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全行程700キロ。7つのスタイルを体験する。
今日から2日間をかけて、メッツラーが公道テストを行う道を走ることになる。。
7つのセクションに分けられたツアーは、エンデューロバイクで走るダートの山岳路、クルーザーで走る海岸線の高速道路、タルガ・フローリオという1906年に始まった公道レースのルートをスポーツネイキッドで走り、そこから1日目の宿泊地となるラゴ・ディ・ペルグーサ(ペルグーサ湖)にあるホテルまでスポーツツアラーで移動する。
そして2日目、湖を囲む一周5キロの超高速トラック、アウトドローモ・ディ・ペルグーサをスーパースポーツで走り、島中央部のサーキットからビッグエンデューロに乗り換え、エトナ山へと向かう。冷えて固まり黒々とした溶岩流の中に立つレストハウスではメガスクーターが待ち構え、そこから古城ホテルに戻るというものだ。
雨の中、まずは山に向かって走り出す。
期待は膨らむばかりの僕達が耳にした知らせは、「明日は雨らしい」というものだった。翌朝、それが現実だと解る。朝食を摂りに行く時、雨はほぼ止んでいる状態だが、雲が流れ、雨がぱらつくような天気だった。
シシリーの自然をそのまま使ったメッツラーのテストルートツアー。最初はエンデューロだ。用意された車両は、メッツラーMCE 6DAYSエクストリームを履くCRF450X、WR450F、450EXCなどのエンデューロレーサーの他、KAROO 3という新作のストリートエンデューロタイヤを履いたXT660テネレ、KTM950スーパーエンデューロなどである。
古城ホテルを出て、石畳の道が続く古い町並みを抜ける。まるで林道ツーリングに出かけるようにウキウキするが、濡れた路面でエンデューロタイヤはさすがに滑る。ベテランライダー達はパワースライドを楽しむように隊列を組み進んで行く。
30分も走っただろうか。僕達は広い河原にたどり着いた。その頃、再び雨脚が強まりレインウエアを着込む。そして河原を横切る道は当然川を越えることになる。しっかりとした路面だった。茶色い流れに最初は躊躇するも、アクセルをガンガン開けて行く。
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しばらく河原を走る。河川敷を左右にくねりながら走る道。MCE 6DAYS エクストリームは、固く河原の石が混ざった路面でもしっかりとトラクションを掛けてくれる。グッと寝かすと横方向にややトラクションが逃げるが、濡れたハードな路面なので、エンデューロタイヤが本来相手にする軟質路面とは少々的が違うようだ。むしろ、車重は重いが660テネレ+KAR00 3のまとまりのよいトラクション力、旋回時に寝かした時のグリップ感と、スライド量が想像の範囲内であることなど、ブレーキングも含め、全体のバランスの良さが光る。
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広いグラベルは河床。この場所を横切り、川沿いに走るダートルートを谷の奥にむかって走り続けた。
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山岳路で魅せる6DAYS、KAR00エクストリームの実力。
小休止のたびにバイクをスイッチしながら進んで行く。谷筋をゆく河原から高度をあげる道に入った先導ライダーは、タイトターンを繰り返す道を軽快に登る。その道でCRF450Xにプロトタイプのデザートタイヤ、メッツラー・KAROOエクストリームを試すことが出来た。
このタイヤは、2014年のダカールラリーでHRCのチームが採用することが決まっているそうで、そのフェイスは、いわゆるデザートラリー用のタイヤ、というもの。ブロックの形状は下駄の歯状のものがセンターと、それより小ぶりなブロックがサイドに備わる。
乗り味はとてもソフト。パンクレスのムースチューブが封入されているが、「乗り心地がいい」と言い表せるほどなのだ。
旧聞に属するが、かつてバハ1000やダカールで使用した経験があるミシュラン・デザートは、ライフは長いものの、ブロックが固く、砂のような路面には良いが、固い路面だとその表面を摑み切れずに滑る、という印象だった。一日で様々な路面を相手にするラリーの場合、ある程度は妥協が必要だし、砂の上ではそれなりに走るし、第一“持ち”がいいことだ。
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そしてKAROOエクストリームは、そうしたタイヤと比較するのが申し訳ないほど全体のフィーリングがいい。エンデューロ用の6DAYSより旋回時のグリップ特性(食う、滑るの)の過渡が緩やかだし、アクセルを開ければタイトターンでテールを流しつつも、しっかりとバイクを前に押し出してくれる。
だから、シートの座る位置、コーナーでバイクを寝かす量など、あまり気を遣う必要もなく、結果的にコントロールがしやすく、楽しい走りをラクに手に入れられる。
直立状態でのグリップは6DAYSに分があるが、全体として見るとKAROOエクストリームの操縦性には何処をとっても神経質な部分がない。
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WR450Fで尾根に伸びる絶景ダートを行く。この尾根に登るまで、狭い岩場のシングルトラックを抜けてきた。狂ったように開けたくなる衝動に襲われる風景。その心の本性を剥き出した時、タイヤ本来の性能が求められるのだと思う。
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登るにつれて路面には埋まった岩が多くなり、ラインは一本になってきた。その中でも、岩の上をしっかりと摑みながらトラクション感をライダーに伝えるフィーリングがいい。時折濡れた岩の角に斜めに進入した時など、バイクが流れるが、その動きが想像しやすく、恐くなかった。
