「プロの仕事を見る。横目で見るだけでもいい。ちょっとずつ伸びてゆく自分を感じることができるはずです。1秒を惜しんで急いでミスがあったら、作業が荒くなって10秒以上のロスが生まれることさえある。ましてや人の命を預る仕事、取り返しのつかぬことにならぬよう作業は確実、丁寧にと教えています。うちは勝つためのチームではない、学ぶためのチームなのです。それを身体で覚える8時間だと思っています」
こう話してくれたのは、かつて8耐参戦に深く関わった滝澤信彦理事。現在は関東にもある学園と併せての本部理事で埼玉県から応援に駆けつけた。この本番には校長の澤田武美先生もピットに詰めるなど学園一体の想いの注力を感じた。
そして教職員として多忙のかたわら二輪整備同好会の学生たちをここまで引率してきた顧問の白上貴紀先生、大川恒先生、田崎勝三先生。さらに前編の記念写真では不在だった阪田克巳先生もピット作業の最後の確認をしていた。
「うちのチームは、活動のなかで特別な役割を決めていません。自分たちで考えて、自分たちで行動する。まわりを見て考えるということ。それは思いやりという言葉に置き換えられると思います。クルマ(二輪も)の学校なので、クルマは生き物。生きている教材ということです」
阪田先生は顧問の最年長、学園では教務主任を務める。2007年から単独独歩の参戦になる先駆けを果たした。そのきっかけは、ある年のレースで転倒があった際、委託されたプロチームのメカは学生たちにマシンを触らせなかったことと言う。
「これはおかしい。違うと思った。帰って校長に掛け合いましてね。自分たちでやろう、やれないでしょうか。学生たちが主軸の本来の意味での参戦しましょうと」
幾多の困難を乗り越え、翌年から即実践に運んですでに7年目。昨年、一昨年と不運なトラブルから完走扱いとならず、雪辱を期す想いは学生たちと同じ。ぜひとも今年は「完走」のチェッカーフラグを受けること。
「レースなので順位は大切なことですが、去年は結果を求めていました。今年は単独参戦の原点に戻って生きた教材の場として挑もう。学生たちが時間を気にせず、丁寧に確実をモットーに進めていければと思います。最後の責任は我々オトナがとればいいのです」
熱気のこもるピットには、ゼッケン28をつけたCBR1000RR(2012年式)とTカー(2008年式)の2台が並ぶ。白地にHONDAの赤いロゴが入った白いツナギ姿の彼らを眺めると、名だたるプロチームのマシンが居並ぶなかで”学生らしい”といえば単様な表現だが、フレッシュでとても愛らしい印象を受ける。
「毎年メカニックの変わるチームですから、正直なところ怖いというのはあります。でも、こちらから先生に伝えることで先生から学生たちへ。その伝わりの技術、『伝承の仕方』が浸透していって欲しいと願っています」
古澤選手は第1ライダー。前編で溶接工と触れたが、ご本人からチームマシンにも装着されている「ノジマエンジニアリング」のマフラー製作スタッフと教えていただいた。国際A級ライダーにして中核技術者の一面を覗かせながら、マシンの構築にもベテランらしい視座と謙虚さの乗り手だ。
「ライダーとしてのスキルは児玉選手がはるかに上です。マシンを組み上げるのに、2人で意見交換をするといったり来たりが起きてまとまらない。そこで児玉選手にまかせて私はそこにあわせる努力をしています。彼はトップチームにいた経験があるので、いいマシンを知っている。身体で覚えた体験値といいますが、いいマシンにするための術(すべ)が先生や学生に上手く伝わればうまくいくはず。マシンをいい状態にまで詰めることができると思います」
第2ライダー児玉選手は金曜日の予選で2分12秒516をマーク。本戦スタートは28番グリッドを得ていた。「もう少し上に行きたかったですが。ゼッケン28で予選28位、ゲンはよさそうです」と笑った後、こう語った。