Honda CTX700N
こちらで動画が見られない方、もっと大きな映像で楽しみたい方は、YOUTUBEのサイト「http://youtu.be/IQvQSIHXzNI」で直接ご覧ください。 ミスター・バイクBG誌の“マニアック・バイク”博士としてもおなじみの濱矢文夫。最近はオフ車にもテリトリーを広げて2014年モデルのモトクロッサーCRFシリーズ試乗会にも突撃! の予定。

 NC700X、NC700S、INTEGRAのNew Mid Conceptシリーズと同じシャシー、同じエンジンを使った新機種だけど、CTX700/700NはComfort Technology Experienceシリーズと新しいキャッチコピーを与えられたクルーザー。

 今回、試乗できたのはビキニカウルのCTX700Nのみ。変速は通常のMTとクラッチレバーのないDCTが設定され、その両方に乗ってきた。

 最初に、大権現的なハーレーの真似してもしょうがない、ホンダ独自のスタイルと快適性と走りを考えて生まれたクルーザーだと説明を受けた。確かに、事前に写真を見て判っていたが、実車はさらに個性的なルックスで、どれとも似ていない。金属パーツが存在感を高めた、いわゆるアメリカンクルーザーらしいところはない。同じクルーザーと称しながらまったく違う。ネイキッドやヨーロピアンツアラーにも見える不思議な造形。好き嫌いが分かれそうなところが面白い。

 実際、各誌が集まった試乗現場でも意見は分かれていた。新しいものが好きな私はポジティブに捉えた。

 ホンダには過去ドラッグスタイルのX4というモデルがあって、後ろの方から眺めると、ディテールは似ていないけれど、ちょっとだけそれを思い出してしまった。現在ラインアップされている他社機種ならDUCATI  Diavelやヤマハ VMAXが反ハーレー風で同じ部類に入るのか。でも両車はハイパフォーマンスを売りにもしているから、それとも違う。大きめのカウルが装着されたCTX700の姿からそこはかとなくPC800(パシフィックコースト)も連想。ツインエンジンだしね。そう開発に携わった若い技術者に話をふると、PC800を知らなかったことに、自分の歳を感じて軽いショックを受けたのはこぼれ話だ。

 跨ってみると、シート高720mmで足つきはいい。170cm、68kgでカカトまでベタっと地面に届く。この為にシートフレームが新設計されただけある。シートの座面は広く、お尻全体がホールドされているよう。クッションも適度な柔らかさで、Comfort=快適、楽さにこだわったことが伝わってくるシート高とシート形状。

ライダーの身長は170cm。シート高720mmで両足ベタつき。それより跨って驚くのはサイドスタンド状態からのバイクの引き起こし。とても700クラスとは思えない軽さで、すっと動かせる。重心の低さを実感。

 最初に乗ったのはMT車。足元を見ずにNew Mid Conceptシリーズの感じでステップに足を載せようと思ったらスカッと空振り。こっ恥ずかしかった。ステップ位置はもっと前。クルーザー的用語で表現すればフォワードコントロール。お世辞にも長いとは言えない足だけど、前に伸ばせば楽に届く。日本人の体型に合わせて海外仕様よりシートバックを30mm前に出してあるので、絶好の座り位置で、ステップだけでなく、腕がハンドルグリップまで難なく届き、大柄とは言えない人には嬉しい。体勢にガマンなところはない。背筋はネイキッドモデルより起き上がる。

 流行のテーパー形状になったアップハンドルは、プルバックハンドルのように下側へ強めの絞りはなく、手前の絞りも適度で、広すぎず。CB1100のハンドルがもう少し手前にきたような具合。

 並列2気筒エンジンの味付けは、中低速が厚めだったものをさらに厚く。低回転から力強くよりフラットな特性になった。アイドリング付近から強烈とは言えないが、車体とライダーをドッと前へ確実に押し出す力がある。鼓動感も前に発売されたNew Mid Conceptシリーズの3台よりあって、クルーザーらしい違いを出している。それでいてダルくはない。スロットルレスポンスが良くキビキビと加速し、低中速の力だけで望む走りが出来てしまう。

 メーターを見ずに加速が気持ち良い部分だけで変速して乗っていると、レブリミット付近まで使うことがない。レブリミットを気にして早めのシフトアップなんてことを意識することは1度もなかった。1千500回転から5千回転くらいまでの間で、車体特性に見合ったストレスのない走りが出来てしまう。

 New Mid Conceptシリーズよりキャスターは寝かされて、クルーザーらしい安定性。それでもコーナーの進入や切り返しで「よっこいしょ」と言いたくなる重さはない。あくまでも軽快で素直なハンドリング。ブレーキの効きも良好で、クルーザーとしてはバンク角もあり倒せるから、走りは思ったよりスポーティーだった。思うように曲がれてコーナーも楽しめる。ステップが地面とぶつかるのが気になって、コーナーでは止まるように減速しなければ───なんてことはない。流れるようにコーナーと直線を繋いで走れた。伝統的なアメリカンクルーザーよりネイキッドの方に走りは近い。日本では狭くてクイックに曲がる道が多い。ツーリングから街乗りまでの汎用性を考えたら、これに納得。

 乗り換えてDCTモデルに。AT(オートマチック)モードのDモードからスタート。第二世代のDCTの出来は素晴らしい。ゆったりとスロットルを開けていくと低い回転数でカシャン、カシャンと高いギアに変速して滑るように前に進む。同じギアでまったく同じ状態から、こんどはスロットルをガバっと開けると、積極的に走りたい意志を判断してくれて、低回転で変速せず、引っ張ってくれる。ライダーの走る意志を削ぐような不自然さはほとんどない。スポーツ走り向きであるSモードにすると当然ながら元気増量。これに積まれたDCTは、同じ第二世代でも先輩たちより減速時のシフトダウンの回転合わせに磨きがかかっている。妙なピッチングモーションも起こらずスムーズ。