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雨が上がり、遠くに風景が広がる。シリアスなエンデューロコースではないが、ストリートエンデューロタイヤのテストには持ってこいのコンディション。
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6DAYSはどんな場面でもバイクが直立しているほうがグリップの存在を確認しやすく、カーブではスローイン・ファストアウトという基本を忠実にすることで、乗りやすさを引き出せるタイヤだった。
ぬかった部分などではフロントの方向維持性能、後輪のトラクション特性など、バッチリ噛み合い、実に乗りやすい。トレッド面のサイドよりセンター部分をいかに路面に押しつけておくかに集中すれば、エンデューロバイクとのマッチングはさすが。
年式により乗り味が異なるWR系でも、リンクレスサスのKTMでもCRFでもタイヤから受ける印象はほぼ同じ。逆にバイクの違いがよく分かって面白かった。
途中、風力発電の風車が並ぶ綺麗な尾根を通り、カストロレアーレという小山の山頂にある集落がエンデューロセクションのゴールだった。
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カストロレアーレの風景に感動。
エンデューロバイクの一団は、細く曲がりくねった舗装路を登った上にあるカストロレアーレの教会前広場についた。そこではメッツラーのスタッフが飲み物、エナジーフードを用意して待っていてくれた。
すでに次のセクションで使うクルーザーがその出番を待っている。さらに古城ホテルから運んできた着替えを詰めたバッグが下ろされ、オフロードウエアからクルーザー用に衣装替えをする。
30分ほどのインターバルだったが、このカストロレアーレから眺める地中海は最高だった。遠くに浮かぶヴォルカーノ島、リパリ島。その向こうにはストロンボリがある、とスタッフの一人が教えてくれた。2時間ほど珠玉のオフツーリングをしてたどり着いた場所がこれとは……!
カストロレアーレから下る道は左右に家並みが迫る細いいろは坂のような道だ。ヨーロッパを行くハーレー軍団、というのも意外に似合うのだ。などと思いながら走る。麓まで降りそこからは高速道路での移動が始まる。
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そして青空と雲が印象的なカストロレアーレへ。教会の向こうに地中海を望む。
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カストロレアーレの町を下る。左右に迫った家々は歴史を思わせる。
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教会の前に並べられていたのはハーレーのヘリテイジソフテイル、エレクトラグライド、エレクトラグライドクラシック、XL1200Xフォーティーエイト、スズキ・ブルバード等のクルーザーモデル。
カストロレアーレからシシリー島の北部海岸線を西に移動し、パレルモ近郊のチェルダを目指す。行程の90%は高速道路での移動だった。
雨でも高速道路でもツーリングタイヤ同様、乗り心地が良く、直進性も文句ナシ。それでいて、出口ランプを走るような時のハンドリングもナチュラル。走る、曲がる、止まる、を楽しむような靴になっているのが嬉しい。
極端だけど、例えばOEMがビブラムソールの登山靴のような固さがあるとすれば、メッツラーのタイヤはしっかりとしたトレッキングシューズのような安心感と軽快感があった。
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雨上がりの高速道路をゆくエレクトラグライドクラシック。ちょうど雨雲を抜け、青空の下に出た。路面はまだウエット。タイヤを変えるとハーレーもこうなる、というのを体感した。
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150キロで走ると風圧が腹筋に効く……。サスペンションストロークが短く、ロー&ロングのスタイルをキメたフォーティーエイト。その分、速度が高いと路面入力に対して吸収しきれないこともあった。そんなときタイヤの性能が左右する。
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最高の気分を演出する風景の中を行く。
クルーザーセクションで気がついたことがもう一点。シシリーの風景だ。おそらく、テスト時のタイヤ性能を決める技術的課題に求めるコンテンツの一つに「あの道を走って最高の気分になれること。しかも天候を問わず」という項目があるんじゃなかろうか、と思う程だ。
研究所の中のテストベンチや、世界の道を再現したテストコースにある無機質な風景ではそうした技術的案件は出てこないのでは、と思う。
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伝説の公道レース、
タルガ・フローリオ。
そんな思いを巡らせながらソフテイルクラシックを操り、田園風景のなかを行く。するとそれまで対向2車線だった道が、まるで路面電車の駅を避けるように100メートルほどの中央分離帯で道が分かれた。そこには再び次なるテーマのバイク達が待っていた。
クルーザーを停めると「ここがタルガ・フローリオのスタート地点だ」と教えられる。
1906年、地元の名士、フローリオ家のレース好きの子息(当時、相当な名家だったに違いない)が、勝者の名誉にフローリオの楯(タルガ)を贈ることがレース名になったこの公道レース・クラシック。開催当初、この場所を起点に148.8キロもの距離をかけてワインディングを周回したという。時代とともに108キロ、72キロと短縮されたが、1977年まで続いたこのレースは幾多のドラマを生んだにちがいない。
サルヴォさん
「本気」で現る。
