読者登録 | 個人情報について | 免責事項 | 著作権に関して
その日は、空を見上げればうっすらと曇っていて、遠出はかなわないし、だからと言って家にいるのも気が滅入ってしまいそうな日でした。前日に何かをしようと予定を立てたワケでもないので完全にノープラン。せっかくの休日を寝て過ごすのもいいけれど、それで1日を終えると罪悪感で押しつぶされそうになるのは経験済み。そう、思い立った勢いで洋服を着替え、歯を磨き、靴ひもを結び、心変わりをしないうちに出かけなければなりません。準備の途中でソファーに座り雑誌をめくってしまったら完全にアウト。そのまま姿勢は崩れ、ソファーに沈みこむように、お尻から根っこが生えたように、そこから立ち上がるのは不可能になってしまうのです。もう完全にダメ人間よ…(汗)。でもそういうことをたびたびやってしまうから切ないです。目標を立てて時間通りにきちんと行動している人は本当に立派に感じてしまいます。
パラパラと降る小雨が家にいてもいい理由をつくってくれましたが、その日はなんとしても出かけたかったのです。予定外の電話に振り回され、家を出発したのはお昼過ぎ。先日、大活躍してくれたKLX125にまたがり、セルを回していざ出発。目的地は『等々力渓谷』。以前にも何度か行ったことがあるのですが、こうしたモヤモヤとした中途半端な想いのまま出かけるのは本当にいい場所だと思います。なんというか頭がスッキリするし、移動距離は少ないのに、どこか遠くに来たような錯覚を覚える景色が広がっています。世田谷付近の環八通りの下にひっそりと存在するこの場所は東京23区内とは思えないほど緑にあふれ、道横に流れる川は別世界にいるようです。近くにKLX125を停め、徒歩でその懐深い都内のオアシスを散歩しました。距離は1Km以内と短いので、物足りなさもありますが、距離や場所の気軽さと言ったら“ちょうどいい”のです。
等々力渓谷の途中に、長い階段とレストラン入り口があります。「OTTO」というイタリアンで、知り合いも絶賛していたので行ってみようと思っていたのですが、すでにランチは終了してしまっていました。うぅ…計画性がないわね。渓谷のあまりの心地よさに往復しちゃったのです…。というかまず出発時刻が遅いのが問題ね。ひーん。次どうしよ。どっか珈琲でも飲んで落ち着きたいな〜。と思っていた矢先に思い出したのです。「珈琲屋らびっと」のことを。場所は板橋区。現在地から離れていますが、電車ではなくバイクなので行くことにしたのです。この店名の“らびっと”は今では絶版になってしまっている富士重工が戦後に販売したラビットスクーターから命名。お店の外には1963年式のラビットS601が置かれ(オーナーの浜さんの現在の愛車)、店内にはラビットの初期型S41が展示されています。ちなみに店名がひらがななのは、「子供でも読めるし、やわらかい感じがするでしょ?」と、オーナーの浜さん。
珈琲屋らびっとは今から24年前にお店をオープン。バイク好きのご主人は現在までに本当に数多くのバイクを乗ってきています。ベスパ、トライアンフ、ベロセットや聞き慣れないエーブスターなど。クラシックレースとして存在していた「タイムトンネル」にも何度も出場をしてきた経験があり、現在はヴィンテージパーツや小物を探し求め、部品交換会にも積極的に出向いています。今までの長い人生の大半をバイクに費やしている浜さんのお話はとても興味深く、勉強になり、ある時は癒されたりします。
店内も独特です。昭和、大正ロマン溢れる雑貨がひしめき合い、博物館のような感じになっているのです。長テーブルの横にはいくつものバイク雑誌が並び、浜さんのバイクへの情熱を感じずにはいられません。若かりし頃の思い出話なども聞いていると、その情景が思い浮かび、こちらも胸が熱くなったり、ほっこりしてしまうのです。ここの空気感は本当に独特で、バイク好きの人が尋ねたら聖域に近いものを感じてしまうかも。
この場所を知ったのは昔からバイカーシーンを見守ってきたとあるアパレル屋さんからの紹介でした。彼は「忘れていた何かを思い出せる数少ない場所」と言っていました。バイクに乗っているジャンルは違えど、そういう想いを感じるのは私もそうでした。どこか懐かしい気持ちになり目頭が熱くなったりして…。はっきり言ってこんな想いになった珈琲屋さんは初めてです(笑)。いつ行ってもあたたかくバイク乗りを迎えてくれる空間。好きなものがリンクして刻まれる時間。それってね、宝物のような気がしますね。
■KLX125、KLX250の詳細は新車プロファイル2013を参照してください。 [新車プロファイル2013KLX250へ] [新車プロファイル2013KLX125へ]