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世界中で人気を博してきた隼の国内モデル
これまで輸出専用モデルで、逆輸入車として国内で販売されていた『HAYABUSA』が、国内モデルの『隼(ハヤブサ)』として発売された。市販車世界最速級のオートバイとして、スズキの旗艦モデルとして、世界中で人気を博してきた隼の国内モデルに試乗することが出来た。
実は、この隼、1999年に発売されてから大きなモデルチェンジは1度しかされていない。2007年に排気量を1299cc→1340cc化。A、B、Cの3つのモードからエンジン出力特性を選べるS-DMSが装着されたのもこの時だった。デザインも変わったが、人気のあった初代のキープコンセプトだった。そこから現在のモデルまで大きな変化はしていない。このことは性能などを含めて、それだけ商品力の強いモデルであるということを表している。
スポーツモデルらしい適度な前傾ながら、腕や腰に負担がかかりにくい自由度のあるポジション。またがると何度も乗ってきた隼の世界がある。これまでと違う感じはまるでない。それは当たり前で、欧州モデルと基本は同じで、違う部分はおおまかに、速度リミッターと、ETCが標準装備になった(!)だけ。装備重量266kgまでも同じだ。身長170cmだと両足の裏がベタっと地面に接地するほどではないが、足先の力を入れられる部分までは届くので、車体を支えることに気を使わない。
国内モデルと聞くと、どうしても「輸出モデルよりパワーは落とされているな……」と条件反射的に思ってしまう。しょうがない、これまでの流れはほぼそうだったから。ところが、今回の隼は、欧州仕様と同じ最高出力、197(145kW)ps、最大トルク15.8kgf・m(155N・m)のまま登場したのである。
ライダーの身長は170cm。「両足の裏がベタっと地面に接地するほどではないが、足先の力を入れられる部分までは届くので、車体を支えることに気を使わない」。 |
走りだすと、エンジンは滑らかで、200馬力近いパワーを持っているとは思えないくらい従順。公道を普通に操作して乗っているかぎり、突然、びっくりするような姿を見せたりしない。扱いやすい。高回転だけでなく低中回転域のトルクも充分あるからトップ6速に入れておいても、ストップ&ゴーが多い市街地以外だったら、このまま流して走れる寛容さ。そこからひとたびスロットルをワイドに開けば、間髪入れず後ろから蹴飛ばされたように加速していく。
いちばんシャープなレスポンスで最も出力が出るAモードの状態にあっても振り落とされるような恐怖心はない。トラクション能力が高く、少々ラフに扱っても、サスペンションがしっかり動いて確実にタイヤは地面を捉えてグイグイ前に出ていく。各部の剛性があり、防風能力、直進安定性がいいから、気が付くと速度計の数値がとんでもないことになっているパターンが多い。当たり前だけど、250や400ccのモデルと同じ速度での速度感は断然に隼の方がない。
DLCコートされたフロントフォークの動きは初期動作からスムーズで、リアも低速から当たりがソフトで、基本は海外モデルと同じとの予備知識を持っていながら、「国内仕様だから輸出仕様より設定されたライダー体重が軽いのかなぁ」なんて思ってしまうくらい。快適と言い切れるくらい路面の凹凸をいなしてくれる。それながら、速度を上げて積極的な運転をしてもへこたれない。
大排気量直4エンジンを積んでいるから横幅のボリュームがあって、やっぱりそれなりに大きく感じる部分もあるボディだけど、走りだしてしまえば、それが気にならなくなるくらい動きが軽い。シャープさでは同社のスーパースポーツモデル、GSX-R1000に譲るが、ワインディングを攻めて遊べるくらいのフットワークがあり、動きは自然で、どの速度域でも安心して簡単に向きを変えられる。倒れこむ時、車体深く寝た状態などの安定感はバツグン。2013年モデルから装備されたブレンボのモノブロックキャリパーは、突進するエネルギーを簡単に小さくしてしまう。コントロール性が良く、タイヤのグリップを掴みやすいことに加え、ABSを装備していることもあり、ライダーの運転技量の違いや、様々な路面状況でしっかりとした制動がかけられるだろう。
高速道路を使っての移動だったけれど、ETCが標準装備され、「ETC」と文字がメーター内表示されるのがイイネ。フラッグシップスポーツにふさわしいスマートさ。
隼は「世界最速」が話題になることが多い。それで今回の国内モデルに対して「欧州仕様と同じと言っても速度リミッターのついた隼なんて」なんて声を聞いたことがある。確かに「世界最速」は甘い魅力があるけれど、それを公道で試すことは言語道断。隼が誕生して以来、本当の魅力は、そこじゃないと思っている。
欧州仕様と最高出力と最大トルクが同じなのは大きなメリットがあるのだ。それは特性が評価の高かったこれまでと同じということ。出力を変えて日本仕様を作ると、特性が良い悪いは別にしてどうしても変わってしまう。この隼は本来の姿を変えていない。それがキモだ。80年代アニメの歌ではないけれど、「気はやさしくて力持ち」。大きなパワーと、力強い加速ながら、それを恐怖させない頼りになる車体と、とにかく扱いやすいスポーツ性能。ツーリングから街乗りまで使える汎用性。何度乗ってもそのバランスと完成度に感心してしまう。
(試乗:濱矢文夫)
●隼(ハヤブサ) 主要諸元 ■型式:EBL-GX72B●全長×全幅×全高:2,190×735×1,165mm■ホイールベース:1,480mm●最低地上高:120mm■シート高:805mm■燃料消費率:28.0km/L(国土交通省届出値 60km/h定地燃費値 2名乗車時)■最小回転半径:3.3m■車両重量:266kg■燃料タンク容量:21L■エンジン種類:X704 水冷4ストローク直列4気筒DOHC4バルブ■総排気量:1,339cm3■ボア×ストローク:81.0×65.0mm■圧縮比:12.5■燃料供給装置:フューエルインジェクション■点火方式:フルトランジスタ式■始動方式:セルフ式■最高出力:145kw[197PS]/9,500rpm■最大トルク:155N・m[15.8kgf]/7,200rpm■変速機形式:常時噛合式6速リターン■ブレーキ(前×後):油圧式ダブルディスク×油圧式シングルディスク■タイヤ(前×後):120/70ZR17 M/C 58W×190/50ZR17M/C 73W■懸架方式(前×後):テレスコピック式×スイングアーム式■フレーム:ダイヤモンド ■車体色:パールビガーブルー×パールグレッシャーホワイト(AJP)、サンダーグレーメタリック×グラススパークルブラック(AA3)、パールミラレッド×パールグレッシャーホワイト(AGS) ■メーカー希望小売価格:1,564,500円(消費税抜き1,490,000円) |
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