「古いコースを知る人は、マン島TTのルートをお子様用と言うんだよ」と去年ミラノでサルヴォさんが教えてくれた。距離の長さ故と、その時はそう思った。
タルガ・フローリオのスタート地点には、今もピットビル等が残っている。南アフリカからやって来たジャーナリストの一人が、古いピットビルの前で興奮気味に動画の撮影をしている。タルガ・フローリオに詳しい彼は、現場にいることを全身で感じ、呼吸している様子だ。
さて、ここからは峠ルートのツーリングか、ならばクルーザーと同じ衣装でもいいか……。と思い始めたとき、サルヴォさんが真っ先に着替えを済ませて現れた。レーシングスーツ姿でだ。計画変更。迷わず僕もツナギに着替える。サルヴォさんの動向を見るとその先のコースの状況が解る。これは昨年のミラノやここまでで学習したことだ。衣装と走るシチュエーション、サルヴォさんのそれは「雑誌の撮影」か「カタログ撮影」といっても過言ではないほど見事にシンクロしているからだ。
400単気筒から1000クラスまで走りを意識したバイク達が装着していたのは、スポーツ系ラジアル、スポルテックM5インタラクトである。スーパースポーツ系でサーキットライディングも許容する充分なグリップ力、ハンドリングを持ち、同時にウエット性能や低温時のグリップ感など広範囲をカバーするスポーツタイヤだ。以前、このタイヤの試乗会で袖ヶ浦フォレストレースウエイを走った時、あまりに気分良く走れて、業務を忘れそうになった自分を思い出す。
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タルガ・フローリオのスタート地点にて。クルーザーからスポーツネイキッドにスイッチする。
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ピットビル脇に並んだバイクに、皆がヘルメットを置く前に……と、相棒を物色中。しかし、このあとツナギ姿で現われたサルヴォさんを見て、慌てて着替えることに。
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タルガ・フローリオのスタート地点。隊列を組み進むメッツラー・ヒーローズのライダー達。背後にある当時のタルガ・フローリオを描いた巨大なタペストリーが印象的だ。
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マン島が幼稚園に思えるタルガのコースにいざ!
バッグの中から胸部プロテクターを探し当てる間に大排気量のバイクに先約が付き、390デュークで走り出すことにする。コンパクトなポジション、初めてのワインディングには手の内サイズだ。が、やっぱり4気筒1000㏄について行くには何処でも全開だ。
スタート直後、道はスムーズかつ走りやすい。カーブも気持ち良い。しかし、途中からその様相が変化し始める。舗装の段差、縦に伸びるクラックや皺、自然の地形にそのまま道を通し、かつ舗装したような道。
だから最初、390デュークのサスがプアーなのかと思った。底付きはするし、ギャップではサスのビギニングの動きがイマイチだと思った。
でもその正体は道だ。道が悪いのだ。思わず腰が浮くほど。“舗装路のオフロード”、というとヘンだが、そんな印象の道だ。
峠道を使った公道レースのコースならスーパースポーツでも、と思ったが、こういうアップライトなポジションのバイクじゃないとしんどい、ということが解ってきた。なるほど、ツナギを着て気合いを入れてないと吹き飛ばされそうだ。途中、バイクを乗り換え走ったが、どのモデルも基本的にこのルートではバイクの素性が丸裸になるように思えた。
縦、横、そして斜めに掛かる応力。その中でバイクをコントロールし、走る。一周70キロ、道は悪いが風景は最高な場所、道も風景も取り柄がない場所、攻めたくなるロングカーブ、左右に切り返しが数キロ続く連続S字区間。様々な状況が訪れる。自分の気持ち、体力の変化、そしてこんな道を攻め続ければバイクもタレてくるにちがいない。人里からも距離があり、ましてやケガやバイクのトラブルは禁物。この70キロの道で煮詰められるタイヤ、そんなサバイバルな気分すら心に広がる場所で鍛えられるのか。
そこにはハンドリングやグリップという世界だけではなく、乗り手のマインドを冷静な中に楽しめるアドレナリンを引き出してくれるような、上質な安心感が同居していないと、とてもではないが楽しめない。タイヤに持つ好印象のベースがこうした部分にあるのか……。ロールプレイングゲームのように次のトビラが開くような気がした。(Part3へ続く)
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曲がる先が見えないブラインドコーナーではなく、登った先の路面がみえないアップダウンも多々。舗装したモトクロスコースか、と思うほど意地悪な道も存在した。
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タルガのコースでサポート役を務めたエンゾ。テストライダーの一人。彼はイタリア国内モトクロス選手権の40歳以上クラスで何度もチャンピオンになっている。
「ここは反対車線に向かって飛び出すように走るんだ」とばかりにラインの実践。彼の走りをみて、この場所で撮影する意味を理解(笑)。凄い人達です。
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僕&390デュークですが……、思い切りが悪いと全然飛びません(笑)。右はCB1000Rで走る(飛ぶ?)プロライダーの齋藤栄二さん。タイヤのグリップを越え着地時の吸収性も簡単にテストできる道です。
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この風景の中、タルガ・フローリオのコースは続く。道の汚れ具合も解る。
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