 ATモードでは、高いギアで走行中、急な下りなどでエンジンブレーキが欲しい時がある。そんな場面ではMT(マニュアル)モードで使うシフトダウンボタンを指先で操作すれば、簡単にそれが得られる。MTシフトを一時的に使ってもATモードはキープされたまま。単純に欲しい時に指先で操作するだけでシフトダウンが出来ること。だから個人的に、ATモードで時々シフト操作という走り方をオススメしたい。無理にMTモードで頑張らなくても、ギアチェンジのない楽さ加減が快適に拘ったキャラクターとハマる。

 MTモデルより重さが若干増えていて(車両重量で8kg)、元気にすっ飛ばして走っている場面で、コーナーの倒しこみがMTモデルより気持ち重いか。乗り比べると分かる小さな違い。それでも、もし自分がこのオートバイを買うならDCTを選ぶだろう。快適さを増しながら、操作や走りに戸惑いと不自由さはなく便利だから。

 総じて、CTX700Nはホンダらしい緻密な作り込で、クルーザーの心地良さを持ちながら、フットワークが軽い独特の魅力を持ったオートバイだった。このバランスは大いに気に入った。
(試乗:濱矢文夫)

ヘッドライトは60/55WのH4バルブを1灯配置とし、マルチリフレクターにより効率的な配光を行っている。 メーターはフル液晶メーターを採用。シンプルでコンパクトなデザインでありながら多くの機能を搭載。
新設計されたリアサブフレームによりスリムなテール周りを実現。シートも街中での取り回しや足つき性を考慮して快適なタンデム走行を実現した段差の少ない形状に。ちなみにシートは日本人の体型に合わせてバックレスト位置を前方に移動した専用設計。 シンプルな面構成のリアカウルと、テールエンドにはLEDテールランプを装備。カウル装着モデルのCTX700では大型のパッセンジャーグリップが装着される。ネイキッドタイプのCTX700Nでは、インナーサポートステーを取り付けることにより、パッセンジャーグリップを装着可能に。さらにパッセンジャーグリップの取付座面にパニアステーを設置できるようになっている。
NCシリーズ同様、CTXでもコンパクト化が図られた第二世代のデュアル・クラッチ・トランスミッションを採用。さらにこのCTX700シリーズでは、シフトスケジュールの最適化、減速時のシフトタイミングを調整、発進フィーリングの3点を改善することにより、より一層スムーズでダイレクト感のある発進、変速特性を実現しているという。 CTX700シリーズ開発担当の皆さん。
NCシリーズよりもテールの高さを抑えた新設計のリアサブフレームにより、低く構えたCTX独特の“水平基調のスタイリング”を実現、シート高720mmとあわせて安心感のある足つき性も提供できたという。CAE解析により剛性としなやかさの適正化を図るとともに、均一にしなる特性を与えることで乗りやすさと、荷物積載時を含めた車体の安定感も考慮している。丸型鋼管によるダイヤモンド形式はNCシリーズと共通。足周りはフロントはキャスター角やプリロードの変更、リアはH.M.A.S(Honda Multi-Action System)ダンパーを専用セッティング。
エンジン周りでは、NC700シリーズの水冷2気筒669ccエンジンをベースに、エアクリーナーの吸気ダクトの仕様を変更、コネクティングチューブ部分に絞りの追加、マフラーのテールパイプサイズをφ29.8mmへと拡大(NCはφ23mm)、ECU(Electronic Control Unit)のセッティングの変更などが行われている。これらのチューニングにより、低中速域での吸気充填効率を向上、低中速域でよりトルクフルなエンジンとしている。
■CTX700N〈CTX700〉 主要諸元
■型式:EBL-RC68〈EBL-RC69〉■全長×全幅×全高:2,255×855《840》×1,155〈1,165〉mm■ホイールベース:1,530mm■最低地上高:130mm■シート高:720mm■燃料消費率:38.0km/L(60km/h定地走行テスト値)■最小回転半径:3.0m■車両重量:219〈226〉《227〈234〉》kg■燃料タンク容量:12L■エンジン種類:水冷4ストロークSOHC4バルブ直列2気筒■総排気量:669cm3■ボア×ストローク:73.0×80.0mm■圧縮比:10.7■燃料供給装置:電子制御燃料噴射装置PGM-FI■点火方式:フルトランジスタ式バッテリー点火■始動方式:セルフ式■最高出力:35kw[48PS]/6,250rpm■最大トルク:60N・m[6.1kgf・m]/4,750rpm■変速機形式:常時噛合式6段リターン《電子式6段変速(DCT)》、1速:2.812《2.666》、2速:1.894《1.904》、3速:1.454、4速:1.200、5速:1.033、6速:0.837■フレーム形式:ダイヤモンド■ブレーキ(前・後):油圧式ディスク・油圧式ディスク■タイヤ(前・後):120/70ZR17M/C 58W・160/60ZR17M/C 69W■車体色:マットガンパウダーブラックメタリック、パールフェイドレスホワイト〈キャンディーアリザリンレッド、パールフェイドレスホワイト〉■メーカー希望小売価格:745,500円、DCTモデルは808,500円〈836,850円、DCTモデルは899,850円〉
※〈 〉内はCTX700のデータ、《 》内はデュアル・クラッチ・トランスミッション仕様


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