エストレヤが発売されたのはいつだったか? と思って確認してみると(エストレヤ大全のページへ)、最初の発売はなんと1992年。だから、なんともう20年以上も続いてきたことになる。その間にキャブレターからフューエルインジェクションになるなど変化はしてきたけれど、一貫してクラシカルなスタイルを身にまとった、コンパクトな250シングルモデルとしての立場を崩さず愛されてきた。
そのエストレヤに新型が登場した。もちろんクラシックスタイルは崩してはいない。写真だけをパッと見ただけでは、外装の変更だけで、他は変わっていない、と思うかもしれない。ところが、これが驚くほど走りの印象が変わったのである。
シートはデザインが違えど、相変わらず低くて細身。身長170cmでも膝に余裕がありすぎて、同排気量クラス(クルーザーを除く)でこれ以上足着きがいいのが思い浮かばないほど。車体全体も低いので、下半身のポジションもコンパクト。ステップ位置は膝90度の椅子座りより靴一足分後ろ足になる。私の身長ではちょうどいい。もしかすると、背が高めの人は少し窮屈に感じるかもしれない。エントリーユーザーや女性ユーザーが多いクラスと考えると、それも納得がいく。
一方、上半身にはかなり余裕があって、ハンドル位置はおへそより高く、肘も楽に曲げられ、肩幅よりこぶし一個外に出たところにハンドルグリップ位置がくる感じ。エストレヤに乗ったことがある人は、あまり説明のいらない、楽ちんポジション。
ライダーの身長は170cm。 |
鉄パイプのセミダブルクレードルフレームに、4ストロークSOHC2バルブエンジンは、今まで通りシリンダーが直立した姿だけど、走り出して変わったのがすぐに判った。アイドリング付近ではおとなしい感じが、開け始めた2千回転くらいから、手のひらを、コツコツ叩く鼓動。やさしいけれど、確実に伝わってくる。回転上昇と共に、8ビートから16ビート、5千回転付近を超えると、32ビートになって進む力に強みが増す。けれど、どの回転域でもそこに余計な振動が入ってこず、不快にならない。
トップ5速の2千500回転くらいで、車速は約40km/h。空いた田舎道だと、このままギアチェンジしなくても普通に走れる。低中回転のトルクに厚みが出て、パワーの出方はかなりフラット。おかげでギアポジションを意識せず、スロットルのオン・オフだけの手を抜いた運転でも、ギクシャクせずにスーッと走れてしまう。レスポンスはそれほど鋭くなく、回転上昇、下降も緩やか。私がいちばん気持ち良いと感じた8ビート(2千~3千回転付近)で、簡単にトコトコと流していける。
初期のキャブモデルは、クラシックな外観と違い、意外なほどスポーティーなエンジンで、それはそれでシャキッとしていて、楽しかった。エミッションの問題でフューエルインジェクションになっても、その印象は残っていた。今度のはそれが極端に影を潜めた。具体的な機械の性能ではなく、抽象的なテイストについて語りたくなるエンジンに変わった。
ハンドリングは確実に安定感を増した。特にコーナーリング。試乗した道には比較的舗装が荒れた路面があったけれど、前後のサスペンションは路面を捉えて、よほどのギャップじゃなければ、ふらふらせず、いなして進む。ブレーキはそれほど強力ではないけれど、エンジンパフォーマンスからくる前に進むエネルギーを、思うように小さく出来るもの。簡単にいえば必要十分。リアブレーキも唐突にロックすることはなかった。
コーナーではリアタイヤから寝ていく感じでさっとバンクして旋回。動きは重くなく軽快でステップが地面に触るくらいでも落ちついていた。エンジンパワーの扱いやすさと相まって、爽快に曲がって、気持よくスロットルを開けていける。ビギナーでも怖がらず右へ左へと倒すモーターサイクルの面白さを楽しめる味付けだと思う。
一緒に試乗していたミスター・バイクBGの編集者である安生さんが、「昔のカワサキメグロ250SGを思い出す」とボソっと言った。そこに妙に納得。当然、性能はこちらの方が高く、見た目や走りを比べて似ている似ていないではなく、クラシカルなキャラクターにまとまりを感じたから出た言葉だと思う。
車体色に塗られたヘッドライトボディの先にある、クロームメッキされたヘッドライトリムに景色が映り込んで流れていく。ライディング中、目に入るところに樹脂はほとんどなく、金属。鉄の馬と呼ばれていた時代のバイクのようだ。扱いやすさと安定感を手に入れながら、外見の印象に、エンジンの印象が寄り添った。バランスの良いエストレヤならではの世界が出来上がっていた。バイクの魅力は速さだけはない、という当たり前のことを再認識。
(試乗:濱矢文夫)
