄なのだろう。ひとつの山を越えてまた次の山へ向かう藤波さんも、いまはその「父」としての存在がある。

 
「最近パパ勝てないね。娘がポソっと言うんです。これはとてもプレッシャー(笑)。でも今年は1勝して帰国した。それだけに父親として溜飲をさげただけでなく、まわりの注目を集めてしまったように思います。しかし、いままでで一番落ち着いていると感じてます。開き直ることも必要だと想えるようになった。年齢。経験値ですかね」

 
 昨年のインタビューで藤波さんに二輪の伝道者としての心根を聞いた。
「かっこいいと振り向かせたい!」と語った。彼だからのキャッチコピー。今年もこのニュアンスの話を向けたところ、ついて出たのはヒーロー像。

 
 現在、14歳の甥っ子さんが藤波さんに追随して、ライバルとしのぎを削っている。自分の姿を見てほしい。いつもヒーローでいたい。まだ幼い瞳たちに向ける意識をつねに払っている藤波さん。自分の子どもの頃を重ねあわせるような。



記者会見


COTA 4RT
日本GPを前に4月23日行なわれた公開記者会見にて。7連覇という偉業を達成した絶対王者であり、プライベートでも仲の良いチームメイトであり、そして最大のライバルでもあるトニー・ボウ選手は「フジガスのようなライダーは二度と現われないかもしれない。もはや伝説だ」と語った。今年の闘いの行方はいかに!■撮影-楠堂亜希 COTA 4RT。「レプソル・モンテッサ・ホンダ」からHRCワークスの「レプソル・ホンダ・チーム」に変わったが、昨年もエンジンはHRC製なので大きな変更はない。「勝たなければならないという重圧は確かに感じますが、今までよりよい体制でサポートしていただけるので感謝しています」ワークス体制という責任の重さを知っている藤波選手の弁。

生来の目立ちたがり屋。注目と期待の集まる”気”に、心地よいプレッシャーとリラックスが同居している。

 クリーンを決めた直後、次のセクションに向かう藤波さんの顔は印象的だ。自身は気持ちいいに違いない。それが何事もなかったような表情をしている。

 
 つとめてのクール表現なのか。どや顔を押し殺して心は雄叫びをあげているような。これが続くオールクリーンが”FUJIGASラッシュ”と呼ばれるゼロ更新。

 
 見る者は彼の持つ独特な雰囲気と世界観に惹き込まれる。

 
「ひと一倍の目立ちたがり屋なんだと思います。でもそれを知られたくない自分もいる。注目されているな。期待を集めているな。静かになった会場で、その”パワー”はびんびんと伝わってきます。プレッシャーとリラックスは同居してます。これがとても心地よい時に自分の最大限が発揮されるのではないかと」

 
 昨年のもてぎラウンド。藤波さんは優勝した。
 若くて強いライバルのトニー・ボウ。かつての強敵・ドギー・ランプキンと並び賞賛されるほどの逸材だ。ふたりはともにタイプは違うが、いつもそのど真ん中に藤波貴久さんは居た。 磨き、磨かれてのライバルたち。そして日本のラウンド。

 
「今年のコースはまだ見ていませんが、毎年違うモノが置かれる(笑)。セクションにメリハリを持たせたような。そしてなによりアウエーとの違い。ホームのありがたさ。故国で戦うことの喜び。それを身にしみるのが、もてぎなのです」



藤波選手

 
 ちなみに今年から、藤波さんはHRCワークス体制になった。おおきなプレッシャーを抱える反面、そこを併せ飲むプライドと豪放さも実感しているという。母国ブランドで新しく挑むもてぎが待ち遠しい様子。



2013日本GP


2013日本GP
写真は、藤波選手が優勝した昨年の日本GP。今年のコースは「びっくりする!」レイアウトのようだ。まだトライアルを見たことない人も、常連さんもあなたの応援で、今年もフジガスを押し上げて、表彰台のてっぺんに立たせようじゃないか。

ライバルが落ちて次に自分の番が来た。チャンスと自分が試される契機は紙一重。みなさんの想いがぼくを押し上げてくれる。

 昨年のもてぎでの優勝は、ひときわドラマチックと語られる。故国での優勝はじつに8年ぶり。お立ち台の中央に子どもさんを両腕に抱えてに立った。そこを支えてくれたのが、とにかく観客のみなさんだと藤波さんは強調する。



藤波選手

 
「チャンスと自分が試される契機は、いつも紙一重だと思います。いけるか、落ちるか。この時に感じるのがやはりみなさんの”パワー”なのです。どんなに静まりかえっても心身に響く。お客さんとの一体感を味方につけた。自分は押しあがるんだ。みんなに押し上げてもらえるんだ。上手く決まって立つと歓喜のクリーンでしょうか」

 
 いよいよ4月26日(土)と27日(日)、世界の最高峰を競う二輪トライアルがもてぎにやってくる。おそらく朝の里山はひんやりしているだろう。しかし藤波貴久が走り出すと、地上はきっと熱くなる。沈黙と歓声が交互する二輪の演舞者たちの祭典。

 
「今年は一戦一戦をいままで以上に大切にやっていこうと思ってます。すべてを勝ちにいく。勝ち星を重ねたい。おおきなリスクは背負います。でもそこを恐れない覚悟を持っています。そこでみなさん、ぜひ今年も熱い応援で押し上げてください」

 
 林間を抜ける2日間。なるかFUJIGASラッシュのもてぎLEGEND。スピードマッチのモトGPとはまた趣きの違う、ほんとうに目の前で信じられない動きを見せる人技一体。ぞくぞく感と鳥肌の立つ想い。これは見た者にしか解らない。週末は藤波さんと一体感の感動をぜひ!



藤波選手


2014日本GP


2014日本GP
4月27日(土)、28日(日)ツインリンクもてぎで開催されるSTIHL日本GPの詳細はこちらで。土曜日の前夜祭では、一日目の競技を終えた選手のトークショーやサイン会もなどイベントも盛りだくさん。年に一度の日本ラウンドをお見逃しないように。中学生以下は入場無料!■撮影-楠堂亜希 記者会見終了後、ウエルカムプラザ前では日本GPにスポット参戦するトライアル王子こと、柴田選手がデモンストレーションを披露。ちょうど昼休み時で、青山界隈のサラリーマンやOLも見たことのない動きをするバイクにびっくりして立ち止まる。■撮影-楠堂亜希


プレゼント


プレゼント
見事優勝で幕を開けた、縁起の良い開幕戦の写真を使った、日本グランプリの記念ポストカードに、藤波選手の直筆サインを入れて5名様にプレゼントさせていただきます。これで貴方もオールクリア! 欲しい方は、ご自分の住所、氏名、愛車、この記事の感想などを明記したEメールをaccept@mr-bike.jpまでお送りください。締切は2014年5月14日到着分まで。応募者多数の場合は抽選とさせていただきます。当選者の発表は賞品の発送をもって代えさせていただきます。個人情報の取扱につきましてはこちらで御確認ください。

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