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到着まで24時間。
成田を発ち、パリ、ローマと2度のトランジットを経て、やって来たのはイタリア南部、地中海に浮かぶシシリー島だ。ここにブラジル、コロンビア、南アフリカ、そして日本のジャーナリストが招かれ、どんな場所で、どんな人間がメッツラータイヤをテストし鍛えているのか。その現場を訪ね、感じとろう、というイベントが催された。名付けて“メッツラー・ヒーローズ”である。
シシリーの東の玄関、カターニャ空港に降り立つ前、そこが地中海の島、というだけでローカルムード満点の場所を想像していた。しかし、空港周辺の港湾エリアには巨大なコンテナや埠頭があり、まるで東京、横浜あたりで見られそうな風景を思わせた。
空港からクルマで移動し、カターニャの古い町並みを抜け、高速道路をしばらく移動すると、車窓にはシシリーのシンボルでもあるエトナ山が姿を覗かせた。頂部は雲に隠れていたが、独立峰にして黒い山肌、富士山との親近感を感じるのだ。その標高は3300メートルほど。ヨーロッパでも最大級の活火山は、今なお噴煙を上げる。
なぜ、シシリーなのか……。
シシリーを舞台にテストをしている。その話を聞いたのは2012年秋、ミラノ郊外にあるマルペンサ空港に近い、メッツラーのウエットテスト用プルービンググラウンド“ヴィッツォーラ・ティチーノ”で、2013年にメッツラーがリリースしたスポーツツーリングタイヤ、Z8M インタラクトの試乗をした時のことだった(その時のレポートは前編と後編を参照して下さい)。
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製品やブランドのプレゼンテーションの中で、メッツラーが設計し、テストをする各地のテストコースが紹介された。その中にあったのが、シシリーだった。年間100万キロ以上とも言われる実走テストは、シミュレーションやシャーシダイナモでのテストからは見えない、“人の味付け”を重視するという。
事実、ここ最近、取材で接するメッツラーのタイヤの印象はすこぶる良い。安心感があり、まるで自分の意志どおりに動いているような走りを楽しめる。しかもそこに、グリップ感の誇張や作為的なハンドリングを印象づけるような小細工もない。昨年、Z8Mをテストしたとき、ヴィッツォーラのウエットテスト路に最初はひるんだが、あまりに平気な顔でそのコースを走るバイク達に気を良くし、コースを攻め立てた想い出がある。
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これがシシリー島全体図。島東部にエトナ山があり、その自然が造る地形、路面、そして島南西部から北部海岸線に沿って走る高速道路、かつてスーパーバイクのシリーズ戦も行われたペルグーササーキット(島の中央部)など、実に多くのテストエリアがコンパクトに備わり、年間を通じてのテストが可能。もちろん、市街地ではリアルな石畳もある。
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バイクを降りてテスト路の水深にあとで驚いたが、不安無くスッと心のスイッチがポジティブに切り替わるように走れるのだ。いかにも最近体感するメッツラーらしい乗り味。安心なだけでなく楽しくなるのだ。いったい、道と人が関係するタイヤテストの成果がどんな係数で入っているのか。高速周回路やテストグラウンドとなるサーキット、ウエットテスト路ではなく、シシリーの道にどんな秘密があるのか。興味を掻き立てる部分なのである。
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古城ホテルに驚く。
空港からおよそ60キロ。道を折れ、左右にブドウ畑が広がる道の奥にキャステロ・デ・サンマルコというホテルがあった。そこは古城で、かつてシシリーを治めた王族の皇太子がサマーハウスに使っていた、という。城壁がしっかりあるのは、海岸線から侵入を図る海賊を避けるため、ともいわれている。
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古城を改装したホテル。おとぎ話のようだ。エントランスは正面階段の右側。部屋は母屋とはまた異なった離れだった。
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ホテルでのプレゼンテーションの前に、メッツラーのテスト部門の責任者、サルヴォ・ペニーズィさんと再会する。サルヴォさんは2013年6月、「日本をツーリングして富士山を見てみたい」という目的で来日。BMWが新潟で開催したGSトロフィーにも参加した。サルヴォさんは何度も仕事では来日しているのだが、サーキットやテストコース以外、日本を走ったことがなかったという。
「よくきたね」と歓迎を受け、まだ時間があるからと古城の中にあったワイン工場を使ったバーで一杯やりながら話を聞くことにした。
まずは、メッツラーのキャラクターについて聞いてみた。
「例えば、スポーツセグメントで言えば、メッツラーは、2013年、マン島TTレースのタイトルスポンサーになるなど、ツーリスト・トロフィーが持つ“エンデュランス”という雰囲気を大切にしていいます。レース、スポーツという雰囲気の中でも、WSBやMOTO GPなどのスプリントレースとは異なるキャラクターを持たせているんだ。オフロードセグメントも同様で、WMXよりもエンデューロやISDEを意識したタイヤを名前を冠していることからもお解りではないでしょうか。2014年のダカールにはHRCのファクトリーチームがメッツラータイヤを履いて闘います。これもメッツラーブランドの方向性と合致するものですからね」
ワインを飲みながらサルヴォさんは語ってくれた。
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地中海に浮かぶ島だけに様々な文化がミックスされた様子をこのホテルは表現しているように思えた。僕が泊まった部屋はペルシャ調の絨毯や壁画、天蓋付きのベッドなど海路伝わった文化を表現しているようだった。
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ホテルの中庭を出ると海はすぐそこ。白い波は間違い無く地中海のもの。夕景浜辺でキスを釣る老人がいた。
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聞けば、それはもちろん、イメージ的な部分だけではなく、2013年のタイヤとメッツラーの新作ラリータイヤをライダーたちが評価し、決めたのだという。
「明日乗れるからどんなフィーリングか分かるよ」とにっこり。頭の中に“?”と“!”が交互に点滅する。
プレゼンテーション後、ホテルでのディナーも素晴らしく、長旅も忘れる。ご飯が美味しい、これも大切だ。
さあ、明日はシシリーの道に「何故?」を聞きに行こう。(Part 2へ続く)
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真新しいタイヤを履いて城内でその時を待つダートバイクたち。
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20名ほどが在籍するというテストグループ。その中からメッツラー・ヒーローズのため多くのスタッフがサポートしてくれた。黒い皮ジャン+サングラス姿がテスト部門のボス、サルヴォ・ペニーズィさんだ(写真右から4人目)。
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そしてメッツラーの秘密を探るシシリートリップに出る。
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