クロームメッキが輝く前後フェンダーやエキゾーストシステム、一部にバフ仕上げを施したエンジン、フューエルタンクにあしらわれた立体エンブレムなど、上質かつクラシカルな外観が特徴のESTRELLA。 低中速回転域のトルクを向上させた空冷4ストローク単気筒エンジン(249cm3)と、スリムで軽量な車体の組み合わせにより、誰もが楽しめる扱いやすい特性で人気のESTRELLAが2014年モデルへとモデルチェンジ。フェンダー、フロントフォーク、エンジン、エキゾーストをブラックアウトしたスペシャルカラーモデルのESTRELLA Special Editionも発売される。 新型ESTRELLAに搭載されるロングストロークの空冷4ストローク単気筒エンジンの基本はこれまでと変わらず、アイドリング時の吸気量を最適化するアイドルスピードコントロール(ISC)が新たに採用された。フューエルインジェクションシステムとの組み合わせにより、様々な条件下でも安定したエンジンパフォーマンスと扱いやすさを実現している。また、吸気系を中心としたエンジン各部の見直しにより、低中速回転域のトルクを向上、優れた加速性能を発揮する。 セミダブルクレードルフレームによるスリムで軽量な車体と高めのハンドル、足付き性の良いシートによるリラックスしたライディングポジションがESTRELLAの特徴だが、今回、前後サスペンションのスプリングレートや減衰力設定の見直しが行われ、さらに快適な乗り心地を実現している。 立体エンブレムをあしらったエレガントなデザインのフューエルタンク、直立したシングルシリンダー、クラシカルな印象をもたらす特徴的な形状のキャブトンタイプサイレンサー、バフ加工されたフロントフォークやエンジンカバー、クロームメッキが施された前後フェンダーやエキゾーストシステムと、車体全体が上質な仕上げでまとめられている。メーターリングをクローム仕上げとしたアナログスピードメーターとタコメーターをそれぞれ独立して装備。スピードメーター文字盤にはオドメーター等を表示するLCDディスプレイを組み込み、クラシカルな雰囲気と現代的な機能性を両立している。 |
フェンダー、フロントフォーク、エンジン、エキゾーストシステムなど車体各部をブラック仕上げとし、シートにもオレンジのパイピングを施し、Special Edition専用サイドカバーマークを採用した「ESTRELLA Special Edition」も発売(写真左奥)。メーカー希望小売り価格508,000円(本体価格)+消費税。写真のモデルはアクセサリーのビキニカウルを装着。 ●エンジン:空冷4ストローク単気筒SOHC2バルブ●ボア×ストローク:66.0×73.0mm●総排気量:249cm3●圧縮比:9.0●最高出力:13kW(18HP)/7,500rpm●最大トルク:18N・m(1.8kg-m)/5,500rpm●燃料タンク容量:13リットル●燃料供給装置:フューエルインジェクション●変速機:常時噛合式5段リターン●フレーム:セミダブルクレードル |
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ZRX1200DAEG BLACK LIMITED
ESTRELLAの試乗会場で、ZRX1200DAEG BLACK LIMITEDも撮影できたのでここでご紹介。詳細は新車プロファイル「ZRX1200DAEG BLACK EDITION」のページを見ていただくとして、精悍なDAEGの姿をお楽しみ下さい。
■ZRX1200 DAEG BLACK LIMITED 主要諸元
●エンジン:水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ●ボア×ストローク:79.0×59.4mm●総排気量:1,164cm3●圧縮比:10.1●最高出力:81kW(110PS)/8,000rpm●最大トルク:107N・m(10.9kg-m)/6,000rpm●燃料タンク容量:18リットル●燃料供給装置:フューエルインジェクション●変速機:常時噛合式6段リターン●フレーム:ダブルクレードル |
クラッチカバー、パルサーカバーに専用のマークを採用。クラッチカバーの「Kawasaki」文字部を墨入れ塗装。ヘッドカバー、ラジエターカバーをリンクル塗装に変更。インジェクションカバー、スイングアーム、リアステップ、ヒールガードを変更。 |
メーターリング、ブレーキレバー、クラッチレバーを変更。メーターパネルに専用のマークを採用。 | 「BLACK LIMITED」専用タンクパッド、タンクキャップを採用。サイドカバーに「BLACK LIMITED」専用の特別エンブレムを採用。 | タックロールシートのサイド表皮の変更、シート高の変更(スタンダード比でシート高5mmダウン)。 |
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